六十五話 嫉妬
一悶着あったものの、魔王を封印したということを幸多に伝えるためにイルギシュ帝国の帝都へと入った蒼佑とソフィは、彼に会う前に食事をしようと言うことになり、街にある食事店を色々と物色していた。
その最中に二人は、見覚えのある人物二人を見つけたのだ。
「蒼佑……?蒼佑!」
そのうち一人は蒼佑を見るなり駆け出して、彼の名前を呼んで抱きついた。彼女は夢愛だ、その隣には紅美もいる。
「久しぶりだな、元気そうでよかったよ」
「うん、うん!私も蒼佑に会えて嬉しい!」
涙を流して喜ぶ夢愛を見たソフィと紅美がふふっと笑う。それは蒼佑も同じだった。
彼は喜ぶ夢愛を優しく抱き返し、そっとその背中を撫でる。
「まさか、魔王のアンタが蒼佑と一緒だなんてね。連れて行ったから当たり前か」
「まぁな、私はソウスケの妻なのだから当然だろう?」
紅美の言葉にソフィはドヤ顔で答え、その言葉ち夢愛も紅美もパキリと音を立ててフリーズした。
蒼佑に抱きしめられた夢愛が、むくりと顔を上げてハイライトのない瞳で彼に問いかけた。
「妻ってどういうこと?ねぇ蒼佑?魔王さんと何があったの?もしかして……エッチしたの?」
「まぁ……うん」
蒼佑とソフィから感じられるただならぬ関係から察した夢愛が彼に問う。それに蒼佑は照れたように目を逸らしながら答えた。
夢愛も紅美も、そんなことは想像してなかったらしく、ヒクヒクと顔を引き攣らせている。
「あっあー……そっかぁ。まぁ蒼佑も良い男だもんね。アタシも結構助けられたし納得だわぁ…」
少しだけ血の気が引いた紅美が、目を泳がせながら答える。
当然だが、蒼佑と旅をしている間に少なからず彼に好意を抱いており、離れている間もその心の内に残ったままであった。
自分の過去の行いにそれを伝えることはしなかったものの、できるなら夢愛やアシュリー、サラたちが蒼佑と関係を持つように願っていた。
その結果がこれである。その胸中に出てたショックは如何ばかりであろうか。
対する夢愛は、ふるふると肩を震わせながら、目に涙をジワリと浮かべて彼の頬に手を添えた。
「私が間違えちゃったのかな……ずっと、ずっと大好きだったのに……私が蒼佑の初めて欲しかったのに、あげちゃったんだ……魔王さんに」
「えっ……と……」
正確に言えばソフィも初めてではない……が、そのことをわざわざ話す必要も無い。だから蒼佑は何も言わなかった。その手は夢愛の背中を優しく撫でていたが、言葉が出ない。
「ねぇ蒼佑、私まだシたことないんだ……初めて、もらってくれる?」
「えっ……」
「ちょっ、夢愛……」
ねだるように彼の首に腕を回した夢愛だが、その表情はどこか無機質にも感じられた。だがその胸中には強い嫉妬が渦巻いており、自分もその愛情を受けたいと強く想っていた。
当然だが蒼佑はその言葉に答えることができず、ただ目を逸らしてたじたじとしていた。
紅美は彼女の名を呼んで困惑している。
「いいんじゃない?ソウスケがシたいなら私は止めないよ」
「いやでも、夢愛には幸多がいるし……」
「いない、別に和泉くんはただの友達だから」
それはささやかな逃げ道だった。蒼佑は親友である幸多の恋人、夢愛に手を出せないと言ったのだが、そう思っていたのは蒼佑だけだった。
きっぱりと言い切った彼女の言葉を否定など出来ず、しかし今まで信じていたことが違うものであったといわれてもすぐには受け入れられなかった。
いったいどうすればいいのかと、ただ焦り困っているだけの蒼佑だ。
「ふっふふふ……ソウスケってば困っちゃって、カワイイね♪」
「いやえっと……」
「ねぇ、私とするのは嫌?」
ソフィはというと、彼女はこの状況を楽しんでおり、普段とは違う蒼佑の姿に新鮮な気持ちになり、思わず笑いが漏れてしまっている。
彼女が見ていた蒼佑は、いつも堂々としていたのだ。
戦うとにも旅をするときも、行為をするときも……彼は静かに受け入れていた。
決して突き放すことはなく、迷うこともなかった。
もちろん蘇った後は困惑したが、それは誰でもするだろう。一定の正常さがある証でもあった。
それを除けば、彼の困惑する姿などを見られるとは思っていなかったのだ。
ソフィは困っている蒼佑を見て助け舟を出す訳でも無く、紅美と並びながら観客と徹していたのだった。




