第一部 迷宮脱出篇 その8
警察官A「東17から東へ、どうぞ」
警察官『こちら東、どうぞ』
警察官A「「ナンピック」と「ゾンカ」の隙間路地で、重体の大人男性3名と軽傷の子ども1名確保。身分証を確認、大人男性3名はいずれも外国籍。現場に応援願います」
警察官『こちら東、了解』
警察官B「キミ、この人たちのこと、知ってる?」
少年「知らない」
警察官B「本当に?」
少年「うん」
警察官B「じゃあキミはどうしてそんなに汚れちゃっているの?」
少年「最初からこの服、ボロボロです」
警察官B「そうじゃなくて、キミさ、血がいっぱい服についているでしょ?」
少年「うん」
警察官B「どうしてかな?」
少年「お腹減ってたから、血を飲んでました」
警察官B「……」
少年「ここで隠れていたら、知らない言葉を話す大人たちがやってきて、何か大きな声で話し始めて、気づいたらお互いに叩いたり蹴ったりして、最後はみんな倒れてしまいました。そして僕はお腹が減っていたので、この人たちの血を飲みました」
警察官B「その、手に持っているガラスを使って?」
少年「はい。泣いてるお母さんがいつも自分の腕を切って飲ませてくれてたから、同じように腕を切って飲みました」
警察官B「えっと……どうしてこんな時間にキミはお外にいるの?」
少年「お母さんに「もう帰ってくるな」って言われたからです」
警察官B「いつ言われたの?」
少年「一週間くらい前です。お家に入れてもらえないし、家の前にいると知らないおじさんたちがたくさん来てたくさん叩くから、ここに逃げて来ました」
警察官A「……ひでぇ」
警察官B「……キミのそれ、渡してもらえないかな?」
少年「どうしてですか?」
警察官B「危ないからだよ」
少年「でも、これがないとまた血を飲むことができません」
警察官C「血を飲むとかこいつ、この歳でもうクスリやってんじゃねぇのか」
警察官A「まさか。でも親はきっとそうだろう」
警察官C「なぁボウズ!もう一度聞くが名前は!?何歳だ!?」
少年「知らない〝人〟に自分のことを話しちゃいけないってお母さんに言われているので、言えません」
警察官C「分かった。じゃあとにかくそのビール瓶の破片を捨てなさい」
少年「嫌です。これがないと血を飲めません」
警察官C「いいからよこせ!このガキッ!」
少年「あ、やめて、返して」
ドシュッ!!
警察官「「!?」」
少年「……」
警察官C「ぎゃっ!」
警察官A「なんだ?」B「え?」C「ああ、お、ほっ!」
少年「返してください……」
警察官A「こちら東17!大至急応援を要請!警察官1名が……」
ビシッ。
少年「?」
警察官「「「……」」」
魔術師「ポケットに隠し持っていた鉛筆で鼻腔から脳味噌を刺し壊すなんて、ロボトミー並みにエグイことするやないか」
少年「あなたは、誰?」
魔術師「心拍数変化なし。人間殺しといて何とも思わんのか。まあええ。で、ウチは何に見える?」
少年「……天使?」
魔術師「天使?ああ、白いダッフルコート着て室外機の上におったら天使に見えるかもな。大晦日の夜に天使が舞い降りたってか。それもオツな話やな」
少年「……」
魔術師「ボン。名前はなんて言うねん」
少年「……ソラ。シウラソラ」
魔術師「シウラソラか。で、ソラ。お前、なんで人の血飲んどんねん?」
蒼空「お腹、減ってるから」
魔術師「さっきもそう言っとったな」
フッ!
蒼空「!?」
魔術師「ふむ……傀儡でも使い魔でも同業者でもなさそうやな。マジのイカレポンチか、やれやれ」
ザ。ガチャ。チャキ。カチャカチャ……
蒼空「何してるの?」
魔術師「腹減っとるんやろ?飯食わしたる」
蒼空「そんな黒いの、食べたくない」
魔術師「アホか。これはチャカと無線機や。こんなの食えるわけないやろ。これは大晦日の夜を盛大に盛り上げるための〝しかけ〟や」
蒼空「?」
魔術師「お巡りさんが失神してサンタクロースからリボルバーと無線機盗まれたらどないなるか、見せたるわ」
蒼空「お姉さんは天使じゃなくてサンタさんなの?」
魔術師「どうやろな。いいからこっち来ぃや」
蒼空「……っ!」
魔術師「ウチの手、冷凍庫のように冷たいやろ?ウチの体はな、雪でできとるんや」
蒼空「服についた血が……」
魔術師「綺麗になったな。言うても服がそもそもボロボロやんけ。まあええ。ほな行くで。それと鉛筆は回収や。かわりにお巡りの鼻にはこいつのボールペンでも刺しとこか」。
蒼空「お姉ちゃん、これ」
魔術師「このニュース動画見てみ。カプキ町は大混乱やで。アホたれキッズにチャカ配りーの、スカウトやってるチンピラに警察無線機とスマホのSIMカードあげーの、泥酔して道端で寝ている学生の口に実弾詰め込みーの、ぼったくりバーでぼったくられた酔っ払いにチャカ渡してぶっ放させーのでメチャクチャ。おまけに血まみれ路地裏騒動や。外人三人組の喧嘩を止めに入った警察官1名がボールペンを奪われ顔に刺されて死亡。気絶した残りの警察官2名はショックのあまり記憶喪失やと。紅白歌合戦どころやないなこれは」
蒼空「お姉ちゃん」
魔術師「なんやねん。文句あんのかワレ」
蒼空「どうやってこれ、食べるの?」
魔術師「そのまま食べればええねん。たかが牛丼超特盛と卵4個とポテトサラダとみそ汁やん。もしかして箸が使えんのか。まったく手間がかかるガキやな。すんませーん!スプーンください!え?スプーンついとる?ホンマやん。なんや恥かかせよって。しゃあない。卵は割ったるから、よう見とけ。こうや。器に殻をコツコツぶつけて、割れ目に親指で力を入れてかち割る。あとは牛丼にぶっかけて食う。さっきオドレがお巡りの脳味噌にやったみたいにスプーンぶっ刺して卵と肉とご飯をマジェマジェしてかっ食らえ。ええな?」
蒼空「は、はい」
魔術師「よし。したら食え。言っとくがお残しは許さんからな。それとウチのキング牛丼高菜明太子入りはやらんから」
蒼空「はい」。
蒼空「お姉ちゃん」
魔術師「どした?腹いっぱいか?思えば確かに10歳に超特盛はキツイな。それと口の周りがメッチャ汚れとるで」
蒼空「ごめんなさい。……えっと、そうじゃなくて」
魔術師「なんやねん」
蒼空「お姉ちゃんは、誰?」
魔術師「誰でもええやないか。牛丼を食わしてくれた美少女中学生でええやん。言っとくが外でキャピキャピ騒いで股で稼いどるアホキッズと一緒にせんといてな」
蒼空「……」
魔術師「どした?なんで急に黙るねん?もしかして食い過ぎてゲロかウンコか?」
蒼空「寒い夜」
魔術師「?」
蒼空「ビルの間の空から降りてきて、温かいごはんをこんなにたくさん食べさせてくれたお姉ちゃんは、天使様じゃないの?」
魔術師「天使様かぁ……ちゃうなぁ」
蒼空「じゃあ、何?」
魔術師「ウチはそうやなぁ……アホキッズよりも質の悪い、死神やな」
蒼空「死神?」
魔術師「せや。残念やったな。死神は牛丼特盛を何度も食わせてくれたりはせん。死神は〝人〟とはつるまん。今回は〝厄介事〟かと期待してやってきたら、ソラがお巡りに絡まれとっただけやった。せやからソラが飯食ったらサイナラや。ウチは天使やない。悪いな」
蒼空「……」
魔術師「しっかし予想以上に盛りあがっとってウケるわ。あ、もうスマホのバッテリーが切れそうや。モバイル、家に置いてきてしもうた。しゃあない。牛丼屋の窓を曇らせるのも疲れたし、もう帰るか」
蒼空「あの」
魔術師「嫌やで。キッズと変わらんお前を連れて帰るわけないやろ。捨て猫を一々(いちいち)保護しとったらウチの家は動物園になってまう」
蒼空「そうじゃなくて」
魔術師「じゃあなんやねん。言うてみ」
怪物「このおいしいごはんは、だれをこわせば、たべられますか?」。
魔術師「………」
蒼空「いつも僕を蹴って、お家に入れてくれなくて、カギを閉めるおじさんの目を傘で刺したら、おじさんは鞄を捨てて逃げていきました。鞄の中には変な色の飴とか白い粉があって、食べられました。道で寝ている人の腕を切ったら、血が出て食べられました。お巡りさんの鼻を鉛筆で刺したら、お姉ちゃんが牛丼を食べさせてくれました。だから教えてください。誰を壊せば……」
魔術師「狂っとる」
蒼空「え?」
魔術師「しかし正しい。壊せば食えるとは、直感的に生物的に唯物論的に正しいな」
蒼空「?」
魔術師「よっしゃ気に入った。猫は嫌いやけどしゃあない。ウチが命令した通り壊せるなら、朝昼晩のメシを食わせたる」
蒼空「ほんとですか!?」
魔術師「ほんまや。美少女に二言はたぶんない。約束するで」
蒼空「お姉ちゃんありがと」
魔術師「アスカや」
蒼空「え?」
明日香「うちの名前や。黛明日香」
蒼空「アスカお姉ちゃん……」
明日香「アスカお姉ちゃんなんて呼ばれると、なんか照れるやないか。キング牛丼もう一杯食いたくなるやないかい」
蒼空「えっと、じゃあなんて呼べばいいですか」
明日香「アスカ姉でええわ」
蒼空「はい!アスカ姉」
