#12 日輪騎士団
アリサが廊下で出会った騎士に連れられてきたのは、レオウィン王子率いる日輪騎士団の休憩室だった。
「お疲れのご様子で、ふらふらと歩いておいでだったので、救助しました!」
「でかした!アリサ様をご案内してくるとは!」
「さあさあ、むさ苦しいところですが、こちらにお座りください!」
「まずはお茶でもお入れして、一息入れてもらうおう!」
「おい、だれか給仕係を捕まえて、美味しいお茶を奪ってこい!」
なんだか、男ばかりの職場に迷い込んだ若い女性を歓待しようとするおっさんたちを思わせるような光景だなぁとアリサは思っていた。
ともあれ、勧められるままに椅子に座って、出されたお茶を飲み始める。その様子をなんだかびっくりした表情で眺めていたレオウィン王子が声をかける。
「お疲れのようだな、アリサ嬢」
「誰のせいだと思ってるんですか?誰の!」
「……私のせいだろうな。詫びる他ないよ」
「アリサ様!ここのところ殿下は口を開けばアリサ様の美しさを褒め称えるので、うんざりしてたところです!」
「でも、実際にお美しい。見てみろよあの綺麗な黒髪の輝きを。誰だよ黒髪は不吉とか出まかせ言って回ってるやつらは!」
「遠い国のお姫様みたいだな!」
「ばかやろうども!アリサ様はお疲れの様子だ!騒いでどうする!ほら、休憩は終わりだ、さっさと訓練に戻れ!」
「へーい」
「アリサ様、ごゆっくりしてください。ここには誰も通すなと皆に言っておきますから!」
アリサも、やかましいな!とは思ったが、不思議と嫌な気がしない。なんだかすごく安心する。口々にアリサに何かを言って、騎士たちは部屋を出て行った。
「騒がしくてすまないな、気のいい奴らなんだが、礼儀礼節より武勲を優先する連中ばかり集まっていてね。がさつな野郎ばかりなんだ」
「いえ、なんだか、安心します。レオウィン王子の人柄の一端を見た気がして」
「レオ、で良い。ここは私の騎士団しかいないからな。お疲れのようだ、そのお茶を飲んだら、少し横になると良い。あちらにソファがある。ただ、汗だくで入ってきた連中が遠慮なく座ったりするので、多少、その臭うかもしれないが」
(それは嫌だなぁ)
そんなことを考えていたが、数分後にはレオウィン王子の手で、アリサはそのソファに寝かされ、熟睡した。
◇ ◇ ◇
「ん……」
アリサが目を覚ます。体を起こして、目をこすりながら、周りを見回す。見覚えのない場所だと気づくも、すぐに声をかけられた。
「目が覚めたか?」
「ん、レオ、おはよう」
「おはよう、もう昼過ぎだがな」
「昼過ぎ、え、そんなに寝てた?」
「ああ。腹が減っただろ?どこで聞きつけて来たのか、クリスがやってきて軽食を置いていった」
机の上に置かれた、ハンカチーフに覆われた皿を示す。アリサは食べ物に反応して、ゆっくり体を起こして、ふたふらとハンカチーフに手を伸ばしながら尋ねる。
「クリス?」
「昨日、お前を案内していた執事だ。クリストファー・ウィンター。父の影を務める男だ」
「ああ!やったぁ!あの人、私の好みをどうやって調べたのか!って思うくらい、私の好きなものしか用意しないんだもの!」
そう言って、ハンカチーフを取ると、彩りも鮮やかで、見た目にも食欲をそそるサンドウィッチだった。
「いただきます!」
一口食べて、びっくりした。ふわっとした食パンで挟み、柔らかな食感のローストビーフと新鮮な野菜を組み合わせ、上品な香りのする発酵バターをたっぷりと塗り込んでいて、くどすぎない適度な甘みのソースを添えて仕上げられている。
一言で言って、美味しい。
「美味しい!」
「そんなに美味しいか?」
「うん!この世界に来て一番かも!」
「それはすごい。フォンティーヌ公爵家のシェフには聞かせられないセリフだな」
「え……(もぐもぐ)いや!フォンティーヌ家のお食事も美味しいんだよ?でも、豪華すぎて私には合わなくて」
「そうか。もといた世界では、どんな食事をしていたんだ?」
「んー、……(もぐもぐ)最近はジャンクフードが多かったかな、ハンバーガーとかピザとか。良くないって思ってたけど、仕事が忙しすぎると、そうなっちゃうんだよね」
