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雨女と陽だまりのバス停  作者: 陽野 幸人
第二章 憂慮

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第二章 憂慮 4

 お弁当をカバンから取り出して、雨粒を見ながら食べ始めた。


 出汁巻玉子も好きだけど、お祖母ちゃんに教えてもらった甘い玉子焼きが好き。

お弁当に詰めるのは、甘い玉子焼きが定番だった。

鶏の唐揚げ、玉子焼き、ウインナー、ほうれん草のソテー、ブロッコリー、ミニトマトを食べすすめていくと、ため息が空気の中に一つ混ざる。

一人の食事は、やっぱり味気がない。

雨空を憂いて嚥下する白米は、咀嚼したところで重たく嵩張っている気がした。


 お弁当を食べ終えて、今から教室に戻っても孤独を再認識するだけだから、降り注ぐ雨を無心で眺めている。

次第に雨の勢いが増していく中、雨とは別の弾かれるような音が私の耳に届けられた。

何の音……?

間隔をあけて、単発の衝撃音が鳴っている。

音の方向を探すために立ち上がると、野球グラウンドの方に人影が見えた。

雨の中、サッカーボールをドリブルして、野球のホームベースの方へシュートしている人物……園山君だ。


 確か……私が教室を出ていく時に、園山君は他のクラスの男子数人と廊下で話をしていた。

雨が降りしきる中で、なぜサッカーをしているんだろう。

前方に蹴り出したボールは、泥にまみれた水分を激しく弾いて、普段よりも転がることに抵抗している。

園山君がボールを必死に追いかけている姿は、教室で見かける調子の良い彼より落ち着いていた。

でも、雨のグラウンドの影響からか、少しだけ寂しそうに見える。


 その様子を雨粒と共に私は眺めていた。

サッカー部なのかな……。練習熱心なのかな……。

昼休憩の短い間、雨の中でサッカーをする人なんていないよね。

目の前にいるけど……。

私が同級生と仲良く話せるタイプだったら、悩まずに聞けるのに。

冗談混じりに『雨の中、なにしてるの?』と笑いながら言えるかな……。


 しばらく眺めていると、予鈴の音が思考の中に入り込んできたから、急いでカバンと傘を手に取る。

再びグラウンドに目を向けると、園山君は響いている音なんて気にする様子もない。

ただ……必死にボールを蹴っている。


 私が教室に戻ってからも、園山君は帰ってこなかった。

五限目、六限目も教室に姿を現さなかったし、帰りのホームルームで担任教師も彼がいないことを同級生に問いかけていた。

知っているのは、私だけだと思う。

でも……みんなの前で声を出すことが怖かったし、注目を浴びることも怖くて、黙って俯いていることしかできない。

眼前には……朝に見た彼の背中は、少しも見当たらなくて、机と椅子だけが私に顔を向けていた。


 学校での一日が終わりを告げる。

同級生は、部活に行ったり、友達と遊びに向かったり、教室に残って話をしている子たちもいる。

私は部活動をしていないから、スーパーに寄ってバスで帰ることが日課だ。

スーパーに向かう道。バス停に向かう帰り道。

今日は、久しぶりに学校に行けて……よかった。

天音さんが支えてくれたおかげだと思う。



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