明日香「したらほれ、はよ全部食え。アスカ姉が水分補給をしとるうちに」
蒼空「はい!」。
明日香「どないした?汗かいて。美少女の家に来て緊張しとるんか?」
蒼空「そうじゃなくて、こんなあったかい服を買ってもらって、着たの、初めてで……」
明日香「ああ。それは服兼布団や。世に言うベンチコートやな。ウチの家は冷房はあっても暖房はないから、冬の間はそれで凌いでな」
蒼空「はい」
明日香「で」
蒼空「?」
明日香「捨て猫を拾ってきたら飼い主はまず何をするか、ソラは知っとるか?」
蒼空「ごめんなさい。知りません」
明日香「風呂や」
蒼空「おフロ?」
明日香「そ。サンダル脱ぎ。んでフロ入るで」
蒼空「え?ちょっと、どこに連れてくんですか?」
明日香「フロ入る言うたら風呂場に決まっとるやろ」
蒼空「ええ!?」
明日香「何照れてんねん。して、さっさと脱げや」
蒼空「ひとりでおフロくらい、入れます!」
明日香「つべこべ言わんとはよ脱げや。ボディーチェックも兼ねてんねん」
蒼空「なんでアスカ姉まで脱いでるの!!」
明日香「時間の節約や。ソラが入った後にウチが入ったらウチの時間がもったいないやろ。はよせな。箸も使えないガキがエッロいこと想像して箸みたいにチンチンおっ勃ててんやないで」。
明日香「どうやった?14歳の美肌を見ながら風呂に入った気分は?」
蒼空「うれし……なんでもないです!」
明日香「そりゃそうや。して、ここからが本番や。いいか。壊せば食える。これは間違いない」
蒼空「……」
明日香「これが何かわかるか?」
蒼空「包丁です」
明日香「そうや。して、段ボールに入っとるあれは?」
蒼空「えっと、ジャガイモ」
明日香「そうや。で、あっちの段ボールらに入っとるアレとアレとアレは?」
蒼空「ニンジンと、玉ねぎと、リンゴ」
明日香「アホ。リンゴやないで。トマトや。そんなことも知らんからチンチンが皮被ったままやねん」
蒼空「……」
明日香「ジャガイモの皮を剥く。玉ねぎの皮をチンチンみたいに剥く」
蒼空「チンチンって」
明日香「冗談やズルムケ。でもここからは本気や」
蒼空「……」
魔術師「壊す」
蒼空「……」
明日香「ジャガイモもニンジンも、玉ねぎも、トマトも、何もかも壊す。壊して大鍋に入れて煮る。そして無水カレーを作る。ウチは無水カレーが好きやねん」
蒼空「カレー。ボクも好きです」
魔術師「せやろ。誰かを壊して美味いものを食う。カレーは壊さんと食えん。だから今回は野菜を壊す。悪い人間を壊すように」
蒼空「はい」
明日香「美少女のウチは毎朝無水カレーから始まる。せやからカレーが作れんかったらウチの家から追い出す。分かったかソラ?」
蒼空「はい!」
明日香「よし。猫と違っていい返事や。とりあえず朝まで野菜を壊しまくって鍋を一杯にせい!ウチはその間寝る!睡眠は美少女にとって大事なんや!」
蒼空「はい!おやすみなさいアスカ姉!」。
8. プロペラジェノサイド「食事晦」
アーキア超大陸。マルコジェノバ連邦。マルコジェノバ国。
「では私の番ね」
夜道をミズナラの杖をついて歩きながら、召喚者大和田がしばし考え込む。
「いらっしゃませ~。今日も、ご乗車ありがとうございまーす」
大和田の後ろを歩く浦崎がオニグルミの杖をつきながら、余裕の笑みを浮かべて目を閉じる。
「学校の6時間授業が終わった後、東京にいるコスプレイヤー仲間と撮影会をするから、博多駅から東京駅まで新幹線で行きたいわ」
「かしこまりましたー。本日は東海道・山陽新幹線、新大阪・東京方面をご利用いただきまして、まことにありがとうございまーす。この電車は博多駅を18時36分に出まして、小倉、広島、岡山、新神戸、新大阪、京都、名古屋、新横浜そして東京駅に順に停車いたしまーす」
ひんやりする空気の中、よどみなく召喚者浦崎が答えてみせる。
「京都に止まるのはいつでおじゃるか?」
浦崎の隣を歩く召喚者仙石がイヌコリヤナギの杖を肩に担いだまま尋ねる。
「京都駅には21時19分に到着いたしましてー、2分ほど停車した後、21時21分の発車となりまーす」
「おお!そうであったか!!2分では京都駅のイルミネーションを見るのはちと難しそうでおじゃる」
「それで浦崎氏!東京駅に着くのは!?」
大和田の隣を歩く召喚者横田がホオノキの杖をついて歩きながら重ねて問う。
「京都駅を21時21分に出まして~、名古屋駅21時55分、新横浜駅23時14分、そして終点東京駅には23時32分に到着の予定でございまーす」
「2時間あれば映画『きみとブリキュア』を見ながら駅弁が食べられます!」
「そしてちゃんとその日の内につくのね。これなら次の日の朝から撮影できるわ」
「左様でございまーす。新幹線+ホテルパックのご利用などもございまーす」
「いつも思うのじゃが、そこまで厳密に人間の輸送が行われておるのか?」
四人の傍を移動する魔法使いラウンヤイヌが動物チョウチンラバの上から尋ねる。
「当たり前よ。日本の電車は秒刻みで動いているの」
「電車ではなく新幹線のぞみでございまーす」
「たいしたものじゃのう」
チョウチンラバの頭部から生える突起の光に照らされながら、ラウンヤイヌは顎の髭をしごく。
「異世界の文明も、お主の頭の中の中のジコクヒョウとやらも」
マルコジェノバ連邦。マルコジェノバ国。
この広大な国土の南東部分を、召喚者4名は、指導官にして魔法使いのラウンヤイヌとともに移動している。
目的地はタデマイト山。
マルコジェノバ国と南東部で国境を接するディシェベルト国との国境線。
急峻な山々に囲まれたこの地帯をどちらの国が預かるかで一時期もめたことはあったが、現在はマルコジェノバ国の領土になっている。
どちらの国も抱えたくはない山地。とはいえ主権があいまいになればそこにどんな輩が巣食うか分からず、仕方なくマルコジェノバ国が抱えた。そしてディシェベルト国側は国家プロジェクトとして、麓に長壁を築いた。タデマイト山に関わりたくないと言わんばかりに。
その忌み場所を目指して、ラウンヤイヌと召喚者4名は進んでいる。
歩き始めて一か月。
4名の一日の走行距離は50キロメートル。
ほとんど地ならしされていない悪路を、昼夜を問わず、天候を問わず、歩き続ける4人。
既に呪詛に体を蝕まれている。
活人呪詛サパペレ。
命を削る代償に、ショートスリーパーでも普段通りパフォーマンスを発揮できる呪い。
寿命の3分の1を捧げた4名は、常に肉体も脳も疲労回復し、こともなげに歩き続ける。もちろん4名はそのことを事前に知らされている。
「二度も死んだのだから、それくらいどうってことはない」。
4名はあっさりラウンヤイヌの呪詛サパペレを受け入れた。
そして千日回峰行を行う行者のように、毎日歩き続ける。
とはいえ行者のように経を唱える以外に喋らないようなこともない。
話題には事欠かない。
4名全員が何かしら強烈なものをもっているから。
仙石大輝。歴史を語らせれば歴史家ヘロドトスくらい語り続ける。
浦崎俊。時刻表が全て頭に入っている乗り鉄は、鉄道を語らせれば止まらない。
横田浩伸。『ブリキュア』を語らせると「しゃべるな」と制止するまで喋り続ける。
大和田美幸。コスプレイヤーのこだわりもまた、暴走列車のように止まらない。
かくして、ショートスリーパーたちは異世界に召喚され呪詛を付与されたことなど気にせず、人間の限界を超えて歩き続けている。
「どれ、ちと休もう」
「まだまだ行けるでおじゃる」
「ワシが疲れたんじゃ。腰が痛い。少しは休ませてくれ」
呪詛を施した張本人が眉をひそめて仙石に言う。一同は2時間の大休憩となる。
「では今度は私と『ふたりはブリキュア ミニマムハート』がいかにして惹かれあい、なぜ沼ったかを話してもよろしいでしょうか?」
「聞くでおじゃる」「興味あるわ」「C寝台から聞かせていただきまーす」
「それは前に聞いたぞい。少しは黙って作業せい」
静寂を好む魔法使いに窘められ、召喚者4名はひそひそ話しながら食事の準備を始める。
四名の装備品。
肌着。茶色のローブ。腰に差した、鞘付きの鉈。
リュック。
リュックの中身は鍋、食器、皮の手袋、釣り具、布、包帯、虫よけ煙草、消毒用の酒、縫い針と糸、水筒、鉈と釣り針用の研ぎ石、香辛料、仕留めた獲物を吊るすための細引きロープ。
要するに、塩分以外の全てを召喚者4名は与えられている。
そこが指導官ジェイクや指導官ブラックスワンと異なる点。
ただし、肌着の下に沁み込んだ呪詛「サバペレ」。ショートスリーパーの呪いが4名にはある。
すなわち、指導官ラウンヤイヌが取り上げるのは塩と命。
ジェイクもブラックスワンも、そこまではやらない。
やっても平気な人物を、ラウンヤイヌは選んだ。
「いい加減口を閉ざすのじゃ。客が来たぞぃ」
「「「「!」」」」
欠伸をするラウンヤイヌ。緊張して体をこわばらせる召喚者4名。
「魔物じゃな」
「「「「……」」」」
4名は手に脂汗を浮かせつつ、杖を握りしめる。
