表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

第一部 迷宮脱出篇 その7

(てつ)太郎(たろう)「う~ん」

山人(やまびと)電動(でんどう)ドリルの刃先(はさき)原木(げんぼく)樹皮(じゅひ)に対してまっすぐにする。そう。そしてゆっくりトリガーを引く」

 ウィーンッ!

鉄太郎「こう?」

山人「向きはそのままでいい。もう少し深くまで()らないと(こま)(きん)()さらない」

鉄太郎「わかった!」

 ウィーーンッ!

山人「それくらい」

鉄太郎「ふう。やっと3個開いた」

山人「その調子で頑張(がんば)って。自分の力で穴をあけていこう。では次、お(とう)さん」

蟇目(ひきめ)「あ、はい!お(ねが)いします」


山人「なんですか?これ」

蟇目「あ、いやその。なんていうのか、お(れい)かな」

山人「お礼?」

蟇目(ひきめ)「うちの息子がいつも君の世話になってるから。ほんの少しだけど……」

山人「ここでの仕事(しごと)は休日のボランティア指導員(しどういん)だけですから、気にしないでください。ですのでこのお金は受け取れません。気持ちだけで充分(じゅうぶん)です」

蟇目(ひきめ)「いやいや。鉄太郎が君に(なつ)いて迷惑をかけているのは知ってる。あいつが放課後、君にいつも虫採りに連れて行ってもらっていると、近所の人から教えられた」

山人(やまびと)「そうですか。でしたらこのお金で虫採(むしと)(あみ)標本(ひょうほん)作成(さくせい)キットなどを買い与えてください。俺のハンドメイドだとその分俺の時間が(うば)われます。いずれにしても俺に気遣(きづか)いは不要(ふよう)です」

蟇目(ひきめ)「そうか。……何から何まで、気が()かなくてすまない」

山人(やまびと)「いいえ。都会(とかい)から引っ越してきたばかりで、田舎(いなか)の生活に馴染(なじ)むのは大変でしょうから、お子さんに気が回らないのは仕方がないと思います」

蟇目(ひきめ)「そう言ってもらえると、本当に(すく)われる」

山人(やまびと)(すく)……そうですか」

蟇目(ひきめ)「なぁ、もしよければなんだけど、聞かせてもらえないか?」

山人「何を、でしょうか?」

蟇目「君は(てつ)太郎(たろう)を虫採りに連れて行ってくれる(さい)、アイツとどんな話をしているんだい?」

山人(やまびと)「話?」

蟇目(ひきめ)「ああ。鉄太郎はその、私にはほとんど何も話してくれない」

山人(やまびと)「彼と話、ですか。夜の森に昆虫(こんちゅう)()りに行くだけなので、動物(どうぶつ)生態(せいたい)について以外は、あまり話しません。音がすると昆虫など色々(いろいろ)()げてしまいますので」

蟇目(ひきめ)「そっか……」

山人(やまびと)「ただ、なんとなくですが」

蟇目(ひきめ)「?」


山人(やまびと)(たす)けて」。


蟇目(ひきめ)「………」

山人(やまびと)「いつもそう、()いているような気がします。クワガタムシの幼虫(ようちゅう)のように」

蟇目(ひきめ)「……そうか」

山人(やまびと)「虫は美しい。命以外何も持ち合わせていないから。命を繋ぐこと以外、眼中にない」

蟇目(ひきめ)「……」

山人(やまびと)「それで、あなたは?」

蟇目(ひきめ)「……ふう」


蟇目(ひきめ)「仕事も家庭も、毎日が単調(たんちょう)でつまらない。何か刺激(しげき)が欲しかった。とはいえ金をつぎ込んでスリルを味わうギャンブルには興味(きょうみ)()かないし、酒も体が受けつけない」

山人「……」

蟇目「システムエンジニアなんてやってるから、仕事の延長戦(えんちょうせん)みたいなEスポーツはやりたくないし、何かの収集癖(しゅうしゅうへき)もない。旅行も人混(ひとご)みが苦手だから好きじゃない。だからとりあえず、筋トレでも。そう思ってフィットネスジムに(かよ)い始めた」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「単純に(あせ)を流し肉体が疲労(ひろう)すればこの鬱憤(うっぷん)はいつの日か晴れるだろう。本当にそれくらいにしか考えていなかった」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「ジムマシンの(そろ)う部屋の隣のスタジオでは、ダンスのレッスンをやってた。結構激しい動きをして代謝を良くするやつだ」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「そこで、彼女(かのじょ)を見つけた」

山人(やまびと)「彼女?」

蟇目(ひきめ)「本当に一目(ひとめ)()れだった。何が何だかわからない。まるで、強い(かみなり)に打たれたみたいに思考が停止してしまって、ただ彼女に見とれた」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「ジムに通い続けるうちに、我慢ができなくなって、声をかけた。相手はまだ高校生だった」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「学校が終わった後、ジムで他人に混じりダンスを(おど)り、汗を流した後は帰宅(きたく)してひとり夕飯を食べ、学校の宿題をする。それが彼女の毎日。彼女の日常(にちじょう)

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「それを、俺は(こわ)した」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「彼女がジムから上がるころを見計らってファミレスに誘い、少しずつ、俺たちは会話を重ねた」

山人「……」

蟇目「上流階級の親の見栄(みえ)のため、幼い頃から自分らしさを(ふう)じられて育ったこと。そのせいで人と歩調(ほちょう)を合わせるのが苦痛(くつう)で、学校でも孤独(こどく)であること。独りでいることの不満や不安を解消するためにジム通いを、仕事漬けで家にろくに帰ってこない両親に申し出たこと。そして心の中に()められない隙間(すきま)を絶えず感じていること」

山人「……」

蟇目「俺はそこまで彼女のことを知った時、強く思った」

山人(やまびと)「自分ならその隙間を埋められる……ですか?」

蟇目(ひきめ)「ああ。言葉にすると、なんとも陳腐(ちんぷ)だ」

山人「……」

蟇目「しょうもないな。彼女より年下の、それも中学生の君にこんな話をしてしまうなんて」

山人(やまびと)「これ以上は聞かない方が良いですか?」

蟇目(ひきめ)「いや。……(てつ)太郎(たろう)恩人(おんじん)の君には、最後まで懺悔(ざんげ)させてくれ」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「俺は彼女と、とうとう一線(いっせん)()えてしまった。後戻りできない関係にまで進んでしまった。意味は、分かる?」

山人(やまびと)多少(たしょう)は分かります」

蟇目(ひきめ)「俺も、その少女も、真剣(しんけん)だった。けれど俺には(すで)に子どもが二人もいる。(つま)もいる。要するに、俺は(わる)い奴だった」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「彼女の両親が彼女の異変(いへん)に気づき、俺に(ばつ)を下そうとした。警察(けいさつ)被害届(ひがいとどけ)が出され、俺は逮捕(たいほ)。そして拘留(こうりゅう)。でも、無罪(むざい)

山人(やまびと)有罪(ゆうざい)にならなかったのは、証拠(しょうこ)不十分(ふじゅうぶん)が原因ですか?」

蟇目(ひきめ)法律(ほうりつ)にも(くわ)しいのか君は………未成年の少女を性欲(せいよく)の道具に利用している証拠(しょうこ)を得られず検察(けんさつ)不起訴(ふきそ)……法廷(ほうてい)後に弁護士(べんごし)から教えられた。当然だ。俺はそんな目であの子を見たことなんてない」

山人(やまびと)「ではあなたはなぜあなたを〝悪い奴〟と言うのですか?」

蟇目(ひきめ)「……大騒(おおさわ)ぎになって、あの子は(いや)というほど世間(せけん)注目(ちゅうもく)を浴びた。それでさらに精神を()んだ。だから俺は悪い奴だ。それに俺は自分の家庭をボロボロにした。(つま)(むすめ)も俺とは(いっ)切口(さいくち)をきかなくなった。当然(とうぜん)だな」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「末っ子の鉄太郎も、俺のせいだ。裏切(うらぎ)ったことはもちろん、俺と妻、俺と娘が毎日のように家の中で口汚(くちぎたな)くののしり合っているせいで、幼いアイツの心は(きず)ついた。小学校から「誰とも全然口をきかない」と連絡されて思い知った。俺は俺の衝動(しょうどう)で何もかも壊してしまったと」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「世間体を気にした妻は離婚(りこん)ではなく慰謝料(いしゃりょう)と子どもの養育費(よういくひ)別居(べっきょ)生活(せいかつ)を求めてきた。娘も当然妻についていく。鉄太郎も妻についていくと思った。けれど鉄太郎は何も言わない。体をこわばらせて、動かず、ただじっとしている。一言も話さない」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「妻は(てつ)太郎(たろう)治療費(ちりょうひ)も俺に要求した。……困り果てた俺はそして、ここを知った」

山人(やまびと)「はぁ……治療目的の山村(さんそん)留学(りゅうがく)は、正しい利用法とは言えないと思いますが」

蟇目(ひきめ)「それは、知っていた。(ことわ)られるのを承知(しょうち)で転校を頼んだが、家族でこの地に転居(てんきょ)するなら、という条件(じょうけん)(みと)めてもらえた」

山人(やまびと)「家族……」

蟇目「そう。家族じゃない。家族の半分(はんぶん)だ。しかも死んだフリをした息子と、死なせようとした父親だ。まともな家族じゃない」

山人(やまびと)「……」

蟇目「……」

山人(やまびと)()わりですか?」

蟇目「いや。(はじ)まりだ」

山人(やまびと)「え?」

蟇目(ひきめ)「息子の山村留学で俺の人生まで好転(こうてん)するなんて、そんな都合のいいことは考えていなかった。けれどこの村は、こんな俺にさえも(やさ)しい」

山人「……」

蟇目「買ったばかりのランドセルみたいに綺麗なこの村に、俺を知る人はそもそもいない。そして俺を知ったところでどうこうしようという人も今のところいない。俺は悪い奴に変わりないけれど、それを責める人もまだ現れない。この村の人はみな若々しく、誰も彼も、村の活性化のために目を輝かせていて、俺みたいなつまらない奴の過去を穿(ほじく)り回す物好(ものず)きなんて現れない」

山人(やまびと)「……」


蟇目「そして何よりの好転は、(てつ)太郎(たろう)が君に(めぐ)りあえたこと」。


山人(やまびと)「……」

蟇目「息子(むすこ)は君のおかげで少しずつ心の(きず)(いや)し、外に向けてきっと(ひら)いてきている。君に出会えなければ、あんなに生き生きした子どもには(もど)れなかったと思う」

山人(やまびと)「どうでしょうね」

蟇目(ひきめ)「だから(あらた)めてお礼を言いたい。本当にありがとう」

山人「俺は彼に、動物とは何かを少し教えただけです」

蟇目「謙虚だな。君はここの生まれなのか?」

山人(やまびと)「いいえ。遠くから引っ越してきました。俺が小学生の時です」

蟇目「家族と一緒(いっしょ)に?」

山人(やまびと)「はい。(いもうと)と二人で。両親は二人とも引っ越す前に、事故(じこ)で亡くなりました」

蟇目「そうか。余計(よけい)なことを聞いてしまった。気を悪くしないでくれ」

山人(やまびと)「いいえ。たいしたことではないので気にしないでください」

蟇目「…………両親は、()い人だったか?」

山人(やまびと)「さあどうでしょう?それを見極(みきわ)める前に俺は両親を失っていますから」

蟇目(ひきめ)「そうか」

山人(やまびと)「少なくとも、妻子(さいし)()ちなのに未成年(みせいねん)少女(しょうじょ)真剣(しんけん)交際(こうさい)していたという話は聞いていません」

蟇目「キツイな、君は」

山人(やまびと)事実(じじつ)を述べただけです。俺は両親の贅肉(ぜいにく)は覚えていますが、心の贅肉までは覚えていません」

蟇目「……鉄太郎がどうして君に(なつ)いているのか分かった気がする」

山人(やまびと)「どういう意味でしょう?」

蟇目「君には際限(さいげん)がない。あるのかもしれないけれど、まるで分からない。命しか持ち合わせていない(むし)がひたすら飛んだとしても、たどりつけないほど(ひろ)い。虫がひたすら命を増やし続けても、(あふ)れないほど(ふか)い。そしてその中に〝何か〟をたくさん()めている」

山人「……」

蟇目「だから鉄太郎はきっと()び伸びできて、充実できて、君に心を開き、(した)うのだろう。(たの)もしい父の背中を無垢(むく)な子が追うように」

山人(やまびと)「……」

蟇目(ひきめ)「話が長くなった。すまない。でもとにかくありがとう」

山人(やまびと)「礼を言われるほどのことはしていません。……それと」

蟇目「?」

山人(やまびと)(かれ)(おれ)(なつ)いてくるのはたぶん、俺と似ているところがあるからだと思います」

蟇目「似ている?」

山人(やまびと)「はい。彼は山に入り、俺と遭遇し、そのことに気づいた」

蟇目「……」

山人(やまびと)「山は公平(フェア)です。(せい)と同じ量だけ()がある。それが(やま)

蟇目(ひきめ)「……」

山人(やまびと)「そして彼は敏感(びんかん)です。(せい)の中で、破壊(はかい)創造(そうぞう)のどちらが先に起きているのかまで、見えている」

蟇目「?」

山人(やまびと)「破壊しなければ創造できない。誰かに壊される前に自分で自分を(さき)(こわ)し、自分を(つく)りなおすことで、本来訪(おとず)れるはずだった崩壊に(あらが)う。それが(せい)。抗えなくなった状態が()。それが彼には見えている」

蟇目「……」

山人(やまびと)「とはいえ山にいつまでもいると、見なくてもいいものまで見えてしまう。山は境界(きょうかい)(せん)があやふやですから」

蟇目「境界線?」


 オニイチャーン!


