輝き 【MIRAI】
放課後。
バスケ部に所属している未来は部活のため体育館に来ていた。
秋になると新人大会がある。そのために現在バスケ部は練習に力を入れているのだ。
ちょうど今は休憩を終えて次の練習メニュー『5対5』の試合形式の練習をしている真っ最中だった。
「リバウンドっ!!しっかりとって!!」
愛奈の声が体育館の中に響き渡る。コートの中を駆け巡る未来の耳にも届くほどの声の大きさだった。
愛奈はバスケ部のマネージャーを務めており、常に選手の動きに目を光らせている。ある意味コーチより怖いかもしれない、と言ったら言い過ぎかもしれないが。
その時、ボールを取った仲間が囲まれ、動きが止まった。
「っと」
近くにいた自分のもとにパスが回ってくる。とりあえずドリブルをついてフロントコートまで運ぶが、相手の守りがなかなか堅い。
「(どーっすかな)」
ドリブルをつきながらどうするべきかと考える。今相手にマークされていない仲間はいない。
もちろん、ボールを持っている未来のところにも、『ゴールには行かせまい』と言った表情で睨みつけてくる同学年の『依早湊』が未来をマークしていた。
「(……行くっきゃねぇよな)」
時間も残りわずか。この状況からしてうだうだとパスを回してカットされるよりも、自分で突っ込んでシュートを決めたほうが先決だ。
未来は姿勢を少しだけ低めて湊を振り切った。足には自信がある。
「っつ!」
いきなりスピードを出した未来に驚いたのか湊のそんな声がかすかに聞こえた。仲間を守っていた相手も慌てて未来をマークする。
だが。
ポス。
未来のドリブルシュートは見事に決まり、相手の攻撃になったところで試合が終わった。
「相変わらず足だけはすげーよな?」
そう赤い顔で息を切らしながらちゃかしてきたのは湊だった。
未来はタオルで汗を拭きながら唇を尖らせる。
「んだよ、『足だけは』って!!オレだっていろいろ頑張ってるんだっての」
「どーだかなぁ。自分で思ってることよりも世間の目は厳しーぜぇ?」
「へーへーそうですね」
適当にあしらって部員を集めていたコーチのもとへと急ぐ。コーチは元バスケ部部長を中学高校と続けていたすごい人物だ。
そんなコーチは未来の憧れでもあった。
「よーし。今日の部活はこれで終わりだ。1年生、片付け頼んだぞ~」
そう言ってコーチは踵を返すとそのままひらひらと手を振りながら体育館を出て行ってしまった。
コーチは何を考えているのか……大会まで一か月ないというのに、なぜ早々と切り上げるのだろう?未来にはわからなかった。
「未来、おつかれ~」
愛奈の声にハッとして振り返ると後ろにはジュースを持った愛奈がいた。
「お、サンキュー」
愛奈から差し出されたジュースのボトルを受け取ってから未来は微笑む。
「最後のシュート、あんな所からよく決めたね。無理な体勢だったから絶対に入らないと思ってたんだけど……」
愛奈がゴールを方をちらりと見てそう言った。その言葉にまた唇を尖らせる。
「オレの中では確信してたの!てか、あんだけ一斉に囲まれたら無理でも打たないとって思うじゃん」
「そーかもね」
未来の説明にくすりと笑って愛奈は「先に行ってるから」と体育館を後にした。
「ごめん、遅くなった」
「だいじょーぶ。そんなに待ってないから」
愛奈はそう言うと校門の壁から背中を離し、スクールバッグを肩にかけ直す。慌てて学校から飛び出してきたので内心息が苦しかったが、愛奈の手前、そんな表情はできない。
「(カッコ悪いしな)」
不意にそんなことを思って、未来は心の中だけで苦笑いした。
風がどこからか吹いて来てひゅう、と二人の髪や制服を揺らす。風は冷たかったが、今は心地よかった。小さく息を整えながら未来は家路を歩きだす。
「さて、帰りますか~」
「そうしますか~」
そう言って笑いあう未来と愛奈。幼馴染の二人は他人からみればカップルだろうが、未来はそんなことを思ったことはなかった。一度も……なかったはず。
街を中を歩いて行くとぽつぽつと明かりが付き始め、夜の訪れを知らせてくれる。その景色を見るのが未来は好きだ。
淡い明りが輝く街は昼間よりもきれいに見える。その景色は昔から未来の好きなモノでもあった。
闇が濃くなる一方で街の輝きは闇を照らし、だんだんとにぎわいを増していくのだった。
幼馴染の二人。仲がいいために……
っていうのを追求したいと思います。