新しい旅へ
『シネん♪』
あ、すいません生きてたみたいなので戻りました。死後スキルはお詫びとしてプレゼントです。ゴーグル先生経由で付与しておきました~
「あのゴーグル何でもアリだな……」
ひとまず立ち上がって周囲を見渡す。
森しか見えない。おまけに腹も減ってきた。
その瞬間、木の陰からガサリと音がした。
「……獣か?まさかの即バトル展開?」
『シネん♪』
【死後スキル:戦闘回避】が発動しました
気づけば勝手に全力ダッシュして物音から逃げていた。
「俺の意思は無いのか?」
ゴーグル先生「AIはご主人様の命を第一に考えていますので~」
森を抜け――たどり着いたのは謎の村。看板にはこう書かれていた。
『サイショの村※整備中』
「おい待て、まさかこの世界、まだ未完成なのか?」
近づいてみると、村は工事中のテーマパークのようにスカスカだった。家の壁だけ、同じキャラが立ってるだけ、NPCたちが立ち尽くしている。時々「テキストを入れて下さい」と書かれた吹き出しがピコンと出る。
「これは……完全にバグってるな」
さすがに、ここにいても何も得られそうにない。走ってる間に見えた、高台に向かって歩くしかない。町の道を外れ、苔むした岩肌を滑りそうになりながら、なんとか登る。
「はぁはぁ引きこもりにはキツい……と思ったら、そんなに疲れないな?何かのスキルが働いてるのか」
画面にポップアップが表示される。
【進行中クエスト:周りを見てみよう】進捗:85%
がんばれ!
そして
頂上に立つと、木々の向こうに立派な町のような影が見えた。
「……あれは?」
画面にピンが立つ『中規模都市』徒歩で3時間
ようやく【まともそうな】場所を見つけた。希望の都市は遠い。
――
「……ん?」
街に向けて歩いていると何かの気配がする。戦闘回避が発動しないという事は、モンスターとかでは無いだろう。後ろを振り返ると、木の陰からひょこっと顔を出す人影。
「あっ、見つかっちゃった」
小柄な少女。フードをかぶって、背中にやたらでかいリュック。見た目は旅人っぽいが、やけに警戒心が薄い。
「もしかしてこっちの人?町までの道わかりますか?」
「あーごめん、わたしもバグで飛ばされたんだよね~。」
「バグ?」
「うん。全部ランダム設定したら開始地点までランダムになっちゃってさー。気づいたら山にいた。あはは」
アプリ:フレンド機能が解放されました
【旅人ユーリ】
※本当に友達になりますか?【はい】/【いいえ】
「いや誰が本当にって何だよ」
とりあえず【はい】を選ぶと、ゴーグルにピコンと通知。
『ユーリが仮フレンドになりました』
近距離で一定時間を過ごすと正式登録されます
「この世界、なんでもかんでも申請制だな……」
「便利っちゃ便利。街はさっき山の上から見た?あっちでしょ?」
ユーリが軽く手を振って示す。方向感覚だけはあるらしい。
「うん。とりあえず、同行ってことで」
「わーい、二人旅だー!イベントフラグたちそう!」
「立てるな! 余計なフラグ!」
2人でぐだぐだ言いながら山を下る。何だかんだと誰でも良いから1人よりは心強い。この世界に来て初めての人が、たぶん同じ地球からの転生者とは。ラッキーな気も、少し残念な気もする。
そして、その背後、木陰のさらに奥。赤いレンズのような【何か】が、静かに彼らを見つめていた。
『観測ログ取得中──』
句読点テスト