蟇目(ひきめ)「あ、(てつ)太郎(たろう)

山男「〝こっち〟と〝あっち〟を(へだ)てる境界(きょうかい)(せん)。それがあやふやだから()まれる、()(ちか)(せい)と、(せい)に近い()簡単(かんたん)に言えば、死んだフリと……」


(てつ)太郎(たろう)「マソラお(にい)ちゃん!今日(きょう)(むし)()りに()こ!」


永津(ながつ)真天(まそら)「……(はなし)途中(とちゅう)ですが、失礼(しつれい)します」

蟇目(ひきめ)「………」

鉄太郎「マソラお兄ちゃん!今日はどこに()れてってくれるの?」


永津真天(ティーチャー)「そうだね。また〝あっち〟に()ってみようか」。


7. 秘宝ウゴエ


 ボリッボリッボリッボリッ。

 《報告(ほうこく)。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの(かく)(いし)捕食(ほしょく)。核石に保存(ほぞん)されたヤギヘビの記憶(きおく)を死んだフリ所持者へ転送中(てんそうちゅう)。転送完了》

 なんだろう、この味。

「ピノンさん!テツタロウのように(ほう)けている場合ではありません!震戦苑流(しんせんえんりゅう)奥義(おうぎ)(いち)(かた)肺喘身巡(はいぜんみめぐり)!!」

 ズドンッ!!!

「ムウウウウウウーーッ!!」

「ぼおっとなんてしてないですから!(ふう)(すい)アオアラシ!!」

 ビュボォ――ンッ!!

「ウウウッ!ムム!」

 バシイイイイイイイイイッ!!!!

「それとテイザキさんのこと、テツタロウとか呼び捨てにするのやめてください!だいたいにして()れ馴れしいじゃないですか!中層でいきなり現れたくせに!(かぜ)(じゅん)ガネノメレンゲ!!」

 バシイイイン!ヒュオオオオオオオオオオオッ!!!!

 《報告(ほうこく)。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたノミライオンの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

 ボリッボリッボリッボリッ。

 ナルカミゴーレムの核石のこの味わい。

 猛毒(もうどく)って脳内(のうない)再生(さいせい)が言うものだから警戒(けいかい)してたが。

()れ馴れしいもなにも、将来の(おっと)(した)の名前で呼ぶのは当然でしょう!(くや)しければあなたは私に決戦を挑み、勝ったうえでテツタロウと下の名前で呼べばよいのです!震戦苑流(しんせんえんりゅう)奥義(おうぎ)!弐の(かた)!!環噛粉壊刻獅(わかみこかいこくし)!!!」

「はぁ!?将来の夫!?決戦!?何勝手なこと言ってるんですか!!そんなの全部認めない!風鎌(ふうれん)ムヅラバサミ!!」

 ボリッボリッボリッボリッ。

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたネコヤモリの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

「認めるかどうかはテツタロウの決めることです!あなたの決めることではありません!!震戦苑流(しんせんえんりゅう)奥義(おうぎ)!参の(かた)!!雲雷弔鯨斬(うんらいちょうげいざん)!!!」

「余計なこと言ってないで、さっさとそうやってゴーレムの体だけぶっ壊してください!風錐アオアラシ六連!!」

 ボリッボリッボリッボリッ。

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたイヌリスの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

「ふふ!実はテツタロウと下の名前で呼べないのが悔しいのでしょう!私は呼べますわ!テツタロウテツタロウテツタロウテツタロウ震戦苑流(しんせんえんりゅう)奥義(おうぎ)(いち)(かた)肺喘身巡(はいぜんみめぐり)二重連!!」

「むっきいいいっ!言えますから!呼べますから!!テッツタツ……テッツ……テッタロ……テツッタロウ……あああもう!!!ゴーレム邪魔すんな!!!風鎌(ふうれん)ムヅラバサミ3連!!」

 ボリッボリッボリッボリッ。

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたアメンボシャコの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

「テツタロウ……何といい(ひび)きでしょう。まるで生まれる前からこの名前を呼ぶのが私の(さだ)めだったかのようです」

「何が定めだ!私だってテツタロウって……あっ!言えた!!言えたやった!!風盾ガネノメレンゲ!!」

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたクワガタサウルスの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

「今のは偶然(ぐうぜん)ですわ!震戦苑流(しんせんえんりゅう)奥義(おうぎ)弐の(かた)環噛粉壊刻獅(わかみこかいこくし)九連(きゅうれん)!!」

「テツタロウさん!私テイザキさんのことテツタロウさんって呼んでもいいですか!?風錐アオアラシ十六連(じゅうろくれん)!!」

 ボリッボリッボリッボリッ。

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたモスキートエレファントの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたハイエナトンボの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたパンクカワニナの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたツバメバチの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

 《報告。死んだフリ所持者がナルカミゴーレムの核石を捕食。核石に保存されたカツオムシの記憶を死んだフリ所持者へ転送中。転送完了》

「それどころじゃないようです。やはりあれからずっと、思案(しあん)にふけっております」

「……()めないと」

「ええ。そのためにもここにいる全てのナルカミゴーレム。ぶっ(こわ)しますわ」

「あなたと意見が一致するのは癪に障るけど、協力します!」

「「はあああああああっ!!!」」

 ボリッボリッボリッボリッ。

 こんな所で、こんな気分になるなんて、思いもよらなかった。

 こんな所?

 ここはどこだ?

 ああ。地上(ちじょう)迷宮(めいきゅう)セキドイシの中だ。

 たしか、41階層まで()りてきた。

 ナルカミゴーレムの弱点が核石なのが分かったけれど、壊しても核石がそのままだとまたゴーレムは復活(ふっかつ)する。

 だから俺が食べることにしたんだった。

 食べる。

 《報告。ナルカミゴーレムの核石は超猛毒(ちょうもうどく)。死んだフリスキル所持者(しょじしゃ)以外(いがい)の者が口にすれば即死(そくし)

 なんて言われて、仕方なくピノンにもメリュジーヌにも食べさせられないから、俺が食べている。煎餅(せんべい)みたいな感じでポリポリ食べ続けているけれど、元々毒は俺に()かないらしいし、不思議とお腹に全然たまらない。だけど気分がこう、(おも)くなる。

 重い。

 重いというか、違うな。

 何か、引っかかる。

 忘れていることを思い出せそうな感じ。

 でもどうしても出てこない。

 何か子どものころの記憶だと思うけれど、出てこない。

 思い出そうとするたびに、魔物の姿で記憶が埋め尽くされる。

 別にそれをグロいともキモいとも思わないけれど、とにかくそれが(ふた)をする。

 (つる)みたいに(から)んで、先に進めない。

 俺は何かを(わす)れてる。

 でもそれが何かを、思い出せない。

 ゴーレムの核石を食べれば食べるほど、何かが思い出せそうなのに、思い出せない。

 もう食べるのをやめる?

 ……。

 ……。

 できないな。それは。

 だって、

「キキキ……」

「ん?」

 我に返った俺は地面の落とし穴トラップから鳴き声が(あふ)れていることに気づく。

「ああ、もう一杯(いっぱい)になったか。ずいぶん()えたんだな」

 クイ。

 (まくら)くらい大きなネズミ。

 迷宮の魔物がナルカミゴーレムの一部にされたせいで階層内(かいそうない)の魔物が激減(げきげん)。そのせいか昆虫(こんちゅう)があふれ、その昆虫を(えさ)にしていた大ネズミのクイが生態(せいたい)(けい)頂点(ちょうてん)になれたらしく、クイが大増殖(だいぞうしょく)。これは結構おいしくて食べ(ごた)えがあって、腹を()かせたピノンとメリュジーヌの大好物だから、ゴーレム戦であまり役に立てない俺は食糧確保としてクイの捕獲(ほかく)に専念している。ついでにゴーレムの後始末(あとしまつ)である(かく)(いし)()いも。

 ボリッボリッボリッボリッ。

 俺は口の中で核石をかみ(くだ)きながら、トラップに()かったクイを一匹ずつ取り出す。

 ゴギッ!ズッ。プシュ。

 (くび)(ほね)をねじりながらへし折り、(はら)を爪で開き、内臓(ないぞう)を引きながら取り出して集める。内臓はまたトラップに使える。だから集めておいて、中身を取り出したクイを俺は(となり)に積み上げていく。女子二人の大好物にクイが寄ってこないよう、内臓を取り除いたクイの周りにはナルカミゴーレムの核石を粉末にしたもので〝結界(けっかい)〟を張っている。盛塩(もりしお)以上に効果はあると思う。山盛りの内臓はコソコソと節足(せっそく)動物(どうぶつ)や生きたクイに(ぬす)まれるけれど、内臓(ワタ)()きクイには手を出してこない。

 ボリッボリッボリッボリッ。ゴギッ!ズッ!ブジュ。

 慣れてるせいか、自分で言うのもなんだけれど、解体(かいたい)手際(てぎわ)は悪くない。

 でもそれがなぜか、引っかかる。

 ボリッボリッボリッボリッ。ゴギッ!ズッ!ブジュ。

 肉屋(にくや)修業(しゅぎょう)なんてしたことなのに、俺、最初からこんなに器用(きよう)だったっけ?

 なんか、この異世界に来てから色々と変わった気がする。

 死んだフリスキルを身に付けたのはもちろんだけれど、俺、動物(どうぶつ)解体(かいたい)なんてこんなにうまくできたっけ?

 ボリッボリッボリッボリッ。ゴギッ!ズッ!ブジュ。

 考えてみたら、魔物の急所(きゅうしょ)なんかも結構(けっこう)最初(さいしょ)からなんとなく見当(けんとう)がついた。

 だから何とか生き()びられた。

 これは偶然(ぐうぜん)なのか?

 それとも召喚(しょうかん)特典(とくてん)

 ボリッボリッボリッボリッ。

 そうなのかもしれないけれど、そうじゃない気もする。なんかもやもやして気持ちが悪い。

 まあいいか。とにかく二人のためにクイを(さば)こう。

 で、二人は……ふぁ?

 何、あの量。

 ゴーレムって、こんなにたくさんいたの?

 41階層ってこんなにたくさんのゴーレムがいるの?

 まるでゴブリンだ。それを二人であんなにたくさんサクサク仕留(しと)めてる。

 すごいぞ。

 俺なんてゴーレムの静電気で感電(かんでん)してすぐに死ぬかもしれないくらい弱いのに……。

 なんて、誰かと自分を比較(ひかく)しても仕方ない。

 適材(てきざい)適所(てきしょ)(おれ)は俺。

 俺に今できることはピノンとメリュジーヌに少しでも美味(おい)しい食事(しょくじ)用意(ようい)すること。

 美味しい食事。

 ボリッボリッボリッボリッ。

 ……。

 もう考えるな。そして何も感じるな。

 ……。

 ()を、(おこ)そう。「(やま)」の「(よる)」ノ、焚火(たきび)ノヨうな()ヲ。


「よく()けてる。二人とも()べて大丈夫(だいじょうぶ)だぞ」

 ゴーレムの群れが沈黙(ちんもく)する。頼もしい二人が風と拳で打ち倒した。

「「いただきます」」

 ムシャムシャと豪快(ごうかい)に食べるピノン。

 上品(じょうひん)なのに一口がメチャクチャでかいメリュジーヌ。

「二人ともいい食べっぷりだ」

「ほひひいへふ!ほほほひふ!」

「エサに恵まれて大きく育ったネズミだから(うま)いのは当然だ」

 何を言ったのか分からないけれど、適当にピノンに合わせる。

「それもあるでしょうけれど、味付けが絶妙(ぜつみょう)なのです。焼肉は天才を必要とする。かつて同じ冒険者パーティーにいた料理人がそう言っておりました」

「焼肉に天才って、大袈裟(おおげさ)だな」

「とんでもございません。スープは食材の量と作り手の知恵と修行(しゅぎょう)でどうにかなっても、シンプルに塩だけで焼く肉ほど難しく天才を必要とする料理はない。あの料理人あがりの冒険者が言っていたのは(まこと)だと、テツタロウの料理を食べてつくづく実感(じっかん)したします」

「塩って言うか、ナルカミゴーレムが(かみなり)()がした土だぞこれ」

「焦がした土を使うってアイデアがテイッ、テツタロウさんのすごいところなんです!」

「そうか?そんなに()められるとなんか()れるな」

「「褒めます!」」

「褒めても焼いたクイ以外、何も出せないぞ?」

「「出させます!!」」

「ほぇ?」

「テツタロウさん!40階は素通(すどお)りしましょう!」

 口にクイの肉片をくっつけたピノンが声を張る。

「まな板エルフに賛同(さんどう)するのは嫌ですが、私もまな板に賛成(さんせい)です!」

 同じく口が油まみれのメリュジーヌも強い声。

「ちょっと待てオイ。まな板は余計だろ。しかも2回言ったなパット」

「ピノンさん。今は言い(あらそ)っている場合ではありません。それと私がパットでないことはこの前の水浴びでお見せしました」

「あんなのはただのカムフラージュ!私は(だま)されないから!だいたいそっちが喧嘩(けんか)()ってきたんでしょ!」

 犬同士のけんかみたいに威嚇し合う二人。

「おいおい。落ち着けって二人とも」

「テツタロウさん!」「テツタロウ!」

「なんだ?」

 二人に睨まれる俺。

「お願いですから40階層の探索はやめてください!」

「秘宝ウゴエはあきらめて、39階層へ行きましょう!」

 そのことか。

「ごめん。それは、できない」

 できない理由。素通(すどお)りできない理由。

 素通りしようとすればできるのかもしれないけれど、40階を無視できない理由。

「「だからどうして!?」」

 それは、


(たす)けて」。


「「?」」

「聞こえるんだ。45階層(かいそう)にいた時からずっと。そして下に降りるにつれて強くなっている」

「「……」」

「助けて。……俺に助けを(もと)める声が、俺の耳の中で(ひび)いている」

「テツタロウさん!そんなの、待ちかまえる魔物の(わな)に決まってます!」

 罠。そうかもしれない。

「まな……ピノンさんの言う通りです。40階層に(ねむ)秘宝(ひほう)ウゴエを守る魔物の罠です!」

「……」

「何度も申し上げておりますが、このメリュジーヌ・レイクホルト。地上(ちじょう)迷宮(めいきゅう)セキドイシに(とら)われて二百余年(にひゃくよねん)。40階層に到達した冒険者もしくは勇者を名乗る者46名のうち、誰一人として40階層から生きて戻った者はおりません!」

