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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
新たな戦い

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七十七話 強引な備え

 せめてもの抵抗が失敗し、見たことのない武器を突きつけられたジョナサン。数秒前に起きた出来事から、切っ先を突きつけられたような状況だと理解した。せめて指揮官である御帝(みかど)を倒すことができたらと考えていたが、それはもう叶わないことも理解した。


「お前たちに従うくらいならば、死を選ぶのみ。私の命は王国のためにある」


「そうですか。であれば、この町にいる人達もまとめて始末しなければなりませんね」


 従う意思を見せないジョナサンに、御帝(みかど)が目を鋭くしてなんでもないことのように言い放つ。


「待て、民は関係ないだろう!」


「後顧の憂いは断たねばなりません。余計な敵を野放しにするくらいなら、早いうちに片付ける方が良いでしょう。それが例え民間人であろうと戦闘員であろうと同じこと」


 関係のない人々が傷付けられると知ったジョナサンが身体を動かして講義するものの、突き付けられた銃口が顎を強く押し付けられたことで、身動きをとることができなくなる。

 ハンドガン程度の大きさであるソレから、無機質ながら有無を言わせぬ圧が感じられた。



 十秒ほどの沈黙、その逡巡ののちにジョナサンが確認のために口を開く。


「お前たちに従えば、民は傷付けないのだな?」


「もちろん。あなたたちも彼らもいずれは、我が国の民になるのですから、抵抗しなければ悪いようにはしませんとも」


 フラシア王国の貴族であるジョナサンにとって、王国への裏切りは望まないことであった。しかし、ここで一度御帝(みかど)たちに従うフリをして、王国に刃を向けるという体で戦って命を落とすなならば、彼らも民には危害を加えないだろう。


 そう結論を出し、仕方ないと頷くことにした。他に選択肢はない。

 たとえ裏切り者の(そし)りを受けたとしても、無辜の民を傷付けさせるわけにはいかないから。




 交渉という名の脅迫を終えて、御帝(みかど)は、遅れて走行してきた大型の装甲車両に乗り込んだ。移動施設とでも表現するべきか、幅約10m、長さ約20mという大きさ。高さも、ビル二階分の大きさはあり、内部での居住も可能だった。



 それは、日照国軍が保有する移動拠点であり、このナチュラルエリアの大陸に上陸したのは僅か三日前。ちょうど蒼佑(そうすけ)たちがドラゴンたちに会うころであった。

 そんな移動拠点の一室、そのソファの上で御帝(みかど)が疲れたように背もたれに背中を預けていた。


 というか、実際には疲労困憊であった。慣れない土地で何度も命を狙われ、加えて斬りかかられた時は死さえ覚悟したことで極度の緊張を感じ、また無事に交渉が終わったことでどっと疲れが襲ってきたのだ。


「お疲れ様です。御帝(みかど)隊長」


「今はもう、隊長ではありませんよ。現隊長どの」


 疲れ果てた様子の御帝(みかど)に労いの言葉を掛けたのは、ちょうど部屋に入ってきた彼の元部下であった男である。先の戦争での活躍から外交官へと変わった御帝(みかど)は、すでに軍とは別系統の人間であった。


「それでも、私にとっては……っとそれはそれとして、随分とお疲れのようですね」


「当然でしょう。グラシアの時と比べて、相手が随分と手練れでした。あのジョナサンという貴族も後ろの兵士たちも、あの勇者と同じかそれ以上の練度が見込めました。そんな人間に命を狙われたのですから、肝も冷えるでしょう」


 相変わらず椅子に背を預けた御帝(みかど)が、脱力した様子で滔々と話す。国境を任されるだけあり、ジョナサンを含めオルス領の兵士たちの練度は高く、そんな人間たちと狭い空間て睨み合ったのは彼にとって賭けにも等しい行為であった。


「上からの命令とはいえ、やはり疑問です。エーテルのないナチュラルエリアを支配したとして、我が国では持て余すでしょう。これだけ広大な土地ではありますが、これらを利用するほどの余裕はないように思えます」


 隊長がかねてより抱いていた疑問を、御帝(みかど)に投げ掛ける。物資の輸送でさえ大変な時間や労力をかけてまで、手に入れる価値のあるエリアなのだろうかと。

 もちろん、この土地ならではの豊富資源はもちろん、また広大な土地を上手く利用すれば農作物や家畜などはたくさん育てられるが、前者には資源を得るためのコスト、後者では育てる物や家畜などの個性に合わせた土地を考える必要がある。


 少なくとも、先の戦争を終えてそう間も空けていないままでは、先走りすぎではないかとの考えである。


「えぇ、それは私も同じく思いますよ。いきなり侵略せずとも、まずは話の分かる国々との交渉から始めたほうが、互いに利があるはずなのです。ただでさえアリシア公国との戦いで疲弊しているのですから、穏便に済ませるべきではないかとね」


 そこまで言った御帝(みかど)が、背もたれに預けていた身体を起こし、三秒ほど空けてですが──と話を続ける。


「あまり時間がないのです。我が国は今すぐにでも、戦力を増強しなければならない」


 その言葉に、隊長は黙って話の続きを待つ。


「あれはひと月ほど前のことでしょうか。空の向こうより、とてつもないなにかが迫ってきていることが、我が軍の宇宙開発部から発表されました。人工衛星で観測したところ、それは隕石などではなく無数の生命体の群れだったそうです。白く輝き、翼のあるソレらはヒト型だと判明し、また極めて高濃度のエーテルが計測されたとのことです。そのため、観測して数分程度で衛星は機能を停止、おそらく故障したと見られています」


 それはあまりにも突拍子のない話であり、隊長は目を見開いて驚きを露にする。遥か空の向こうから、得体の知れない何者かが群れを成してくるなど、それは大いなる災いに他ならないことが分かったからだ。


「公国との戦争を終えたばかりの我が国では、もし戦争になれば万全な対応ができない可能性があります。だからこそ、ナチュラルエリアの戦力を利用したいとの考えだそうです。おそらく、彼らを盾にでもするつもりなのでしょう。よって、ナチュラルエリアの利用や管理などは端から計算外です」


 ひと通りの話が終わり、息を飲む音だけが聞こえた。この戦争は、大いなる災いの備えにすぎなかったというわけである。

 隊長は、じっとりと冷や汗で額を濡らしていた。

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