七十六話 日照国軍の動き
マハラにて、幸多たちと合流して戦いの準備を始めた蒼佑一向。準備を始めたのは彼らだけでなく、日照国軍も同じであった。
彼らが侵攻を開始しなかったのは、戦闘機やレーザーやパワースーツなどのエーテル装備のメンテナンスや、エネルギーの充填に時間がかかるためであった。
向こう側──日照国軍の呼称するエーテルエリアでは、空気中に漂うエーテルを吸収するため、基地でなくとも高効率のエーテル充填が可能だ。
しかし、対するこちら側──ナチュラルエリアではエーテルが存在しないため、エーテルを充填するにはエーテルエリアから、タンクを利用するなどして補充する他ない。
日照国軍はその問題を解決はできないものの、少しでも効率を上げるために、エーテルエリアギリギリの海上に巨大な空母を五隻配置し、輸送部隊の中継地点としていた。
日照国から空母へ、空母からイルギシュ帝国城跡地の拠点へと資材を運ぶ。そんな地道な輸送が行われている間、当然ながらあのグレーのスーツを着た男たちがなにもしていないわけがなかった。
連れてきた兵士たちだけでは、戦いの最中に失われる人員の補充が大きな課題となる。そのため、兵士たちだけでなく冒険者たちを雇うことで、人員被害の軽減を目的とした。
当然、イルギシュ帝国城下町にあったユニオンを中心として活動していた冒険者たちも、既に彼らの元に下っていた。
最初は抵抗する者たちもいたが、数名の冒険者たちが見せしめとして殺されたことで、その意思を奪われることになる。殺された冒険者のうち一人は、マスターランクの冒険者だったことが、かなり大きな理由であった。
そして、グレーのスーツを着た男──御帝は、軍用車両に揺られながら南東へと向かっていた。馬車の数倍のスピード、装甲の堅さに燃料のあるかぎり走り続けられる持久力。
戦闘機は使用に莫大なエーテルを必要とするが、軍用車両ならばその問題も大幅に軽減が可能なので、基本的にはこちらを使用していた。
先の帝国城を陥落させるような短期攻撃作戦や、大規模攻撃作戦であれば別だが。
今回の目的は、フラシア王国侵攻のために辺境町オルスを手中に収め、王国制圧の足掛かりとすること。まずは領主の館に向かい、領主と話を付ける考えだ。
武力抵抗を想定し、車両は十台。それぞれ五名ずつの軍人が搭乗しており、御帝を含めて総勢五十人。
また武装はエーテル装備である。
帝都から半日の時間をかけて辺境町へ到着。日が昇る前の出発だったこともあり、到着時点で既に日が頂点を降りていた。
帝国での状況を聞き及んでいたのか、御帝たちを視認した兵士たちが警戒態勢に入った。整列した兵士たちの中には、彼らと揃わぬ装いをしたものが何人もおり、危機的状況を察した冒険者たちも戦うつもりであることが窺えた。
車が停止し、軍人たちが兵士たちと睨み合うように素早く整列。そして、御帝が後ろ手に一足送れて前に出た。
それに呼応したのか、オルスの兵士の中からは一際目立つ装備をした貴族の男が前に出て、御帝から10mほど空けて正面に立つ。
「私はこの辺境町オルスの領主、ジョナサン・オルス・ラングレー辺境伯である!そなたたちはなに用でこの町に来たのか!」
「私たちは日照国軍の使者です!あなた方の力を借りたく、交渉に参りました!攻撃の意図はないため、安心していただきたい!」
貴族の男──ジョナサンが良く通る声で尋ね、それに御帝も同じほどの声量で返す。ジョナサンはもちろん、御帝も兵を率いた経験があるため、その姿は堂々としていた、
攻撃の意図はないということで、警戒はそのままに一度話をすることにしたジョナサン。信用はできないものの、ずっと睨み合うわけにはいかない。
場所が変わって、ここは領主の館の応接室。豪華な調度品の飾られたその部屋に、御帝とジョナサンが向き合って、椅子に腰かけていた。御帝は二人の軍人を側に置き、ジョナサンはオルス騎士団の団長と副団長、加えて三名の部隊長という実力者五名を後ろに置いていた。
「つまり、お前たちに服従しろというのか」
御帝から一通りの話を聞いたジョナサンが、怒りを滲ませながらそう返した。その内容は、日照国軍の指示に従ってフラシア王国を含む、こちら側の国々を攻撃に協力するということだった。
フラシア王国の貴族であるジョナサンにとって、それは国への裏切りでもある。到底許せることではなかった。
「そう捉えていただいても構いません。どちらにしろ、拒否することはおすすめできませんね」
「交渉と聞いたのだが、拒否権はないとでも言うつもりか」
薄ら笑いを浮かべながらの御帝を、ジョナサンが強く睨み付ける。
「えぇ、交渉ですとも。私たちに黙って従うか、従わずに滅ぼされるか、そのどちらがお好みかと思いましてね」
「バカにしおって……!」
話が通じないと判断したジョナサンが、素早く懐からナイフを投擲し、咄嗟に腰に携えた剣を抜いて御帝の胸を切り裂こうと、右上に向かって斬り上げるように振り抜いた。
御帝は投擲されたナイフを上体を捻ってかわし、迫る剣を懐から取り出した銃のバレルで逸らし、飛び込むようにジョナサンとの距離を詰めて、その顎に銃口を押し付けた。
すかさず動き出した兵士たちに向けて、軍人のうち一人がアサルトタイプの銃からレーザーを放つ。最も身体の大きい騎士団長がその左胸を撃ち抜かれ、大きな風穴を空けられた。
その光景を見ていた兵士たちは驚きで足を止め、それを見ずとも状況を察したジョナサンが、冷や汗をかきながら動きを止めた。抵抗は無駄だと固唾を飲んだ。




