11. 厄介な拾いモノの夜(グレン視点)
報告を受けたとき、心臓が止まるかと思った。
サクラが森に来てるだと……!?
アイツは……サクラは「外の世界」から来たらしい。
アレンが魔力を確認してそう言ったんだ。
にわかに信じ難いが、間違いないだろう。
アレンはまだ若いが史上最年少で魔術師塔の筆頭魔術師になったやつで、実力は折り紙つきだ。
アレンが言うには、外の世界から来たやつは「魔力酔い」を起こしやすいらしい。
魔力を持たない、もしくは魔力と相性の悪い体質のやつが強い魔力に触れると、不調になるんだと。
サクラも例に漏れずってところか。
魔力の濃い場所は光珠の有無や数、大きさ、光の強さなんかを見れば、ある程度わかる。
あれは魔力が凝縮して可視化されたもんだからな。
まあそんなワケで、サクラは魔力酔いで熱を出しちまった。
サクラが熱を出した日の夜中。
隊長や団長にサクラのことを報告して部屋に戻る途中、ルミネスタ周辺の異常を知らせる警鐘が鳴った。
“王都東の森で魔獣の大量発生を確認、群れが街の方向へ進行中、待機番以外の騎士及び魔術師は速やかに討伐へ……”
飛んできた伝令魔法の蝶から聞こえる指示。
チッ……こんなときに……。
目を覚ましたサクラにすぐ戻ることを約束して森に向かう。
この前まで静か過ぎた森で、今度は魔獣が大量発生。
何が起こってやがる。
俺は同じタイミングで到着したアレンと森へ入ることにした。
何十匹目かの魔獣を倒し終えたとき、不意に俺の肩に伝令魔法の蝶が止まる。
……何だ?
妙な胸騒ぎがする。
“悪い、グレン! サクラがそっちへ……森へ向かった可能性がある!”
……リカルドの声だ。
周りの声や音から、運ばれてきた怪我人の対応をしているのがわかる。
だが問題はそこじゃねぇ。
今夜待機番だったリカルドにはサクラのことを頼んどいたはずだ。
部屋から出させるな、と。
なのに何で、よりによってこっちに来てんだよ……!?
アレンがすぐに魔力探知をしたが、魔力を持たないサクラは探知に引っ掛からねぇ。
……クソッ!
襲い掛かってくる魔獣を片っ端から斬り捨てながら、森の入り口を目指す。
俺たちの前方にいるのは、太い木を軽々と踏み潰しながら進む、デカい蜥蜴型の魔獣。
他の魔獣を食ってやがる。
目の前の最後の魔獣を食っちまった、その奥に見えたのは……サクラ!?
だからっ……何でアイツはこの最悪のタイミングで、最悪の場所にいんだよ!
考えるより先に、体が動いた。
「伏せろ、サクラ!!」
サクラの姿を目に映したクソ蜥蜴の足元をアレンが氷の杭で縫い留めたのと、俺の剣がそいつの脳天を穿いたのは、ほぼ同時だった。
息絶えたのを確認してからゆっくり近付く。
月光に照らされる白い肌。
俺を見上げる黒目がちな目。
本当に、サクラだった……。
さっと視線だけ動かして怪我がないか確かめる。
……よし、大きい怪我はしてねぇな。
しかし、安堵とは裏腹に頭に血が上ってデカい声が出ちまった。
もし本当に、俺たちが助けに来なければ……。
助けに来たとしても、間に合わなければ……。
考えただけで血の気が引く。
アレンに止められて、ボロボロ涙を溢しながら震えるサクラを見る。
もうそれ以上は、強く怒れなかった。
わんわん声を上げて泣く、小さなガキ。
こんな弱くて細っこくて、熱もあって……コイツの一体どこに、こんな森の奥まで来る力があったんだ。
とりあえず寮に戻って、早く寝かせてやらねぇと。
抱き上げた体は焼けたように熱かった。
草原に出ると、サクラは目元を赤くしたままウトウトし始めやがった。
ったく……ほんと何なんだよ、コイツ。
起こさないようにと思えば自然と足取りがゆっくりになって、華奢な体を支える腕には力が入る。
「いやぁ、サクラすげぇよ。ビビりなのか度胸あるのかわかんねぇな!」
途中で合流したときサクラを見て顔を引き攣らせてたレオンが、感心したように笑う。
「……これは度胸でも何でもねぇ。無鉄砲で命知らずな馬鹿のすることだ」
「おうおう、手厳しいねぇ」
「まずはサクラさんが無事で良かったです。かなり驚きはしましたが……」
「ったく……」
寮に到着。
サクラを部屋に寝かせたとき、脱がせたブーツから出てきたのは、やっぱり小せぇ足。
熱めのシャワーで汗や魔獣の血を洗い流す。
伝令魔法で聞いた言葉が、頭の中を何度も回り続けた。
“サクラがお前に会いたがって起きてきて……さっき覗いたら部屋にいなかった……!”
