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15. 星の雫


昨日までの雨が嘘のように今朝は快晴。

空気が洗い流されて澄んでいるように感じる。


まだ濡れた石畳に残る水溜まりが、青い空や市場の活気をキラキラと反射していた。


初めてここを歩いたときはグレンに手を引かれてたっけ。


今グレンは「あんま離れんなよ」って言うくらいで、わたしの好きなように歩かせてくれている。


ちなみにグレンは昼間は休みだそう。

いつもの鎧ではない、普通の服を着ている。

麻の白いチュニックに、ベルトで留めた茶色のズボン。


「グレン、これ何?」


「あ? 女の髪留めとか髪飾りだろ」


幅広の紐や短い棒(かんざし)のようなもの。

でも月影国の簪とは違って、一つ一つに違う色の石がついている。


「いいなぁ……綺麗……」


「お前、留める程髪長くねぇだろ」


むぅとグレンを見上げると、店主のおばさんに声を掛けられる。


「お嬢ちゃん、お兄さんと買い物かい? いいねぇ」


おばさんはにこやかにわたしとグレンを交互に見る。

わたしもグレンと似たような服を着ているから兄妹に見えたのかな。


「もう少し髪が伸びたら、これなんてお嬢ちゃんの髪に映えると思うよ」


それから見せてくれたのは、両端に琥珀色の石がついた臙脂色の髪結い紐。


これ、グレンの色だ。


「ハァ……欲しいのか?」


溜め息混じりの言葉に、キツさは感じられない。

……でも。


「ううん、今はいい」


これは、今度自分で買おう。

頑張ってお金を貯めて、自分で。


それに今日はペンを買いに来ている。

ペンは街の外れにある昔からの文具店にあるそう。


文具店の扉を開けると、カランと軽い音。

いらっしゃい、と(しわが)れた声が出迎える。


「コイツが使いやすいペンを探してる」


顎で示されたわたしをちらりと見た店のおじいさんが、髪と同じ色の白い髭を撫でながら微笑む。


「ほっほっほ、勉強熱心な娘さんだ」


今度は娘に見えたらしい。

グレンのこの表情は……どういう感情だろう。


おじいさんはわたしの手の大きさを見てペンを何本か選んでくれる。

その中でも一番短いペンが今のわたしの手に合っているそう。


ペンが決まったらインクを見る。

勉強するときは普通の黒いものでいい。

でもわたしが気になったのは「星の雫」と書かれたもの。


瓶に詰められた深藍色の中に銀色の粉のようなものが揺らめいている。

夜空に散らばる星みたい。

でも光珠の輝きにも似てる。 


「ほう、このインクが見えるのかい?」


「……え?」


その言葉の意味が、すぐには理解できなかった。


おじいさんが言うには、これは星の加護がある人にしか見えないインクらしい。

強く願いながら書くと、星の導きがあるそう。


星の加護、導き。

よくわからないけど、特別なものらしい。


結局グレンはペンと黒いインク、星の雫も買ってくれた。


何かわたしにできるお礼があるか聞いたけど「ガキがいちいち気ぃ遣うな」としか返ってこなかった。


文具店を出ると、嗅いだことのない甘い匂い。

甘くて、香ばしくて、ずっと嗅いでいたくなる。


「ンだこの甘ったりぃ匂い……」


グレン、甘い物苦手なのかな。


詰め所に向かうにつれて匂いはどんどん強くなる。


「いらっしゃいませ! 本日開店、王都に初出店のチョコレート専門店です!」


ちょこれーと?

甘い匂いだから、お菓子かな?

でもたまに食べる焼き菓子とは違う匂い。


大通りで店員のお姉さんが試食を配っている。

グレンとわたしで一つずつ受け取る。


……甘い!

これすごく美味しい!


初めて食べる甘さ、香り。

口の中でとろける舌触り。


「……やる。……俺はいい」


グレンは匂いも嗅がずにわたしに押し付ける。

うん、やっぱり美味しい。


お店、入ってみたいなぁ。


ちらりと見上げると、仕方なさそうにお店に入ってくれた。

お店の中は女性のお客さんが大半。

これは……グレンの眉間のシワが取れなくなる前に選ばなきゃ。


わたしの半歩後ろを歩くグレンが、数字の書いてある札を見て一瞬目を見開くと「た、っ……!?」と呟く。


「た?」


「……何でもない。選ぶのは……二つ、までにしろ」


「?? はーい」


今度アレンさんに、数字の読み方も教えて貰おう。


店員さんが紙袋に入れてくれたチョコレートは、グレンが出した銀色の硬貨と同じくらいの大きさ。


早く食べたいけど、勿体なくてなかなか口に入れられない。

この二粒は何か頑張ったときの自分へのご褒美に取っておくことにした。



夕方、寮に戻るとさっそく星の雫でグレンにお守りを作る。

お守りといっても、願い事を書いた紙を折り畳んで、その上から別の紙で包んだだけのもの。


夕食前に渡すと「ん」とやはり一声返ってきた。

口元がほんの少しだけ緩んだように見えたのは……気のせいじゃなかったと思う。


いつもより短時間で夕食を済ませたグレン。


「いいか、絶対に一人で外に出るなよ」


「はーい」


「拾い食いも禁止だ」


「もう、わかってるってばー」


「お前には前科があるからな」


うっ……。

それを言われると言い返せない……。


「そういえばグレン、何で夜勤なのにその服なの?」


「……そういうこともあんだよ」


「ふうん?」


グレンやレオンさんが着ているのはいつもの鎧ではなく、カチッとした上着とズボン。


何かの衣装かな?


「ハハッ、どうだサクラ、カッコいいだろ?」


二人ともまるで別人みたい。

でも不思議と違和感がないし、似合ってる。


「グレン、レオン……そろそろ」


広間の入り口で声を掛けたのは、胡桃色の髪を一つに結った、なんだか上品な男の人。

瞳も同じ色だ。


初めて会う人なはずなのに、どこかで聞いたことがある声な気がする……。


その人はわたしの視線に気付くと優しく微笑む。

ひそ、とグレンに小さく何か言うと、盛大な舌打ちとともにギロリと睨まれていた。


仲良しなのかな。


結局誰だか思い出せないまま、グレンたちは“仕事”へ行ってしまった。


自分の部屋へ戻ったわたし。


隣の部屋にグレンがいない夜は初めて。

何となく漠然とした不安というか、寂しさを感じる。


窓の外を見て、街の一角で光珠がチカチカとするのを見ながらグレンの無事を願う。


今日はグレンが心配で眠れないかも。

……と思ったのは杞憂だった。


いつもより少し高くまで昇った朝日に起こされるまで、わたしはぐっすり眠っていたらしい。


食堂で見たグレン(とレオンさん)はゲッソリと疲れた様子で、朝食をとるとすぐに休みに行ってしまった。


夜勤って大変なんだ。

お疲れさま。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

十二月ってすごいですね、毎日があっという間に溶けていく感じが……!

あと一週間で今年が終わり、次の更新日は一月一日になります。

お正月でもちゃんと更新します!

ではまた次回、エイルメーアでお会いできますように。

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