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#07 レオウイン王子と面談

作中では『アリサが嘘と感じたセリフ』という表記になっています。嘘判定は曖昧ですが、それを含めてアリサの能力と思ってください。

部屋を出たアリサは混乱していた。いったい、王は何をしたくて、こんなことをするのだろう。その意図がまったくわからないので、アリサは何をしたら良いのかもわからない。お聞きしても「説明は後」と取り合ってくれない。お二人と面談して、そのあとで説明されることを期待するしかないようだ。


「では、まずレオウィン殿下の元に向かいます。この時間でしたら、訓練場にて汗を流しておいでのはずです」


「はい、お願いします」


執事の案内で、王宮内を歩いていく。この場所にそぐわない異世界人のアリサは、通りすがるものたちを振り返らせるが、執事が一瞥すると、皆が頭を下げて去っていく。この人、たぶんかなりの高位の執事なのだろう。途中、警備兵も、何も言わずにドアを開いて、二人を通していく。


「着きました。レオウィン殿下はあちらに。私は少し離れて待機させていただきますので」


そう言って、執事がレオウィン王子の方へとアリサを促すので、ゆっくり近づいていく。


訓練場は広大な空間で、整然と整備された木製の訓練ダミーや武器が整然と並んでいる。そこで熱心に剣の技を磨いている、レオウィン王子の姿があった。パーティーの時の着飾った姿と違い、訓練用の薄着で汗を流して剣を振っている様子に、アリサはときめくものを感じた。


鍛え抜かれた逞しい身体から滲み出る汗、そして真剣な表情で剣を振るう姿に、アリサは見とれるように王子の様子を眺めていた。


(脱ぐとすごく逞しい!筋肉いい!)


その時、レオウィン王子が剣さばきを止めると、周囲を見渡し、気づいたアリサの方を向いて声をかけてきた。


「おや、我が婚約者だね。待たせたようだ、すまないね」


アリサは少し驚いたようにレオウィン王子の方を向き、丁寧に頭を下げて応答しました。


「は、はい。レオウィン殿下。私、アリサでございます。こちらに参りましたのは、陛下のご命令によるものでして」


王子の爽やかな表情と、アリサへの温かな言葉に、アリサは緊張感が少しほぐれる。期待と不安が交錯する中で、アリサは王子との対面に臨もうとしていた。


「ああ。私がしたことで、君には迷惑をかけたね」


「……いえ、光栄なことですから」


「まあ、ここではなんだ、身を整えてくるから、少し待っていてくれないか。——彼女を応接室に案内して」


アリサは騎士に案内されて応接室に通された。しばし待ったが、退屈はしなかった。執事が「朝食がまだだとお聞きしています、簡単な物ですが」といって、焼きたての良い香りのするトーストやサラダ、スクランブルエッグなど、喫茶店のモーニングセットみたいな朝食を用意してくれた。


ありがたく頂戴しながら、頭の中では、レオウィン殿下が訓練してる様がリピート再生していた。じつは私は筋肉好きだったのかしら、とアリサはにやにやしていた。


「待たせたね」


応接室に、身を整え、清潔感のある服装なったレオウィン王子が入ってきたとき、慌ててアリサはにやにやしていた顔を戻した。モーニングセットはすでに食べ終え、後片付けも執事があっという間に終わらせてくれた後だ。


立ち上ろうとしたアリスを手で制しながら、王子は席に着く。アリサを案内してくれた執事も、音もなく室内に入ってきて、壁際に待機する。


「さて、アリサ。陛下の指示であったわけだが、まずは君から質問があれば聞いてくれ」


レオウィン王子はくつろいだ様子で、アリサに促した。


「はい、レオウィン殿下。私にとって、まだ何もわかっていないことが多いので、この場でお聞きしたいことがたくさんあります」


「それは当然のことだ。どんな事でも構わないから聞いてくれ」


アリサはしばし考えた末、切り出した。


「まず、そもそも、どうしてガルシア王子の婚約者として、私は召喚されたのでしょうか?その経緯について、お聞かせいただけますでしょうか」


『ふむ、その質問から始まるとは、意表を突かれたよ。やはり君は面白いな。まあ、答えよう。陛下がそうしたいと考えたようだな。私もその意図するところは読み切れてないんだ』


「陛下が、そうお望みになった、と。私が学んだところによると、王子の婚約者は、王室や貴族社会での評判や資質、家柄などを考慮して候補者を選定するもので、わざわざ異世界から魔法の儀式を使って召喚するということは、前例がないと」


『君の言う通りだ。ただ、それは陛下の考えあってのことでね。私にはわからない』


「私がガルシア王子の婚約者として召喚された、それはパーティーの前に、レオウィン王子はご存じでしたか?」


「ああ、知っていた」


嘘ではない。そう、レオウィン王子は知っていてアリサに花を渡した。問題はその理由だ。


「では、なぜ私に花をお渡しに、婚約者として申し込まれたのでしょうか?」


『ふむ、当然の疑問だろう。真っ先にそれを聞かれると思っていたよ。答えよう。君に惚れたからだ』


「……御冗談を」


『冗談ではない、あの会場で君を一目見た時から、まずは君の美しさに魅了された』


「……」


『次に君の聡明さに惹かれていった。このあと、この美しく聡明な存在は、人に恐怖しておどおどとしながら屋敷に籠っているあやつの婚約者になるのだと思ったら、腹が立ってな』