 ああ。何度もメリュジーヌに教えてもらった。

「みな「秘宝ウゴエの声に(みちび)かれた」と階層入口の岩壁に()(きざ)み、名を刻み、そして命を散らしてしまったのです!この目で見てきたのですから間違いございません!」

 40階層自体には何度か足を運んでいるというメリュジーヌ。

 元、中層の(ぬし)

 迷宮セキドイシの財宝である魔道(まどう)()ヤマミサキの生贄(いけにえ)

 魔道具ヤマミサキを通じて、迷宮に棲む魔物たちの情報に精通(せいつう)した専門家(プロ)

「なぁメリュジーヌ」

「なんでしょう。テツタロウ」

「メリュジーヌは40階層の(おく)へ進んだことがあるのか?」

「進んだことなどありません!私をとりこんだ魔道具ヤマミサキが(おそ)れ、40階層深部への侵入を常に(こば)んでいたからです。……進んでいればどれだけ早く、ラクになれたことか」

「……ヒキョーモノ」

「何か言いましたか、断崖(だんがい)絶壁(ぜっぺき)エルフ」

「断崖絶壁言うな!!」

「オホンッ!とにかく私を縛っていた魔道具(ヤマミサキ)は40階層奥、すなわち迷宮の核心である秘宝ウゴエに接触することをひどく嫌いました。ですが私は知っております。魔物たちの悲鳴を」

「……」

悲鳴(ひめい)?何かがパッ……メリュジーヌさんには聞こえているの?」

伊達(だて)に200年も支配(しはい)(しゅ)をしておりません。とり()かれたように40階層へ向かう魔物を何度も見ました。それに直感的に気づいた魔物たちはひたすら(おび)え、その者には手を出さず、闘争を挑みません。ただ見送(みおく)る。〝()ばれた者〟をただ見送るのです」

「呼ばれた者?」

「そうです」

 ()かれて、呼ばれた……。

「そして40階層奥に呼ばれた魔物たちからあがる、末期(まつご)の悲鳴。40階層から59階層の支配種をしていた私はその絶叫(ぜっきょう)を迷宮の壁や地面ごしに何度も聞きました」

 どうして、呼ばれる……。

「支配種ですら名前も存在も知らない魔物が秘宝ウゴエを守り続けていること。その魔物に呼ばれて魔物や冒険者が向かい、彼の者の餌食(えじき)になっていること。これはもうまちがいござません」

「支配種すら知らない魔物、か」

「はい」

「どうしてそいつは40階層から動かないんだ?」

「それは秘宝ウゴエを守るためでございます!」

「ウゴエを、そいつは守りたいのか?」

「それは!……私には分かりません」

「そうか」

「テツタロウさん!40階層の魔物が秘宝を守りたいかどうかなんて関係ありません!初見殺しの魔物に出会ってテツタロウさんにもしものことがあったら私は嫌です!一緒に生きてこのセキドイシを脱出すると約束したじゃないですか!!だからいい加減思い直してください!」

 初見(しょけん)(ごろ)しの魔物(まもの)……。

「こんな言い方したら薄情(はくじょう)だと思われると分かって言いますけれど、テツタロウさん以外の誰かが「秘宝ウゴエが欲しい」なんて言ってたら、私はとっくにその人を見捨(みす)てて39階層へ降りてます!41階層でわざわざゴッキーみたいに()いてくるナルカミゴーレムをメリュジーヌさんなんかと一緒に一週間も倒し続けたりなんて絶対しません!」

「私もよテツタロウ。こんなゴキブリみたいなエルフと協力して一週間もナルカミゴーレムを退治(たいじ)するなんて正気(しょうき)沙汰(さた)じゃないわ。でもテツタロウ。あなたのためにそれを続けた。おかげで前以上に筋肉がついて引き締まってしまったわ」

「おいムカデパット。「ゴキブリみたいな」のくだり、()らないでしょ?だいたいゴッキーみたいな色してんの、そっちでしょ?」

「ゴキブリみたいにシャカシャカと移動して(かく)(いし)だけをコソコソ破壊(はかい)しているのだからゴキブリと大差ございません」

「腹ごなしにちょっと運動しませんか。私のオクリオオカミがあなたをオクリオオカミしたいって言ってますんで」

「上等です。久しぶりに試してみたい技があるので、肩慣らしになるかはわかりませんが受けて立ちましょう」

「そこなんだ」

「「ふぁ?」」

運動(うんどう)

「「ウンドウ?」」

「俺に届く声の主が魔物か秘宝かは、俺にもわからない。仮に魔物からの声だとして、そいつは動けない」

「「……」」

「助けて。毎日、毎時間、毎分のように俺には声が聞こえる。俺の知恵(ちえ)(ぶくろ)の声とは違う、誰かの声で「助けて」っていつもいつも言っている」

「「……」」

「俺がどうにかしたいのはたぶん、誰かの(いのち)じゃない。誰かが動けないままでいること」

「「?」」

「何者をも圧倒(あっとう)する力を持っている魔物。けれど40階層から出られない魔物。それは動けない魔物」

「「……」」

「呼ぶことしか、部屋の中で餌を食べることしか許されていない魔物。秘宝を守るためかどうかは知らないが、とにかく動くことを許されない魔物」

「「……」」

「自由になれず助けてほしくて、見返りに何でもすると言って動く」

「!」

「自由になれず殺してほしくて、見返りに自分の弱点を教えて動く」

「!」

「それすらやらず、ずっと何百年も同じ場所にいて、ただ(えさ)を求める声をあげているしかない魔物。ただしその言葉は、俺の耳には「助けて」と響く」

「「………」」

幼虫(ようちゅう)は、孵化(ふか)していつか移動できる日が来るから、同じ場所に留まれる。でも40階層の奥にいる魔物は、動かない秘宝を守るために、ずっと動けずにいる」

「「……」」

「生きているのに、(うご)きたくない者はいない」

「「……」」

「動きたいのに動けない者。それは誰かに無理(むり)やり死んだフリをさせられている者」

「「……」」

「死んだフリを強制(きょうせい)されるのはつらい。たぶん()ぬよりも」

「テツタロウさん……」「テツタロウ……」

「なんでだろうな。そう感じたんだ」

 ずっと前から。

「迷宮魔物の()(せい)でできたゴーレムの(かく)(いし)を食べ過ぎたからかもしれない。おかげで色々分かった。とくに40階層で殺された魔物たちの記憶(きおく)は」

「「え!?」」

「だから〝初見(しょけん)(ごろ)し〟じゃない。俺は誰かの「助けて」を聞きながら、40階層にいる魔物に倒された(えさ)魔物(まもの)たちの記憶を見られた。だから俺はもう何度も何度も殺されて、奥にいる魔物をそこそこ知っている」

「それでも、あえて行くんですか?」

「ああ。だから、行ってもどうにかなるくらい相棒たちが強くなるまで気長にここで待つことにした」

「この41階層でテツタロウが駄々(だだ)をこねていたのはもしや」

「俺みたいな弱い奴が(えら)そうに言うのもなんだけど、二人が40階層の魔物に太刀(たち)()ちようになるまでの修行(しゅぎょう)のつもりだった」

「「……」」

「やっぱり(おこ)ってるか?二人とも」

「とても怒っています」「ええ、激しく」

「そうか。すまない。じゃあもっとクイを焼くから許してくれ」

「テツタロウさん!」「テツタロウ!」

(おれ)(いのち)だけじゃなくて二人の命を()()えにして(たたか)う以上、俺は絶対に負けない。核石を食べに食べ、記憶の中で負けに負け、実戦では勝てると確信できるまで(さく)()った。頼むから俺を信じてくれ。今回だけは、俺が勝つことは最初から決まっている」

「「!」」

(うそ)は言わない。お前たち二人にここまでさせておいて、俺は嘘なんて言わない。それとお願いがある。俺を置いて()げないでくれ。俺の策は、俺の(となり)にピノンとメリュジーヌがいてくれるから成立する。申し訳ないが、俺に二人の命をあずけてくれ」

「何言ってるんですか」「ほんとうにもう」

「やっぱりだめか?」

「「あなたに命をかけるのは当たり前でしょう!」」

「そうか。……助かる」

「一生を共に歩むと決めたテツタロウさんを置いて逃げるエルフなんていません。……ムカデ女は知りませんが」

「セキドイシを出たらそのまま一緒に結ばれるテツタロウを置いて逃げる女なんていません。奴隷エルフの場合は知りませんが」

「一緒に結ばれるとか、何ドサクサに(まぎ)れてほざいてんのムカデ女」

「あら奴隷エルフこそ「共に歩む」だなんて抜け駆けできると思っていたのですか?」

「ちなみに俺はクイをたくさん食べて、よく眠る元気な女子がタイプだ」

「「しゃおらっ!!」」

 既に2匹のオオネズミをそれぞれ平らげているピノンとメリュジーヌが焼きあがっているオオネズミを食べ始める。ちょっと罠で取りすぎて、しかもかなり食事用に潰しちゃったから、食べないとせっかくの命がもったいない。

「ほんほひおへひんははへははへふへ!」

「ふふはひ!ほっひほほふひひほほひへははははへふほはへひんへひょ!!」

「二人とも何言ってるのか全然わからないけれど、肉をがっついている姿は見ていてすごく(うれ)しいぞ」

 食べる。

 肉。

 焚火。

 そして「助けて」。

 ……。

 俺の中で何かが、引っかかる。

 どれもこれも一度、俺は経験(けいけん)している。

 でもそれがいつのことだか思い出せない。

 この異世界(いせかい)パイガに来るずっと前に、俺はこの光景(こうけい)に似たものを経験している。

 そんな気がしてならない。

 でもとにかく、思い出せない。

 思い出そうとしても、出てくるのは闇。

 闇が包み込んで先が見えない。

 闇が薄れてくると、現れるのは、家族の日常。釘崎家の毎日。

 いつも怒鳴っていた父さん。

 名前は蟇目(ひきめ)

 信心(しんじん)(ぶか)い家に生まれたから、悪霊(あくりょう)を寄せ付けない破魔(やぶま)()の名をつけられたとか。昔言っていた気がする。とはいえ考えてみたら字面はヒキガエルの目玉。やっぱり気の毒。

 その反動かどうか、生まれてきた俺には(てつ)太郎(たろう)と命名。

 ゴツすぎだろ。苗字と合わせたら鉄の釘だし。

 そして。

 いつも父さんに(おび)えている母さん。

 名前は……あれ?ヤバい。思い出せない。あれ?え、どうして?

 そう言えば俺って姉ちゃんもいたよな。……マジで名前が出てこない。ヤバい。

 変な譫言(うわごと)をいつも言っていたから、ちょっと怖くて近づけなかった。

 それは覚えているのに、母さんと姉さんの名前が出てこない。

 どうしたんだ俺?

 父さんが恐かったこと以外、何も思い出せない。

 とにかく父さんが恐くて、死んだフリしていたんだ。

 そうだよな。

 ……。

 ……。

 ……そうだっけ?

 分からない。〝これ〟も、異世界につれて来られたせいなのか?

