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14. 手紙


暖かい日が続いて、少し暑くなってきた。

今エイルメーアは初夏の季節らしい。


わたしが住んでいた月影国にも春夏秋冬の季節があった。


月影国と同じで、この世界でも夏は暑いものらしい。

でもジメっとしてはいなくて空気が軽い。


でも今日は朝から雨、ずーっと雨。

昨日は少し汗が出るくらいだったのに。



わたしは今、朝の掃除と厨房の手伝いが終わって、魔術師塔に来ている。


アレンさんがエイルメーアの文字を教えてくれるんだって。

ガブリエルさんは今日はお休み。


アレンさんの部屋のふかふかな長椅子に座って、低い机に置かれた紙に向かう。


「これが“あ”、これが“い”……」


サラサラと字を書き、一つ一つ指差しながら教えてくれるアレンさん。


文字の形と音を頭の中で一致させていく。

簡単なようだけど、数が多くて覚えるのが大変……。


「ではサクラさん……この文字、何と書いてあるかわかりますか?」


アレンさんが今書いた綺麗な文字と、お手本の紙を交互に見る。


「ええと……さ、く……ら……わたしの名前?」


「正解です、よくわかりましたね。では、次は……」


何度も問題を出して貰い、あっという間に夕方の鐘が鳴る。


「おや、もうこんな時間ですか……お疲れさまです、サクラさん、よく頑張りました」


机の上を片付けるアレンさんにお礼を言い、紙を何枚かポケットにしまうとマントのフードを被る。

グレンに市場で買って貰ったこのマントは水を弾く素材でできているようで、雨の日に活躍している。


帰り支度を済ませたアレンさんと一緒に魔法陣で塔の入り口へ。


雨は昼間より強くなっていて、跳ねた雨粒で中庭が白く見える。


雨なので、と騎士団の寮の前まで送ってくれるアレンさん。

魔術師団の寮と反対方向なのを気にしていたら、アレンさんは王都に家があって、そこから通ってるんだって教えてくれた。


騎士団の寮についたら、食堂で夕食。


「グレン! お帰りなさい!」


「……ん」


わたしを一瞥して一声。

一言じゃなくて、一声。

このやり取りにも慣れた。

怒ってるわけじゃない、これがグレンの普通。


「今日のスープの野菜、わたしも少し切ったんだよ」


「……知ってる」


え?

何でだろう、ガルドさんが話したのかな。


わたしが不思議に思っている間にもグレンはお肉を中心にガツガツ食べている。


いつ何があってもいいように、騎士団のみんなは基本的に食べるのが早い。

わたしも頑張って食べるけど、みんなのようにはいかない。


「今日アレンさんに字を教わったの。それでね、自分のペンを買いたくて……」


グレンは急ぎの用事がなければ、わたしが食べ終わるのを待ってくれる。


「あ、そうだ、後でグレンの部屋に行ってもいい?」


「おう」


ご馳走さまでした、と手を合わせようとすると、目の前にドンと大きな皿が置かれる。


「サクラ! まだまだ少ねぇな、肉食え、肉!」


ガ、ガルドさん……わたしそんなに食べられません……。


「おっ、サクラ、今日は人間の姿だな!」

「たくさん食って早くデカくなれよ!」

「いつまでもチビだと踏まれちまうぞ!」


「もうっ! みんな揶揄わないでください!」


横を通り過ぎながら声を掛けてくれるリカルドさんやロンさん、ザイルさん。


いつも賑やかで楽しくて、ここは居心地がいい。


ご馳走さまでした、と今度こそ手を合わせて、そのままシャワーへ向かう。

雨で冷えるから、少し熱めのお湯にしよう。


ここでの生活にもだいぶ慣れた。


最初は魔法なんて信じられなかったし、何がどうなってるのかわからなかったけど、慣れると便利なものだ。


グレンは夕食の前にシャワーを浴びたみたい。

雨の日に外で訓練すると汚れるし寒いもんね。


そういえばグレンは最近忙しそうにしていることが多い。

レオンさんも同じ。

わたしの前ではあまり出さないようにしてるけど、よくセオドアさんやバルタザールさんに呼ばれて奥の部屋に行っている。


危険な任務じゃなければいいなぁ。


シャワーを終えてグレンの部屋へ。

ちゃんとノックしてから声を掛ける。

障子戸じゃないから、ノックしないと気付きにくいんだって。


返事を聞いてから中に入ると、わたしはさっそくポケットからあるモノを出して、グレンに差し出す。


「これね、今日少しだけ字を書いてみたんだ」


無言で受け取って、カサ、と折り畳まれた紙を開くグレン。


______________

 ぐれん

 たすけてくれてありがとう

 けがしないでね

          さくら

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


まだ上手に書けないんだけどね、と苦笑すると、ぽんと頭に手が乗る。

ほんの一瞬、グレンの目が柔らかくなった。


「……頑張ったな」


月影国では字の勉強なんてしたことなかった。

普通の人は字なんて読めないし書けない。

字を知っていたのは、偉い大人とか……多分そのくらい。


「ねぇグレン、みんなの名前を書くから見てて?」


だから、勉強は大変だけど、字を覚えるのは楽しい。


「……おい、そこ違げーぞ、それじゃ“わおん”だ」


楽しい……。


「ここもだ。これじゃ“あねん”」


楽し……い……。


「俺は“ぐわん”じゃねぇ」


た、の………。


「お前、本当にアレンに習ったのか?」


…………。


夜の鐘まではあっという間だった。

グレンは明日も仕事だろうから、早く自分の部屋に戻らなきゃ。


お休みなさい、と言って部屋を出ようとするとグレンに呼び止められる。


「明日の夜は夜勤だ。夕方からいねぇから、飯食ったら早めに寝とけ」


夜勤があるのは知ってたけど、わたしの保護者になってからグレンが夜勤に当たるのは初めて。


「レオンもいねぇから、何かあればリカルドか、他のヤツに声掛けろ。……この前みたいに抜け出すなよ」


「わかってるよー、もう勝手に外に出ないから」


グレンが小さく鼻で笑うのを聞くと、今度こそ隣の自分の部屋に戻った。


夜勤って、夜中ずっと起きてるんだよね。

眠くならないのかな。


ベッドに横になって、光珠が光るのを眺めながら目を閉じる。


月影国で見上げた星、竹林の間から降り注ぐ月光を思い出す。

あそこに、帰りたいのかな……。

でもわたし……グレンと……。



翌朝。

いつものようにグレンのノックで目を覚ます。


「ふぁい……起きた、起きたよー……」


「朝飯食ったら街に行くぞ」


「はーい、街……えっ、街!?」


「ペンが欲しいんだろ」


一気に頭がシャキッとする。

窓の外は青空。


昨日話したばかりなのに、もう連れて行ってくれるんだ。


わたしは急いで着替えを済ませて顔を洗うと、グレンの待つ食堂へ走った。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

私事ですが、約一年ぶりに本格的に風邪を引いてしまいました。

寒いですしね、空気も乾燥しますしね。

皆さまどうか御自愛くださいませ。

ではまた次回、エイルメーアでお会いできますよに。

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