「……え、屋敷に籠っている?」


「なるほど、どうやら誰もアリサにあやつがどういう人物か、説明をしていないのだな?だから、私に付け入る隙を作ったというのに。愚かなことだ。婚約の証を渡しさえしてしまえば、もう取り消せない。私の勝ちさ」


「私の勝ち、とは?」


「君はもう私の婚約者だ。それは陛下もお認めになった。だから、私の勝ち、あやつの負け、そういう意味だ」


「ガルシア王子のことを、どのようにお考えなのですか?」


『あやつのことは、なんとも思ってない。双子の兄弟だが、離宮から出てこないからな。もう何年もその顔を見ていないほどだ。あやつはいつまでも子供のままで、誰かに構って欲しくてしようがない』


「ガルシア王子は、離宮から出てこられない、のですか?」


『そうだ。幼い頃に泣きながら逃げ込んだ離宮に住まうようになり、そのまま出てこなくなった。もう何年もそのままだ』


(どういうこと?!そんな引き籠り王子の婚約者になるために、この世界に呼ばれたの?)


アリサがその事実を知ってショックを受けている様子を、ガルシア王子のことを悪し様に言うその辛辣な言葉とは裏腹に、レオウィン王子は気づかわしげな表情で、アリサを気遣った。


「……大丈夫か?」


「はい、少々、混乱しております」


「無理もない。少しここで休んでいくと良い。この後、ガルシアに会いに行くのだろう?」


「はい、陛下のご命令ですので」


「陛下も酷なことをなさる、私たちの問題を、こんな可憐な令嬢に……」


「やはり、何かご存じなんですね?」


「……おっと。君は油断ならない人だ。だが、説明するのは私の役目ではない」


アリサはレオウィン王子の言葉に眉をひそめる。言っていることがすべて嘘ばかり。その真意はわからない。でも、不思議と憎めない。アリサはレオウィン王子がときおり見せる優しい表情が好きになっていた。この人はきっと何もかも知っている上で、自分に許された範囲で足掻き、何かを成そうとしている。


いったい何が真実なのか。


「私がこれからどうお二人と接したら良いのでしょうか?」


「そうだな。この後、陛下にもう一度会うのだろう?そのとき陛下から説明があると思う」


「私にはまだ二人のことがよく分かりません。どう接して良いのかも」


「確かにその通りだ。ただし、君には既に一つ決まっているものがある」


「決まっているもの?」


「ああ、それは私の方から君を選んだということだ」


「なぜ、殿下は私をお選びになったのか、私にはわかりません」


『さきほども言ったが、君に惚れた。そしてあやつにくれてやるのは惜しいと思った。君は特別だから興味を持ったというのもある』


アリサの目が少し細くなる。王子の言葉に引っかかりを感じたのだ。


「その”特別”というのは、皆さまとは異なるこの姿やレオウィン王子に対しての不敬な態度のことのことでしょうか?」


「いや、異界からの来訪者というだけで、すでに特別で、得難いものだ。もちろんその美しさを特別と言えばそうかもしれないが、美しいだけなら他にもいる。不敬な態度もそうだ、私を敬わない令嬢と言うのもままいる――」


まぶしそうにアリサを見つめるレオウィン王子の視線は、やはり優しさが隠しきれてない。


「――だが、そんなものではないよ、君の特別は。……他の者にはないものだから選ぶ、それで十分な理由と思うが、そこが引っかかるのか?」


「……そうですか。私には何も特別なところはないと思います」


「いや、そうではないだろう。君にとっては当たり前のことかもしれないが、その艶やかな黒い髪ひとつとっても特別だ」


アリサはレオウィン王子の言葉に含まれる複雑な心情を感じ取った。アリサに興味があるのは確かだが、その理由はすべて嘘だ。でも、悪意のためにつく嘘とは違い、何かを隠そうとしている、あるいは守ろうとしてる、そんな印象をアリサは感じた。


「レオウィン王子は、私の何を特別だと言うのか、私にはよくわかりませんが、しかし私を選んでいただいた理由としては、理解したつもりです」


「そうか。私はアリサを十分かっているつもりだが、それが伝わらないのはもどかしいものだな」


レオウィン王子はそう言いながら、アリサの反応を見守っていた。アリサの表情に少し寂しさが浮かんでいるのがわかる。


「わかりました。それでは、ガルシア王子とも会いたいと思います」


「ああ、そうだな。それでは次は弟のところへ行くといい」


「はい、ありがとうございます」


アリサはレオウィン王子に最後にお辞儀し、部屋を後にした。

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