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#03 その能力は嘘を見抜く?

アリサは急ぎ、フォンティーヌ公爵家の王都邸宅に戻ることにした。


その道中、侍女のミリアムからの視線をアリサは感じたが、この侍女は仕組まれた出会いに関わっている可能性が高い。


誰が敵か味方かわからない以上、フォンティーヌ公爵に確認してからじゃないと判断できないと思い、帰りの馬車の中では黙っていた。


フォンティーヌ公爵に会う約束を取り付けてくれるようにミリアムに頼むと、すぐに執務室に来て欲しい、執事がやって来た。


そして執事の先導で執務室に入る。アリサは執事に小声で、ミリアムから目を離さないで、と告げる。何も事情を説明出来てないが、その一言だけで全てを察したかのように、承知しました、と執事は返事して部屋を出ていく。


「失礼します、急ぎお父様に確認したい事があります。お仕事の邪魔をして申し訳ありませんが、少しだけお時間をいただきたいです」


「困った事があったら言ってくれと言ったのはこちらだ。気にしなくて良い。それより市に行ったはずなのに、急ぎ帰って来たところを見ると、何か問題でもあったのかい?」


フォンティーヌ公爵は嫌な顔ひとつせず、笑顔でアリサを迎え入れてくれた。


「ありがとうございます。では単刀直入に要件を言いますね。今まで召喚された人たちには特殊な力が現れたりしていませんか?」


「!……なるほど、という事はアリサも。いや、まずは質問に答えようか、答えは肯定だ。召喚された者たちには特殊な能力が備わっていた、と記録されている。本人が自覚しなくては能力は覚醒しないと言われていて、あえて黙っていた」


「そうでしたか。私もその能力を得たようです。この世界に来る前には間違いなくなかった。それは嘘を見抜く能力です」


「なんと!詳しく今日あったこと聞かせてくれないか?」


アリサは市であった出来事を、自分がどのような発言を聞いた時に嘘とわかったのか整理しながら、説明した。


「つまり、私が嘘を見抜けるのははっきりとした嘘だけ。隠した場合などは見抜けません」


「その違いがよくわからないな、説明できるかい?」


「例えば、朝食を食べましたか?と質問して、「はい」と「いいえ」なら、どちらかが嘘だとわかる。「朝食にはパンを食べました」と返事されても同じ。でも「パンを食べました」とだけ返事されたら、嘘を見抜けません。パンを食べたのは事実ならそれがいつ食べたものであっても、朝食では無かったとしても嘘ではなくなる」


「なるほど、嘘を巧みに操る者なら、心得ているだろうね。あえて言わないことで紛れて、相手に勘違いさせ、相手の頭の中で嘘は完成する」


「はい、だからそれほど強い能力というわけでもないですね。ちょっと勘が良いか、嘘を見抜く訓練をしてる人と変わらない程度」


「いやいや、十分に強力だよ。特に君のように聡明であればなおさらにね。ところで、どんなふうに嘘だと感じるのかな?頭の中で嘘だと声がするとか?」


「いえ、声は聞こえませんね。……んー、顔に嘘つきって大きく書いてある、かな」


アリサは直観的に嘘だと確信するが、それを他人に説明する言葉が思い付かず、例えとして伝えた。


「なるほど、それはわかりやすいな。この事は陛下には報告しなくてはいけないのでそのつもりでいてくれ。ただ、報告をどのように扱うのかは陛下が判断される。アリサが嫌がる事も強要されるかも知れない。その場合は私はできる限り君の味方だ、陛下にもその旨はお伝えするから、安心して欲しい」


「ええ、お父様の判断に委ねます」


「その信頼を決して裏切らないように努力するよ」


その言葉に嘘はなく、アリサはこの養父の娘になれたことに感謝した。


「それともう一つ、確認したい事があります」


「……聞こうか。その表情から良い事では無さそうだ」


嫌だなという感情がアリサの表情にありありと現れていた。アリサもそのことを隠そうとも思っていない。


「リーゼンフェルト・ガルトと名乗る商人の若者に会いました。お父様はご存知の方ですか?」


「ああ、その名はよく知っている。ここ数年で急激に名前が知られた商人だ。他では扱っていないような珍しい物を扱い、今ではこの国有数の商家を営んでいる」


フォンティーヌ公爵もまた、アリサのように嫌そうな顔をし始めた。顎髭を撫でながら、幾つか問題を想定し始める。


「リーゼンフェルト・ガルト様から食事を誘われ、これをはっきりと断りました。断る理由を説明するために、フォンティーヌ公爵の養女であることを名乗りました」


「食事を断ったことは正しい判断だ。ただ問題なのはガルト公爵がどう思うか」


「貴族なのですか?」


「彼は平民でありながら、その商才を認められ、ガルト公爵家の一員となった。ガルト公爵家はこの国有数の大貴族で、その当主であるマックス・ガルトは宰相を務めている」


「今度正式に食事のお誘いに来るそうです」


「面倒な話だな」


「そうなのです」


二人して頭を抱えるような難問題にしばし沈黙が支配した。思い出したように、アリサが付け加える。


「お父様、侍女のミリアムが関わっています。理由は分かりません、買収されたか、取り込まれたか、あるいは……」


「そうか、わかった。アリサ、今後は屋敷を出るのは控えてくれ。守りきれなくなる。ガルト公爵家からの招待は断るからそのつもりで」


「はい。すべてはお父様のご判断に委ね、私は王子様との婚約に向けて、礼儀作法の訓練に励みますね」


「うむ、それで良い」


アリサはより一層に貴族令嬢としての教育に力を入れて日々を過ごすことになった。侍女ミリアムはその日を境にして、アリサの前から消えた。

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