 記憶(きおく)(こん)(だく)している。

 記憶。

 ……は。

 …………(ちか)い。

 何かに近い………そうだ。(セイ)(チカ)()

 誰かが俺に、そう教えてくれた。

 死に近い生と、生に近い死。

 死んだフリスキルと、死んだ者の記憶。

 ……。

 両方を持ち合わせれば、生き残れる。

 俺の中の〝何か〟がそう言っている。

 これは理屈的(りくつてき)にも間違(まちが)っていない。

 考えれば考えるほど、その通りだ。

 ゴーレムの核石を食べたおかげで、そのことも思い出した。

「テツタロウさん!おかわりください!」

「私もですテツタロウ!何なら生でもいいわ!!」

「ちゃんと焼けているのがたくさんあるから、よく噛んで慌てず食べてくれ」

 と言ったものの、クイをそれぞれ10匹も平らげた女子二人にはちょっと引いてしまい、話すタイミングを模索する。

「大事な話がある」

「そういうの、今は止めてもらえませんか~うっぷ」

「40階層の奥にいる魔物なんだが」

「テツタロウ。話す前に水をくださいませ。うっぷ」

「水か。分かった。はい………実は40階の奥にいる魔物には厄介な攻撃が一つある」

「「だから~」」

「相手の嫌がる悪口を言ってくる。けっこうへこむと思うが、(はがね)のメンタルをもつ二人なら……」

「「オェェェェェ」」

 俺の前から走り去った美女二人から何かが聞こえて来るけれど、気にしない。

 きっと闘いの前の自己(じこ)暗示(あんじ)か何かだ。

 ゲロゲロゲロッピーになんてなっていないと信じよう。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、テツタロウさん。作戦を教えてください」

 キラキラ目を輝かせて戻ってくるピノン。汗だくで鼻水出てる。美女(びじょ)台無(だいな)し。

「はあ、はあ、はあ、はあ。テツタロウ。ところでどうやって魔物を倒すのですか?」

 こちらもキラキラの目。というか涙目(なみだめ)。口の(はし)から何か液がこぼれてる。美女台無し。

「二人とも水を汲んであるから、口の中と顔をさっぱりさせてから俺の話を聴いてくれ」

「「すみません。洗ってきます」」


 地上迷宮セキドイシ40階層。

 元支配種メリュジーヌの情報、そして死んでいった魔物たちの記憶によれば、ここに秘宝ウゴエがある。

 そしてそれを(まも)る最強の魔物がいる。

「魔物の名前はトモビキスライム。とにかく口が悪い」

「スライムって、あのプニョプニョしているかわいい魔物ですよね?」

「スライムと言えば低位(ていい)の魔物の象徴(しょうちょう)。低位の分際(ぶんざい)で口が悪いとは、早々に成敗したいものです」

「かわいいかどうかは分からない。それと、俺の知恵袋によれば、低位とは言わないらしい」

「かわいくなくて悪口を言うスライムですか?ただのムカつく奴じゃないですか」

「ではテツタロウの中にあるチエブクロのお()げは何と?」

特異(とくい)魔物(まもの)

「トクイ?」「何ですかそれ?」

「ある条件(じょうけん)を満たす場合において精霊(せいれい)()の魔物に匹敵する力をもつ魔物。それが特異の魔物だとさ」

「「精霊位っ!?」」

「ある条件とは「この先にある秘宝封印の間アメンフララの中に()る」こと。そして俺はトモビキスライムのいるその部屋アメンフララで奴を仕留(しと)める。つまり俺たちはこれから精霊位の魔物の相手をする」

「「……」」

追加(ついか)情報(じょうほう)は以上。あと忘れてた。知恵袋によれば、上にいるベルゼブブの様子がおかしい。石化魔法がとうとう解けるかもしれない。要するに時間がもうない。トモビキスライムとの戦いは一度きり。しかもベルゼブブが来るまでの制限時間付き。二人とも何か質問はあるか?」

「うふ。もう何もないです」

「私も。うふふふ……」

 口をあんぐりあけて呆気(あっけ)に取られていた二人が、いつの間にか笑い出す。

「なんで笑ってるんだ?」

「一週間メチャクチャ修行(しゅぎょう)したのに、(ふる)えが止まりません」

「二百年間で一番暴れた一週間だったのに、体が強張(こわば)るのを感じるわ」

「そりゃあ精霊位の魔物が相手だから仕方ないだろ」

「そういうテツタロウさんは、全くいつもと変わらない」

「というかリラックスそのものに見えますわ」

「こう見えて結構緊張している。でも二人がいてくれるから大丈夫だ」

 魔物ベルゼブブが動き出すギリギリまで粘って稼いだ時間。

 この間に、二人はさらに強くなった。

 今ならフェンリルとだってまともにやり合える気がする。

「私なんかでも精霊位に勝てますか?」

「私もです。こんな冒険(ぼうけん)者崩(しゃくず)れ、魔物の肉に宿(やど)った私なんかが及ぶのかどうか……」

無理(むり)だろうな」

「「!?」」

「ピノンとメリュジーヌ、そして微力(びりょく)だけど俺もいる。三人がいるからどうにかなる。それだけだ」

 これは本当。

「「そこまで言ってくださるなんて」」

 それくらいに精霊位の魔物は容赦(ようしゃ)なく強い。上位の魔物フェンリルとは別格。

 一人で勝つことはまず不可能(ふかのう)。……たぶんジョーカーに選ばれた志甫(しうら)ですら無理。

「愛しています」「死ぬほどに」

「ああ。二人が戦って強くなることを心から好きなのは知ってる。だから力を合わせて乗り切るぞ」

「「……はあ」」

「そう。ため息をしっかりついてくれ。リラックスしていないとトモビキスライムの毒舌(どくぜつ)でメンタルをやられる可能性がある」

「まったくそういうところが……うふ」

「テツタロウらしい。ふふふ」

 そうこう言っているうちに、俺たちは40階層奥にある封印の間アメンフララにたどりつく。

 想像通り、ナルカミゴーレムはここまで一匹も現れなかった。

 もう現れる必要がないってことなんだろう。

 《報告。地上迷宮セキドイシ40階層。秘宝ウゴエ封印の間アメンフララに到達》

 ああ、着いた。

 ゴゴ。シュウウウウ……

 分厚(ぶあつ)花崗岩(かこうがん)(とびら)が左右に勝手に開いていく。「助けて」の声がひときわ大きく一度だけ聞こえた後、俺の耳から引く波のように消える。「助けて」と一緒に、頭の中で引っかかっていた何かも消えていく。

 ただ目の前のことだけに意識が向く。

 思考(しこう)()()まされていく。

 死んだフリをしながら戦う、いつものように。

「これが、秘宝ウゴエの封印された場所」

 蝋燭(ろうそく)の明かりで照らした程度の薄暗い部屋の中、冷や汗をにじませながらピノンが恐る恐る歩を進める。

「………」

 ゴクンとつばを飲みこみつつ、一歩一歩慎重に足を運ぶメリュジーヌ。

「二人とも、()まった方が良い」

「「?」」

 俺はもう何度も見ているから二人に静止を(うなが)す。

 俺はザックに入れてきたクイ1匹分の肉を取り出し、それを前に放る。

 ドサ!……ゾブゾブゾブゾブゾブゾブ!!!!!!

「「!!」」

 磨き上げた大理石のタイルで埋め尽くしたような床から、ゾル状態のスライムがしみ出してくる。集合してゲル状になる。クイの肉は薄桃色(うすももいろ)のスライムに呑み込まれてあっという間に消化される。

「こんにちは。俺は釘崎鉄太郎(ていざきてつたろう)

「……」

「俺の助けを求めたのはお前か?」

「……」

「違うのか。だったら秘宝ウゴエに会わせて欲しい。助けを待っているはずだから」

 スライムに適当に言葉を投げながら、俺は様子をうかがう。

「テツタロウさん!何を暢気(のんき)なこと言ってるんですか!」

「この気配(けはい)!……それに、シャレにならない魔力!!」


(だま)れ。()け犬とちっぱいと年増(としま)デブ」。


「「「………」」」

 《報告。トモビキスライム第1形態による精神攻撃バトウにより、エルフとムカデ女の心拍数が乱降下》

「二人とも……」

「おいスライム。ぶち殺すぞオメェ」

 弓を握るピノンの腕の血管が浮きあがる。黄金色のセミロングが風でなびいてスーパーサ〇ヤ人みたいだ。

「スライム。なんて千切(ちぎ)甲斐(がい)のある見た目でしょう」

 両拳を合わせ、パキパキと音を鳴らすメリュジーヌ。(よろい)姿(すがた)と相まって『北〇の拳』のラオウに見えてきた。

「かかってこい。まな(いた)チビの大根(だいこん)(あし)()(おく)れの甲冑(かっちゅう)はみ(にく)デブ」

「「くたばれええええええっ!!!」」

 すごい。

 挑発(ちょうはつ)にのせられた振りをしてくれと頼んだけど、本当に挑発にのっているようにしか俺には見えない。

 《忠告。エルフとムカデ女は(しん)激昂(げきこう)

 ……。

 それも想定内。大丈夫……たぶん。

 ボヨオオーン!

(むね)につく~はずの脂肪(しぼう)は~(はら)につき」

(ふう)(すい)アオアラシィィィ!!」

 キュパオオオオオオオオオオンンッ!!!

()()なし~(よろい)筋肉(きんにく)~ドレスかな~」

 ボヨオオオォォン!

震戦苑流(しんせんえんりゅう)奥義(おうぎ)(いち)(かた)肺喘身巡(はいぜんみめぐり)ぃぃぃぃ!!」

 ドムゴオオオンンッ!!!!!!!!!

 ライフル弾のような螺旋風(ヘリックスウィンド)と大砲みたいな拳弾(ナックルショット)がゲルに直撃する。部屋全体が()れて天井からパラパラと(つぶて)が落ちてくる。

 二人のキレキレ攻撃によって川柳(せんりゅう)スライムのゲル部分が大きく流動する。内部にある(すみれ)色の(かく)露出(ろしゅつ)する。すごい。核の露出が予想以上に早い。偶然(ぐうぜん)か!?

 《女の怒りによる必然》

 ゾブブッ!!

「「!!」」

 トモビキスライムの(すみれ)(いろ)の核だけが一気に増えて、ゲルを捨てて空間内に散らばる。ゲルが地面の下に再び消えていく。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 天井が動く。上層との境目が次々に消えて、筒抜けとなっていく。

 やっぱり壮観だ。

 首都圏の雨水をためる外郭放水路みたいに巨大な空間が完成する。

 そこへ空の星のごとく散っていくトモビキスライムの核たち。

 満点の菫色の星々が俺たちを見下ろす。

 《報告。トモビキスライム第1形態がゲルなし多核体(たかくたい)を形成》

 ここからが初見殺し。

 ナルカミゴーレムの記憶によれば、トモビキスライムに挑んだ者たちの7割がここで死んだ。

「ふぅううう……」

 《報告。エルフが超精密聴覚(ちょうせいみつちょうかく)コルモゴノフ発動。乱流(らんりゅう)解析(かいせき)開始》

 ピノン。間に合ってくれ。遅れれば、

 ヒュボンッ!!!!

 核の1つがライフル弾より早い超高速で移動し、ピノンに衝突(しょうとつ)……

 メキャッ!!

「ぐっ!!!」

 《報告。エルフの解析終了前に、気配(けはい)感知(かんち)に成功したムカデ女がエルフの致命傷(ちめいしょう)を回避》

 ギリギリ間に合ったメリュジーヌがピノンへの攻撃を鎧の装甲でカバーする。

 気配感知。戦闘における先読み。

 やっぱり戦闘経験が俺たちの中でずば抜けて豊富なメリュジーヌは頼りになる。

「メリュジーヌさん!」

「これくらいなんともありません!それより次が来ます!!」

「はい!!風盾(かぜじゅん)ガネノメレンゲ!」

 《エルフが空気の乱流解析終了。同時に風属性魔法を発動》

 ヒュボンッ!!!ボウッ……ボッ!

 背中と体の正面から強力な逆噴射の風を出したピノンが、核の衝撃に耐えられず吹き飛ぶ。

「うわっ!」「しっかりしなさいピノン!!」

「はぁはぁはぁはぁ、大丈夫……」

 大丈夫なわけがない。

 いくら風を読み、逆風で押し返しても、弾丸より早いあの核の移動を完全には止められない。

 当たれば良くて骨折。悪ければ内臓も何もかも吹き飛ばされて則終わる。


 ――全体デ、攻撃シテコナイ。残酷ナ奴ラハ、我ラノ死ヲ、眺メテイル。


 ここで殺された魔物の多くがそう言い遺した。


 ――マルデ星ノヨウニ流レテ、殺シニ来ル。ソレヲ皆デ眺メテイル。


 殺された魔物たちは、ただ殺されたわけじゃない。

 トモビキスライムという魔物をちゃんと見抜いて死んでいった奴も、中にはいた。

 ヒュボンッ!! 

 今度は俺めがけて飛んできた核。

「せあっ!」

 ヒュオンッ!ドムオンッ!!!!

 それを、ピノンの支援魔法の風をまとったメリュジーヌの右上段回し蹴りが弾く。鋼鉄と風のタッグが核の軌道を逸らしてくれた。

 ドゴオオオオオオンッ!!!!!!

「マジで助かった」

「お安い御用です。テツタロウ」

 口から血を流すメリュジーヌとピノンが俺の周りに駆け戻る。トモビキスライムから見て、まとまった俺たちは恰好の的になる。

 カンカン。

 俺は(にぎ)るバトルアクスの頭で地面を2回たたく。

 ピノンとメリュジーヌはうなずくと、俺のザックに括り付けてある、焼いたクイに二人の手が伸びる。

 トモビキスライム第1形態。

「「「「「胸騒ぎ~胸がないから~気のせいだ~」」」」」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 ヒュボンッ!ズドンッ!!!!

 上空に散りばめられた多核体は、全体で一気に攻撃して来ない。

「「「「「ゴリマッチョ~寝返りすごくて~皆起きる~」」」」」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 ヒュボンッ!キュボボボボボボボボンッ!!!

 一体から数体が、星のように流れて殺しに来る。

 ヒュボボンッ!ズドキュボボボオーンッ!!

 それはまるで、メカジキと一緒(いっしょ)

 攻撃する瞬間、攻撃する個体はかすかに光り、自分が敵に攻撃することを周囲に知らせる。そうすることで同士(どうし)()ちを避ける作戦。上ほど暗い巨大空間はそのための布石。

 《死んだフリ所持者へ報告。準備(じゅんび)完了(かんりょう)

 ならば俺は、〝それ〟を壊せばいい。

 ヴン。

 《飢餓(きが)咆哮(ほうこう)「メシマダカ」発動》

 青く光り始める俺と同じタイミングでピノンとメリュジーヌがクイの肉にかぶりつく。

 キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ。

 ばれないようにコッソリ光り合っていた核たちがどれもこれも遠慮なしに強い光を放ち、全体が勝手に攻撃モードに入る。

 ピノンもメリュジーヌも俺も、魔物から見れば所詮は肉の塊。

「腹が減れば獲物はさっさと仕留めて、食らいたいよな!」

 ギギギ。ドスンッ!

