天光 【AINA】
「土曜日?瑠奈と?」
昼休みの中庭。
愛奈は未来を呼び止めて今週の土曜日、瑠奈と約束していたことを話した。
しかし未来は首を少しかしげて「なんで?」と言ったような顔をする。愛奈はその表情に少しムッとして未来に指を突き付けた。
「どーせ暇なんでしょ?ちょっと付き合いなさい」
「……まぁいいけど。オレは『暇』だし!」
そう『暇』のワードを強めて唇を尖らせた未来の顔はまるで幼いころを思い出させる表情だった。心の中で微笑むが表情は未来と同じように愛奈も唇をとがらせる。
「いつまで経っても子供なんだから……少しは大人になりなさいよ!」
「るせー!!愛奈だってガキの頃からそればっかりじゃねーか!ったく、母親じゃあるまいし……」
いつもの喧嘩。しかし、未来の最後の呟きに愛奈はどこか寂しさを感じた。
……だが、理由なんてわからない。あの短い呟きに何の意味があったのだろうか?自分でもわからないことが不思議だった。
だが、深くは考えない。昼休みだとはいえ、クラスの男子がどこで見ているか……気を配らなければならないのは正直メンドクサイが仕方がない。
愛奈はそれを忘れようとするように不満そうな未来の背中をいつものように――いやいつもよりも思いっきり叩いてやる。
「イテ!ちょ、強すぎ!あー背骨折れた~」
芝居まぎれに大げさな動きで背中をさする未来に愛奈は手を引っ込めて顔をそむけた。
「馬鹿言ってないでしゃきっとしなさい!!子供扱いされたくないならねっ」
そう言いながらも心の中で「少し強すぎた」とうなだれた。幼いころからこのやり取りは続いている。
愛奈にとって未来は『弟』のような存在であった。
だから、つい言いすぎてしまう。それは自覚はしているのだが治しようがない。
未来は背筋を伸ばすと敬礼の真似をした。
「ほら、これでシャキッとなっただろ?」
そういっていたずらっぽい笑顔を浮かべる未来に愛奈は少しだけため息をついた。
……未来に何を言っても通じはしない――そう思った瞬間だった。
放課後。
部活を抜け出し、愛奈は美術室に向かっていた。理由は『親友』に会うため。
美術室の前で足を止め静かに扉を開く。そこには外の風景を描く、『瑠奈』の姿があった。
「瑠奈~」
「あ、アイちゃん!来てくれたんだぁ」
がたん、と音をたてて椅子を押し、瑠奈はたたたと小走りにやってきた。
瑠奈は高校でできた『親友』だ。
背も小さいし、顔も声も可愛い。性格だって優しくて明るいし、成績もいいが体が弱いらしく体育には出られない。いつも見学していた。――そんな彼女はクラスの『人気者』だ。
愛奈はそんな彼女を『アコガレ』の存在だと思っていたが、彼女と『親友』になってからは、純粋にクラスメイトと同じく彼女の事が『好き』だった。変な意味ではないが。
瑠奈は優しげな微笑みを浮かべながら、「今日はどうしたの?」と首をかしげる。
「アイちゃんが部活の仕事をさぼってまで来るなんて珍しーね」
「さぼってるわけじゃないんだよ?――それより早く瑠奈に伝えたくて!」
苦笑いの後に瑠奈の両手を握りしめた。瑠奈は突然両手を握られたことにかなり驚いた表情を浮かべる。だが愛奈は気にしない。
「瑠奈!土曜日良いって!よかったね!」
「え?ほ、ほんと?ほんとに?」
うっすらと頬を赤らめて問うように愛奈を見つめてくる瑠奈の表情はどうしようもなく可愛かった。
女の自分が可愛いと思うのだから誰が見ても今の瑠奈はテレビで出ているアイドルやモデルよりの数倍可愛い。……さすがに言いすぎかもしれないが。
愛奈はそんなことを思いつつ大きく何度もうなずく。
「ほんと、ほんと!あ~……楽しみだなぁ土曜日」
「う、うん……き、緊張するなぁ……」
そう言って少し困ったように微笑む瑠奈。顔はまだ赤い。
愛奈は瑠奈を手を離すとガッツポーズで思いっきり微笑んだ。
「だいじょーぶ!!あたしも出来るだけの事はするから!」
「うん……ありがと、アイちゃん!わたし、頑張るねっ」
そう言い会って笑いあう二人の少女は本当に幸せそうだった。
『親友』のためなのだから、今は何があっても自分のできるだけの事はしておきたい。
それが、瑠奈のためになるのなら……自分の曖昧な感情は今はどうでもいいと思った。否、追求するのも面倒だった。
複雑な感情を心の隅に置いたまま愛奈は冷たい廊下を一人静かに歩いていく。
――そんな彼女を見守るのは暖かな太陽の日差しだけだった。
ああ・・・
訳分からんことに・・・
何かありましたらお伝えくださいm(__)m