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#06 王様と個人的会見

次の日、アリサはたたき起こされ、侍女が数人がかりで支度を整え、朝食も取らせて貰えないまま、馬車に放り込まれた。馬車にはすでに養父のフォンティーヌ公爵が乗り込んでいて、すまなそうに説明してくれた。


「陛下がアリサに話を聞きたいと仰せだ。これは正式な謁見ではなく、個人的な会見だと聞いている。そう格式ばったものではないから、緊張しなくても良い」


「急に決まったんですね」


「そうなんだ、今しか陛下のお時間が許されないとのことだ」


アリサは少し戸惑いながらも、フォンティーヌ公爵の言葉に従って、気持ちを落ち着けようとする。窓越しに街の姿が移りゆくのを眺めながら、心の中で緊張感を和らげようと努めるが、なかなかに難しい。


やがて馬車は王宮の門を通り、緑豊かな内庭を抜けて、中央の建物へと進んでいく。アリサは息を呑んで、王宮に来たことを実感した。ついに馬車は王宮の一角にある小さな建物の前に停まった。公爵がアリサに先立って降りると、侍女が現れて二人を迎え入れる。


「陛下がお待ちです。私がご案内いたします」


侍女の誘導に従って二人が歩を進める。アリサは緊張しながらも、王様との初めての対面、しかも個人的な会見に臨むこの機会を、養父の立場を悪くするようなことにはしたくないと考えていた。


二人は侍女に導かれ、書斎の扉の前に立った。


「アリサ、まず私が中に入ってご挨拶する。あとで呼ぶからここで待て」


「はい」


フォンティーヌ公爵が書斎に入っていき、しばしの時間が流れていく。よほど重厚な扉なのだろう、中の声は全く聞こえない。


(私は悪いことをしたわけじゃないのだから!)


緊張で気が弱くなりそうな自分を、必死に奮い立たせる。そうしていると、執事らしき人が出てきて「お入りください」と中に入ることを促す。


「失礼します」


扉の中には、フォンティーヌ公爵が立っていて、その向こうには数人の人影が見えるが、明るい廊下から少し薄暗い部屋に入ったせいで、窓を背負うようにして座っている人物の顔が逆光でよく見えない。


公爵はアリサを紹介する。


「陛下、この者がアリサでございます」


そして、少しずつ目が慣れてきて、陛下と呼ばれた人物を見る。重厚な風格を備えた中年の男性、アルドゥイン王が座っていた。威厳のある表情と堂々とした振る舞いから、まさに王としての資質を感じさせる雰囲気があった。レオウィン王子は陛下に似ているようだ。


「ようこそ、アリサ。私はアルドゥインだ」


アリサは王の前で緊張しつつも、丁重に頭を下げて挨拶した。


「陛下、私アリサが参りました。このような光栄な機会を与えてくださり、まことにありがとうございます」


アリサは両手を胸の前で組み、しっかりと王の目を見つめながら敬意を込めて話した。貴族の立ち振る舞いを意識し、背筋を伸ばし、落ち着いた表情で王に向き合う。


「ロベール、私はアリサと少し個人的に話をしたい。少し時間をくれまいか」


フォンティーヌ公爵は頷き、部屋を退出した。その他の者たちも退出していき、部屋に残ったのは陛下とアリサ、そして執事だけになった。すると王は、真剣な眼差しで話し始めた。


「さて、アリサ。まずは緊張しなくても良い。この場は決してお前を責めるために用意したものではない。また、まだこの世界に来て数カ月にも満たないと聞く。礼儀についても、咎めはしない。だから、私の質問に答えてほしい」


アリサは王の言葉に安心し、少し肩の力を抜いて頷いた。


「はい、陛下。何か質問がございますか?」


「まずは、迷惑をかけたことを申し訳なく思う。まさかレオウィンがあのような行動をとるとは思わなかった」


アリサは静かに首を振りながら答える。


「いいえ、決して迷惑だと思っていません。むしろ、このような光栄な機会を与えていただき、感謝しております」


アルドゥイン王は少し表情を和らげ、続けて言葉を重ねる。


「そうか、良かった。さて、アリサ。お前はレオウィンの正式な婚約者として、今後、王宮で教育を受けてもらう」


「……はい」


「私は、アリサの資質と心の在り方を見極めたい。王子の婚約者にふさわしい品格と能力を備えているか、それを確かめさせてもらう」


アリサは真剣な面持ちで王の言葉を一つ一つを噛み締めるように聞いている。王はあえて、ガルシア王子のことを言わない。きっと何か意図がある。


「はい、陛下。王宮での教育に全力で取り組み、王子にふさわしい者となれるよう努めさせていただきます」


「さて、前置きはここまでとしよう。私が聞きたかったことは一つ」


「はい」


「リーゼンフェルト・ガルトと、レオウィン・アルデルフ。二人の男性のうち、どちらが好みだ?」


「はい?」


アリサは、リーゼンフェルト・ガルト、その名前が王の口から飛び出してきたことに、虚を突かれた。ましてや、どうして商人を名乗る彼と、一国の王子を比べて、どっちが好みかと問われているのか、この状況が全く理解できない。


「どうだ?」


「申し訳ございません、陛下。質問に質問を返すなど、大変無礼な振る舞いを承知でお聞きします。なぜ、リーゼンフェルト・ガルト様がここで話に登場されるのか、私にはまったくわかりません」


「説明は後だ。先に、率直な印象を聞きたい。どちらが男性として、アリサの好みであるか、答えは二つに一つしかない。難しい質問をしているつもりはないぞ?」


(いや、難しいよ!無茶ぶりも良いとこよ!先に説明して?!どういうことなの?)


アリサは混乱した。しかし、急かされてるので、王の質問に答えるしかない。そして答えは確かに簡単ではあった。どっちを選べと言われたら、迷わず答えられる。


「レオウィン・アルデルフ王子です」


「その理由を話せ」


(無茶苦茶だ!理由なんか答えられないよ!選べというから選んだだけなのに!)


「そ、その、レオウィン王子のお優しい人柄に惹かれています。婚約者として選んでいただいたことが光栄です」


「リーゼンフェルト・ガルトは、優しくなかったか?」


「表面的なやさしさはあったかもしれませんが、その優しさには欺瞞を感じました。正直、もう二度とお会いしたくないと思っています」


「……ほう、なるほどな。ロベールから報告のあった、そなたの能力がそう思わせるのか?」


「そうは思えません。何もかも見抜くほどの力ではありませんので。あくまで、私の印象に過ぎません」


混乱を極めるアリサの心中など全くお構いなく繰り出される王の質問攻め。とにかく早く説明してほしい気持ちでいっぱいのアリサだが、王はまだ説明してくれる気が無いらしい。


「よし、では、アリサよ。レオウィンとガルシア。この両者と面談してこい」


「お二人の王子とですか?」


「説明は後だと申したぞ。そこの執事が案内する。そして面談の様子も執事が観察する。そのあと、再びここに戻ってこい」


「……はい、承知しました」


王が目線をやると、執事がすすっと近寄ってきて、ではこちらにどうぞ、とアリサの退室をうながした。その様子を王は少し楽しそうに見ていた。

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