「それも結構な数……偶然のエンカウントであるとすれば、ついていないのう」
目的地であるタデマイト山まで300キロの地点。その夜更けに魔物の襲撃にあう召喚者たち。
《報告。魔物の接近に警戒》
「また、頭の中で聞こえたでおじゃる!」
「それは良かったのう。聞こえねばいきなり頸動脈を噛まれて死んでいたかもしれん」
《報告。低位の魔物ヒフキニンジンムシ8体と低位の魔物ナツメザリガニ21体が出現》
「ヒフキニンジンムシ!?」
「火を噴くニンジンでございまーす!」
天の声を聴いた浦崎と横田が額に汗をにじませる。
「ナツメザリガニ……初めて聞く名前ね」「確かに聞いたことがないでおじゃる」
「鋏と尾鰭に気をつけい。鰭で殴られれば一撃で首が折れる。毒液を塗った鋏は擦り傷だけで壊死が起きるぞい」
ドングリコーヒーの準備を始める暢気な指導官ラウンヤイヌとは異なり、顔面が蒼白になる仙石と大和田。
「平常心が失われるのはいかなる場合か」
ドングリをのせた網で焚火で煎りながら、ラウンヤイヌは静かにぼやく。
「その1、生き延びたいという欲が出てしまう場合」
「「「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」」」」
一か月もの間、一度にエンカウントする魔物の数は多くて2体。しかも低位の魔物。
それもこれも、ラウンヤイヌの使い魔が先回りして、ある程度の数の魔物を予め狩りとっていたから。
「その2、能力に不安がある場合」
ラウンヤイヌのこれまでの目標は、預かる召喚者4名の体力と精神力の強化。
一日に五十キロの歩行にも耐えられる強靭な忍耐力を心身ともに備えさせること。
しかし目的の山を目前にして、ラウンヤイヌの目標は再設定される。すなわち、
「1と2の場合が重なると、平常心は失われる。2つのうちどちらかを消せば、平常心は保たれる」
魔法能力の強化。
「能力に不安があるのなら、命を捨てて敵に臨むしかあるまい」
「「「「……」」」」
「生き延びたいのなら、能力の不安をなくして臨むしかあるまい」
「そだね」「できるかな?」「こいつらに?」「むりむり~」。
「「「「?」」」」
召喚者4名は、自分たちの耳元でそれぞれささやく軽やかな少女たちの声に驚く。
「故に主らの命をこの妖精らに与えたのじゃ」
妖精の杖。
ラウンヤイヌの創った擬似魔剣。
やはり命を質に入れ、所有者に魔力を授ける狂器。
「いいの~?」「死んじゃうかも~」「すぐにね~」「うける~!」
杖に宿る妖精たちが笑う。
何が起きているのか理解できない召喚者4名。
「ここまでよく歩いた。そろそろ魔法を覚えよ。お前たちが握りしめている杖はただの杖にあらず。妖精の宿りし魔剣。術者の命を糧に強大な魔力を授ける杖よ。頭の中に詠唱すべき叙事詩が浮かんできたであろう」
召喚者4名はそれぞれの脳裏に浮かぶ光景を目の当たりにする。数百年の動植物の攻防と人類の栄枯盛衰が妖精の記憶を通じて濁流のように流れ込む。四人ともめまいを起こして倒れ込む。
「契約は済んだ。既に眠らざる者として命を削っておる。さらに命を削る覚悟がおぬしらにはありやなし……」
バッと立ち上がる召喚者たち。全身の血管が浮き出ている。
「ライフ!イーズ!」「リアルッ!」「タイムッ!」「アターック!」
「や?」
「限界突破バックファイアーッ!!」「え、ちょっと」
「限界突破錬金術式!未知逝分解!!」「ほぇ?」
「限界突破サンドボックスッ!」「うっそでしょ」
「限界突破マディーウォーターッ!」「まじで?」
チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ンッ!!!!!!!
「……はい?」
煎っていたドングリが爆風で吹っ飛ぶのにも気づかず、ラウンヤイヌは妖精と同じく唖然としたまま4名を見ている。
「生き残りたい!」「不安になりたくない!」「ならば答えは!」「出発進行~逝ってらっしゃーい!」
いきなり3年分の寿命を使って大火力魔法を発動し、雑魚魔物の群れを地形ごと一瞬で殲滅する召喚者4名。
「たわけっ!何しとるんじゃおぬしらはっ!?」
「このオジャ丸!人生RTAしてイカレてんじゃないの!?」
「キモアニオタ!自分の命を何だと思ってんのよ!?」
「眉なし厨二病!変なポーズ決めてる場合じゃないでしょ!?」
「クズ鉄!電車みたいに人生乗り潰してんじゃないわよ!?」
目を丸くした魔法使いと妖精にさんざん怒鳴られてもケロリとしている召喚者4名。むしろ擬似魔剣である妖精の杖を握りしめ、胸を張って誇らし気。
「「「「「はぁー」」」」」
魔物の気配が消えた後、ラウンヤイヌと妖精は仕方なく、命のありがたみを懇々と召喚者4名に語り始めた。
「分かったでおじゃる」「次から気をつけマシェリえみる!」「いのちだいじに、ね。次は『ドロクエ』のブローラのコスプレを目指すわ」「各駅停車、安全運転でまいりま~す」
ドングリコーヒーとドングリジェノベーゼパスタを食した4名は2時間にわたる懇切丁寧な説得のすえ、ようやく妖精の杖の〝正しい〟使い方を学んだ。
夜明けを迎え、そしてさらに歩くこと一日。
「ここがタデマイト山麓にある一番近い村であろう」
一般人がもっていればスパイ容疑で投獄され終身刑になる詳細地図を眺めながら、ラウンヤイヌはチョウチンラバの上で四人に告げる。
「ぶえっくしゅん!」
「ちょっとバカ殿オジャ丸!くしゃみをするときくらい口を手で押さえなさいよ!」
「すまぬでおじゃる!おぬしがそばを飛んどるとクサメが止まら……ぶえっくしゅん!」
仙石と妖精チャツミのやりとりをラウンヤイヌの耳が拾う。
妖精チャツミ。
擬似魔剣「イヌコリヤナギの杖」に宿る妖精。
綿毛を飛ばすオプションスキルの被害に遭う所有者を見てため息をつくラウンヤイヌ。
(見どころはあるが、ここまで手のかかりそうな駒を握る羽目になるとは、やれやれ)
「ちょっと!私を触りながら錬金魔法使ったらアンタのこと快速電車みたいに轢き殺すからね!」
「グモるわけにはまいりませーん」
「何よグモるって!」
「人身事故の効果音グモッチューンの略語でございまーす」
浦崎の擬似魔剣「オニグルミの杖」に宿るのは妖精ムグラ。
生物の生存にとって有利となる、水の浄化が可能。
「ねぇ、モチキちゃんって、『ふたりはブリギュア』に出て来る90人のキャラの中で誰が一番好きかなぁ」
「知らないわよそんなこと!」
「でもピンク色をしたモチキちゃんならピュア主人公になれるかも!あっ!僕がモチキちゃんのお洋服をしたためましょうか!大和田氏ほど上手にはできませんがモチキちゃんのためなら指に何本縫い針を突き刺しても完璧なコスチュームを作れるまで頑張れます!」
「こいつチェンジ!誰かチェンジして!!」
横田浩伸の擬似魔剣「ホオノキの杖」に宿るのは妖精モチキ。
不幸なことに甘い香りを出せる。それもあり、召喚者4名の中で一番大事にされてしまっている擬似魔剣。
「ちょっと!私の能力にケチつけるわけ!?」
「違うわ。腹減らずなら私も負けていないといいたいだけよ」
「どういう意味よ!?」
「いい?コスプレイヤーはイベントが楽しすぎるとお腹が減らなくなるの。そして今私はおんぼろ賢者の格好にコスプレしている。ハートスキルの持ち主がローブ姿の賢者よ?女子更衣室からイケメンが出てくるくらいのギャップよ?考えるだけでお腹は減らないの。どう?この理屈を妖精のあなたは理解できて?」
「意味わかんないわよ!コスプレとかイケメンって何よ!!」
大和田美幸の擬似魔剣「ミズナラの杖」に宿るのは妖精タナチバ。
水の浄化と同じくらい貴重な栄養貯蔵能力も、持ち主に気づいてもらえない悪運。
けれど残り3名の召喚者とのチェンジもしたくないのでグッと我慢する悲運。
「話、聞いとるかおぬしら」
呆れるラウンヤイヌに気づき、妖精4柱が召喚者4名の頭をひっぱたき、ラウンヤイヌに注目させる。妖精4柱はプリプリ怒った顔をラウンヤイヌに向けるも、心の底で分かっている。
((((この魔法使いに、絶対に背いてはならない))))
髭もじゃの老人の真の怖さを全身全霊で知っている妖精たちは立場をわきまえている。
「もう見えとると思うが、遠くにそびえたつのが目的地のタデマイト山じゃ。刃物と魔法さえもっとれば山で生き延びるのはさほど苦ではないが、あの山は少し特別じゃて、山の生活に慣れるまでは、諸々揃えて入らねばならん。小道具はそなたらにもう背負わせておるが、山に慣れるまでの間、少々薪と水は確保しておきたい。よってそこのアカクス村で買うてきてほしい」
太陽が地平に沈みゆく黄昏時。雲の少ない夕空の下でラウンヤイヌは召喚者4名に命ずる。
「ラウンヤイヌ殿は村に入らぬのでおじゃるか?」
「入る。しかしお主らが先行して入れ」
「指導官。質問してもよいでしょうか」
「なぜ一緒に入らぬか、か?」
「左様でございまーす」
