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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
蒼佑とソフィの新婚旅行?

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五十九話 敗走

 名乗りを上げた初代魔王であったが、その時に彼が放った魔力は今蒼佑たちがいる森全体に響き渡った。

 その響く衝撃が三人の身体を震わせ、強烈なプレッシャーを与える。今まで戦ってきた相手に比べ圧倒的なほどに強いことはすぐに分かった。


 彼はまさに、最強といえる存在であった。


「お前たちの目的は、俺を殺すことだろう?」


 彼は薄ら笑みを浮かべながら、そう言った。

 その笑みは余裕の現れであろう。それは最強であることの自負があるからだ。

 伊達に世界の三分の一を占めた大国、グラシア帝国を縮小させるほどに追い詰めた存在ではなかった。

 彼自身もそうだが、率いる部下たちも少数ながらも精強 揃いであった。


「そうだ。ここまで沢山の人たちを殺した以上、放置はできない!」


 一歩前に出てそう言ったのは幸多だ。兵士たちが無残にも殺されたことに強い怒りを抱いていることを、彼の震えた握り拳が表していた。


「そうか……しかし羽虫もどき二人に出涸らし一人とは、随分ナメられたものだな」


「羽虫……」


 先ほどから彼の口かは出てくる言葉に、蒼佑は怪訝そうな表情をした。しかし、彼はそれを気にも留めることはなく、片方の口角を更に釣り上げ獰猛さを孕んだ笑みに変わる。

 


「殺しに来たのならば、死ぬ覚悟もしておく事だ」


「っ……ぐぁっ!」


「幸多!?」


 突如として姿を消した魔王はいつの間にか幸多を蹴り飛ばしていた。彼は飛ばされた勢いで木々をなぎ倒していった。


「耐えるか、ならば……」


「やらせるか!」


 追撃をしようとした魔王を止めるために、蒼佑は姿勢を低くして懐に飛び込む。普通であれば目に追えない速度であったはずだが、魔王はそれに余裕を持って対処した。

 鼻で笑い右脚を蹴り上げた魔王だが、それを蒼佑はギリギリで回避できた。直撃は回避したようだが、頬を掠めたようで血が滲んでいる。


「くっ、隙が無い……」


「少しは骨があるようだが、それではな」


 隙を窺うものの手を出せないソフィと蒼佑。

 対する魔王は右手を構えて、ソレに魔力を纏わせた。彼の右腕の周囲が魔力によって歪んで見えるほどの密度。

 二人はその危険に気付いて咄嗟に後ろに距離をとったが、その直前に魔王は腕を振り下ろし、二人が跳躍したと同時に地面を穿った。

 強烈な魔力を纏った土の棘が扇状に放たれた。


 二人は咄嗟に土魔法を使って見を守ったが棘の雨がそれをすぐに打ち破った。

 当然二人はそれに貫かれ、致命傷にはならなかったもののそれでも深い傷を負った。


 初めての相手に警戒していたが、どうにも先の読めない挙動と速すぎる動きや反応に実力差を感じた二人は幸多を連れて逃げることに決めた。

 あまりにも、圧倒的だった。


 才能も実力も経験も技術も何もかもが、別格だったことを思い知らされた。


「ははっ、逃げろ逃げろ!逃げて自分の弱さを思い知るがいい!大人しく身の丈に合った相手と戦うのだな!」


 逃げる蒼佑たちを魔王は笑いながら見送った。

 彼からすれば無理に倒す必要はないからこそのソレであり、もし彼が本気で命を狙えば誰一人として無事では済まなかっただろう。


 気を失った幸多を担いだ蒼佑は、ギリリと歯を食いしばりただ逃げることしか出来ない自分を悔やんだ。

 ソフィとの繋がりによって強い力を手に入れた蒼佑であるが、それでも魔王を相手取るには力不足であり、そもそも経験があまりに足りていなかった。

 決して慢心していた訳ではなく、ただ単純に圧倒的に魔王が強かった。



「ごめん、何も出来なかった……」


「それはお互い様だろ。まさかあれだけヤバいとは思わなかった」


 魔王から逃げた三人は、暗い森の外に出てしばらく走ったあと、適当な場所で腰を下ろしていた。

 魔王の蹴りの一撃によって意識を失った幸多が落ち込んだようだったが、そもそも三対一の構図で負けた以上、蒼佑たちも彼を責めることなど出来なかった。


「初代魔王……封印されていたとは知っていたけれど……うーん」


 ソフィはなにやらブツブツと言いながら顎に手を当てて考え事をしていた。その様子に気付いた蒼佑だが、邪魔してはいけないとそっとしておくことにした。

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