六十六話 不穏な空気
あれから夢愛にずっと詰められていた蒼佑だが、紅美の言葉によってなんとか開放された。
この言葉の内容は、とりあえず食事にしようという事だった。
四人で食事を終えて幸多が居るという城へと向かい、蒼佑はアスラについての話をする為にそちらへと向かった。
その最中、とある場所では大きな思惑が渦巻いていた。
空を飛ぶその大型偵察機の中で、本国からの通信を受けているグレーのスーツを着た男がいた。
『グラシア帝国に攻撃を仕掛け、後の目標であるナチュラルエリア掌握への足掛かりとする。増援は後に合流するはずだ、その地点で待機しろ』
「分かりました」
彼が返事をするや否や通信は終わり、その部屋には静寂が訪れる。
操縦室と通信室、そしてデータを集める為のデータベースがあるその偵察機は、長距離長期間の偵察を可能にするために特殊な技術を用いて作られた物である。
スーツの男は通信室からデータベースへと移動し、本国から送られてきたデータに目を通した。
そこに書かれていたのは、ナチュラルエリアを武力によって制圧するための作戦であった。
先日観測された強烈な魔力、その正体は分からなかったものの、捨て置いていいものではないと判断し、今回の作戦が決定したのだ。
これから彼らが向かうのは、イルギシュ帝国であった。
そうして翌日、蒼佑たちはあの後城に向かったものの無理だと言われてしまったために改めて城にやってきた。
夢愛と紅美がいることで特に詮索されること無く城へと入り、すぐに謁見をする事ができた。
「またその顔を見ることになるとはな」
皇帝を目の前にして仁王立ちをする蒼佑だが、彼に気が付いたゴードンは眉間に皺を寄せて言った。
「あぁ、アンタらに命を狙われた蒼佑だよ。なぁ幸多?」
蒼佑はゴードンの隣に立っている幸多を見て言ったが、幸多は気まずそうに目を逸らす事しかできなかった。
蒼佑とて幸多を責めるつもりはなく、彼の現状にむしろ良い印象を持っていた……というのも、蒼佑としては幸多たちにはまともに生きていて欲しかったからだ。
帝国とことを交えるとしてもソフィが傍にいる今、負けることなど万が一にも有り得ないという自信からも、帝国に対する恨みは特になかった。
どちらかというと、無関心と言った方が正しいが。
「まぁいいか、別に俺はアンタらにこんな話をしにきたんじゃない……初代魔王についての話さ」
蒼佑の言葉にゴードンの表情が驚愕に染まる。
なぜ知っているのか?という表情だが、蒼佑は彼の理解を待つでもなく、言葉を続けた。
「率直に言うと、もうヤツの脅威に怯える必要は無い。無事に封印が成功したからな」
「ふっ封印?一体どうやって……」
そう問いかけたのは幸多だ。アスラとロクに戦うこともできなかった彼としては理解できなかったのだ。
「どうって言われても、それはかなり特殊だし俺からは教えられないけど、一旦は大丈夫だってことは言っておく。アイツがもし本気でこっちに来たらどうなるか分からないだろ?とりあえず、信用できないのなら確認しといてくれ」
蒼佑と言葉に幸多もゴードンも絶句しており、言いたいことを言った蒼佑は三人を連れて踵を返した。
「とりあえず俺は、夢愛と紅美を連れてまた何処かフラフラしてくるよ。幸多も勇者として大変だろうが、無理しないようにな。それじゃ」
玉座の間から出るその前に、蒼佑は振り向かずに言って立ち去った。
それを見届けたゴードンは事実の確認を急がせ、幸多は四人の無事を祈るのだった。