 それに対して技を構えるピノンとメリュジーヌ。

 核を(にら)みながら弓の(げん)を引き(しぼ)るピノン。

 歯を食いしばり体をねじり利き足の(かかと)を浮かせるメリュジーヌ。

 二人とも長いゴーレム戦で練り上げた(とう)()湯気(ゆげ)のように立ち上る。

 ヒュボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!

 《報告。エルフが超精密聴覚(ちょうせいみつちょうかく)コルモゴノフと風刃(ふうじん)ハナチラシ72連撃を発動》

 (せん)(せん)

 トモビキスライムの核が加速(かそく)する瞬間を狙ってのピノンの連続(れんぞく)掃射(そうしゃ)

 キュボスンッ!!!!!!!

 俺たち三人を狙ったはずの核たちの軌道がピノンの風にぶつかり、ずれる。

 ジシッ!キュボスススッ!!!!!

 核の軌跡はさらに収束(しゅうそく)し、俺だけに向けられる。正確には俺の鳩尾(みぞおち)にだけ、向けられる。

 《報告》

 ズゴズゴオオオオワンッ!!!

 《ムカデ女が震戦苑流(しんせんえんりゅう)奥義(おうぎ)弐の(かた)環噛粉壊刻獅(わかみこかいこくし)を発動。最接近核に衝突。核の運動を静止》

 ゴーレムすら()り砕くメリュジーヌの強靭(きょうじん)(あし)が、俺に迫るくる核を中段(ちゅうだん)(まわ)()りと三日月蹴(みかづきけ)りの(しゅん)(そく)コンボで止める。

「いまだ!」「はい!」「うわっ!」

 蹴りで核衝突を止めた反動を利用して、メリュジーヌが俺とピノンを掴んだままその場から離脱する。

 チッ!

 メリュジーヌにいきなり蹴り止められた(かく)複数(ふくすう)

 キュボメキャッ!

 その複数核に、(もう)スピードで後続する(かく)集団(しゅうだん)

 メキャメキャメキャメキャメキャッ!

 収束したスライム核たちは互いに衝突し合う。摩擦(まさつ)爆竹(ばくちく)のように光と炎と熱が周囲に炸裂(さくれつ)する。(すみれ)紅蓮(ぐれん)になる。

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴンッ!!!!!

 爆音を上げながら核が核にダメージを負わせる。

「ピノンさん!」「ピノン!」

風盾(かぜじゅん)ガネノメレンゲ!!」

 縦穴の中全てを焼き尽くすかのような大炎上。

「「「くううううっ!!!」」」

 その中で、菫色の核がボロボロになっていく。

 ズムンッ!ズムンッ!ズムンッ!

「テツタロウさん!」「天井が閉じていきますわ!」

 隔壁を閉ざすように、迷宮の天井が閉ざされていく。地は燃えたまま、「(てん)」だけが低くなる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 ゾビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ……

 その「地」も、床からしみだした桃色のゼリーで鎮火(ちんか)していく。菫色の核が破損(はそん)箇所(かしょ)を再生させながら、核表面に一つの大きな黒丸(くろまる)模様(もよう)を浮かべる。

「これでいい」

 ギョロッ!!

 眼球のようになった核がこちらを凝視(ぎょうし)してくる。

 魔物たちの死を通じて何度も見た煉獄(れんごく)の光景。

 《報告。核の損傷(そんしょう)(じん)(だい)と判断した魔物トモビキスライムが空間内へゲルを再召喚(さいしょうかん)

「テツタロウさん!」「テツタロウ」

「ああ。第1関門は突破(とっぱ)したらしい!これからだ」

 青く光っていた俺は飢餓(きが)咆哮(ほうこう)「メシマダカ」を()め、(おの)で地面を3回たたき、二人に合図する。

「「はい!!」」

 ピノンが治癒魔法で、メリュジーヌとピノン自身を回復させる。

 その間に、秘宝の間アメンフララには様々な蛍光(けいこう)鉱物(こうぶつ)が異常な速度で生え、そこから光を放ち始める。

 空間が一気に明るくなる。

「ふう……」

 この光景も何度も見ている。

 精霊位級の魔物による、地獄の演出第2幕。

 グチュポグチュオグチュポグチュポ……

 増殖(ぞうしょく)するゲルの中に既に逃げ込んでいる大量の核。それでもゲルの増殖は止まらない。

 《報告。トモビキスライムが第2形態(けいたい)移行(いこう)。ゲルを(まと)った多核体(たかくたい)が出現》

「「ふうぅ、ふうぅ、ふうぅ、ふうぅ、ふうぅ」」

 ピノンとメリュジーヌの竹筒(たけづつ)を吹くような深い息遣(いきづか)いが俺の耳に伝わる。

「大丈夫だ」「「……」」

 二人が緊張(きんちょう)恐怖(きょうふ)するのも無理(むり)はない。


 ――タダ胸苦(ムナグル)シイ。逃ゲルコトモ隠レルコトモ出来ヌ。


 トモビキスライムの第1形態を(から)くも生き残った者のうち、これで死んだ者が9(わり)

 つまりここで、秘宝の間アメンフララの侵入者(しんにゅうしゃ)はほぼ全滅(ぜんめつ)している。

 でも、それでも、

「もう一度言う」

「「?」」

「二人が俺の(そば)にいてくれれば勝利(しょうり)できることを、俺は知ってる。信じてくれ」

「……喜んで!」

「……もちろんです!」

 三人で力を合わせる。それ以外に勝機はない。

 それくらいこの状態のトモビキスライムは、無敵のようにズルくて強い。


 ――万策(バンサク)()キタ。何ヲシテ良イノカ分カラヌ。全テハ終ワッタ。


 何度も死んだ経験がなければ、太刀打ちできるなんて絶対に思えない状況。

 何度も死ななければ〝万策〟の最適解なんて見つけられない状況。

 ドムドムドムドムドムドムンッ!!

「火炎弾です!ピノンさん!」「はああああっ!!!」

 ヒュボボボボボボボボボボッ!!!ドゴバーンッ!!!!

 放物線を描いて飛んできた溶岩の塊を風刃ハナチラシで打ち落とすピノン。

「うっ!何て威力!土と火の合成魔法だなんて!」

 それでも炸裂した溶岩片がこちらに飛んできて、破片からピノンと俺を護って負傷したメリュジーヌ。

「ヒールウィンド!!ヒールウィンド!!」

 それを治癒魔法で急ぎ治すピノン。

 グチュポポグチュ……

 その間も、当たり前のようにゲルを増殖させ、膨張し、精神的圧迫まで加えてくるトモビキスライム。

 ドムドムドムドムドムンドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムンッ!!

「風刃ハナチラシ!!」

 ヒュボボボボボボボボボボボボボボボンッ!!!!!ドゴバアアアンッ!!!!

「メリュジーヌさん!」「私のことはいいですから!続けなさい!!」

 空間を押しつぶしながら、全体魔法を放ってくる魔物トモビキスライム。

 ブニョオオンッ!!!

「「!?」」

 ザシュンッ!!

 突如スライムの(とげ)のように伸ばしてきたゲルを、俺はバトルアックスで切断する。

「ブラフだ」

 ピノンとメリュジーヌに刺されなかったゲルが慌てて地面の下に消えていく。

「「?」」

「〝この手〟もあると思わせるハッタリ。大丈夫。棘は俺が(たた)く」

「「はい!!」」

 待ち受けるのはスライムに(つぶ)されるか、魔法に()られるか、()し殺されるか。

 ドムドムドムドムドムンドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムンッ!!

 どれか分からないまま、ただ死が訪れる。

 ヒュボボボボボボボボボボボボボボボンッ!!!!!ドゴバアアアンッ!!!!

 どれか分からないから、もう死を待ち望む。

 ブニョオオオンッ!!!ザシュザシュザシュンッ!!!

 生の絶望からの、死の切望。

 そのどれにも属さないための、勝利の糸口。それは、

「二人とも。これからスライムの体内に突入する」

 トモビキスライムの〝思う壺〟になること。

「奴の肉を絶対に口に入れるな!」

「「はい!!」」

 口だけじゃない。目。鼻。耳。

 敵の穴という穴からスライムは侵入して神経を(おか)そうとする。

 モニュンッ!!!

 トモビキスライムからすれば、自らの体内に入られるのは、文字通り思う壺。

 コポ。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 そしてそうならないために、俺たちにはピノンの〝風〟が必要になる。

 ゴポン……ボボボボボボッ!!!!

 《報告。エルフが風盾(かぜじゅん)ガネノメレンゲを発動。気泡が魔物トモビキスライムの中で多数発生》

 多核体であるゲルの中で、ピノンが風属性魔法を使い、空気の(かたまり)乱発(らんぱつ)する。

 それが俺たちの顔を含め、全身を膜のように覆う。

 窒息をかろうじて免れる。泡がスライムのゲルの移動を邪魔し、俺たちの体内侵入を阻止する。

 ポムポムポムポム。

 スライム核たちが次々と〝次の一手〟を生み出す。

 トモビキスライムが溶岩弾の次に体内で用意する武器は、水雷(すいらい)

 フワフワフワフワ……

 人の頭ほどある金平(こんぺい)(とう)みたいな物体は、ゼリーの中をただ(ただよ)っているだけならいい。

 けれど、

 ジジジジジジジバチチチ!!!

 核が静電気を送ることで、水雷は起爆する。

 ドブボーーン………ブンブンブ~ン

 トモビキスライムはゲルの密度を遠隔操作することで圧力波を四方八方から俺たちにぶつけてくる。

「ブホッ!」「フウウッ!」「アフッ!!」

 同時に蛸殴りに合う感覚。骨が軋む。内臓がよじれる。構えていなければ一瞬で意識を失う。

「「「フゥゥゥゥ……」」」

 弱い俺も含め、三人して何とか意識を保つ。

 けれどピノンの用意した空気はますます薄くなる。窒息と寄生を免れるための空気が圧力波で剥がされかける。

 カンカン。

 俺はバトルアックスの斧刃(おのば)の側面を(つめ)(はじ)く。強く(うなず)いたメリュジーヌの全身から鎧が剥がれる。裸形の全身に、血管か太く無数に浮かぶ。

 《報告》

 メリュジーヌの体を覆う鎧は一部のみ。

 左足と右脚。

 ビキビキビキビキビキッ!!!!

 《ムカデ女が技を発動。震戦苑流(しんせんえんりゅう)奥義(おうぎ)

 白眼を剥いたメリュジーヌが強靭な筋肉を稼働させる。

 《(さん)(かた)雲雷弔鯨斬(うんらいちょうげいざん)

 右脚と、その先にスキューバダイビングのフィンのようにつながったムカデ型の甲冑が大きく波打つ。

 ヴオオオオオオオ……

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 高密度筋肉の収縮(しゅうしゅく)を自在に(あやつ)るメリュジーヌの本気蹴り。

 参の型は、本来ならナルカミゴーレムを迷宮壁(めいきゅうへき)ごと一撃で切断してきた胴回(どうまわ)回転蹴(かいてんげ)り。

 その器用(きよう)怪力(かいりき)を今度は、

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………

 ゼリーを、ゲルを、トモビキスライムの中の全てを動かすために使う。

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………

 俺を(つか)み、右脚全体でゼリーを蹴り続けるメリュジーヌ。

 そして彼女の左足を覆うのはムカデの頭部(とうぶ)。ムカデの頑丈な(あご)はトモビキスライムを食い破って地面にガチリと食らいつき、メリュジーヌのスパイクになって彼女の体を固定する。

 ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 大規模(だいきぼ)対流(たいりゅう)が発生して否応なく自分の定位置から動かされるトモビキスライムの核たち。ついでに流れる、自分たちで生み出した大量の水雷(すいらい)

 ギチチチチチ……

 俺が命がけで(つか)むのは、ピノンの両足(りょうあし)。滝つぼの中のようにカオス状態の乱流の中、ピノンは孤狼オクリオオカミの(げん)を引き絞り、その瞬間(しゅんかん)を待つ。

 その瞬間。

 それは「(ちゃ)()のパラドックス」。

 お湯と紅茶(こうちゃ)()の入ったティーカップをスプーンでかき混ぜると、外向きの遠心力(えんしんりょく)が働くはずなのに、茶葉は最後、カップの(すみ)へと広がらない。広がっても最後は中心に集まる。一見するとまさに矛盾(パラドックス)

 ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……

 でも実は、液体の粘性(ねんせい)でこれは説明がつく。

 粘性とは流体(りゅうたい)のもつ摩擦(まさつ)のこと。

 スプーンでかき()ぜられている表面(ひょうめん)部分(ぶぶん)ほど、紅茶には強い遠心力が(はたら)く。

 でもかき混ぜられていない底部分(そこぶぶん)は、ティーカップと紅茶との間で摩擦が働くから、遠心力が(よわ)くなる。紅茶の粘性が遠心力を弱める。

 この遠心力の差がカップの中の紅茶に上下の流れ、つまり二次流(にじりゅう)を生みだす。

 ギチチチチチチィ………

 今回の「スプーン」はメリュジーヌの()り。「ティーカップ」は魔物トモビキスライムの巨体。

 上下逆さまのティーカップの下から、スプーンで激しくかき混ぜる。「紅茶」ではなくスライムのゲルを。

 とはいえ結果は同じ。

 二次流によって集まる場所が、下ではなく上になるだけ。

 キュボオオオンッ!!!!!!!!!

「茶葉」が集まったその瞬間。

 ガオーンッ!チッ!!

 ティーカップの茶葉のように集まったトモビキスライムの多核(たかく)水雷(すいらい)に、ピノンの風錐(ふうすい)アオアラシが突き刺さる。

 ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボバンッ!!!

 空気の生む摩擦熱(まさつねつ)で水雷が起爆。そして周囲の水雷を誘爆(ゆうばく)

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 目玉のような多核を粉々にして焼き尽くす。

 ボビシャアアアアッ!!!!!!!

