かまこが引き寄せたもの
リリさんはかまこの目をじっと見て口を開く
『1枚目の青い人はかまこさんを表しているの、
日が昇るまで解けないってことは
仕事に関しては、動けなくなっている状態がしばらく続くって事ね。
それまで待ってみるのもいいけど…このままでいられるかしら?』
「難しいと思います。」
上司の説教天国には戻りたくない。
『1枚目の死神のカードは手放しのカードだからね。早くここから離れてって、言ってるよ。』
かまこは少し安心した。
入社3ヶ月で正社員の仕事を辞めるのはいかがなものか、迷っていたところはある。
『2枚目と3枚目のカードからわかることはね。
美味しいものを食べたり、お友達とおしゃべりしたりしてごらんって、
そうしたら、腰の調子も良くなるよって』
確かにその通りだ。常識とかよりも理にかなっている答えでしかない。
『まずは自分を癒してあげて…』
かまこはハッとした。
「ずっとしたかったことです。」
美味しいものを食べて、おしゃべりしたかった。
でも先立つものがないからと働きに出た。
週6日上司に怒られていた。
小さなお店だったから一緒に働くスタッフは他の店舗からヘルプで来てくれている若い子だけだった。
少し話をしたりしたが、話していると上司が仕事をしろといわんばかりに指示を出してきた。
仕事には集中できなかった、
そもそもかまこにとって熱中できる商品ではなく、お客さんが来ても一生懸命おススメは出来なかった。
早く1日が過ぎればいい。
いつも思っていた。
かまこは自分の中のコップが空っぽだったことに気が付いた。空っぽどころかヒビが入っているんじゃないだろうか。
ヒビの入ったコップにいくら水を注いでもいっぱいになることはない。
そんな人が人に何かしてあげようとしたらどうなるか?
かまこの目から涙がこぼれ始めた。
『あらっ、ティッシュが今なくて!』
リリさんは少し慌てたが、かまこはハンカチを取り出し
「大丈夫です。」
涙をぬぐう
一息入れて、リリさんが続ける。
『最後のカードはクリエイティブっていうカードでね、
創造してって事なんだけど
理屈とか制限とか抜きで、自分のやってみたいこととか、どんな職場で働きたいとか、
どんな人と一緒に働きたいとか、考えてみてって』
忘れていた。
今の職場を決める時も、条件重視だった。
家から近くて、月給制で残業なしなら…なんでもよかった。
いざ勤めてみたら、上司は面接の時と態度も違えば、労働条件も変わっていた。
自宅療養直後の人間にはきついシフトだった。
かまこからすると上司に対して
信頼はまるでなかった。
言うことなど聞きたくもなかった。
接客云々販売云々さも自分が正しいと誇らしげに言うが
そもそも、無理のある人員配置だったのだ。
そういえば、面接だって15分で終わったくらいだ。
もっと細かく聞いていたのなら、多分断っていたはずだ。
後悔した。
最後のカードを指さして、かまこはつぶやいた。
「こういう気持ちを忘れていたから、死神を引き寄せてしまったんですね。」
『死神は決して悪いカードではないからね。
今までに一区切りつけてまたはじめましょう。って意味合いが強いから、
最後のカードに出たように自分のやりたいこととかなってみたい姿とか難しいこと考えずにイメージしてみたらどう?』
リリさんは机に両肘をついてほほに手のひらを当てて目をキョロキョロさせる。
『何かやってみたいことはない?』
それを見たかまこの脳裏にやってみたかったこと、やりたいことが次々に浮かんであふれ始めた。
その中のひとつにタロット占いをしている姿があった。
占いが好きだったし、最近の唯一の話し相手の若い子との共通の話題が占いで副業でできないかな?なんて
つい最近タロット占いの入門講座に申し込んだところだった。
「自分で占いとか、こういうタロットとかやりたいです。」
普段なら笑われるだけだからと
誰にも言うことがない願望をリリさんに話したくなった。
少し目を見開いてリリさん
『ちょうど、この喫茶店のママに頼まれていたのよ。占いを教えてって。
私も今は家のこととか仕事の手続きで忙しいから…来月の中旬以降なら大丈夫かもって話をしていたところだったのよ。
ひとりくらいだったらいいかな?って考えていたから、良かったらどう?』
タロット入門講座に申し込んでなかったら即答しただろうが、
入門講座を受けてから考えてもいいんじゃないか?と思い
「ちょっと、考えてみます。」
『そうね、
最後のカードを選んだ時かまこさんは宝石になるのかな?って言っていたから、
まだ見つけていないのかもしれないし、
少し休んだ先に見つかるのかもしれないから、ゆっくり楽しみながら考えたらいいよ。』
リリさんは微笑みながら話をしてくれる。
かまこはそれだけで嬉しかった。そういうものに飢えていた。
「今日は来てよかったです。
占いは怖いイメージがあったから。」
『全然怖くないわよ。
ママともそういうのなくしたいよねって話をしているのよ。』
占い師として働くならそんなお店がいいな。
未来を描いた。また来たい。
そう思いながら
リリさんに感謝の気持ちを伝えお店を後にした。
チリンチリン
少し雨が降ってきた。
神社へ参拝して家に帰った。




