六十七話 帝国の最期
蒼佑らは夢愛と紅美を連れてどこかへふらりと旅に出ていった。
彼らを見送ることはできなかったが、それでも彼らの幸運と無事を祈っていた幸多は、相変わらず皇帝の隣で帝国の象徴としてソコにいた。
そんなある日、彼らの元にグレーのスーツを来た人物と、その部下と思しき十人程度の武装集団が現れた。
各部にプロテクターらしき物が付いた黒色の服に、心臓がある位置には国を表す模様があった。
それを見た幸多は驚愕の表情を見せ、ただ絶句することしかできなかった。
「何者だ」
アポ無しで訪れた彼らに不快感を露わにするゴードンが、やってきた彼らに問いかける。
しかし、代表らしきスーツの男は怪しい笑みを浮かべながら後ろ手にそこに立つ。背筋を伸ばしているため、その姿勢はとても良い。
「私たちはこのグラシア帝国から遙か数百キロほどの海の向こうにある国から来た、言わば使者というものです。今回は、あなた方に提案があって来ました」
男が言ったグラシアという言葉に、ゴードンは眉をピクリと動かした。
今の帝国はイルギシュという名であり、グラシアは過去の名だ。
「これからあなた方は我々の軍門に下っていただきます。抵抗しなければ命は取りませんから、素直に従っていただきたいのです」
「なんと無礼な……」
口調こそ丁寧な風を装っているが、それでも装いであることは変わりなく、その物言いにゴードンは怒りを露わにした。
その横にいる幸多は変わらず絶句したままであったが、ようやくとして声出すことが出来た。
「まっまさか、あなた方は…日照国の……?」
「ん?おや、もしやあなたは我が国の人でしたか……先の召喚により、こちらに来た四人組の一人ですね?」
なぜその事を知っているのかと、幸多はまたも言葉を失う。
「こちら側の空気は澄んでいるでしょう?エーテルの存在しない空気は良いものです。まぁエネルギー効率は落ちてしまうので、たまに来る程度がちょうど良いですがね……と、話が逸れましたか。失礼」
「あぁ無礼だな。極めて無礼であり、不愉快だ。当然だがお前たちの元に下るつもりはない。先に連絡もなく、挙句にその言い分は許せぬ事だ」
自分を放置し勝手に話を進められたことに怒ったゴードンだが、スーツの男はそれでも態度を変えない。
「そうですか……つまり、抵抗するという事ですね?」
「当然だ、我々はそのような稚拙な脅しに屈さぬ。お前たちこそ、武器も持たずに挑発するなど、命を取られても仕方あるまい?」
ゴードンがそう言って手を上げると、周囲の兵士たちが武器を抜いて彼らを取り囲む。
数で言えば倍以上だが、それで怯む彼らではなかった。
「ふむ、統率は十分に取れているようですが…」
「っ!待て!」
スーツの男がそう言って左手を上げると、武装集団は、兵士たちに向けて持っている銃で撃ち抜いた。嫌な予感を察知した幸多が発した制止の声は、虚しく響くのみであった。
所謂 散弾銃と呼ばれるソレを至近距離で撃ったことで、鎧を装備していた兵士たちの命を刈り取った。いとも簡単に。
「私たちはお前たちが降伏するまで徹底的に叩き潰す。覚悟しておけ」
「貴様……でぇい、何をしておる!ヤツらを殺せ!」
先程までとは打って変わり、高圧的な雰囲気を纏い始めたスーツの男は、ゴードンを睨んで踵を返した。
立ち去ろうとする彼らにゴードンは立ち上がり、右手を振って兵士たちを命令した。
残った兵士たちと騒ぎを聞きつけてやってきた兵士たちが彼らを囲み、逃がさないという態度をとった。その中に幸多を混じっている。
「……バカが」
スーツの男は懐から取り出した、散弾銃よりも更に小型の銃を幸多へと向けた。
次の瞬間、周囲は一瞬にして血みどろとなり、彼らは姿を消した。
そしてその晩、帝国の城は多数の戦闘機によって爆撃を受けて火の海となった。
翌日には跡形も無くなったその場所には戦闘機と仮設の建物が並び、帝国の象徴であったソレは踏み躙られたのだった。
戦いはまだ、始まったばかりだ。