「何があるか分からぬから、かのう」
「見慣れぬ旅人が田舎の村に訪れれば危険なわけね。B級ホラー映画のフラグ並みに分かったわ。そしてもしもの時はこの」
「「「「絶対使わせないから。限界突破」」」」
「「「「……はい」」」」
妖精たちに釘を刺され、召喚者4名はリュックをラウンヤイヌにあずけ、鉈と杖と財布だけをもって村の入口をくぐる。
「大勢の村人の警戒する視線が痛いでおじゃる」「アンタを見りゃ誰だってそうなるわよ」
「モチキちゃんのことは僕が守るからね」「アタシを守るなんて二千年早いのよ」
「大垣バトルの予感がいたしまーす」「何それなんて質問しないわよ。話しだすとアンタ止まらないから」
「変身用のカラコンとウィッグは売ってないのかしら」「そんな魔道具なんて売ってないわよ」
カランカラン。
「いらっしゃい……余所者か?」
道具屋の扉を開き、さっそくご挨拶をもらう召喚者4名。
「言っとくけど、私達の姿はアンタら以外に見えてないから」
仙石の杖の妖精チャツミが先回りして4名にアドバイスする。
実際に、道具屋の主人は妖精が見えていない。彼はただ胡散臭そうに四人の召喚者たちを見ている。
「それで?何か用かい?」
迷惑そうに仙石たちに声をかけて来る。
「薪と水を分けていただきたいのでおじゃる」
「おじゃる?変な話し方だな。どこの生まれだアンタ」
「仙石氏。ここは僕にお任せを。僕たちはブリキュアをこよなく愛する使徒。決して怪しいものではありません。タデマイト山に向かう前に物資の補給を行いたく……」
「タデマイト山だと!?あんなヤベェ山に一体何しに行くんだ!!」
「こちらムーンライトながら91号。救済臨入りまーす。えー、私たちは召喚者にして冒険者でございまーす。秘境駅を目指して三千里。タデマイト山はカマで入りますので水と材木を必要としている次第でございまーす」
「何語を喋ってるんだコイツは!」
「三人とも待って。ここは私が引き受けるわ。水と薪とカラコンとウィッグが欲しいの。代金は支払うわ。もし相応のモノがないというのなら、ウィッグネットをとった後の髪の毛くらい悲惨な目に遭うかもしれないから覚悟しなさい」
「悲惨な目?もしかして脅迫か!?」
「おいこいつらひょっとして「カプアス」の一味じゃねぇのか!?」
聞き耳を立てていた店の客たちが騒ぎ始める。
「確かに怪しい見た目と言語からしてそうだ!間違いねぇ!」
「やべぇぞおい!逃げろ!!」
「頼むから店に火を点けるのだけはやめてくれ!」
店主も含め、店の中から村人があっという間に消える。
「「「「よし」」」」「「「「良しじゃないわよ!!」」」」
妖精たちにスカポカ殴られつつも、積まれた薪をかかえ、カウンターに適当に硬貨を置く召喚者4名。
「水は外の井戸で汲むでおじゃる」
「仙石氏、ここはひとつ水浴びもしていきませんか?」
「カマ焚き前に汗を流すのは賛成でございまーす」
「眉毛がまた生えてきたからそろそろ剃ろうと思っていたの。賛成よ」
薪を抱えた召喚者4名が店の外に出る。
「ちょっと四人とも!見なさいよあれ!」
妖精たちに言われて召喚者4名は井戸を探すのをやめて妖精の指す方へ顔を向ける。
「ひ……魔物の群れだ」
《報告。低位の魔物ヒフキニンジンムシ三体と低位の魔物ナツメザリガニ二体が出現》
「魔物よ!あなたたちがやっつけて村人を救いなさい!」
「なるほど徳を積めということじゃな!皆の衆、戦じゃ!!」
薪の束をその場に捨てた召喚者4名が杖を構える。
シュッ!ザシュザシュッ!! キュアアアアッ!!!
「「「「?」」」」
仙石たちが杖を構え魔法を唱える前に、複数の武装した人々が現れ、魔物たちを狩る。
「はっはっはっはっ!どうだ恐れ入ったか!!」
得意げに叫ぶ男たち。
「誰でしょうあれは、仙石氏?」
「武器を取り魔物を狩るのであるから、冒険者の類でおじゃろう。……よもや召喚者ではあるまい」
「ウソ電なみに不可解でございまーす」
魔物を狩り終えた集団の一人が、座り込んで震えている村人の胸倉をつかむ。
「どうしたんだ?お前らの安心と安全をいつも通り守ってやったんだぜぇ?もっと喜べよ」
「は、はい。あ、ありがとうございます……」
「そしてお礼は言葉じゃなくて形にしねぇとな」
その言葉で魔物退治をしていた連中が一斉に笑いだす。
「おいテメェら!」
村人の胸倉をつかんでいた男が大声を上げる。
「なんじゃ?われらのことを指さしとるのう」
「ドロピカルージュブリギュアの敵キャラを連想させて不快ですね」
「雰囲気からしてアマチュア運転会レベルでございまーす」
ニヤニヤしつつ、自分の首の後ろにトントン刃物の峰を当てながら近づいてくる男を睨む召喚者3名。
「ここは俺たちが〝守ってやってる〟シマだ。流れ者はどこかへ消えな!!」
「汝らはなんぞや!?」
「俺たちは冒険者「カプアス」!泣く子も黙る「カプアス」とは俺たちのことよ!!」
湧き上がる雄叫び。身を寄せ合い震える村人たち。
「どうでもいいけど、魔物がまだ一匹残ってるわよ」。
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
既に井戸端で眉を剃り始めていた大和田が、割れ鏡を見ながら背中越しにつぶやく。
一同は急いで頭を振る。
「……」
地面を掘ってモグラのように現れた魔物ヒフキニンジンムシが1匹。オレンジの体表には、ふつうはない黒い斑点が黴のように浮かんでいる。
「「「「!」」」」
妖精4柱が魔物の〝正体〟に気づいて息をのむ。
((((四人を試すつもりだ!))))
魔法使いの恐怖に、震え上がる。
《召喚者へ警告。悪性憑位の魔物ヒフキニンジンムシ1匹が出現。最大限の警戒を敷くことを奨励》
召喚者四名の頭の中で鳴り響く天の声。
《……さもないと、パンダグモの時のように殺されるぞい》
天の声を模して召喚者4名の脳裏に響く、ラウンヤイヌの声。
「「「「!」」」」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
ラウンヤイヌの声と前後して唸る、火炎の爆音。
「うああああああああああああっ!」「ぎゃあああああああっ!!!」
村人も冒険者「カプアス」も関係なしに焼き尽くす火炎放射。
ヒフキニンジンムシを中心に半径20メートルが火の海に変わる。
逢魔が時の闇が一瞬にして焦げる。
「このままだと昨日のドングリみたいになっちゃうんだから!」
「早く戦いなさい!」
「死にたくないでしょ!!」
妖精に怒鳴られて我に返った召喚者4名は口を閉じて笑い、立ち上がる。
「元より死ぬつもりなどないでおじゃる!……マジレスで草」
4秒間の素早いハンドサインを仲間三人に送った仙石がそして、イヌコリヤナギの杖を握る。火が灯る。
仙石。
彼の父親は甲子園出場経験を持つ高校野球部の現役顧問にしてコーチ。右利きの子を左投手に育てるほどの父親の野球熱が嫌いで、息子はついに野球に背を向ける。
「元の世界に戻ってブリギュアが完結するのを観届けるまでは絶対に死にましぇん!……了解ニキ」
横田のホオノキの杖の下の地面に亀裂が走る。
横田。
本人は全国学童軟式野球出場経験者。日曜に練習試合が多すぎてアニメの生放送が見られず、それを理由に野球に背を向ける。
「異世界に鉄道を普及する使命を果たすまで、参るわけには参りませーん!……了解定期」
オニグルミの杖を握る浦崎の周囲に魔法陣が浮かび、回る。
浦崎。
横田とは、同じ野球チームの内野手と捕手。捕手の横田が辞めたので良い機会だと内野手の浦崎も野球に背を向ける。
「眉毛の剃りかけで死ねるわけないでしょ!……了解イッチ」
大和田の握るミズナラの杖が幹を伸ばし、コブを増やす。
大和田。
彼女は全国中学校女子ソフトボール全国大会決勝戦出場者にして外野手。コスプレに目覚め、日焼けしたくないという理由から野球に背を向ける。
すなわち4名とも、瞬間的な意思疎通と状況把握を得意とする、死亡経験のある異能者。
ドムンッ!!
ヒフキニンジンムシが跳ねる。宙を舞いながら火炎を吐き散らす。そして召喚者4名の元へと飛び向かってくる。
「飛んで火にいる夏の虫でおじゃる!!!」「サンドフィード!」
仙石の怒声で、横田が地中の土砂に間隙をつくる。死亡遊戯開始。
「ディープウォーター!」
大和田が井戸水の湧水を間隙に導き噴射する。けれどそれでも消えないヒフキニンジンムシの火炎。
「ブライトバーニング!」
そこへ仙石が閃光弾を撃ち始める。ヒフキニンジンムシは空気振動で敵4名の座標を探る。熱で揺らぐ空気の中、前方にある大きな対象物四つを捉える。
「我は妖精たるタナチバに命ずる。たわわなる果樹を降らせよ!」
大和田の杖に出来たコブ玉がぽろぽろと落ちる。それを全てキャッチした大和田が横田と仙石にコブ玉を放る。
カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!
