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違和感の正体

鍼治療の次の日


いつもよりよく眠れた気がした。


激変という感じではないのだが


腰の痛みもあまり感じない、薬は飲まなくてもよさそうだった。


あれ、なんか違う。体も動かしやすい。


「鍼で治るって。」


タロットの先生の言葉が頭をかすめる。


治るのかもしれない。



そういえば、少し前に会社の退職日だった。


腰痛もあって憂鬱すぎて考えたくもなかったが、もう無職の身の上だ。


腰痛が改善されるだけで無職でも大丈夫な気がした。


もしかしたら、前よりもっと良くなる気がした。



そうか…前より良くなればいいんだ。


不思議なほどの前向きな気持ちを手に入れた。


かまこは2年間自宅療養をしていたから、どこか体力面で不安だった。


もし、体力面の不安がなければ選択肢は必然的に増えることになる。


そっちの未来のコマを選ぼう。


未来は選べるのだ。


今だって過去の自分が選択してきた結果に過ぎないのだ


そう、不安から選び出した道に翻弄されていただけのこと。


かまこはこうして時々思い出したようにメソッドを発動させていた。



今日は出掛けようかな。


部屋には高さ1mほどの上部が棚になっている小さなタンスがあり、その棚の中にいつも出掛ける時に持っていく黒いショルダーバッグが置いてある。


バッグに手をかけたが手からバックがスルリと滑り畳の上へ落ちた。


あぁもう…


ショルダーバッグのファスナーが開いていた為中のものが飛び出てしまった。


おや?


スケジュール帳も飛び出ていてその間からメモがチラリと見えた。


かまこが歩けなくなる前に仕事をどう辞めようか考えていた時のこと、


近所に霊感のある占い師がいると知った。

おまけにその占い師の家には座敷童がいるとか…。


かまこは怖いことは苦手だ。だけど不思議なことは大好きだ。


近所に座敷童がいるなんて!逢いたい!ついでに仕事の事も占ってもらおう。

なんて鑑定してもらった時のメモだ。


この鑑定の時かまこは退職の作戦を練っていたのだ。

この日に仕事を辞めて、このぐらいの時期に次の仕事が見つかる。と書かれている。



「この会社経営状態が良くないわね…。社長は高齢でしょ?」


ダウジングをしながら先生は頭の中に浮かぶ景色を語る。


そうなんです、息子さんが継いだら潰れるという噂があるくらいです。


「ちょっと来年ぐらいから雲息が怪しくなりそうなのよね…退職する話してもいいかしら?」


え?


「このまま勤めても、ノルマがきつくなるだけよ。」


かまこはもっと努力しなさいと言われると思っていた。

結果は予想と違った。かまこが感じているモノと同じだった。


「日付を言うから、メモを取って。」

先生の目つきは変わり具体的な日取りが告げられた。


この日までは勤められなかったけど。


ついでにかまこは占い師は向いているか聞いてみたのだが、


すっぱりと

「あなた勘は強いほうだけど、もらいやすいからやめた方がいいわよ。癌になるから。」


………


あぁ!

思わず声に出して今まで感じてきた不調や出来事を思い出した。

思い当たることだらけだ。


人と話をするときかまこは聞き役になることが多い。

自分の話はあまりしないから、次第に相手は愚痴や不満まで話し始める。

止まらなくなって吐き出しきったところで、相手はスッキリして終わる。

お金を取りたいくらいのことをしている。

だから占い師とかいいんじゃないかと思った。


でもその後は疲れて帰ってくるパターンが多い。だから、女子会とか偏った集まりは苦手だ。


あの上司だってかまこが何も言わないことをいいことにハラスメント発言をかまこに浴びせ続けた。

その結果がヘルニアだ。


人は嫌いではないが、言霊の影響をかなりうけるほうだ。


「自分で払いよける力があればいいのだけど、かまこさんは払えないから。ため込んでしまいがちなのよね。だから癌とかになるのよ。」


ドキリとした。

そんな馬鹿な、やってもないのに向いてないなんてだけで諦めるのか?…なんて思う反面


1日中愚痴や悩みや不満を聞ける気力があるかどうかというとまず無いに等しい。



ちなみにこの鑑定をしてくれた先生はお弟子さんはとっていない。


教えたい先生はやってみたらいいと言うだろう。自分の利益になるから。


きっとそれだけのことだ。



拾い上げたメモと飛び出たもの達をしまうと、かまこはスマホを取り出した。


お金を払って習うのもいいが、かまこは気持ちが定まっていない。


このままの気持ちで受講したとしても、だいたいボーっとして授業が終わってしまうのがオチだ。



…気持ちが固まるまでは保留にしよう。


タロットの先生へこの間の鑑定のお礼と次回の受講を丁重にお断りするメッセージを打ち込んで送信した。


あの違和感はストップサインなんだろうな。


占いは楽しみながら続けていこう。


気持ちが少しスッキリした。



しかし、自分に向いてることって何だろう?


