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記憶 【AINA】

 今日、これから夜練がある。愛奈はふぅとため息をつきながら荷物を詰めていた。

 明日はいよいよ新人大会。自分たちの代、と言うことも影響しているのだろう、緊張する。

 マネージャーが緊張してもあまり意味はないのだが……


「後悔はしてほしくないなぁ……」


 手を止め、ぽつりとつぶやく。フローリングをぼーっと見つめ、愛奈はペタンと腰を下ろした。

 せめて、未来たちには決勝まで行ってほしい。

 愛奈が高校に入って初めての大会では見事優勝を飾り、県大会まで駒を進めた。だが、県のレベルは高い。県大会では一回戦敗退という結果で終わってしまったのだ。

 今の三年生の代の新人大会は勝機こそ見えたものの最後の一歩が足りず、4点差で一回戦敗退。

 そして今年の総体では二回戦まで進んだものの『丘の上高等学校』――今回の相手校のに負けてしまった。

 だからこそ――


「県大会、なんて無理かな……?」


 高望みしてしまうのだ。






 静まり返った夜の高校。その横の体育館だけが明るく輝いている。バスケ部の夜練だ。

 愛奈は色々考えているうち、準備することを忘れ慌てて家を飛び出してきたのだった。

 もちろんのことだが、完全に遅刻だ。

 大慌てで高校の門をくぐると一年生のものだろう、甲高い声が外まで聞こえてくる。愛奈は荒れた息を整えながら体育館の下駄箱に乱暴に靴を入れ、体育館の重い扉を押し開けた。

 扉を開けた瞬間、感じるのは汗のにおいと熱気。そしてボールが跳ねる音とバスケシューズがキュッキュッと床をこする音が聞こえる。もちろん、気合の入った掛け声も。


「おせーよ!なにしてたんだよ」


 靴をはくため下を見ていた愛奈の頭上にかけられた言葉。声の主から未来だと分かった。


「ごめんって、ちょっと考え事してたら時間忘れたの」


 靴をはきながらそう呟いて愛奈は顔をあげた。

 すると目に入ったのは珍しく前髪を結んだ未来の姿。Tシャツにハーフパンツ。ナンバーリングをつけた彼は額に汗をかいていた。


「考え事?」


 未来は汗をTシャツの袖で拭いながらそう言った。


「明日の事なら大丈夫だって、オレがいるんだから」


「アンタだから心配なのよ……」


「あ!?何が心配なんだよ!」


 うー、と唸りながら未来は愛奈を睨みつける。それに対して愛奈は首をかしげ、微笑んでみせた。

 そんなやり取りをしているとこちらに気がついたのか女子部長の羽賀はがなつきと男子部長の大知悠だいちゆうが駆け寄ってきた。


「遅かったね、愛奈」


「体調でも崩したのかと思ったよ」


「ごめんねぇ……」


 女子部長のなつきは華奢な体つきからは考えられないほどバスケがうまい。なによりドリブルの速さとシュートの正確さはずば抜けているのだ。性格は男っぽいがそこがみんなに好かれている。

 男子部長の悠は成績優秀で生徒副会長までやっている。冷静な判断と正確なパスが彼の特権だ。性格は穏やかで怒った姿を見たことはないに等しい。

 二人とも、信頼できる人間だ。

 平謝りの愛奈に悠が慌てて手を振った。


「遅刻とはいえ来てくれたんだから良いよ。それで、俺たちから相談なんだけど、いいかな?」


「うん、何?」


「実はさぁ……」


 愛奈が頷いてからなつきが間髪を入れずに作戦板を取り出した。

 相談とは明日の攻め方についてだった。マネージャーから見ての動きのアドバイスだ。悠も同じ相談らしい。

 愛奈は一年生に明日の準備を頼み、二人と共に作戦板を取り囲んだ。

 その間にいつの間にか未来は練習に戻っていた。






「……よし、ありがとう!これなら大丈夫かも」


「うん、この作戦なら湊が一番あってるもんね。ありがとう、愛奈」


「ううん、あたしにはこれくらいしか出来ないけど……明日に向けてがんばろ!!」


 愛奈はオーっと言って腕を高く振り上げた。なつきもそれをまねて笑顔になる。二人はもう一度「ありがとう」と言うと練習に戻って行った。

 その二人の背中に小さく「頑張れ」と呟きながら愛奈は明日の準備に急いだ。もちろん練習している部員たちのドリンクやタオルの準備もだ。

 一年生の女子はきちんと手伝ってくれるが男子をもなるとなかなか言うことを聞いてくれない。けれど、私語をしているわけではない。ちゃんと未来たちの練習を見ているのだ。

 愛奈はふ、とため息を落としコートに背を向けタオルを氷水から取りだして絞る。氷水から上げた細い手はかじかみ、赤くなっているがこれくらい、練習している部員達に比べれば辛くなんて、ない。

 その時だった。


「あっ!?」


「先輩!!」


 一年生の男子がざわざわと騒ぎ始め、コートの中に入って行く。愛奈はどうしたものかと振り返えろうとした。

 だが、聞こえた誰かの声に思考が――止まった。


 ――未来!


 未来?未来がどうしたの?

 愛奈は嫌な汗を背中に感じた。寒いのに汗が噴き出る。恐る恐る振り返ってみると、目に映ったのは――


 みんなに囲まれているダレカ。倒れている『ダレカ』。


 そのダレカを理解するまで何秒かかっただろう?

 ダレカを理解する前に視界がうるんで景色がにじみ出す。

 愛奈の思考が始まった瞬間、反射的に叫んでいた。


「――未来!!」




 過去に味わった恐ろしいほどの虚脱感……あの時の嫌な感じがする。

 愛奈は記憶を巡っていた。

久しぶりの投稿です……

すみませんでした。

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