六十二話 リベンジ
チュリカからアスラを再び封印するための術を学んでいる蒼佑とソフィだが、一週間ほどの時間をかけてようやく、その感覚を掴むことができたようだ。
「タイミングはバッチリ、ただ本番は三回までしかチャンスはないから、そこだけは気を付けて」
チュリカはそう言って蒼佑に土塊でできた玉を渡した。その内からはなにやら強い魔力を放っている。
封印する為の魔力を多分に含まれたソレは、彼女の家系に伝わる秘法のようなものであった。
相手の神経を通じてその身体を拘束できるようなイメージが込められたその土塊は、特定のタイミングにのみ効果を発揮する。
体に内包された魔力というのは、皮膚という壁によって外とは完全に断絶されている。
しかし魔法を使う時は、内にある魔力が外に出るためその断絶の一部が一瞬だけ解かれるのだが、その一瞬の間に合わせて土塊を壊し、その中に込められた魔力を出てくる魔力に触れさせる。
そうすることで相手の体にある魔力が一時的にとはいえ石のように固まる。
その状態の対象に魔力を注ぐことで、相手を封印することが出来る。その時もイメージは必須だ。
鮮明に確実に、相手を封じ込めるイメージが大切だ。それが不完全だったり甘かったりすれば、封印が解かれるまでの期間がグッと短くなってしまう。
それらのレクチャーをチュリカから受けた蒼佑とソフィは今、アスラの元へと向かっている。
帝国領に入り、彼のいた森へと目指す。
しかしその場所は大きく様変わりしており、眼前には巨大な絶壁が広がっていた。
その様子に二人は顔を顰め、それでも前に進んだ。
あまりにも巨大なその壁は、これから自分たちが立ち向かう存在の大きさを示しているようだと、二人は感じていた。
人が入れるほどの大きさの穴から中に侵入し、ジメジメとした暗い道を進む。
辺りからは無数の魔物たちの気配があったが、それらは何をするでもなくこちらを窺っていた。
敵対してこなければこちらも手は出さないと、そう決めていれば争いも起きない。
そうして二人は進むこと十五分ほどだろうか、ようやく薄暗いく細い道から、明るく光る大きな広間へと着いた。
その場所には大きな玉座があり、そこにはドッシリと座ったアスラがいた。
「ほう、よく来たな。お前たちがまた来るとは面白い」
彼はそう言ってニヤリと口角を上げる。
平和を愛するという性格からはかけ離れているほどに、その表情は獰猛であった。
切れ長の目に口から覗く牙、切り裂かれたように長く上がった口角。
そして引き締まった身体に凄まじい魔力、その全てが別格だった。
世界でもトップのも言える実力者である蒼佑とソフィの二人ががりでも、互角であれば最高といったほど。
それほどまでに次元が違う。
「まさか、ただ会いに来たという訳ではないだろう?再戦といったところか」
何を言うわけでもなくただ彼を睨む二人に、彼は問いかける。それは暇つぶしとなんら変わらなかった。
「まぁ、そうだな。間違ってない。俺たちはお前を倒すよ、アスラ」
「っ!クク……」
蒼佑の言葉を聞いた彼は、それはそれは嬉しそうな表情と雰囲気でそれに応えた。
その瞬間、凄まじいプレッシャーが辺りを支配した。
あれから一時間は経っただろうか、蒼佑とソフィに対してアスラは優勢を崩さなかった。
どちらともなく始まった戦いは激しさが衰えることなく、その広間が崩れてもおかしくないほどに強すぎる衝撃が辺りに響いていた。
殴り合いも魔法も、どちらも等しく当たりを響かせるが、アスラは疲れた様子を見せない。
無尽蔵ともいえる体力と魔力の枯渇を待つのは得策どころが、ただの墓穴に他ならない。
だからこそ、ソフィは封印を決断した。
彼女は蒼佑に目配せすると、彼はすぐにその意図を理解した。
懐に忍ばせていたその土塊をいつ投げるか、そして即座に封印のための魔力を流し込むか。
タイミングを誤れば、封印の機会を逃す。
チャンス自体は三度とはいえ、一度失敗すれば確実にアスラに悟られる。それを警戒しない彼ではないだろう。
もっとも確実で効果的な、そんなタイミングを見つけることが先決であった。