野球経験の豊富な二人が杖をバットように握りしめ正確にノックし、ヒフキニンジンムシにコブ玉をぶつける。
コブ玉。
中身は疎水性の樹液。ヒフキニンジンムシの火炎で引火するも、耐火性の外骨格に守られているヒフキニンジンムシに火炎攻撃は効かない。
ガシ。
「一番線に最終電車が到着しまーす」
「キュ!?」
甘い香りを放つホオノキの杖を地面に突き刺し、妖精ムグラに任せて成長状態で放置し、自身の位置を悟られないように建物の裏を移動していた浦崎がヒフキニンジンムシの背後から出現し、背に飛びつく。
ヒフキニンジンムシの体表温度は現在199度。
しかし仙石の火属性魔法「ラインオブファイア」で耐火性能を得たため、浦崎はヒフキニンジンムシの発熱外骨格にくっついても平気でいられる。魔物にとっての予想外。
そしてダイヤスキルもちという想定外。
ダイヤスキル。
トランプスキルの中でも稀少なる錬金術の使い手。
ただし錬金術の完成形である「合成」の前段階である「分解」しか、浦崎はまだできない。
つまりただの未熟な、破壊のプロ。
「お乗り遅れのないようにご注意下さーい……分解」
ビシッ! ドバアアァーンッ!!!
錬金魔法にとどめを刺された魔物が空中分解し、肉片と体液を周囲に撒き散らして散華する。
《報告。悪性憑位の魔物ヒフキニンジンムシの討伐に成功。ジャックスキル所持者、ダイヤスキル所持者、クラブスキル所持者、ハートスキル所持者のレベルが上昇……》
「討伐成功!やったでおじゃる!」
(なによこいつら)
「僕がレベルアップなんて!心ギュンギュンしてまぁす!」
(普段は全然ヘタレなくせに)
「え~この電車は地下鉄各線への連絡はございませんのでご注意下さーい」
(ツボにはまると)
「生まれ変わったら『鉄仮面ライダー』のショッカーに入社しなさい」
(恐ろしく強い)
召喚者の傍らに寄りそう妖精たちは、魔物討伐成功に無邪気に喜ぶ彼ら4名を見ながら、背筋に寒気を覚える。
((((この感じ……))))
どこかの誰かに似ていると気づき、うすら寒さを覚える。
「薪と水は手に入ったのかぇ」
チョウチンラバに乗って、のそのそ遅れて村に入ってきた魔法使いラウンヤイヌを見つけ、妖精4柱は理解する。想像の斜め上を行くこの召喚者4名の不気味さは〝これ〟と似ていると。
「薪は手に入ったでおじゃる!……ありゃ!?どこへいった!?」
「仙石氏!先ほどの戦いで薪は燃えてしまいました!」
「なんということでおじゃる!忌々しい魔物ニンジンめ!」
「ちなみに水はそこら中にあふれているわ」
「あふれとるって……水筒に詰めねば意味がないじゃろう。まったく……うんにゃ?」
ぞろぞろとラウンヤイヌたちの元に村人たちが集まってくる。
「なんぞ我らに用かのう?」
顎髭を夜風でなびかせながら、ラウンヤイヌが目を細めて尋ねる。
「アンタたちは、一体何者なんだ?」
「旅の者じゃ。魔物にかこつけて寄生虫のように集るどこかのゴロツキとは違う。薪と水が手に入れば今すぐ消える」
「ま、待ってくだされ!」
若い男女に支えられながら、よぼよぼの長老格が杖をつきつつ、ラウンヤイヌの前に進み出る。
「なんで待たねばならぬのじゃ?ワシは忙しい。それとヌシらの家を焼いたのは魔物じゃ。ワシらではないから家屋の保証なんてせぬぞ。ここらの州を治める貴族様にでもお願いせい」
「そういうことを言いたいのではございません!だいたいここの行政官なぞ、あてにはなりませぬ」
息を切らした村長は必死に否定する。肩をもつ若い男女も強く頷く。
「では何用か?」
ラウンヤイヌが皺の奥の目を静かに村長に向ける。
「礼をさせてくださりませ」
「礼?」
「左様でございます。お見立ての通り、この町は魔物に狙われていましたが、その魔物の排斥を理由に、悪徳な冒険者集団に居候をされて困っておりました」
「ならず者のヤクザ冒険者かぇ。よくある話じゃな」
魔物ヒフキニンジンムシに生きたまま焼かれたせいで、身を丸くしてレアステーキになっている〝ならず者〟を召喚者四名は杖でツンツンつついて具合を確かめている。
「はい。「カプアス」と名乗る者たちです。そこへあなた方が現れました。「カプアス」の手に負えない魔物たちをあなた方は容易く倒してしまわれた」
「それでワシらに礼か?ワシがもしあの魔物をけしかけていたとしたらどうする?」
クククと笑いながら眼球を真白にするラウンヤイヌ。それに恐怖する妖精4柱。首を必死に左右に振る村長。
「あなた様がそのようなことをする御仁とは到底思えません。あれが芝居であったなどと我々は思いませぬ」
「そうかぇ」
ラウンヤイヌは目を元に戻し、ブッと屁をかます。召喚者4名は目を丸くした後、必死に笑いをこらえる。その拍子に死体の首を蹴飛ばしてしまい、首がもげる。それで笑いを爆発させる4名。
「はい。とにかく、村はとんでもない魔物と厄介な冒険者から一時でも救われました。どうか気のすむまで、逗留願えませんでしょうか」
「用心棒替わりとうやつじゃな。……断る」
召喚者4名の挙動を気味悪げに見つめる村人とは対照的に、必死な村長。その二つをかわるがわる観察しながら、ラウンヤイヌが返事をする。
「どうかそのような素っ気のないことを申されず、どうか」
村長の腰の低さに村人も召喚者4名を見るのをやめて、ラウンヤイヌだけを見て頭を下げる。
「……はぁ。仕方がない。魔物を退治したのはこの者たち、天より選ばれし召喚者たちじゃ」
「なんと、あのお方たちは召喚者ですと!?」
村長があまりに驚くので、眉をしかめたままもう一度4名に目を向ける村人たち。
「左様。この者たちがどうしても宿を借りたいと申すのなら致し方ない。まぁ先を急ぎたいと申すであろうが……」
「泊まるでごじゃる!」
リーダーが鼻息荒く回答。
「ふかふかベットでギュアドリームを見たいです!」
「夜行列車自由席を希望致しまーす!」
「ここのところコスプレメイクの研究が進んでいなかったから、ちょうど部屋で休みたいと思っていたの」
リーダーの意見に続く三名。「あわわ」と口に手を当てる妖精たち。
「……」
「あ、あの?」
「宿を手配してもらおうかのう!」
「はい!すぐに村の者に案内させます!」
こうしてラウンヤイヌと仙石ら召喚者4名はアカクス村で一泊することになった。
「あっ、すごいです仙石氏」
「やった!特級周遊カードでおじゃる!」
「サイコロを5回振ることができまーす」
「ほりゃ!……あれ?いやいやいやまさか……ほりゃ!ほりゃ!ほりゃ!ほりゃ!」
「すごいわね。5回連続で1を出せる確率は7776分の1よ。すなわち0.012%」
「なんということでおじゃる!」
集会場として使われている、村の家屋1戸。
大部屋しかない中で、召喚者4名は騒がしい。
「ちょっとアンタ!せっかくの特級カードを無駄遣いしてんじゃないわよ!」
「そんなことを言うなら今度は妖精のおぬしが振るでおじゃる!」
「さすが仙石氏!妖精チャツミたんに花を持たせるとは優しすぎます!」
「花ではなくサイコロを持たせるのでおじゃる!」
「ではこちらも現在ご乗車いただいている妖精のムグラ様にお願いいたしまーす」
「え!アタシが振るの!?こんな重たいモノ持てるわけ……おーりゃあっ!!」
「そんな……嘘よ、こんなの」
「ムグラ!あんたなんてことしてくれたのよ!」
「毎度ご乗車、ありがとうござました。ただいまキングポンピーが、快速大和田美幸に連結いたしましたー。ざまーみさらせー。借金地獄へ逝ってらっしゃーい」
正確には召喚者4名と彼らに寄りそう妖精4柱。
彼らを離れたところから見守るのは、魔法使いラウンヤイヌ。瓢箪の瓶に入れてある蒸留酒を御猪口から出して、ちびちび飲みながら〝子どもたち〟を見ている。
「よろしかったので?」
壁にもたれて酒を飲むラウンヤイヌに話しかけるのは、使い魔のネズミ。
「呪われておっても、骨休めは大事じゃろう。それに、憑依させただけとはいえ、ワシの操る魔物も掃ってみせた。ただ歩かせてきただけのつもりじゃったが、なかなか見どころはあると知れた」
杯を傾けながら、ラウンヤイヌは口をほとんど動かさず答える。
「魔法が扱えるのはラウンヤイヌ様の力の賜物によるかと」
「魔法なぞ、まだまだ未熟。それより興味を持ったのは、即座の連携と即興の策略」
「……なるほど」
「四人が束になればあるいはエースやジョーカーに匹敵する日が来るやもしれぬ。そう思えたのが今日の昼の収穫であった……で、そちらは?」
「先日の魔物の大規模襲撃も含め、すべてラウンヤイヌ様の読み通りです」
「そうかぇ。引き続き見張りを頼む」
「御意」
使い魔ネズミは自ら齧って開けた小さな壁穴に再び潜り、ラウンヤイヌの元から去る。
夜更けのアカクス村。村人は疲労で寝静まり、獣の遠吠えを除き、静寂に包まれている。
賑やかなのは、召喚者たちの集う家屋だけ。
手づくりの「スモモ太郎電鉄すごろく」を楽しむ召喚者たちの居るその家屋の外で、コソコソと武器を手にした人が動く。
正体は冒険者集団「カプアス」の残党。
ヤクザあるあるで、村から追い出された報復のために、夜襲の準備を彼らは進めている。
(いつまで騒いでる?)
