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雨女と陽だまりのバス停  作者: 陽野 幸人
第四章 香雨

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第四章 香雨 1

 泣き止むまで、みんながいてくれた。

その後、愛衣ちゃんは部活へ、園山君は他の部活へ見学に行くと言っていた。

スポーツ推薦で入学したはずの園山君の行動に、私は不思議に思ったけど、手を振り上げた彼の笑顔に問いかけるわけにもいかない。

二人を見送った後、雨が囁く教室内には何人かの生徒が談話などをしている。

先程のやりとりを見られていて、少し恥ずかしくなったけど、ハルさんを見ると私に笑顔を向けてくれた。


「どうする? 帰る?」


「……うん。私……スーパーで買い物していかないと……」


「そっか。じゃあ……私も付き合っていい?」


「え……うん」


 朝の登校時と違って、昇降口の濡れた表情は随分と薄くなっている。

雨空は朝と変わらずに私たちを見下ろしていた。

傘が当たらないように歩道を二人で歩いている。

いつも一人で歩いている道程に、人が隣にいることが新鮮だ。


 学校近くのスーパーに到着すると、店内は子連れの母親の姿が多く見受けられる。

子どもが母親にお菓子をねだる様子だったり、はしゃいでいる姿が微笑ましかったし、羨ましいと思った。


「あ……これ。これでしょ? 園山君が言っていた、ぶどう」


 小さな実が密集した果実のパックを持ってハルさんが笑っている。


「うん……そうだよ」


「――買っていこうかな。久しぶりだし……あきちゃんは、ぶどう好き?」


「うん」


「こっちは、シャインマスカット……少し高いね」


「うん……時期も少し早いから」


「そうなんだ……愛衣ちゃんの方にしよう」


 二房入ったパックを手にして、ハルさんは雨の雫で色変わりしている店内を歩いていく。

野菜のコーナー、肉類のコーナー。

私は買い物客が吟味している間を縫うように、食品をカゴに入れていった。


「ねえ、あれ食べない?」と、ハルさんが指差した先に視線を合わせると、試食のウインナーを販売員さんがホットプレートで手際よく焼いている。

ウインナーの焼ける香りが私たちの元に届いていた。

近年は見かけなくなっていたけど、再開したのかな。


「うん、やっぱり……焼き立てのウインナー、おいしい」


「うん……そうだね」


 嚥下した後で、販売員さんの隣に陳列されたウインナーの袋をカゴの中へ一つ迷い込ませる。


「ありがとうーございます!」と、大声で言われてカゴに手をぶつけてしまう。


 一人の時は、販売員さんから試食の声をかけられても逃げるように立ち去ってしまうから、今日は食べられて、どことなく嬉しかった。


 少しの停滞を見せていたレジの会計を終えて、再び雨の中を歩き始める。


「――買い物して、お弁当も自分で作っているんだね」


「……うん」


「私、料理ほとんどしないから……。あきちゃん、すごいよね」


「そんなこと……ないよ。ハルさんの……家、こっちの方向?」


「うん。高校から近いから。あきちゃんが乗るバス停の近くだよ」


 スーパーに向かう道中で、私の出身地や乗車しているバス停の話をしていたけど、ハルさんの家が帰りに乗るバス停の近所にあるとは思わなかった。



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