そういえば、座敷童が家にいる霊感のある先生にもみてもらっていた。


「んー…コミュニティ…?」

先生はダウジングで振り子をみながらつぶやく。


コミュニティ?


「人が集まるところがいいって」


人が集まるところ?!


思い浮かばない


「あなたは楽しい方がいいわよ。病気になったらつまらないでしょ?」


楽しい方がいいけど、思いつかない。


四柱推命をメインにして手相も観てくれた。


「経営者向きなのよね。勘もいいし、頭がいい。」


え、頭は悪いですけど。


「計算ができるとかの意味じゃないわよ。いろんなことを考えられるって事よ。物事の背景とか。」


…褒められてはいるけど、現実はポンコツ会社員でしかなかった。


あ、でも、流行り病が出てくる前に結婚相談の仲人をやってみたくて起業の勉強をしたりしていたのだが、流行り病のおかげで頓挫してしまった事を先生に話した。


先生はまたダウジングをはじめると、石が今までにないくらい揺れた。

「そういう方がよさそうね。」


でも、今仲人の仕事をやりたいかというと、そうでもない。


かまこは一応結婚して10年になるのだが、かまこ的に結婚は無理にしなくてもいいという結論に至っていた。


仲人というより婚活イベントとかの方がいいのかもしれないけど、イマイチやる気が起きない。


このヤル気がないのが何につけてもネックになっている気がする。


この時1時間鑑定コースにしたら時間が余ってしまって、先生の霊感について恐る恐る聞いてみた。


先生は霊感があるのですか?何か私の後ろとか視えますか?


「霊感ね。まぁね。かまこさんは…」

先生はかまこの後ろをチラリと視て


「生霊も憑いてないし、悪いものも憑いてないから大丈夫よ。」


え、そうなんですか。

(ほんとに視えているの?)


「旦那さんのご先祖様に守られているわよ。将来は心配しなくていいって。」


え?旦那の先祖⁈なぜ?

かまこの頭では結びつかない。


「ちがうのかな?すごく大きなものに守られているのよ。」


ひょっとして…毎日神棚に拝んでいるからでしょうか?

あともう1つ心当たりがあったが、それは言葉には出さなかった。

頭がおかしいと思われそうだったから。


「そうなのかな?」

先生は頭をひねりながら、かまこの後ろを視ている。


先生には何が視えているのだろう。


もし、かまこのもう1つの心当たりのものだったら?

かまこも視えるようになりたいと生まれて初めて思った。


もう1つの心当たりについてはまたゆっくり綴ることにして


それでも時間が余ったので、座敷童について聞いてみた。


「座敷童ねー。居るみたいなんだけど、夜にならないと出て来ないみたいなのよ。夜になると物音がするのよ。」


そーなんですか…残念。只今の時刻はもうすぐ16時。


視えるようになりたい。払いよける力が欲しい。

(かまこはいったい何になるつもりなんだ。)


そんなことを思いながら鑑定は終わった。



鑑定の後、

会社では社長が今までやってこなかった売り上げをあげるための取り組みの提出をそれぞれの店舗の店長に課し始めたのだが、

あの上司が打ち出した案は時間ばかりがかかる接客のわりに単価はあがりそうもない内容のものだった。


かまこはそんな様子をみて、この会社の人たちは今まで何をしていたのだろうか?と不安しかなかった。人を育てようともしない、という事は技術力はゼロ。

売り上げをあげようともしてこなかった。という事は怠慢でしかないし

挙句の果てに売れないのはお前のせい。と新人に堂々と言えるなんてどういうことだ?

やっぱり、辞めよう。

と決心がついたのだった。


そして、その後少ししてからかまこは歩けなくなってしまったわけだ…



ピロリン♪


タロットの先生からメッセージの返信が届いた。


「承知いたしました。またよろしくお願いいたします。」



縁を切ったわけではないから、またがある、何かの拍子でまたつながるかもしれないから、

今はこれでいい。


白黒ではなくグレーという選択肢が必要なこともある。


今はやる気もエネルギーも何もかも不足しているのだから。



















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