就寝を待つ予定でいた「カプアス」だが、召喚者4名はいつまでも眠らない。ひっくり返ったり転げまわったり笑ったりしているが、結局誰も彼も起きている。しかも「カプアス」たちに見えない何者かと4名は話している。これが「カプアス」には不気味に映る。
眠っているように見えるのはラウンヤイヌだけ。壁にもたれたままうたた寝している姿を「カプアス」たちは外から魔法で確認する。
(仕方ない)
寝込みを襲う予定だった「カプアス」たちは計画を変更する。
「ん?」
「どうしたでおじゃる?」
「何か、臭いと思わない?」
「体はさっき洗ったでおじゃる」
「そういう臭いじゃないわ」
「……焦げ臭い」
ヤクザ冒険者「カプアス」たちは召喚者のいる家屋に火を放った。
出てきた者からぶち殺す。そういう算段を彼らは立てた。
「いざ外に逃げるでおじゃる!」
「待つんじゃ」
「「「「!」」」」
「先ほど面子と仲間を焼かれたもんじゃから、悔しくてヤクザ冒険者どもが焼き返しにきたんじゃろう」
火に焼かれた家屋の中でパニクる召喚者4名の所に、起きてきたラウンヤイヌがぼちぼち知らせる。
「ど、どうしたらよいのじゃ?」
「外は冷える。少し温まってゆけばよい」
「何を寝言を言ってるでおじゃる」
「ではどうすればよいとオヌシは思う?放火したヤクザが外で武器を構えて待っておるぞ」
「なんじゃと!?」
「慌てて闇に跳び出して夜目の利かぬ者を撲殺するなど、常套手段。そんなことも知らぬのか」
「ぬぬぬぬ……」
「限界突破の水魔法で火消しをすればいいと思うわ」
「限界突破してはならぬとしたらどうする?」
「浦崎氏!ギラコレウォーターガンを錬金してください!あとはブリキュア愛で僕がみなを救います!」
「私の現在の錬金スキルでは、碓氷峠の急勾配をゲタ電で通過するくらいに無理でございまーす」
「そんなっ!」
「火を消せば敵はまた火を放つだけ。とはいえ消さねば主らが焼け死ぬ。敵の裏をかくにはどうしたらええのか分かるか?」
そういうとラウンヤイヌは裏口に向かって歩き出す。歩きながら火の回る扉に向かって手招きをする。
ギギギ……
火傷を負いながら、外にいた冒険者「カプアス」たちが中にゆらゆらと入ってくる。現れたのは全部で四人。みな虚脱状態で、目は虚ろになっている。
「暗いのう。もっと明るくなれ」
そう言ってラウンヤイヌは手にしていた酒瓶の酒を口に含み、ブーッ!と「カプアス」たちに吹きかける。
ゴオオオオオッ!!
異世界文明レベルでは異常なアルコール度数70度の蒸留酒の霧を浴び、消えかけていた炎が再び強まる。四人が生きたまま火達磨になる。
「「「「うっ」」」」
召喚者4名が驚きと臭いのせいで、口元を手で覆う。
「ほれ行け」
火達磨にされた冒険者四人が勝手口を破り、飛び出していく。たちまち雄叫びがあがる。待ちかまえていた「カプアス」たちが集まって火達磨の四人を撲殺しにかかる。
「これが正解じゃ」
ラウンヤイヌはそう告げて、裏口へスタスタと向かう。仙石ら召喚者4名も妖精たちも慌ててラウンヤイヌの後を追う。
「数が合わねぇ!ジジィはどうした!?」
「おいコイツら……リュウパンとメガラヤとレイテとイリンじゃねぇか!!」
「何だと!?どういうことだ!!」
「間違いねぇ!首に下げたブロンズプレートに名前がある……ちくしょうっ!!」
「四人とも裏口で待機していたはずだろう!なんで建物の中にいる!?」
「知るかよそんなこと!!……おいあれっ!」
勝手口で冒険者仲間に引導を下してしまったヤクザ集団は、通りの方へ一斉に目を向ける。
((((((何かが、光りながら舞っている?))))))
((((((あいつらが、召喚者))))))
「なるほど。冒険者は首にドッグタグのようなものをぶら下げておるというわけでおじゃるか」
「仙石氏。ドッグタグとはなんでありますか?」
「認識票でおじゃる。元いた世界ではアメリカの南北戦争が起源といわれ……」
「体育祭でいうところのゼッケンね」
「鉄道車輛でいうところの銘板でございまーす」
「とにかくそういうことでおじゃる」
通常の人間には見えない妖精4柱が、青い光だけは見えるように放ちながら宙を舞う。まるで人魂のように舞う。
それらが召喚者4名を妖しく照らす。
「てめぇらどうやって中から出てきやがった!?」
「我らでおじゃるか?我らはラウンヤイヌ殿に連れられて……ありゃ?師範はどこに行ったでおじゃる?」
仙石がキョロキョロ周囲を探しても、ラウンヤイヌは既にいない。
「そう言えば見当たらないですね」
「闇ギュアになったのかもしれないわ」
「ええっ!大和田氏今なんと!?」
「闇ギュアよ」
「大和田氏!よくぞ私の推しに気づいてくださいました」
「闇にブリギュアを混ぜて言ってみただけよ」
「それより冒険者が武器をもって走ってまいりまーす」
召喚者4名は襲撃に身構える。
「あれらは囮じゃ。お主らは後ろの本命を殺れ」。
急にラウンヤイヌの声が背後から響き、仙石たちは振り返る。
「「「「!?」」」」
一瞬頭が真白になる仙石、浦崎、横田、大和田。
《報告。中位の魔物ゴンゲンワニガメ1体と中位の魔物ダイエンマハンミョウが出現。厳重に警戒せよ》
召喚者4名の背中を冷たい汗が伝う。
家屋に匹敵するワニガメと、大木を倒して肢を生やしたような巨大虫が、音もなく召喚者たちの後ろにいる。
「偶然には居合わせぬ魔物の組合せじゃ。言うまでもなく術者によって操られておる」
「「「「あぶない!!」」」」「「「「!」」」」
ギュオンッ!!!
ゴンゲンワニガメの首が一気に十メートルも伸びる。
魔物の筋肉が蠕動する時の電位変化を感知した妖精たちが鋭く叫んだおかげで、召喚者4名は間一髪で噛みつき攻撃をかわす。代わりに地面の一部が消えてなくなる。
「魔物使いがどこかに隠れておる。魔物からそう遠いところではあるまい」
静かすぎるラウンヤイヌの木霊声のおかげで、少しずつ冷静さを取り戻す召喚者たち。
ドロリ……ビュボッ!シュウウウウ……
ダイエンマハンミョウが関節に毒液を染み出させ、関節をばねのように動かして毒液を飛ばす。動体視力に優れ、しかも集中していた召喚者4名は面前に構えた杖でかろうじて直撃を防ぐ。
「術者を見つけて殺せ。さもなくば主らは魔物の餌食か毒に冒されて死ぬであろうよ」
直撃を防ぐも、肩や腕に毒液は振りかかり、肉が爛れる。筋肉や神経が溶け、骨がのぞく。四人の全身に激痛が何度も走る。
「痛いでおじゃるぅぅ……マジレスで草」
「仙石氏と同じく……了解ニキ」
「マグロになった気分でありまーす……了解定期」
「肌はコスプレイヤーの命なのに……了解イッチ」
痛さに耐えようと唇を歯で噛んで血を垂らす仙石のハンドサインを合図に、険しい表情の浦崎と横田が鉈を腰から抜いて闇に消える。腕と首と頬に血管を浮かせた大和田が魔法の詠唱を始める。
(さて今度は何を見せてくれるのじゃろうか)
最初から闇に紛れているラウンヤイヌ。
この魔法使いは逆に霧が集まるようにして凝集し、冒険者集団「カプアス」たちの前に立ちはだかる。
「死ぬ前に口を利くことを許そう。誰が何の目的で我らを襲う?」
「ああ?ジジィこそ何偉そうな口を叩いてやがる」
「汝の名はなんぞや?」
「俺か!?はん!聞いて驚け!俺の名はボアンガ・マリタ!!Bランク冒険者にして、500万ゼルの賞金首だ!そしてテメェの連れ子の相手をしているのはチン・パトカイ!!マルコジェノバじゃ名の知れた魔物使いのチンだ!魔物使いとしての素質はAランクと言っても過言じゃねぇ!!」
「ほう。それは凄いのう。それで、裏で糸を引いとるのは誰じゃ?」
「何ぃ?」
「先刻ワシらを引き留めた村長とお主らはグルではないのか?」
「さぁな。そんなことをテメェが今知ったところでどうにもならねぇだろ?」
「はて、誰がどうなるかはわからぬであろう」
ドグシャッ!!!
