五十八話 異常の正体
「そうか、二人ともこの異常を」
一通り蒼佑から話を聞いた幸多がそう言った。
異常とは今漂っている、魔力を伴った気配のことだ。あまりに圧倒的なソレを感じ取った蒼佑とソフィは、オルスという街で聞いた話をから今訪れている暗い森にやってきた。
それは幸多も似たようなもので、彼は皇帝の指示でこの場所の調査にやってきた。
感知された異常、唯一帰ってきた兵からも強力な敵対生命体が存在し、交戦の果てに部隊が壊滅の報告を受けたことによる指示だ。
「そういう幸多は、皇帝さんからの命令?」
「そうだね。こっちに何度か部隊が来たみたいなんだけど、その全部がやられたって聞いて」
「当たり前だろう。人間にはあまりに酷だな、あの圧は並の魔族どころか幹部……いや前の私でさえ到底太刀打ちできん」
相手の力量の凡そが掴めているソフィが過去の口調で幸多に言った。
「前の……魔王?」
「お前たちと戦った時の私だ」
彼女の言うことは分かるのだが、幸多が分からないのはそこではなく、今と前でそこまで違うのかと首を傾げる。
「ふっ……私は蒼佑と通じあった事で強くなったという事だよ。まぁ強くなったのは蒼佑も同じだが……蒼佑の中にある勇者の力と私の魔王の力が通じあった事でそれらが反応し、今までとは比べ物にならない力を手に入れたのさ」
「……それってつまり、愛ってやつ?」
「……っぷははっ、面白いなお前は!確かに私は蒼佑のことを愛しているが、そんな気持ちの問題じゃないのさ……まぁ見ていれば分かる」
ソフィの説明にピンとこなかった幸多の言葉に彼女は吹き出して言った。しかしその言葉の中には蒼佑への愛をハッキリ言っており、それを親友とも言える幸多に言われたことで顔を赤くしていた。
それを見たソフィがまたも笑う。
「あは♪なぁに蒼佑ってば照れてるの?」
「あぃ?あぁいやまぁ………うん」
「ふふ♪正直なのは大好きよ♪」
照れている蒼佑に嬉しそうに抱き着いているソフィだが、そんな二人のやり取りを見て幸多は目を瞬かせていた。
幸多からすると、夢愛ともその前の恋人ともそこまで触れ合うことのなかった蒼佑が、ソフィに抱きしめられて顔を赤らめたり照れたり、頭を撫でたりしている姿はまさに青天の霹靂だった。
再会を果たし話を終えた三人は遂に、今回の用事である森の中の何者かへと接触を試みた。
その為にはまずその場所へ向かわなければならないため、歩き出した。
「そういえば、夢愛と紅美は?」
「あぁ、明海さんは真木さんと一緒に帝都にいるよ。一緒に冒険者として活動してるみたいだね、二人ともチュリカさんに少しとはいえ鍛えてもらったから」
そんな話をしつつ、段々と魔力が強まってきたことで三人の間には沈黙のみが流れた。そこかしこに帝国の兵士たちと思しき亡骸が表れ始め、幸多は露骨に顔を歪ませた。
しかし足を止めることはなく、暫くしてたどり着いた場所には、大きな土塊か岩かといったものの上に座る魔族がいた。
その前に歩いていった蒼佑たちは、その魔族と目があった。
「……ほぉ出涸らしに あの忌々しい羽虫どもの気配……それも二人か」
「……?」
彼は口から出た出涸らしと羽虫という言葉に三人とも意味が分からなかったが、それを気にする余裕は誰にもなかった。
「魔族……?」
「如何にも、俺は魔族だ。だがそこの出涸らし……女も同じことであろう?」
そう言った魔族はソフィを指さしてそう言った。やはり出涸らしという意味は蒼佑も幸多も分からなかったようだが、ソフィはその意味に気付いたようだ。
「まさか、ご先祖さま……?」
「ふっ、ようやく気付いたか。俺の魔力をその身に宿している割に、なかなか察しが悪いようだな。所詮はやはり出涸らしということよ」
その言葉に蒼佑も彼の言い分に気付く。彼の魔力をその身に宿すということは、つまりそういう事であった。
「まさか、初代魔王とでも?」
「初代?笑わせるな、俺こそが唯一の魔王だ」
彼はその土塊から飛び降り、そのままの位置で蒼佑らを見据える。口は悪いが、なぜかその雰囲気は温和にも思える。
しかしそれがかえって不気味であった。
「どれだけ時間が経ったか分からんが、俺の魔力がここまで薄くなっているという事は相当の年月がかかったのだろう……しかしそんな事より、俺が不愉快なのはお前たちだ。羽虫ども」
「は?」
少しだけ鋭さを持った気配が彼から放たれるが、蒼佑はその羽虫という言葉にまたも疑問を抱いた。
「……いや、羽虫というよりその気配だけか?しかしその不快な力は魔力と混じってもいる。不気味だな……とくにお前」
次に彼が指をさしたのは蒼佑であった。不快感を出し始めた彼であるが、やはり羽虫という言葉に蒼佑たちは首を傾げる。
「知らんか……まぁいい。お前たちが気になっているのは俺のことだろう?」
「あぁ」
彼の言葉に蒼佑が頷くと、彼はニヤリと口角を上げた。その時、彼から放たれる圧がより一層強くなり、三人ともがそれに顔を歪ませた。
「いいだろう、隠すことでもない。私は魔王……いや初代魔王である!」
先ほど蒼佑が言った初代という言葉をわざとらしく言った魔王は、そう声を張り上げた。




