表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨女と陽だまりのバス停  作者: 陽野 幸人
第三章 勇気

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/56

第三章 勇気 8

 ハルさんの思いやりが嬉しいけど、相反する感情が私の胸にあるから、お弁当を引っ込めることはしなかった。


「あの……いいよ、食べて」


 二人の萎んでいた向日葵は太陽を見つけたように嬉々としたものに変わる。

各々が肉詰めピーマンと玉子焼きを箸と指で掴んでいく。

愛衣ちゃんと園山君が口内に運んでいく姿を見た後で、ハルさんにお弁当を向ける。


「嫌じゃなかったら……食べてみて」


「え? 嫌じゃないけど……あきちゃんの食べる分がなくなっちゃうよ?」


「……うん。大丈夫。お祖母ちゃんに……教えてもらった玉子焼きだから……ハルさんにも食べてもらえたら……」


「うん……じゃあ、頂くね。ありがとう」

 

 玉子焼きを口に運んだハルさんは「本当だ……おいしい。あきちゃん、すごいね」と、笑顔を向けてくれた。


 お米は陣形を崩していないけど、おかずの戦力は半分以下になっている。

でも……そんなことは、少しも問題じゃなかった。

お腹よりも心が満たされているから。

空腹感に勝る気持ち……みんなが喜んでくれてよかった。


「ねえ、あきちゃん。これ、あげる」


 高校球児が食べるような大きい弁当箱から、愛衣ちゃんが箸で引っ張り上げた揚げ物を私の弁当箱の蓋に置いてくれた。

揚げ物は、私の手ぐらい大きい。


「メンチカツ……?だと思うよー」


「あ……ありがとう」


「愛衣の家は、惣菜屋をやっているから、うまいよ。俺も……これ、やるよ」と言って、恋人同士の仲を引き裂かれたチョコレートパンが斑模様の顔を向けている。


「はい。コンビニのおにぎりで、ごめんね」


 半分に割られた、おにぎりをハルさんから貰う。


 私の弁当箱の蓋は、みんなから貰った食品で埋まった。

私のお弁当と合わせると、炭水化物が多いことが少し気になったけど。

それでも……嬉しい。

一人じゃない、ご飯の時間。

みんなで食べ進めていく、ご飯の時間。

みんなで食べる、ご飯って……やっぱりいいな。


「園山……パン大量だね。そのメロンパン……私に献上しろ」


「嫌だよ、これは俺が帰りに食べる用だ。大体、お前どんだけ食べるんだよ! 米だけで、五合以上あるじゃん! 力士でも目指しているのか?」


「私は食事トレーニングしているの! 無理して食べてるの! やめてくれる!? 大食漢みたいに人のこと言うの!」


「いや、野球部の連中も真っ青だよ! 余力を残しての食トレ! 雨宮もビビるだろ? こいつの食いっぷり」


「あ……うん……すごいけど……でも、身体が細いから羨ましい。空手の練習、頑張って……いるんだよね」


「あきちゃん! わかってくれて、ありがとう! 大変なんだよ? 食事トレーニング!」 


「いや、いや! そうは見えないんだよ。野球部とかは無理して食べているけど、愛衣は余裕すら感じる!」


「強がっているだけだから! 強がる女子なの! 本当は、か弱い女子!」


「か弱い……? 男子と組手しても、ボコボコにする……お前が?」


「それは、空手の話! 普段の私は、心が打たれ弱い女の子なんだから!」


「弱い女の子……? 愛衣……君は、どうやら思い違いをしている。世の中の人間は、君が思っているほど強くないんだ。脆い生物なんだ!」


「はい、はい。二人とも喧嘩しない。あきちゃんが怖がるから」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