「見ての通り、手の付けられぬ魔物が暴れておるのじゃから」
「「「「「……」」」」」
ラウンヤイヌのローブが青白く光り、光だけが蛍のように離れ、散っていく。それらが闇に包まれた背後を照らし、あぶり出す。
「やったでおじゃる!」「さすが仙石氏!」「ダブルデッカー成功でございまーす」「完璧ね」
魔物使いチン・パトカイは魔物ダイエンマハンミョウの毒液を浴びて視力を失った魔物ゴンゲンワニガメに噛みつかれ、胴体が泣き別れになっている。もはや虫の息。
「ほっほ。魔物使いがおらねば、あのように手ごわい魔物。誰にも御せぬて」
召喚者たち4名は妖精と一緒に、急いで逃げ隠れる。
残された魔物ゴンゲンワニガメは魔物使いの上半身を食べ、魔物ダイエンマハンミョウは下半身を食べる。自らの使役者の肉を食らった魔物たちは支配の封印から解き放たれる。空腹を満たすために暴れはじめる。毒液を食らって盲目になったゴンゲンワニガメの一撃がダイエンマハンミョウの肢一本を噛み折る。ダイエンマハンミョウが悲鳴を上げて倒れ、地響きが起きる。
終わりが始まる。
「……」
「村長に力と金を集めるために尻尾を振っておったのかもしれぬが、村人全員が食われてしもうたら村長もただの人じゃな。何とも哀れよ。さすればもうここにおる意味も無いじゃろうて」
そうぼやくラウンヤイヌは既に動物チョウチンラバに乗っている。
(チョウチンラバ!?今までどこに隠していた!?)
そう思って辺りを見回す冒険者集団「カプアス」のリーダー格ボアンガ。
「?」
見まわしてすぐに気づく。自分以外に「カプアス」が誰一人としていないことに。
「どうした?夜店で迷子になった幼児のような顔をして」
チョウチンラバにまたがるラウンヤイヌは白眼を向けたままボアンガに尋ねる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……?」
ボアンガの視界が下がっていく。そして地面に着く。
(何が起きている?俺の体に何が……)
ボアンガの意思とは関係なく、体は地面に落ちて、勝手に崩れて、流れていく。
ドロドロドロドロ……
肉が溶けてゼリー状態になった冒険者たちが集まり、大きなアメーバになる。アメーバは家を壊して中の人を襲って食べている魔物2体たちの体表にへばりつき、ズルズルと昇っていく。
傷口。呼吸器。消化器。受容器。
いずれの部位にせよ、魔物の体内を目指して、アメーバ冒険者たちは侵入する。
(オレハ、ダレダ?)
もはや自分で自分を認識できなくなったころ、アメーバとなった冒険者たちは魔物の中枢神経に接続を終える。
(オレハ……痛イ。喰イタイ。生キ残リタイ)
ヒトと魔物の融合した邪悪性新生物2体は互いを襲わないように気をつけつつ、さらに速度をもって村人たちを襲い始める。
視力を失ったゴンゲンワニガメは人間の首を集めた触角を新たに頭部に生やして視力を補い、肢を失ったダイエンマハンミョウは人間の骨と筋肉を使い、新たな脚を生やして体を支える。
両者ともすぐに器官の〝使い勝手〟を覚え、採餌能力を高め、新たな人間を見つけては残さず食らってゆく。
「せっかくゆっくりできると思ったのに、残念でおじゃる」
生まれたばかりの赤子とその母親を守る若い父親。三人とも一度にワニガメに食われる。
「仕方がないですよ仙石氏。ゆっくりできなかったことより、スモモ太郎電鉄を失ったことの方が大きいでしょう」
肩を並べてうち震える老夫婦。次の瞬間にはダイエンマハンミョウの顎に砕かれて食われる。
「スゴロク車輛を失った悲しみで、心の抑速ブレーキが壊れそうでございまーす」
親を食われ、パニックになって逃げ惑う子ども。それを、伸びたワニガメの首がとびつき、上半身をかみ砕く。下半身が血を撒きしながら痙攣してのたうち回る。腸がこぼれる。
「またつくればいいわ。私はキングボンピに取り憑かれていたからちょうどよかったわ」
祈祷具を握りしめ神に祈りを捧げる村長と村長の家族たち。しかしダイエンマハンミョウの飛ばした毒液の雨を浴びて中途半端に身体が溶ける。声にならぬ声で泣き叫ぶ一同。その声に気づいてゴンゲンワニガメが近づき、活きのいい状態で残さず平らげる。
燃え盛る家屋を背景に、それら血まみれの惨状を見ながら、召喚者たちはラウンヤイヌとともにアカクス村の外に出る。
((((己の持つ制限時間も含めて))))
(興味のないモノ)(興味のない命)(興味のない現象)(興味のない感情)
((((それらに頓着しないピエロ。これがラウンヤイヌの選んだ召喚者たち))))
妖精たちはともに肩を並べて飛びながら、自分たちの宿る樹の杖を握る〝凶器〟たちをまじまじと観た。
「さて、ようやく着いたのう」
マルコジェノバ国南東部。タデマイト山の麓。
「ほれ、塩じゃ。受け取れ」
山の入口には人間の骨で作ったトーテムポールが立つ。黄ばみを通り越してこげ茶色に変色した人骨トーテムポールの前で、ラウンヤイヌは召喚者4名に握り拳サイズの岩塩の塊を1つずつ渡す。
「山を登れ。水はどこかで湧いておるから手に入れよ。薪と水筒の水が尽きるまでに」
「登るって……この、何とも言えぬ山でおじゃるか?」
「そうじゃ。お主の直感あるいは分析は、いずれも正しい。この山には危険しかない」
「「「「………」」」」
「国と国の〝国凶〟となるこれなるは、魔の山タデマイト。その山頂にはゼルテンサリールという石窟寺院が密かにある。そこに到達できれば、さらなる力を授けよう」
言って、ラウンヤイヌは乗り物のチョウチンラバとともに霧と化す。霧は聳え立つタデマイト山の山道を登りながら、海のように深い森の中へと消えていく。
「えーただいま、横軽対策車が故障中ー。新たな横軽対策車を錬成できるまで待っていただけないでしょうかー……ふぎゃっ!」
「早く昇らんかい!」
ラウンヤイヌの使い魔であるタヌキがいつの間にか召喚者の近くに控えていて、その4匹のうちの1匹が浦崎の腹にタックルを決める。
「おわ!なんでこんな所にタヌキがおるでおじゃるか!?」
「ラウンヤイヌがアンタたちにつけた監視用使い魔よ!」
妖精チャツミがタヌキを指さして鼻息荒く告げる。
「使い魔タヌキにぶっ飛ばされたくなかったら観念して早く山を上りなさい!」
「そうよそうよ!」
妖精モチキと妖精タナチバがタヌキの背にまたがって吠える。
「いいぞタヌキ!新幹線のボディーマウントみたいに踏んづけちゃえ!」
「ムグラ!いつの間にか変な言葉使ってるよ!」
「え?うそ!まさか鉄子さんになってた!?やだもう!全部こいつのせいだ!!」
妖精ムグラもふくめ、妖精4柱がプリプリ怒る。
「駅構内及び車内での暴力行為は固く禁じられておりまぶふっ!?」
タヌキ4匹の尻尾ビンタが浦崎に炸裂する。
「皆の衆!浦崎のようになりたくなくば、山を駆け上るでおじゃる!そして新たな力を得るでおじゃる!」
「はい!新たな力っ!なんだか心がギュアルージュのように燃えてきました!」
「そうね!ついでに山頂コスプレイヤーの称号を得るためにも急ぐわ!」
「こちら、寝台列車……げふ!」
召喚者仙石を先頭にして横田と大和田、妖精4柱、そしてタヌキ4匹に殴られて担がれた浦崎は、強制的に魔の山へと突入していった。
女「……?」
明日香「やっと起きたか。ホンマ豚みたいによう寝るなぁ」
女「んんっ?んんん……」
明日香「なんやねん。ここがどこか気になっとるんか?んなこと気にせんでええねん。半透明のビニールカーテンで目隠ししただけの簡易手術室や」
女「んんんっ!」
明日香「手術台のこれか?お前がチンチン咥えとった男やねん。忘れたか?ついさっきまで金もらって相手しとった低所得者やろ」
女「んん!んん!!」
明日香「こいつはなかなか起きんなぁ。まあ起きるわけないんやけどな」
ファサ。
女「んっ!?んんんんんん――っ!!!」
明日香「見ての通り、腹の中はもう空っぽ。目ん玉も実はもうないねん。全部売っぱらってもうた。若くて貧乏ってのは大事やな。無駄な贅肉はないし、酒も煙草も我慢して、ただ女抱くために金貯めて生きてくれたおかげで、チンチン以外はほぼほぼ誰かの体でまた生きられる。健康な命を他人様にあげられて立派やな」
女「ううう……ううう……」
明日香「何泣いとんの?尊いやんけ。臓器提供者になれたんやから。まあ本人の意思はまったく確認してないけどな……よいしょっと」
女「?」
明日香「話したいんやろ?瞬間接着剤で口をくっつけただけやから、今からウチが解剖用刃物使って剥がしたる」
ズトッ!ブシュウッ!
