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#05 双子の王子

「王子様違い、ですか?」


「そうだ、アリサの婚約者になる王子はガルシア・アルデルフ王子だ。君が花を受け取ったレオウィン・アルデルフ王子は双子の兄にあたる」


「双子だったんですか!?」


アリサは、変だと思っていた。フォンティーヌ公爵から聞いていた予定とは大きく異なっていたからだ。このパーティーの目的は、貴族令嬢としての立ち振る舞いを証明し、認められることだったはずだ。王子様に会う予定は無かった。


ところが、段取りを飛び越えて、いきなり王子様が現れてしまった。


ただ、現れた王子様の姿は、アリサがマッチングアプリで見た顔そのままだった。予定とは違うが、婚約者になるためにこの世界に呼ばれたのだから、素直に花を受け取った。


そして何より、男性から差し出された花を受け取らないのは、貴族社会では取り得ない選択肢だ。そんなことをしてしまえば、この社交場の、貴族たちが見守る中で、王子様に恥をかかせてしまうだろう。


「ごめんなさい、お父様」


「いや、アリサには何の責もない。私たちは、正式な婚約の紹介は顔合わせの前にするつもりでいた。まずはこの社交界で、貴族令嬢としての振る舞いを十分に身につけてもらうことを優先したのだ」


フォンティーヌ公爵は優しくアリサに話しながらも、自分の失策を悔やんでいるようだ。続けて言った。


「そのため、大切な情報をアリサに伝え損ねていたようで申し訳ない。ましてや、レオウィン王子があのような暴挙に出ようとは、私も予想しておらず、大変驚いたところだ」


「暴挙、ですか?」


「レオウィン王子の行為は、まさに礼儀に反する暴挙だと言わざるを得ない!婚約の申し込みとは、両家の話し合いの末、正式に行われるべきものなのだ。それを公の場で一方的に行うとは、貴族の品格を踏みにじる行為だ!」


フォンティーヌ公爵の声色には、明らかに苛立ちが滲み出ていた。これまでアリサに接する際は、いつも穏やかで落ち着いた様子であったが、今回ばかりは、レオウィン王子の行動に対する強い憤りが抑えきれないようだった。


「レオウィン王子は、自身の優れた資質に酔いしれ、ただ己の欲望に突き動かされただけなのだろう。しかし、このような振る舞いは、まさに貴族の威厳を失墜させる行為だ。私はこれを決して許すわけにはいかない!」


「では、この婚約は破棄されるのですか?」


フォンティーヌ公爵は急に頭を抱えて唸るように言った。


「……そう、できれば良いのだが、出来ぬ。何故なら、アリサ、君は花を受け取り、婚約の申し入れを受け入れてしまった」


やはり花を受け取ったのはまずかったらしいとアリサは反省する。しかしもう悔やんでも遅い。フォンティーヌ公爵は続けて言った。


「いかに王子の暴挙であっても、一度、受けてしまった婚約を破棄することは、容易なことではない。アリサには、もちろん受け取る以外の選択肢はなかったが、もし少しでも時間を稼いでくれていたなら、私たちが止めに入ることもできたのだ」


「仰る通り、私はもう少し冷静に考えて行動すべき場面でした。言い訳がましいようですが、マッチングアプリで見たお顔のままの方でしたので―-」


「なんだって?いや、マッチングアプリで見た絵姿は、ガルシア・アルデルフ王子の姿であっただろう?」


「双子とは存じ上げなかったので、見分けがつきませんでした」


「いや、双子ではあるが、その容姿はまったく正反対といってよい。レオウィン王子は金髪蒼瞳、ガルシア王子は銀髪黄眼だ」


アリサは面食らった表情だった。確かにアリサがマッチングアプリで見たのはレオウィン王子の姿だったのは間違いないが、公爵はガルシア王子だったはずだと断言していた。


「もしかして、その段階から違ってますか?」


「待て、そんなはずはない。これは王家管轄の計画で、儀式の手配も王家が行った。我が公爵家は魔法の儀式を成功させる条件を満たすために選ばれたに過ぎない。王家がそのような手違いをするはずが……、いや、これはまさか」


「お父様?」


公爵は深い憂慮の表情で、しばらく黙り込んでいた。


「アリサ、私はこれが女神様から課せられた試練であるかのように感じられる。このたびの一連の出来事が、何か大きな企みに紛れ込んでいるのではないかと、恐ろしい疑念が湧き上がってきたのだ」


「女神様の試練、ですか」


「まだ確証はないが……王家の企みを、女神様はよく思っておられずに、何か干渉されたのではないかと私は考えている。魔法の儀式への干渉は、王家であっても、女神様の許しなくば成し得ない。そして、此度のレオウィン王子の暴挙もあの方らしからぬ」


「レオウィン王子は、あのようなことをされる方ではないと?」


「そうだ。あのレオウィン王子は、まさに、自己顕示欲の塊と呼ぶべき輩だ。自身の能力を過大に評価し、虚飾に溢れた言動を繰り出す。本当の実力はほとんどないのに、あれほど自慢げに語るとは、嘘つきの限りだ」


(仮にも王子様なのに、お父様の評価が低すぎる!)


「しかしながら、王家の恩顧に背くことのない者として、レオウィン王子は評価されてきた。その忠節ぶりゆえに、この度のパーティーへの参列も許されたのだろう。普段より王家に忠実なる立場にある彼が、なぜ公の場で、あのような婚約の申し入れを行ったのか」


公爵は、レオウィン王子の行動の背景にある王家の意図を探ろうとしているようだった。王家に忠実な王子が、なぜこのタイミングで常軌を逸した行動に出たのか、その真意を解明する必要があると考えているようだ。


「お父様、私はどのように行動すればよろしいでしょうか?」


公爵はアリサの手を取り、優しく告げた。


「アリサ、君はただ自分の意思を明確に示せば良い。この前代未聞の事態に、王家の意図を正確に読み取るのは、至難の業だ。しかし、君を守り抜くことが、我が公爵家の責務だと考えている」


アリサは、公爵の言葉に安堵と信頼の念を覚えた。必ずや、この事態を何とかしてくれるはずだと確信した。


「はい、お父様。私もできる限りのことをさせていただきます」


そう言いながら、アリサはさらに質問を重ねた。


「でも、一つだけ教えてください。お父様の考えるレオウィン王子は、本当に王家に忠実で、このような暴挙をするはずがない、そうお考えですか?」


「ああ、驚くほかない。言葉を濁すならば、あの方にこれほどの勇気と決断力がおありだったとは」


アリサは、レオウィン王子の行動に見られる矛盾に強い違和感を感じていた。


確かに、パーティーでの王子の振る舞いは、見栄を張り、しばしば事実と異なる発言をする、いかにも軽薄な印象を与えるものだった。しかし、その裏では、常にアリサのことを気遣い、楽しませようとする優しさが感じられた。


アリサには、レオウィン王子の虚勢の背後に隠された、より深い人格が垣間見えているように思えた。公爵の指摘とは異なり、アリサには王子の真実が見えているのかもしれない。


おそらく、レオウィン王子には何らかの理由があって、わざとそのように振る舞っているのだろう。アリサは、レオウィン王子の複雑な内面に興味を惹かれていた。

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