ハァ……ほんと何なんだよ……。
「お前んとこのチビ、なかなかやるなぁ、ハハッ」
報告書をまとめてるとセオドア隊長に声を掛けられる。
笑い事じゃねぇ。
「団長とも話したが……あのチビをこの先どうするか、考えとけよ。ま、お前の中では決まってるかもしれんがな。ハハッ」
「……明日、本人に確認します」
だから、笑い事じゃねぇっつの。
次の日。
目を覚ましたサクラに、これからのことを聞く。
あれだけ怖ぇ思いをしたんだ、ここから離れたくなった可能性はある。
どこか施設を探して入れてやるのが一番なんだろうが……。
「わたしは、グレンさんと一緒、がいい……」
……そう言うと思った。
コイツは馬鹿じゃねぇ、大馬鹿だからな。
一緒にいられることを話してやると、さっきまでの涙はどこ行ったんだ、って聞きたくなるような笑顔で飛びついてきやがった。
……ンっとに……。
「こんな馬鹿、放っておけねぇな……」
「うん? 何か言った?」
「何でもねぇよ……馬鹿」
その後、団長と隊長に報告。
寮は基本的に単身者のみの利用になってるが、今回は特例で俺とサクラが継続して住めることになった。
サクラは俺の隣の部屋。
ここでの規律やら何やらは、生活しながら覚えさせりゃいい。
そして夕食の時間。
サクラを初めて食堂に連れて行く。
「全員よく聞け! 今回グレンがこのサクラの保護者になった! サクラも寮に住むことになったから、皆で面倒見てやれ! 以上!」
普通に喋ってるはずなのに馬鹿デカい声のバルタザール団長の声が響く。
「サ、サクラ、です……あの……よろしくお願いします」
飯を食いながら団員たちが代わる代わるサクラのところにやってきては自己紹介や質問をする。
サクラはしどろもどろになりながら答えてるが、まぁ大丈夫だろ。
「お前らいい加減にしろ……サクラが飯食えねぇだろーが」
「さっそくいい保護者だな、グレン!」
「うるせー!」
そしてようやく落ち着いて飯を食えるようになった頃。
とうとうこの馬鹿、いや、大馬鹿が本領発揮しやがった。
「なぁ、サクラって何歳?」
軽く聞くレオンに「十三歳です」と答えるサクラ。
「「「十三!?」」」
俺を含めた全員が声を揃えて驚く。
嘘だろ、もっと年下じゃねぇのかよ。
「そういえば……グレンって、何歳?」
そんなことを気にも留めず、隣に座る俺を見上げながら首を傾げるサクラの声に、食堂が一気に無音になる。
「……二十五」
「えっ、うそ! そうなの!? もっとオジサンかと……あ、いや、ええと、保護者になれるくらいだし、その……威厳、が、ある、から……」
一瞬の間の後、壁にヒビが入るんじゃねぇかってくらいの笑い声が、食堂に響いた。
……やっぱりコイツを引き取ったのは、間違いだったかもしれねぇ……!
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
今回はグレン視点でした。
彼なりにサクラのことを心配して、守ろうとしていたんですね……。
前半はシリアス気味でしたが、後半でクスッとしていただけると嬉しいです。
ではまた次回、エイルメーアでお会いできますように。