 爆発の圧力でスライムのゲルが周囲に飛び散る。三階建ての家くらいある水風船が爆発したみたいにゲルが四方八方にぶちまけられる。

「ぶはっ!」「えほっ!」「げほっ!げほっ!」

 ゲルから解放された俺たちはその場に倒れ込む。


 シュンッ!


「「「?」」」

 すぐに倒れた地面を見る。

 星?

 急ぎ周囲を見渡す。

 大きなプラネタリウムの底に閉じ込められたかのように、真っ暗闇の中、満天(まんてん)の星々(ほしぼし)が縦横無尽(じゅうおうむじん)にいつの間にか広がる。

 ……。

「テツタロウさん!なんか!なんか大変なことになってます!」

「テツタロウ!!これは一体何!?」

「二人とも。いよいよだ」

 首筋の毛が逆立ってくるのを感じる。

 いよいよだ。

 いよいよ、始まる。

 《警告。魔物トモビキスライムが亜空間(あくうかん)サンズノカワを展開(てんかい)。死んだフリスキル所持者を含め、エルフとムカデ女を亜空間内に併呑(へいどん)。さらに魔物トモビキスライムは亜空間内で第3形態に変化》

 亜空間サンズノカワ。

 トモビキスライムだけが何でもできる、何をしても許される、トモビキスライムのための無限空間。


 ――ココニ(イタ)ラバ、全テノ望ミヲ捨テヨ。


 生還率(せいかんりつ)0%の亜空間。

 閉じ込められて、無事脱出した者のいない永久(とこしえ)闇夜(やみよ)

 ここまで到達できたごく(わず)かな魔物と冒険者の遺言(ゆいごん)は、たったこれだけ。

「テツタロウ!!」

 フ。

 大きな赤い(おおかみ)が俺の真横にいる。いつの日にか味わったのと同じ殺気。

 ガブッ!ドゴンッ!!!!

 俺を食いちぎろうとした魔物フェンリルを、メリュジーヌがとび膝蹴(ひざげ)りで止める。

 ヒュボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!!!!!!

 俺に近づいてくる他のフェンリルたちを牽制(けんせい)するために、ピノンが風刃(ふうじん)ハナチラシを射つ。横射。縦射。斜射。掃射。追射。全方位に矢をはなつ。

「はあああああっ!!」

 貫手(ぬきて)鈎突(かぎつ)き、(うら)(けん)、下突き、肘打(ひじう)ち、膝蹴(ひざげ)り、三段蹴り。

 俺に近づく魔物コカトリスを全て()(はら)うメリュジーヌ。

 無限フェンリル。無限コカトリス。そして、

 《報告。多数の擬似(ぎじ)魔物(まもの)フェンリルと擬似魔物コカトリスに加え、擬似魔物ネブタオオムカデと擬似魔物バジリスクが出現。擬似魔物バジリスクは石化魔(せきかま)(がん)の使用が可能》

 予想通り。

 亜空間サンズノカワの中では、トモビキスライムはどんな魔物も召喚(しょうかん)できる。

 《否定。魔物の召喚ではなく、あくまでも魔物への擬態(ぎたい)

 そうだった。擬態。ミミクリー。

 つまりトモビキスライム自身が迷宮セキドイシの全ての魔物に擬態できる。能力まで全てをコピーした、完璧な擬態ができる。

 しかもトモビキスライムの核は無数。

 つまりあらゆる魔物による無限(むげん)攻撃(こうげき)

「二人とも、目を(つむ)れ」

 こんなの普通じゃ勝てるはずなんてない。

「え?」「そんなことしたらフェンリルに()られ」

()られない」

 無限攻撃。

 それを仕掛けるのは召喚された魔物ではなく、あくまでトモビキスライムたち。

 同じ亜空間の中にいる、最強を(かた)る魔物トモビキスライム。

 《報告。発動(はつどう)準備(じゅんび)完了(かんりょう)


「ここは俺がやる番だ」。


「「……了解(りょうかい)」」

 ヴン。

 《発情(はつじょう)咆哮(ほうこう)「モウタマラン」を発動》

 俺が体から赤い光を放つ。

 効いてくれ!頼む。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 すべての攻撃が、止まる。

 ヒュウウウウウウウウウ……

 満天の星を散らした闇が急激に(しら)んでいく。

 白は光に変わり、光が全てを包んだ後、もとの秘宝ウゴエ封印の間アメンフララに戻る。

 シ~ン……。

 震えて汗まみれのピノンとメリュジーヌがおそるおそる眼を開く。

「「?」」

 じっとしているトモビキスライムたち。

 どれもこれも擬態(ぎたい)をしていない。

 薄桃色(うすももいろ)のゲルを身につけ、(すみれ)(いろ)の核は動かない。

 つまり、死んだフリ。

 誰も彼も死んだフリを死んでいる。

「ど、どういう……」「ことなのですか?」

 二人は思い出したように俺を探し、見る。そしてギョっとする。

「「テ……」」

(しゅ)本能(ほんのう)ってやつだ」

 食用にしたクイの皮革(ひかく)()ぎ、それらを()()ぎしてつくった被り物を被った俺は、(おの)(かつ)いで歩き出す。

亜空間(あくうかん)展開(てんかい)究極(きゅうきょく)魔法(まほう)。トモビキスライムたちの統合(とうごう)意志(いし)によって生み出される超級(ちょうきゅう)技術。とにかくみんなで〝力を合わせ〟ないと、亜空間は維持(いじ)できない」

 ドグシャッ!

 動かないトモビキスライムに、斧を振り落ろす俺。菫色の核が砕けて、ついでに薄桃色のゲルが床に散る。

「で、力を合わせられるのは、もちろんみんな同じ情報を、この核の中に持っているから」

 多細胞(たさいぼう)生物(せいぶつ)分化(ぶんか)によって臓器や組織や器官を作れる理由と同じ。

 ドグシャッ!

 赤い光を放ったまま、仮面(かめん)の俺は斧を振り下ろし続ける。

「俺の死んだフリスキル「モウタマラン」は、相手を発情(はつじょう)させる」

 ドグシャッ!ドグシャッ!

「発情させられたトモビキスライムのクローンたちはすると、シンプルに(ねが)いはじめる」

 ドグシャッ!!

()()びたいと」

 ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!

生殖(せいしょく)するために生き延びたい。であれば、あえて自分から戦うことはしない。他の誰かに戦いは(まか)せる。トモビキスライム。特異の魔物」

 ドグシャッ!

「自分の能力値(のうりょくち)が高いことは自分が一番良く知っている。だから自分のクローンである誰かに戦いは任せていい。そして自分だけは生き残る」

 ドクシャッ!

「こうなると要は」

 ドグシャッ!

「集まっただけの単細胞(たんさいぼう)生物(せいぶつ)と同じ」

 ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!

「単細胞生物が協力する際に死活(しかつ)問題(もんだい)となるのは、誰が生殖(せいしょく)細胞(さいぼう)(にな)うかということ」

 ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!

「生殖細胞以外は生きていても無駄(むだ)。生殖細胞になれないのなら、(つど)い協力するだけ無駄」

 ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!ドグシャッ!

「それに気づいたトモビキスライムの(かく)は、自分だけが生殖細胞になろうとする」

 脳なんて、神経細胞の集合なんて、つまらないことはもうしない。

 思考も魔法詠唱もやらない。

 魔力消費も亜空間構築も行わない。

「それは死んだフリを始めるということ」

 (のう)味噌(みそ)みたいな亜空間(あくうかん)展開(てんかい)魔法(まほう)使いの攻略法(こうりゃくほう)は、空間(くうかん)展開者(てんかいしゃ)脳死(のうし)

 すなわち神経(しんけい)細胞(さいぼう)生殖(せいしょく)細胞(さいぼう)に変えればいい。

 自らが展開した亜空間に獲物(えもの)を閉じ込めておくだけでは気が済まず、自ら亜空間に飛び込み、獲物を自ら始末しようとした者の末路(まつろ)

「そして生殖細胞となった核たちを、俺が本当に死なせていく」

 そこまで言って、俺はいったん手を止める。ピノンとメリュジーヌを見る。

「これが話していなかった作戦の最後のオチだ。ちょっと手が足りないから手伝ってく、れ……?」

 目を閉じている二人は(また)に手を(はさ)んで何やらモゾモゾしている。

「もっと(しゃべ)ってくださいテツタロウさ~ん!」

「テツタロウ!その(あま)い声をもっと()かせてぇ!!」

 《報告。エルフとムカデ女も猛烈(もうれつ)発情中(はつじょうちゅう)。死んだフリスキル所持者の説明内容を聞いていない。声だけに反応中》

 そうか。まあ仕方ない。俺のこれは、そういうスキルだ。

 せっかくクイのお面を被って「ヒトのオスはここにいません」アピールをしても、変な妄想(もうそう)をされたらどうにもできない。

 俺は長話をやめる。

 仲間二人に戦闘を任せすぎた(ばつ)だ。俺一人でスライムの(とど)めを刺すしかない。

「ピノン!メリュジーヌ!二人ともおつかれさま!!少し休んでてくれ!!!」

「「名前(なまえ)()ばれたっ!ああ~んっ!!!」」

 死んだフリスキル「モウタマラン」をフル稼働(かどう)したまま、俺は死んだフリを続ける魔物トモビキスライムを(ひと)りで片付けることにした。


 《報告。トモビキスライムの撃破(げきは)により、死んだフリスキル所持者のレベルが上昇(じょうしょう)。「発情(はつじょう)咆哮(ほうこう)モウタマラン」と「飢餓(きが)咆哮(ほうこう)メシマダカ」の威力(いりょく)及び効果(こうか)適用(てきよう)範囲(はんい)がさらに拡大(かくだい)称号(しょうごう)色情郷(イログルイ)」「飢餓宮(キガグルイ)」を獲得(かくとく)

 最後のトモビキスライムを破壊し終えたところで、脳内(のうない)再生(さいせい)からお知らせが入る。

 敵の命の(とど)めだけ刺すという、一番美味(おい)しいところをもっていった俺らしく、レベルアップと同時に変な称号まで手に入る。

 周囲をもう一度確認して、俺は死んだフリスキル「モウタマラン」を止める。

「はっ!?テツタロウさん!……ちょっとメリュジーヌさん!何ナメクジみたいにくっついてくるんですか!変なところ触るのやめてください!」

「いや~ん……あっ!テツタロウ!なっ!私としたことが!こんなまな板エルフを相手にっ!あなたこそ私から離れなさい!!」

 勝手に大変なことになっている二人から距離(きょり)をとって俺は(こし)を下ろし、(あせ)まみれの仮面を()ぎ、手拭(てぬぐい)で顔をふく。

 なぁ脳内再生。このトモビキスライムの(かく)は食べても大丈夫か?

 《報告。魔物トモビキスライムを捕食(ほしょく)した場合、長期(ちょうき)にわたる副作用(ふくさよう)はあり》

 どういうことだ?

 俺は(どく)()かないんじゃないのか?

 《毒ではなく呪いのため、死んだフリスキル所持者にも効果(こうか)あり。亜空間魔法の使用者を体内に取り込んだ場合、捕食した者の亜空間を使用できる可能性はあり。ただし亜空間魔法は精神(せいしん)支障(ししょう)をきたす(おそ)れあり。そしてそれを(のろ)いという》

 なるほど。

 《(しょく)せば、抑圧(よくあつ)している内面(ないめん)悪夢(あくむ)として見る(おそ)れあり》

 それは、なんかこわい。

 トモビキスライムも()芳香(ほうこう)「デスノート」の一つに使えるかもと思ったけど、食べるのはとりあえずやめておこう。

 《とはいえ実用面(じつようめん)においては便利(べんり)。装備品、食糧、水、鉱石、動植物及び魔物の死骸(しがい)の回収と収納(しゅうのう)に有用》

 いくら利便性(りべんせい)が高いからって、悪夢を見続けるってわかったらそんなもの取り込むわけない。

 《支持(しじ)。デメリットがメリットを大きく上回る》

 というわけで、俺はトモビキスライムの核を()てる。

 先へ進むとしよう。

 秘宝封印の間アメンフララ。そのさらに奥へと続く(とびら)

 その扉がいつの間にか開いている。この先が本当の秘宝の間

「二人とも。そろそろ行くけど、大丈夫か?」

 ナメクジごっこを終えた二人に声をかける。

「あ、はい!」

「もちろんですわテツタロウ」

 ピノンとメリュジーヌの身支度(みじたく)を待って、俺は二人とともに扉の奥へ進む。


「この先に……」

 (つば)を呑み込むメリュジーヌ。

 確かに、部屋の中を見ていると俺も緊張してゴックンしたくなる。

 《忠告。セキドイシの秘宝を守る空間全体はいまだに魔力を残す。警戒を(おこた)るべからず》

 そんなこと言われると心拍数(しんぱくすう)が上がるからやめてくれ。

「テツタロウ?どうしたのです?」

「部屋の中にはまだ何かあるかもしれない。二人とも油断(ゆだん)するな」

「「はい」」

 俺は攻守ともに対応するべく、バトルアックスの(つか)を短めに握ってアメンフララの奥へとさらに進む。


 ウォンウォウォンウォン……


「なんですか、あれ?」

「おそらくはあれが、セキドイシの秘宝ウゴエ」

 古びて風化した祭壇(さいだん)が、ある。

 その祭壇の上に浮かぶ、着物の(おび)のように太い銀色(ぎんいろ)(ひも)

 それが形を絶えず変えながら、ウニョウニョ(から)まって動いている。

 《報告。ウゴエは位相(いそう)幾何学体(きかがくからだ)維持(いじ)紐状(ひもじょう)(ひつぎ)の7つの結び目を破壊(はかい)すれば、柩は開くと推定》

「俺の脳内再生によると、あの結び目を全部破壊すればウゴエは開くらしい」

「え!?あの動いているウニョウニョの重なる所ですか!」

「そうらしい。できるかピノン?」

「う~ん……とりあえずやってみます!」

 ピノンが孤狼の弓オクリオオカミの(げん)を引き絞る。

 ヒュボボボボボボボンッ!

 ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャン!

「すご」

 集中したピノンの風の連続矢が、動く結び目七つに全てぶつかる。

「ふん!これくらいできてもらわないと困りま……?」

 ガシャーンッ!!ブワッ!!!

「「「!!??」」」

 (ひも)の結び目が壊れた途端、紐全体が音を立てて崩れ、中から水晶のように透明な光る何かがあふれ出る。

 よく見たらどれもこれも魚の形をしている。

 ハゼ。フグ。エイ。タイ。アジ。オコゼ。ウツボ。アナゴ。マグロ。カツオ。マンボウ。サメ。イワシ。サンマ。……すごい。なんて数だ。まるで水族館の中から魚群を眺めているみたいだ。


 《退避(たいひ)!》


 え?

 ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ ザシュッ!!

(いた)!?」

 え?ええ?なに?

 《警告。隠れていた魔物トモビキスライム単細胞生物体1体の衝突(しょうとつ)を確認。死んだフリスキル所持者の(ひだり)眼球(がんきゅう)破壊(はかい)

 あれ。片眼(かため)が、見えない。

 ドサ。

「テツタロウさん?テツタロウさん!!テツタロウさんっ!!!」

「テツタロウ?どうしたのテツタロウ!?目が……なんてこと……」

 尻もちをつく俺。仰向けに倒れる俺。二人に囲まれる俺。

 《死んだフリスキル所持者の体内に入ったことで魔物トモビキスライムの死亡を確認。解析中(かいせきちゅう)……魔物トモビキスライムの大量核分裂時に生じた突然(とつぜん)(へん)異体(いたい)と判明。変異体は感情を(つかさど)遺伝子(いでんし)の一部が欠損(けっそん)。このため飢餓の咆哮「メシマダカ」も発情の咆哮「モウタマラン」の効果も弱く、亜空間展開にも参加せず、(あらかじ)め室内に(かく)れていた模様(もよう)

 そっか。

 魔物全部が全部同じ奴、同じクローンなんてわけ、ないよな。変異は低確率とはいえ、一定のペースで常に起きる。

 だから、都合よく、物事が運ぶわけない。

 相手は特異の魔物トモビキスライム。条件付き精霊位の魔物トモビキスライム。

 そんなトモビキスライムが俺なんかに、こんな簡単にやられるはずなんてない。

 ヘッドショットか。

 ……。

 こんな終わり方、マジでしたくなかった。

「テツタロウ!どうか死なないで!ピノンさん!!治癒魔法を!!」

 二人を連れて、

「分かってます!!ヒールウィンド!!ヒールウィンド!!」

 迷宮を出たかったなぁ。

 《複数の水晶魚との衝突により魔物トモビキスライムの運動エネルギーは減衰(げんすい)(のう)挫傷(ざしょう)はエルフの治癒(ちゆ)魔法(まほう)で回復の見込みあり。ただし眼球内で、トモビキスライムが亜空間(あくうかん)展開術式(てんかいじゅつしき)を記した記憶(きおく)遺伝子(いでんし)を、死んだフリスキル所持者の周囲の()細胞(さいぼう)水平(すいへい)伝播(でんぱ)して死滅(しめつ)。このため左眼球内の視細胞が呪詛(じゅそ)による被害(ひがい)()った状態(じょうたい)。すなわち視細胞に治癒魔法の届く見込みなし》

 (ちゅう)を泳ぐ魚のおかげで即死(そくし)回避(かいひ)、か。でも左目の再生は(やく)あって無理。

 俺の命はまだ終わらないらしい。

 なら、それでいい。それで十分。

 目は二つある。一つあればとりあえず、生きていける。

 俺が殺していった魔物たちの命に比べれば、俺の目玉の一つくらい(やす)い。

 生きてるだけで、丸儲(まるもう)けだ。

 《楽観視(らっかんし)することを否定。片方の失明(しつめい)必至(ひっし)。さらに亜空間展開の呪詛は死んだフリスキル所持者の精神に悪影響を及ぼしかねない》

 そういえば脳内再生が、トモビキスライムを食べると精神を病むって言ってたな。

「ヒールウィンド!ヒールウィンド!!ヒールウィンド!!!」

「テツタロウ!私たちが必ず助けます!だからお気を確かにしてくださいませ!!」

 《怪我(けが)により、死んだスキル所持者が亜空間を所持することはもはや強制。ゆえに、死んだフリスキル所持者の精神の浸食(しんしょく)をいかにして抑えるかを現在計算中……》

 いつも前向きにアシストしてくれて助かる。脳内再生。

 《忠告。期待値(きたいち)を下げよ。亜空間魔法展開者で精神(せいしん)汚染(おせん)をきたさなかった者は皆無(かいむ)

 じゃあ、それもまた受け入れるさ。

 俺がオカシクなって他人様に迷惑をかけるようになったら、その時は泣いている二人にとどめでも……


 フワ~ン。フワワ~ン。


「?」

 なんだ?

 何かが、こっちに向かって、飛んでくる。今度は目に見えるほどゆっくりだ。

 フワ~ン。

 まるで、クラゲが泳いでいるみたいだ。でもさっきの水晶みたいな光を放っていない。

 水色。

 まるでアクアマリンみたいなキラキラした光を放ちながら、こっちにクラゲが泳いできている。

 フワ~ン。

 ピノンもメリュジーヌもまるで、気づいていない。

 俺のことなんかより、自分たちの心配をして欲しい。

 あれがトモビキスライムの変異体だったら、今度は二人の命を狙っているかもしれない。

 あれ。

 俺の体、動かない。脳をやられたからか?

 でも意識ははっきりしている。

 そして片目でも、あのフワフワは、ちゃんと目で追えてる。

 フワワン。フワワン。

 近づいてきたと思ったら、俺とは一定の距離を保ったまま、その場で宙を(ただよ)ってる。

 こちらの(すき)(うかが)ってるのか?

 何かのタイミングを計っているのか?

 それとも俺の見間違い?片目だから起きる目の錯覚(さっかく)か?


 ――これ、あげる。


 声?

 女の子の声?

 誰だ?


 ――これ、あげる。もう使わないから、あげる。


 あげるって、何を?

 《解析中。暗号(あんごう)判明(はんめい)。最適化の組合せを求める数式術。……計算終了まで250億年以上かかる恐れあり。遺伝的(いでんてき)アルゴリズム使用決定》


 ――あげるのは、()てるもの。


 《DNAコンピューター稼働(かどう)遺伝子(いでんし)操作(そうさ)開始(かいし)選択(せんたく)アルゴリズム、交叉(こうさ)アルゴリズム、突然(とつぜん)変異(へんい)アルゴリズム起動(きどう)

 フワワン。

 何と似てるんだ?

 《解析中。得られた解をPCRで増幅中(ぞうふくちゅう)……》


 ――死んだフリ。


 死んだフリって、俺と似ているのか、それは?


 ――似てる。死んだフリをするのと、


 《解析終了。解が判明。……極めて危険な()(けん)


 ――実は狂暴(きょうぼう)なところが。


 ……。

 ……。

 だから俺にそれをくれるのか?


 ――それだけじゃないけど、あげる。


 《不支持(ふしじ)。眼球内の亜空間(あくうかん)()に加え、魔剣の所持は副作用(ふくさよう)(ともな)う恐れあり》

 ……。

 ……。

 くれる理由がそれだけじゃないって、何なんだ。教えてくれ。


 ――うれしかった。


 ?


 ――(たす)けてくれてありがとう。だからお(れい)にこれあげる。


 ……。

 そっか。

 《不支持(ふしじ)

 ごめん脳内再生。俺は、もらう。

 《……是非(ぜひ)もなし》


 ――超曲面(ちょうきょくめん)破裂(はれつ)。6次元(じげん)ユークリッド空間から5次元部分(ぶぶん)多様体(たようたい)孵化(ふか)


 ヒュウウウウウウウウ……

 《報告。死んだフリスキル所持者の体内に魔剣シュクラサンゴが侵入(しんにゅう)

 サンゴか……死んだフリで狂暴……なるほどな。

 《……提案(ていあん)

 俺が自分勝手すぎて、もう人生あきらめろってか?脳内再生。

 《否定(ひてい)

 じゃあ、なんだ?

 《左眼球内の変異型魔物トモビキスライムの亜空間(あくうかん)展開術式(てんかいじゅつしき)は既に解読(かいどく)。亜空間名カルミナブラーナ》

 なるほど。

 それで?

 《亜空間カルミナブラーナは内部に核を持たない場合、死んだフリスキル所持者を呑み込んで、最後は消滅する》

 まるでブラックホールみたいにやばいな。

 《その予想を支持。そこで魔剣シュクラサンゴを亜空間カルミナブラーナの核として()えることを提案》

 そんな曲芸みたいなこと、できるのか?

 《死んだフリスキル所持者が魔剣に適合した幸運(こううん)を利用すれば可能。ただし魔剣シュクラサンゴの力は最小限に(おさ)えられる。亜空間支配のため、使用できる収納用空間範囲も限定される。しかし精神汚染の進行度合いは大幅に抑制(よくせい)可能(かのう)

 いいことづくめにしか聞こえないんだが。

 《片目を失明し、呪いの亜空間を背負うことは、良いこととは言えない》

 魔剣っていうからには武器だろ?

 武器が手に入っておまけに大きなカバンまで手に入った。

 しかもたくさんの魔物の命を奪っておいて目玉一個を犠牲にしてすむなら安い。

 《お人よしめ。小さく弱き命を落とさぬよう、ゆめゆめ用心せよ》

 心配してくれてありがとう。脳内再生。

 《……(ねつ)感知(かんち)

 ?

 《熱感知なら可能。死んだフリスキル所持者の(ひだり)(ほお)にピット器官(きかん)発現(はつげん)。赤外線を用いて(ひだり)視野(しや)(おぎな)え》

 ヘビみたいな能力まで……マジでありがとう。

 《亜空間カルミナブラーナへ魔剣シュクラサンゴを格納。亜空間の核として接続開始》

 俺は、みんなに支えられて、生きてる。

「テツタロウ!しっかりして!!」

 だから絶対に、あきらめない。

「ヒールウィンド!ヒールウィンド!!ヒールウィンド!!!」

 生きることを、守ることを、

 《接続完了。エルフの治癒魔法により脳の欠損部も再生。視神経正常。ピット器官完成》

 絶対にあきらめない!

 《死んだフリスキル所持者、釘崎鉄太郎(ていざきてつたろう)。目覚めよ》

「……あ」

「テツタロウ!」「テツタロウさん!!」

 メリュジーヌに膝枕をしてもらっている俺は、二人を見上げる。

「二人とも、大丈夫か?」

「何言っているのですか?」「大丈夫なのはテツタロウさんでしょ!!」

「ああそっか。俺はたぶん、大丈夫。二人のおかげだ」

「よかったです。ぐすっ、ぐすっ」「先に死んだら絶対に、許さないですから」


「死なないから平気」。


「「「?」」」

「平気?」

「「「……」」」

 えっと。

 《先刻魔剣シュクラサンゴを進呈してきた者と推定。代謝ならびに魔力測定を開始》

 えっと、そうじゃなくて。

「名前、なんていうの?」

 その、格好がやばい。

「あ、俺?」

「そ」

「俺は、鉄太郎」

「テツタロー……じゃあテッチ」

「テッチ?」

「うん。テッチ。テッチよろしく」

「「……誰?」」

 ギロリと謎の少女を見るピノンとメリュジーヌ。

 髪は水色のショート。瞳は黄色。

 見た目は明らかに少女。

 ピノンより少し幼く見える少女。

「私はアステロイダ・シンクヴェトリル」

「「……」」

 ピノンとメリュジーヌはアステロイダと名乗った少女の顔をじっと見た後、首の下へと目線を下げていく。

 これは、まずい。

 なんというか俺はちょっと、直視できない。

 透明感のある白っぽい肌。

 それをわずかしか覆っていない、マイクロビキニ。

 しかもブラトップがヒトデときた。

「何ですかその格好(かっこう)。っていうかどこから()いて出たんですかあなた」

「ちっぱいがオクリオオカミで壊した(ひつぎ)から出てきた」

「そう柩から……って「ちっぱい」は余計(よけい)だ!!」

「柩?ということはあなたが秘宝ウゴエ?」

「知らない。アステはずっと閉じ込められてた。ムカデデブより長い時間ずっと」

「「長い時間ずっと」の前に何か言いましたか?」

 なぜか出会って数秒で一触即発(いっしょくそくはつ)の空気になってる。

「ちょっと待ってくれ。ピノンとメリュジーヌ。こいつはさっき、俺を助けてくれたんだ」

「こいつじゃなくてアステ」

「ああごめん。アステが俺をつけてくれた」

「治癒魔法で助けたのは私です。このロリビキニではありません」

 ジト目で俺を見るピノン。

「私も声掛けをいたしました!」

 泣きそうな眼で俺を見るメリュジーヌ。

「そうなんだけど、えっと、どこから説明すればいいのか。あ、そうだ。()(けん)だ。魔剣をくれたんだ」

「マケン。なんですかそれ?」「魔剣……どこかで聞いたような」

「テッチとアステが一つになった()(くう)

「「……」」

 《報告。嘘ではないがエルフとムカデ女に妙な誤解を生む表現なので、訂正の必要あり》

「二人とも落ち着いてくれ。一つになったっていうのは(たと)えだ」

「どの辺が喩えなんですか?」「一つになったことは否定しないのですね?」

「そうじゃない!確かに心と体の一部も一つになったかもしれないが」

「「はぁ?」」

 《墓穴(ぼけつ)

「そしてテッチはアイの力で強くなった」

 アイって……なんて説明したらいいんだ脳内再生!

