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仲間 【MIRAI】

 真っ白な病室の壁。頭はもう何ともない。でも足が痛い。ずきずきと胸の奥底をつく痛みのように痛んだ。

 『一人』は好きだが『独り』は嫌いだ。『孤独』は未来が感じた恐怖でもっとも恐ろしいものだから。

 この病室はその孤独をかきたてる。自分の生きるための動作から生じる音しか聞こえなくなることが怖い。真っ白で無機質な壁が床が、シーツが自分だけ世界から孤立してしまったような酷い孤立感を思わせて怖い。

 未来は軽く頭を振り、ぼうっとベッドの上に投げ出された自分の足を見つめた。

 行かなきゃな。

 みんなが待ってる。

 未来はスウェットにパーカーを羽織り、ベッドの隣に立て掛けられていた松葉杖を掴むとベッドから降りた。




 ギブスに松葉杖をつきながら大会の会場に足を踏み入れる。入った瞬間ボールのつく音と大きな歓声が耳を打ってきた。


「…………」


 いつもならこの音に、声に胸を高鳴らせ、すぐに駆けだすのに――

 ふと視線を落とすとおかしいくらい固められた足が見えて笑ってしまった。


(俺って、こんなに弱かったんだな)


 怪我で倒れるなんて、自分らしくない。……その前に、自分ってなんだ……?

 ゆっくりと歩み始めた足が止まる。先ほどまで耳に入っていた音がすべて聞こえなくなる。

 もし。もし、自分が何であるか知ることができるなら、もしかしたら複雑な感情に頭を抱えることはなくなるのかもしれない。

 嬉しい、怖い、楽しい、辛い。そして『寂しい』。

 いろいろな感情がごった煮で頭が痛くなる。

 

「……アホらし」


 とにかく急ごう。みんなが戦っている。自分の分まで頑張ってくれている。

 未来はまたゆっくりと一歩ずつ歩き始めた。




「一本決めてくよー!!」


 会場のギャラリーに着くと聞きなれた声が耳に入った。愛奈だ。

 見るとギャラリーにはかなりの人数がいる。各高の応援団なのだろうか。それともOBだろうか。たくさんの人たちがギャラリーからコートを見つめている。

 ギャラリーの階段を下り、コートに一番近いところを陣取って松葉杖を投げ出した。手すりをつかみ、身を乗り出す。

 ――点差一点。最終ピリオドで残り時間約五分。勝っているのが『桜田南』だった。


「勝ってる……!?」

 

 思わず呟いてしまった。自分の高校が勝っている。丘の上は先輩たちが負けてしまった学校だ。自分たちのプレーとはまるで逆の繊細かつ隙のないプレーで点を入れさせてなどくれないのに。


「あ、未来先輩!!」

「未来!!」


 後ろから名前を呼ばれ、振り返る。するとそこにいたのは女子バスケ部の部員だった。


「女バスは試合終わったのか? 結果は?」

「もちろん勝ったに決まってるじゃん。このまま次の試合も勝つんだから」


 なつきが階段を降りながら笑う。そして未来の足に目を向けて少し眉間にしわを寄せた。


「足、大丈夫なの?」

「ん、まぁ……全治一カ月とか言われたけどすぐ治るよ」


 なつきの後を追って何人か階段を下りてきて俺の隣に並んでコートを見つめる。

 それに気がついたのか愛奈がハッとした表情でこちらを見た。

 未来は軽く手をあげ、笑って見せる。それにこたえるように愛奈も手を振った。そしてなぜか少し悲しそうに笑う。

 

なんでそんな顔で笑うんだよ。


 昨夜、病室の扉越しに語った彼女の声が頭の中で反響する。

 愛奈は自分のせいで未来が怪我をしたと思っている。未来には愛奈がなぜそこまで自分を責めるのかわからない。

 だから、なぜそんな悲しそうな顔で笑うのかもわからなかった。

 途端、歓声が上がる。悠がスリーポイントを決めた。残り時間は約三分。このままいけば確実に勝てる。無意識のうちにこぶしに力が入り、胸がどっと熱くなる。


「後三分だ!! 集中して決めてくぞ!!」


 次の瞬間には思わず叫んでいた。観客たちが少しどよめくが関係ない。自分はこのチームのプレイヤーだ。


 「未来……!?」


 コートの中の仲間たちが振り返って目を見開く。その驚きの顔はすぐに笑顔へと――自信に溢れた笑顔へと変わった。


「さぁ、うちの『ムードメーカー』の登場だ!! 気ぃ抜くなよ!!」

「オオ!!」


 チームがより一層結束を固めた。それと同時に動きもキレが良くなる。


「やっぱりあんたはうちの部には必要だね。さっさと足、治しなよ!」


 なつきが遠慮なく背中を叩いてくる。

 白くて細い腕のどこにこんな強い力が隠されているのだろう。ものすごく痛い。


「いてぇよなつき。言われなくても治してやるよ」


 そう笑い、未来は何度も何度も仲間たちに声援を送った。

 コートにいなくても、自分のことを仲間だと言ってくれる人たちがいる。ここが自分の居場所なんだ――未来はそう気付いた。

 きっとずっと前から気付いていたのだ。ただ、それが当たり前すぎて見えなくなっていた。日常を感じられない今ならわかる。

 


 

 ただ一つ、一つだけ見えなくなってしまったものがあった。そのことに未来は気付かなかった。気付いていながら目をそらしてしまった――



長らく更新が滞ってしまい、申し訳ありませんでした・・・

不定期更新ですが、見守っていただけると嬉しいです。

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