「じゃんくふーど?」
「……(もぐもぐ)私の世界で、とても手軽に作れて、手に持って食べられるような料理なの。でも、栄養価とか偏ってるから、健康にはよくなくて……(もぐもぐ)」
「なるほど。しかし、わかるよ、忙しいと食事の時間は削られてしまう」
アリサは、満足げに頬を膨らませながら味わっていった。
「んー、これ本当に美味しいわ。ハンバーガーも好きだけど、これもすごくいい味わいなの……(もぐもぐ)」
ゆっくりと咀嚼しながら、口の中の食感を堪能するアリサ。時折、ほほ笑みを浮かべながら、心地よげに頷いている。
「あ、これって何の肉なの?すごく肉のうま味が濃い感じがする」
そう尋ねながらも、夢中になっているアリサの様子に、レオウィン王子は微笑ましげな表情を浮かべていた。
「そうだな、料理は詳しくないが、普通に牛肉じゃないか?」
「料理に詳しいって嘘ついてた癖に!でもこっちでも牛肉は美味しいんだね、……って、あれ……(もぐもぐ)」
急に我に返ったアリサ。自分がどこにいて何をしてて誰と話をしているのか。
目をぱちぱちしながら、ぎぎぎっと音がしそうなほど、ぎこちなく顔をレオウィン王子の方に向ける。口にはもちろんサンドイッチ。
「少しは疲れがとれたかな?」
ちょっと待って、とばかりにレオウィン王子に手で合図して、アリサは口の中身を懸命に飲み込んで、レオウィン王子が差し出してくれたグラスに入った水を、ぐいっと一気に飲んで。それから呼吸を整えて。
「……ありがとうございます、レオウィン王子。おかげ頭がすっきりいたしましたわ」
「今更取り繕っても無駄と思うが。まあ、それは良かったよ」
「もしかして、私が眠ってる間もずっといらっしゃったのですか?」
「ああ。我が婚約者の無防備な寝顔を堪能させてもらった」
アリサは、顔がかーっと熱くなるのを感じる。恥ずかしい。そのあともレオウィン王子の前で、まったくの素でサンドイッチを食べてしまった。すっぴんを見られた気分だ。
「申し訳ありません。退屈したでしょう?仕事のお邪魔までしてしまって―—」
「この感情をなんといえばよい?」
「え?」
「アリサの寝顔を見ているだけで、とてもうれしく感じる。保護したい、独り占めしたいという欲求がある一方で、そんな思いを知られたら嫌な顔をされるんじゃないかと不安にもなる」
「な、なにをーー」
「思わず手を伸ばして頬を撫でたくもなったが、それは騎士としての矜持で自分を戒めた。こんな優しく温かな気持ちになれるなんて、自分でも驚いている」
「真顔で恥ずかしい事を言わないでーー」
「今なら、きっと君の能力にも認められるんじゃないかな」
「ーーくださ、え、認められる?何がです?」
「私は君に惚れている」
嘘ではなかった。まっすぐな好意。
アリサは、レオウィン王子の告白に驚いて顔が耳まで真っ赤になった。しかし、同時に嬉しさと幸福感が胸の内に広がっていく感覚があった。
「あ、あの、私も、あなたのことが……。でも、あまりにも急すぎて、ドキドキしちゃって……。」
アリサは少し戸惑いながらも、俯いて小さな声で告白した。自分の気持ちが返されて、とてもうれしい気持ちでいっぱいだった。でも、これまでの展開の早さに少し身構えてしまっている自分も感じられた。
「ふふ、驚いた様子だな。そんな表情もできるんだな。でも、私の気持ちが届いてよかった。前回は嘘だと判定されてしまったから」
レオウィン王子は優しく微笑みながら、アリサの手を握った。アリサは自然とその手に力をこめて握り返した。今までの緊張も解れ、安心と喜びに包まれる。
「……だって、嘘だったでしょ?」
拗ねたようにアリサは言う。
「いや、本心さ。君は君自身の能力を誤解している。女神様が言うには「嘘を見抜く能力」というより「真実に導く能力」なんだそうだ」
「真実に導くですか。つまり、前にレオが言ってくれた時は、まだ私が真実に辿り着いてなかった……って、女神様?!」
「ああ。君の事は女神様に聞いていたよ」
「女神様と、お話しできるんですか?」
「そのことも含めて、最初から、すべてを話そう」
レオウィン王子は、真相を語り始めた。