「「………」」

 《警告。エルフとムカデ女が殺気(さっき)(ほう)出中(しゅつちゅう)

「アレも前より大きくなった」》

「こんのおおお!?んぎゃあああ!」「神泉苑流じゅつぅああああっ!!」

「ピノン!メリュジーヌ!」

 アステロイダのヒップ部分のボトムからいきなり触手(しょくしゅ)が生え伸びて、ピノンとメリュジーヌをつるし上げた!しかも絡みつく!これまた直視できない光景だ!

 くそ!ここまで来てミッドナイトとノクターンに強制送還(きょうせいそうかん)されることになるのか……

()って」

「え!?」

 斬るって、何を?

「イソギンチャク」

「何この触手!絡まって……(しび)れて……」「(よろい)隙間(すきま)を入ってきますこれ!……毒……」

「このままだと二人は眠って、その間に窒息(ちっそく)しちゃう。だから斬って」

「……」

 アステロイダに凝視(ぎょうし)された俺は、立ち上がる。バトルアックスを握り直す。

「気を付けて」

 分かってる。二人を傷つけないように切らないと。

「テッチも食べられちゃうよ」

 は?

 ゾビュゾビュゾビュゾビュッ!!!

 イソギンチャクの触手が猛烈な勢いで枝分かれをし、俺に(おそ)いかかる。

 バインッ!!

 斧の刃をかろうじて触手に当てても、弾力が高すぎて弾き返される。

 ギュルオンッ!

「うおっ!?」

 たちまち俺は片足を巻きとられ、ひっくり返してつるし上げられる。

「足首でよかった。首なら窒息して死んでる」

 アステロイダにされるがままの俺。

 《斬れ》

 だからそんなことは分かってる。

 《魔剣で斬れ》

 え?

 《亜空間カルミナブラーナを開く。魔剣の力を得て、斬れ》

 そんなこと言われても、魔剣の力なんてどう使えばいいのか……


 《(なんじ)の〝悪夢(あくむ)〟が()っている》。


 ……。

 ………。

 …………。

「スー、フー……」

 《亜空間展開!》


 シュパオンッ!!!!!!!!!!!


「……」

 ひっくりかえっていた体勢(たいせい)を戻しながら、地面に着地する。

 ドシャドシャドシャドシャドシャ……

 アステロイダのビキニから伸びていたイソギンチャクの触手が細断(さいだん)されて落ちる。


 ォォォォォォォォ……


「これが、魔剣」

 俺は、手に握る禍々(まがまが)しい(つか)を見る。斧頭(ふとう)を見る。(やいば)を見る。

「そ」

「テツタロウさん、今の」「早すぎて、剣の動きが見えませんでした」

「テッチの魔剣サンズオクリ。サンゴはやっぱりテッチに似合う」

 《魔剣シュクラサンゴの力を宿した新たな魔剣「珊瑚(さんご)(おの)サンズオクリ」を獲得。追加情報、目の前のヒトデ娘は最強と(うた)われた亜人族(あひとぞく)末裔(まつえい)、すなわち海星人族(ビンタンラウト)と判明。能力値からして王族(おうぞく)

「おっと」

 脳内再生の情報を頭で処理している最中、裸足のアステロイダにタックルを受けたのに気づかず、倒れる。

 ドサッ。

「テッチすごい。助けに来てくれたのがテッチでよかった」

 チュ。

「!」

「ロリビキニ何してんだゴラアアッ!!っていうか体が痺れて動けない!!何とかしてくださいテツタロウさん!!」

「離れなさいハレンチ娘!そして私に分解できない毒の正体を教えなさい!!何とかしてテツタロウ!!」

「あ、あの」

「何?」

「二人の(しび)(どく)(なお)してくれないか?」

 俺は胸の上にいるアステロイダに頼む。

「無理」

「どうして?」

「だって……」

「?」

 スー、スー

 寝てる!?寝落ち?

 《報告。海星人族の娘はセキドイシの封印から解放された安堵(あんど)と魔力の酷使により疲労。回復のための睡眠に移行》

「まじか。やれやれ」

 俺はアステロイダを横に寝かせ、ゆっくり起き上がる。

 《報告。エルフとムカデ娘の体内でそれぞれ毒の分解が進行。ざっくり言えば、そのうち治る》

「俺の知恵袋によれば二人の具合はじきによくなるらしい。少し休もう」

 俺は立ち上がり、ザックを探す。けれどどこにもない。

 《既に亜空間カルミナブラーナの中に荷物はあり》

 ああそうか。収納してくれたのか。

 《用心せよ。亜空間は底なしの(やみ)。気を許せば闇は容易(たやす)(なんじ)()みこむ》

「わかってる」

 失った左眼の奥にわずかな熱を感じる。

 ドン。

 気づけば水筒が左手の上にある。

「とりあえずは水だ」

 キュポン。

 水筒(すいとう)の栓を抜き、俺はピノンとメリュジーヌに水を飲ませに向かった。


蟇目(ひきめ)「どうした?」

(てつ)太郎(たろう)「ん?」

蟇目「さっきから(まど)の外ばかり見て、どうしたんだ?閉めないと雨が降りこんで……」

鉄太郎「お父さんは、聞こえる?」

蟇目「聞こえるって、雨の音か?」

鉄太郎「違うよ」

蟇目「違う?……ん?何の音だ、これ」

 ヴィンヴィィーン……メキメキメキ、ドドーン……

鉄太郎「チェーンソーで樹木(じゅもく)()る音だって、マソラお兄ちゃんは言ってた」

蟇目「チェーンソー……」

鉄太郎「(たぬき)(おと)真似(まね)をするんだって」

蟇目「こんなにそっくり、しかもはっきりと聞こえるものなのか……」

鉄太郎「狸はいつも、こっそり人のことを観察(かんさつ)しているから、なんでもマネできるって、マソラお兄ちゃんは言ってた」

蟇目「タヌキ…………マソラ君は今、どこにいるんだ?」

鉄太郎「雨が()る前までは一緒(いっしょ)だったけど、雨が降り出してから、「(さき)(かえ)っていなさい」って言われたから、知らない」

蟇目「雨が降る前の森の中でも、こんな音が聞こえたのか?」

鉄太郎「……」

蟇目「鉄太郎?」


テツタロウ「()こえたし、(たぬき)もいっぱいいた」。


蟇目「え?」

鉄太郎「ちょっと前に、「狸は人の(おと)真似(まね)をする」ってマソラお兄ちゃんに教えてもらってて、今日虫取りに行った時にも、チェーンソーの音が聞こえた。だからお兄ちゃんに「狸がいるなら見てみたい」って言ったら、狸の所に連れてってくれた」

蟇目「……」

鉄太郎「狸は人に化けてて、みんなチェーンソーとか、見たこともない道具をもってた」

蟇目「……」

鉄太郎「狸は人の真似をしたがるんだよってお兄ちゃんは言って、「ちょっとここで待ってて」って、狸たちのほうに行っちゃった」

蟇目「……」

鉄太郎「狸たちはお兄ちゃんが現れてすぐは、お兄ちゃんをひどく怖がってたけど、お兄ちゃんが何か話し始めると、狸たちはすごく怒って、お兄ちゃんを突き飛ばした」

蟇目「……」

鉄太郎「あと、お兄ちゃんのこともつかんで、叩いた。手をグーにして」

蟇目「……」

鉄太郎「お兄ちゃんは口から血を流して、ほっぺも片方(かたほう)(ふく)らませて戻ってきて、それでその時からね、(あめ)()ってきてね、言ったの」

蟇目「……何て?」

鉄太郎「風邪(かぜ)を引くといけないから、鉄太郎は先にお家に帰ってなさいって」

蟇目「マソラ君は、それで、マソラお兄ちゃんは何をするって言ったんだ?」


鉄太郎「(わる)(たぬき)を〝ここ〟から()(はら)うって、言った」。


蟇目「………」

鉄太郎「お兄ちゃん、大丈夫(だいじょうぶ)かな。(たぬき)にまたパンチされてないかな」

蟇目「ちょっと、留守番(るすばん)(たの)む!」

鉄太郎「お父さん?」

蟇目「万が一マソラ君に何かがあるといけないから、様子を見て来る!」

鉄太郎「ぼくも行く!」

蟇目「ダメだ!(あぶ)ないから待ってなさい。それに鉄太郎がもしも雨に()れて風邪(かぜ)を引いたらマソラ君は悲しむし、虫採りにだって行けなくなって、鉄太郎もつらいだろう?」

鉄太郎「うん……分かった。お留守番(るすばん)する」


 ザァァァァァ――……

蟇目「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……なんだ、あれは」

 ブクブクブクブクブク……・

マソラ「こんな夜更(よふ)けの雨の中」

蟇目「!?」

マソラ「しかもこのような所に、何か用事(ようじ)ですか?」

蟇目「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あれは?」

マソラ「あれ?一体どれのことですか?」

蟇目(ひきめ)「あれだ!今、私がライトで()らしているあそこだ!」

マソラ「あれは、湖面に()く大量の(あわ)です」

蟇目「そういうことを聞いているんじゃない!」

マソラ「と言いますと?」

蟇目「あれは!何を(しず)めた?」

マソラ「沈める?泡の正体は湖底(こてい)細菌(バクテリア)が発生させたメタンガスかもしれませんよ」

蟇目「あんなに一か所だけで大規模に泡が立つはずがない!それにこの、山の斜面から続く泥のタイヤ(こん)!どうみても車が転落した(あと)だ!事故(じこ)でも起きたのか?」

マソラ「事故(じこ)……そうですね。事故と言えば事故」

蟇目(ひきめ)「?」

マソラ「(あわ)の正体はハイエースバンかもしれませんし、キャラバンかもしれませんし、エブリイかもしれません」

蟇目「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

マソラ「何人乗っていたのか。どんな状態にされて乗ったのか。誰も知りません」

蟇目「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 ザァァァァァ――……

マソラ「ケーブルを切断(せつだん)された投光器(とうこうき)も、油圧(ゆあつ)ポンプとエンジンが壊された重機(じゅうき)も、届け出をせず無許可(むきょか)伐採(ばっさい)を行っていた違法(いほう)盗伐者(とうばつしゃ)も、血まみれのチェーンソーも、あなたが追いかけてきた車の(どろ)(わだち)も、全ては雨が流す」

蟇目「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

マソラ「ここは(やま)都合(つごう)()いことも(わる)いことも、(すべ)てが(みず)(なが)れる場所(ばしょ)。だから誰も彼も居場所(いばしょ)がある。そして誰も彼も突然(とつぜん)いなくなる」

 トトテ、トトテ、トテ、テトトテンッ!

蟇目(ひきめ)「!?」

マソラ「スマホの着信音が聞こえますね」

 トトテ、トトテ、トテ、テトトテンッ!……トトテ、トトテ、トテ、テトトテンッ!

マソラ「つい先ほど、衛星(えいせい)通信(つうしん)端末(たんまつ)モデルが山道(さんどう)に落ちていたので(ひろ)ったのですが」

 トトテ、トトテ、トテ、テトトテンッ!……トトテ、トトテ、トテ、テトトテンッ!

マソラ「電話に出ますか?」

蟇目「!?」

マソラ「気になりませんか?誰が誰のために何の目的で通話を(こころ)みているのか」

蟇目「……」

マソラ「出れば手に入れた何かが(こわ)れるかもしれませんし、出なければ手に入れた何かを失うかもしれません」

蟇目(ひきめ)「…………」

マソラ「では、(みずうみ)()てますね」

蟇目「待ってくれ!」

マソラ「?」

蟇目「出る。電話に出る!」

マソラ「そうですか。ではどうぞご自由に」

 ピ。

蟇目「もしもし……」


(てつ)太郎(たろう)「お(とう)さん?」


蟇目(ひきめ)「……テツタロー?」

鉄太郎「お父さん聞いて!(たぬき)がね!狸がね!お(そと)にいっぱいいるの!」

蟇目「!!」

 ザァァァァァ……

蟇目「おい鉄太郎!(たぬき)って一体(いったい)(なん)のことだ!?」

鉄太郎「え!?お父さん聞こえない!あっ……」

 ヴアンッヴアンッヴアンッッ!!!ツー、ツー、ツー。

蟇目「鉄太郎!?鉄太郎!!返事をしてくれ鉄太郎!!」

山人「チェーンソーみたいな音が山から聞こえますね。確かあちらは釘崎(ていざき)さんのご自宅(じたく)……それにしても狸は音真似がうまい。死ぬほどに」

 ヴァンヴァンヴァン……ヴィィィィィィィィィン……

マソラ「どこで何を切ろうとしているのやら」

蟇目「君は一体、何を知……」

山人「そんなことより(みずうみ)(そば)山道(さんどう)の、ガードレールの(こわ)れているこんな待避所(たいひじょ)にいつまでも立っていると〝(だれ)か〟が〝誰か〟に〝あれ〟されてしまいますよ?」

蟇目「はぁっ!はあっ!……くそっ!」

山人「そう。()り返らず走ることです」

 ザァァァァァ……

山闇(マソラ)「雨が()む前、夜が明ける前、そして手遅(ておく)れになる前に、闇児(テツタロウ)の元へ帰れ」。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