女「痛ひっ!」
明日香「動くから失敗したやねん。しゃあないな。しばらくの間は〝ほっぺまで口裂け女〟でいてくれや」
女「た、助けてくだ、さい」
明日香「健康な男でもないお前をなんで助けなあかんねん。シャブ漬けで頭のいかれたお前を助けるわけないやろ」
女「そんな……」
明日香「手術台に固定したままメスで切り刻んでぶっ殺す前に教えてくれへんかな?な~んてな。言っとくが回答次第では助けてもええで?」
女「ほんと?」
明日香「ああ。美少女に二言はたぶんない。たぶんやけど」
女「なんでも!何でも答えます!助けて!」
明日香「オドレはなんで、覚醒剤に手を出した?」
女「え?えっと、えっと……お金に困って……」
明日香「なんで金に困っとるのに、金のかかるシャブに手を出すねん。想像はつくけど言うてみ」
女「はじめは……トモダチと、泥棒していました。車、狙って」
明日香「車上荒らしの窃盗かぇ」
女「はい。自分、お金に困ってて、トモダチもお金に困ってて。それで」
明日香「……」
女「自分も生活が苦しくて……それでトモダチと話が合って……泥棒はじめました」
明日香「……」
女「生きてることが、つらくなって、嫌になって、イライラして、それで……クスリ、つかいはじめました」
明日香「……」
女「クスリ……やめようと思っても、断り切れない……自分だけやめたら、警察に捕まるかも……そう思ってまた……。あとはクスリが欲しくて……ずっと……ずっと……」
明日香「男に腰振っとったか。そうかそうか。それはたいへんやったな」
ドシュッ!!
女「!?」
明日香「おっと、手が滑ってもうた。目ん玉のど真ん中にメスを刺してしまって申し訳ない」
女「ああああっ!あああああっ!あああああっ!」
明日香「別に痛くないやろ!?ちょっとツンとしてプツンして中身ドロドロ出しただけやねん。でもいきなり視界の半分が真っ暗になるのは意外にビビるやろ?」
女「助けて!助けてください!誰か!誰か!」
ドスンッ!
女「痛いっ!!!」
明日香「そりゃ乳首に鉛筆ほどの刃物を突き刺されたら痛いやろなぁ今度は。女の乳首には神経が集中しとんねん。なんでか分かるか?」
グリリリリリリ……
女「痛いっ!痛いいいっ!!」
明日香「シウラソラに乳飲ませて、母と子で幸せになるためや」。
母親「………」
明日香「誰か助けて?トモダチのせいでシャブがやめられない?金がないから生きるの辛くてシャブをやる?子どもがおるのに、結局全部、他人のせいなんやな。コラ」
母親「うっうううう……ううう……」
明日香「お前みたいなヤク中のシングルマザーとシウラソラがまた一緒に過ごすとどうなるか分からんやろ?お前は福祉事務所も知らんし児童扶養手当も知らんし修学資金の貸し付けも知らん。生活保護の受け方も知らん。知っとるのはヤク漬けになった瞬間の快楽だけ。しょうもないやっちゃな」
母親「うう、ソラ……」
明日香「ソラがなんや?そもそも子どもなんざ産まなきゃ良かったって今、思うとるやろ?母親としての自覚なんてなさそうやしな」
母親「………」
明日香「向こうもきっと、生まれてこなきゃ良かったって思うとったかもしれへんな。ド畜生のオドレの息子としての自覚はありそうやったけど」
母親「ソラは、ソラは……どこ?」
明日香「そこの男と同じや。腹減らして、知らずに食べまくったシャブのせいで頭がだいぶいかれとったけど体はまともやから、バラして今頃金持息子の体の一部になって生きとる」
母親「…………」
明日香「こっち見いや」
母親「……痛!?」
明日香「見る気ないんやったら脳の一番奥まで目ん玉押し込んだる」
母親「痛い!やめてえ!痛ぁい!」
明日香「聞けブタビッチ!オドレみたいな悪党でも少しは他人様の役に立たせたるわ!」
母親「……………」
明日香「親指で奥まで押し込みすぎて、脳味噌壊してもうたか。まあええわ。タムラさーん!薔薇園のタムラさーん!」
バサ。
魔術師「黛家の当主よ。次ギュルハネという言葉を叫んだら、お前を解体して闇市で売るぞ」
明日香「すんまへん。でも誰もウチ以外にここ、おらんですから堪忍してください。〝ここ〟はホンマにウチの秘密基地ですから、ウチ以外で凍傑罠を解除して出られるものは誰一人おりまへん。ホンマに誰一人」
魔術師「………」
明日香「そちらの出張費もウチもち。成人男性の臓器もタダでそちらに提供。だから大目に見てください。……あなたを生かして帰すので」
魔術師「その若さでこの俺を脅すとはな。家督騒動を力で鎮めた噂は事実か……それで?どこの部位が欲しい?」
明日香「そりゃもうお任せで」
魔術師「ふん。……お前のつまらぬ余興のせいで血が全身に滲んで肉質がだいぶ落ちている」
明日香「落ちてても構いません。血と肉も含め、このクソブタの味を一番感じられる箇所を厳選して捌いてください。あと解体の仕方、今後の参考に見させてください」
魔術師「分かった。……血と肉と脂。この者の本性の味がする部位を選ぼう」。
明日香「ただいま」
蒼空「お帰りなさいアスカ姉!ダンボールかかえて、どうしたの?」
明日香「まあ気にするな。スーパーであれこれ買い過ぎただけやねん。ところで今日もええ子にしてたか?」
蒼空「うん!野菜を切って煮詰めたし、ちゃんと掃除も体操も漢字ドリルも算数ドリルもやったよ。鉛筆もちゃんと持てるようになったから!見て!はい!」
明日香「偉いやないかぁ。それでこそソラや。よし!今日はウチが腕によりをかけてごちそうを作っちゃろ。ソラ!先に風呂入ってき!」
蒼空「はい!」
明日香「今日は寒いから湯船にちゃんと浸かって、100数えるまで出てきたらあかんで」
蒼空「はい!」
明日香「いつもいい返事や。よっしゃ行ってこい」。
蒼空「アスカ姉。これは何?」
明日香「これか?鍋や。今日は寄せ鍋を食おうと思ってな」
蒼空「こんな大きなお皿、見たことない」
明日香「これは土鍋言うてな。まあ、熱が逃げないから、いつまでもアツアツで食べられるんや」
蒼空「すごーい」
明日香「ウチも土鍋とカセットコンロ使うのは初めてやからちょっと緊張したが、意外にいい感じに作れた。盛り付け、綺麗やろ?」
蒼空「うん!それに、いい匂い」
明日香「出汁の利いた醤油味やからそりゃええに決まっとる。それと、美味い肉も仰山手に入った。モリモリ食うで」
蒼空「うん!早く食べたい!お腹ペコペコ!」
明日香「ああ待った!こういうのは確か、小皿にとって食べるのがマナーや」
蒼空「そうなの?」
明日香「うん。したらウチが今から小皿にとりわけたる。……ふむ。カレー以外でお玉を使うのは初めてやな。よいしょっと。ほれ」
蒼空「ありがとうアスカ姉」
明日香「ウチの分もこうして、よっと……よしっ!できた!して食おう!」
二人「「いただきまーす」」
明日香「あふっ!鍋料理はこんなにあふいんかい!あかん!豆腐食ったらこりゃ死ぬで!」
蒼空「……」
明日香「どした?ソラ」
蒼空「このお肉、なんか、いつもと違う」
明日香「そうか。ソラもようやっと肉の違いが分かるようになったか。美少女無水カレーを毎朝二か月も食べただけのことはあるな。何の肉か当ててみ」
蒼空「……………お母さん?」。
明日香「おおっ!さすがやん!プロの肉屋に頼んだだけのことはあるな!一発で正解やソラ!」
蒼空「お母さんは、お鍋のお肉になったの?」
明日香「そうや。壊して鍋の肉にした。これでもうソラの前で泣きわめいたり、血を飲めとかほざいたり、変なおじさんが近づいてソラを殴ったりせえへんで」
蒼空「そっか。……お母さんはもう泣かないんだ」
明日香「せや。ソラのオカンはもう泣かんで。血を流すこともない。それにオカンを野菜みたいに壊したおかげでこんなにおいしく食べられるんや。良かったな」
蒼空「うん。お母さんを壊してくれてありがとう!アスカ姉!あ、でも」
明日香「どないした?」
蒼空「帰る所、なくなっちゃった」
明日香「何言うとんねん。いつもここで寝起きしとるのに」
蒼空「ずっとここにいてもいいの!?」
明日香「無水カレー作れるならいいって前にゆうたやろ」
蒼空「ありがとうアスカ姉!アスカ姉のこと大好き!!」
明日香「アホッ!そないなこと満面の笑みで言われたら照れるやないかい!」
蒼空「ご、ごめんなさい」
明日香「ったく……あちちちちちちっ!」
蒼空「アスカ姉!大丈夫!?」
明日香「このド腐れ豆腐!上等じゃ!そないに熱いならソラに全部食わせたる!」
蒼空「アスカ姉。カレーみたいに熱い時はフウフウして食べないとダメだよ」
明日香「じゃかぁしいっ!んなこと分かっとるわい!まったく!」
蒼空「ふうー、ふうー……はい」
明日香「あ?」
蒼空「レンゲにとって冷ましたから、これなら熱くないよ。アスカ姉」
明日香「どれどれ……あ~む」
蒼空「どう?」
明日香「あふひ!」
蒼空「ごめんなさい!まだ熱かった!?」
明日香「ごくんっ!……まあ、今回は大目に見たる。相手はたかが豆腐やしな」
蒼空「ありがとうアスカ姉」
明日香「……なんで泣いとんねん?」
蒼空「え?……僕、泣いてる?」
明日香「気づいてへんのか?」
蒼空「なんでだろ。わかんない。でもなんか……いろんなことがあって」
明日香「……」
蒼空「お姉ちゃんと一緒にいられて、お母さんも食べられて、本当にうれしい」
明日香「そっか……ほな、残りも一緒に食おうか」
蒼空「うん」。




