七十話 帝国城跡地にて
イルギシュ帝国はほぼ壊滅といえる状況であり、そうたらしめた日照国軍が蒼佑らのいるフラシア王国へと攻め入ってくるのは時間の問題であった。
その事態を重く見たエクロマ王は、蒼佑に日照国軍と戦うことを頼んだ。
もちろんフラシア王国自体も抵抗するつもりだが。
蒼佑は当然と言った様子で頷いたが、とはいえ策もない状況ではただ犬死をするだけである。
相手は空を支配しており、攻撃する質も手数も圧倒的だ。そう簡単には対処出来ないだろう。
そう考えた蒼佑はチュリカに知恵を借りると同時に、ソフィの発案で対抗する術を用意することになった。
曰く、ドラゴンに協力を求めようと。
その為に蒼佑とソフィは、魔族領へと再び向かうのであった。
事態は急を要するため、二人は休むことなく飛翔魔法で魔族領へと急いだ。
昼ごろにはフラシアを出発して翌日の夕方には魔族領へと入ることができ、そのままソフィの先導で魔王城へと向かった。
一方、イルギシュ帝国の城があった場所は日照国軍に占拠され、それによって帝都には不気味なほど静寂に包まれている。
民衆は傷付けられてはいないものの、かといって抵抗もできず怯える日々を過ごしていた。
そんな中、ピリピリと緊張した空気の漂う日照国軍の拠点ではこれからの作戦について話が行われている。
「それで?その勇者とやらを取り逃したというのか?」
「えぇ、思った以上のしぶとさでした。まさか銃器類が効かないのは想定外です」
そこは拠点にある一際大きな仮設の建物の中では、各部隊を指揮する隊長とその隊長たちを束ねる指揮官がおり、そして先んじて帝国に来ていた例のスーツの男もそこにいた。
彼は指揮官の男からの質問に少しばかり沈んだ様子で答えた。
スーツの男がイルギシュ帝国に来た時のことだが、彼が幸多に向けて銃を撃った時、彼は勇者であった為にその攻撃で負傷したものの致命傷は避けることができた。
勇者である幸多の強さは、スーツの男たちでは数人の犠牲の果てに傷を負わせるだけで精一杯であった。
皇帝は始末できたものの、帝国の騎士団長と第一皇女を取り逃してしまった。それも幸多と騎士団長のグリエラの実力によるものだ。
皇女は守られる者としての心得は持ち合わせていたようで、速やかに逃げられるように立ち回っていた。そのお陰で幸多たちも命からがら逃げることに成功したのだ。
男は取り逃した事に悔しさを感じつつも、指揮官に警告をする。
「勇者というのは伊達ではありません。気を付けた方がいいでしょうね。まさか最新の兵器でさえ殺しきれないのは、驚きでしたよ」
「あぁ、ハンドレーザーか」
指揮官にそう言われて頷いた男は、胸に忍ばせたハンドガンを取り出した。
レーザーというように、そこからはエーテルが圧縮された光線が放たれる。その威力は建物の壁を容易に貫通するほどだ。射程距離内であれば、障害物があっても威力減衰が見られないほど。
それを幸多は撃たれた瞬間に回避した。その瞬発力は、少なくとも " あの場 " にいた誰よりも優れていた。
貫かれれば幸多といえどひとたまりもないが、避けることはできたのだ。
「ショットガンタイプでは一つ一つの威力が足りないでしょうし、ハンドガンタイプでは範囲が足りません。そもそも私たちに比べてあちらが優れているのは身体能力です。パワースーツがあれば問題はありませんが、それでは瞬発力や経験は補えない」
男が持つレーザーガンはハンドガンの形をしているが、彼の言うショットガンタイプとはそのままレーザーのショットガン版だ。
撃てば散弾のように光線が放たれる。
至近距離での破壊力はハンドガンに比べて相当なものだが、しかし光線の一本一本が細く、その細さのせいで有効射程が短くなるだけでなく、魔力や魔法による妨害に弱くなってしまうのだ。
そして、日照国にて新しく開発されたパワースーツというのは、装着することで身体能力……主に筋力を上げることができるというもの。
力が強くなり足が早くなり、跳躍力も持久力も格段に増強されるのだが、あくまで力が強くなるだけである。
幸多たちのように、度重なる戦闘によって積み重なった経験がある者とは違い、経験から来る技術についてはどうしようもないのだ。
化学でのゴリ押しなんてそう簡単にできることではない……それが彼らの結論であった。




