鈍感 【MIRAI】
遂に土曜になり、未来は愛奈に指示された場所に立っていた。
『あのショッピングセンターあるでしょ?そこの前で10:00に来てくんない?』
愛奈に言われた通り10:00に来たのだが……
「……んだよ。まだ来てねーじゃん」
未来はズボンのポケットに手を突っ込みため息を漏らした。周りを見てもいるのはただ忙しく通り過ぎていく見知らぬ人ばかり。家族連れもいるけれどほとんどは仕事があるのかスーツを着ている大人ばかりだ。
もともと人が多いところが好きではない。ごみごみしていて……歩くのも人にぶつからないようにしなければならないからメンドクサイと言うのもある。何より……体が拒絶する。理由は分からないが……嫌なことに変わりはない。
未来は壁に寄り掛かると持ってきたipodを取り出してイヤホンを耳に付け、音楽をかけた。これと言って何を聞きたいわけでもない。ただの――暇つぶし。適当に選曲して再生ボタンを押す。それと同時に音楽が耳に入ってきた。
音楽に耳を傾けるわけでもなく、未来はただぼーっと空を見上げ二人が来るのを待っていた。
「ごめーん!!時間かかっちゃった!!」
そう言いながら慌てて駆け寄ってきたのは愛奈。そしてその後ろからおずおずと瑠奈がやってきた。
瑠奈はこちらを見ると少し恥ずかしそうにしながら柔らかく微笑む。
「お、おはよう」
「よーっす……って愛奈!!おせーよバカ!!」
「はぁ!?仕方ないでしょ!着替えるのに時間かかったんだから!!」
「んなこと知るかっ!!30分も待たせんな!!人多いし変な目で見られるし……」
「あーあーわかりました!!いちいち細かいんだから……」
愛奈は首を振って呆れたように肩をすくめた。その行動になんとなくカチンと来たがまた言い争いをするのも瑠奈に迷惑がかかる。それくらい、自分でも考えればわかった。
「ったく……ここ見て回るんだろ?早くいこーぜ?」
「うん。そーだね!アイちゃん、行こう?」
「はいはーい」
未来はパーカーのポケットに手を突っ込みながら店の扉を押し開け、二人が入ってから閉めた。
未来の前を通って行くときに瑠奈が「ありがと」と言って微笑む。愛奈はそのまま通過していった。
「(可愛くねーやつ。瑠奈とは大違いだ……)」
自分の幼馴染は一体どこから変わってしまったのか……そんなことを考えながら未来は楽しそうにショッピングセンターを見回している少女たちを後ろから見つめていた。
さんざん店を回り2時間。すでに12:00を軽く超えている。
その時すでに未来は精神的にぐったりしていた。内心ため息をつき、無言で愛奈たちの後を追う。すると愛奈が不意にケータイを開いて「あっ」と言った。
「もうこんな時間……お昼にする?」
「うん。あの……未来君、大丈夫?疲れてるみたいだね」
「あー……へーきへーき。気にすんな」
心配そうに声をかけてきた瑠奈に未来はひらひらと右手を振ってそう言った。内心疲れていたし、もう帰りたいのだが……そんなこと言ったら恐らく愛奈からの怒りを買うことにだろう。それだけはごめんだ。
未来たちはハンバーガーを買い、席に着いた。
「てかさ、未来さっきから何にも言わないじゃん。何?いつものテンションはどこに行ったのかな~?」
「うっせ!!……人多いとこ、嫌いなんだ」
未来はハンバーガーにかぶりつき、そっぽを向いてからそう呟く。その呟きを聞いたのか瑠奈が眉をひそめて申し訳なさそうな顔をした。
「そっか……ごめんね?わたし、一度行ってみたかったの……――と」
「?なんか言った?瑠奈」
「えっ!?何でもない!!何にも言ってない!!気のせいだよっ!!」
瑠奈は慌てて大きく首と手を振りジュースを一気に飲み込む。その様子に愛奈がくすりと笑ったのが分かった。瑠奈はそれに気づいたのか、かぁっと顔を赤らめ、うつむく。
だが未来にはその行動の意味がわからなかった。声をかけてはいけなかったのか?
訳の変わらないまま未来はジュースをズーっと飲み込んだ。
そんな自分を見て幼馴染が悲しそうな顔をしていることに気づかずに。
久しぶりの更新です。
内容があれですが、午後の予定は愛奈視点で行きたいと思います。