六十三話 再封印
長く続く戦いの中、アスラに決定打を与えられず隙も見つけられない二人だが、焦っても仕方ないと彼の動きを観察していた。
しかし、彼の動きには特定のパターンが無く、ここぞと言う時を見定めることが出来なかった。
「よく持ち堪えるじゃないか。だが、それではな!」
「ぐっ……!」
アスラは今まで手を抜いていたのだろう。それを思わせるように、彼は蒼佑に拳を叩きつけた。
それを受けた蒼佑は表情を歪ませ、受け身をとった身体ごと大きく吹き飛んで壁に叩きつけられた。
当然ソフィがその隙を逃すことはないが、それを読んでいないアスラではなかった。
右足を大きく振り、それを彼女に叩きつけた所で後ろから飛んできた何かに気付き、それを火魔法で撃ち抜いた。
「むっ……小賢しいマネを」
彼は初めて表情から余裕が失せ、不快感を露わにした。感じたのはいつか自分を封印したソレの魔力であり、彼は膝をつく。
すぐに封印をする為に蒼佑とソフィが駆け寄るものの、それは叶わなかった。
「無駄だ!」
彼がそう声を張り上げると強烈な魔力が吹き荒れ、封印の為の魔力が消え失せてしまった。
蒼佑たちは目を見開き、言葉を失う。
アスラの表情からは笑みが消えており、鋭い眼で蒼佑を睨む。もちろん背後にいるソフィにも意識は向いており、彼女はそれに気付いているからか動くことはない。
「忌々しい力だ、またも俺を封印するというのか」
今まで重厚だったハズの空気が、妙に軽くなる。二人はその違和感に気付いた。
アスラから感じられた雰囲気は無くなり、むしろまるで普段の姿のように見える。
戦いの時ではないというような、そんな程々に脱力した姿。
しかし、それは戦いのための脱力でしか無かった。
「ぅあッ!」
次の瞬間、蒼佑はアスラに殴られ、咄嗟に防御をしたものの突然の事で受身が間に合わず苦痛に表情を歪める。
その衝撃を利用してアスラから離れたものの、彼の追撃に防戦一方の蒼佑だが、ソフィはその背後を狙って脚を振り上げる。
その脚が振り下ろされた時、アスラは左手でそれを受止め左足を軸に回し蹴りをした。
ソレで二人を蹴り飛ばし、彼は二人を見据える。
幸多レベルでさえ、目で追うことすらギリギリだろう速度で戦いが進む。
二人相手に互角の戦いをしていたアスラだが、今はその強さに拍車がかかり二人とも完全に防戦一方。本気を出したということだろう。
封印に失敗した事でアスラから余裕が無くなったということでもある。
彼にとっても、再びの封印は拒否したいということだろう。
一切の光明の見えない戦いの中、二人は遂に決断した。無理にでも魔法を使わせて、封印を施すしかないと。
しかしアスラの魔法は先程より激化し、少しでも喰らえば致命傷になりかねない威力だった。
しかしそんな魔法だとしても、使われなければ封印することも出来ないため、それに接近することによる危険は覚悟しなければならない。
アスラはもはや何も言わず、蒼佑もソフィも息が切れはじめていた。
今までよりずっと明確な一撃を放つようになり、動きも洗練されていた。二人相手でもものともしないところを見るに、その経験値ははるかなものである。
そして蒼佑は思った。こうなったら……と。
逃げていた彼は壁を使って跳躍し、アスラへと飛びかかる。当然アスラはすぐに対応し、飛びかかってきた彼を右足の蹴りで対応した……が、それは土魔法で防がれる。
堅い土塊のクッションはアスラの足と蒼佑の身体を繋げてしまっているため、それを破壊するために魔法を放つ。
しかし、その瞬間のことであった。
「ぐぅ……!小癪な……ぅぅ」
魔法を放ったアスラが膝をつき、土塊は壊れることがなかった。つまり、封印が発動したということである。
三個の内一つの封印用の土玉はソフィが持っており、アスラの魔法に合わせて彼女が破壊したのだ。
即座に蒼佑がアスラに魔力を流そうと試みる。
「そんなもの……無駄だと、言っ……っ!」
もう一度封印の力を振り払おうとアスラが魔力を放ったところで、それは失敗した。
三つ目の土玉は目の前で蒼佑が破壊し、封印の力がアスラの身体流れ込む。
「……再び、封印されるというのか……この俺が……」
二度も続けての封印の力を受けたことで、彼の身体はかなり深く拘束されていた。そして、その身体に蒼佑は手を添える。
チュリカの教えの通りに、彼を閉じ込める檻のような、そして包み込む繭のような封印を蒼佑はイメージした。
目を瞑り、集中しその意識を封印へと向けている。
時間に十分。もはや瞑想ともいえる様子で、蒼佑によるアスラの封印が完了した。




