六十九話 国王ともう一度
明らかに正常でない様子の幸多たちを見て、話を聞こうと思った蒼佑たちは、サラとアシュリーに彼らの傷を癒してもらい、フラシア王都にあるユニオンの奥の部屋で話をすることになった。
幸多の口から語られた内容は話を聞いていた蒼佑たちを驚愕させた。
それはイルギシュ帝国が、日照国という国の軍隊に攻撃を受けたというもの。
日照国は蒼佑らの母国であり、こちら側とは相容れない存在……つまり、別の世界の国であると皆が考えていた。
しかしを使者と自称したスーツの男は、幸多らの召喚について知っているような口ぶりであった。つまり、こちら側の存在を知っていたということ。
彼の言った軍門に下って欲しいという言葉と、イルギシュ帝国に対する攻撃を考えると、日照国の領地を広げようということだと考えられた。
そこから察するに、蒼佑たちの国とこちら側は同じ世界である可能性が高いという結論になった。
すぐに理解することは出来なかったが、それしか考えられることは無かったのだ。
「とりあえず、こんな大きな話は俺たちだけじゃどうしようもない。エクロマさんに話をしよう」
幸多たちから話を聞いた蒼佑がそう言った。
エクロマとはフラシア王国の現国王である。
「そうね、ロックとバレットも呼んで話に行きましょう」
蒼佑の提案にそう答えたのはアシュリーだ。彼女の言葉を否定する者はいない。
こうしてもう一度、二つの勇者パーティーが結成されることになった。
「そういえば、そちらの人は誰なんだ?」
「あぁ彼女はその……」
蒼佑が幸多の隣にいる外套を纏い顔を隠した女性を指して問いかける。それに幸多は、語気を弱くして答えた。
「帝国の皇女様の、アリナだよ」
彼がそう答えると、アリナはそっと立ち上がりフードを払った。
肩まで伸びた金髪と、水色の瞳が皆の目に写った。
「はじめまして、私はイルギシュ帝国の第一皇女、アリナ・グラシア・イルギスと申します。コウタ様は私の婚約者であり、命の恩人です」
彼女の言葉に、この部屋にいる誰もが驚きのあまり言葉を失った。
第一皇女という身分の人物がこの場所にいるなど、誰も予想していなかったのだ。
こうして集まったメンバーと、エクロマとメリーナを交えた十三名がフラシア王国の象徴である城の、その一室に集まった。
「すいませんエクロマさん。急な話を聞いてもらって……」
「構わんさ、君の頼みならな……それに、こんな時でもなければ、会えなかったろうしな」
そう言ってエクロマは、息子であるロックを見やる。しかしロックは彼と目が合うも、気まずそうに目を逸らした。
蒼佑が旅に出てからも、ロックは父であるエクロマとは顔を合わせなかった。
当然父であるエクロマは彼のことをずっと心配しており、その事を彼自身理解しているからこそ気まずくもあったのだ。
「……まぁいい。それでは、本題に入ろうか」
こうしてイルギシュ帝国に降りかかった不幸の話が始まった訳だが、当然ながらエクロマにとっても青天の霹靂とも言える出来事であった。
異世界の存在と思われていた蒼佑たちが、ただの異国人であったという可能性があるからだ。
つまるところ、それは今まで伝えられてきた召喚魔法の概念が間違って伝えられてきたということだ。
そしてまた浮上する問題があり、それは正に蒼佑たちのいた場所はなぜ魔法が使えないのかということ。
また、なぜ魔法という概念を一般に聞かなかったということだ。
謎が謎を呼んでばかりではあるが、それを解明できるだけの余裕は、今まさにないと言える時であった。
突如現れた軍隊によって、イルギシュ帝国……その城は破壊されて、彼らによって支配されてしまったのだ。
そして、その魔の手がいつフラシア王国を襲ってもおかしくないということ。
蒼佑がソフィと旅をはじめて暫くした後、ユニオンで受注した依頼をクラドラという冒険者率いるパーティーと進めている時に、上空を凄まじい速度で過ぎ去った飛行機を見たその記憶から考えれば、彼らがもし本気で侵攻を開始すれば、あっという間にフラシア王国は陥落するだろうことは想像に難くない。
飛翔魔法のソレなど比べるにも値しない速度は、恐怖そのものでもある。
科学と魔法の戦いが、まさに始まろうとしている。




