五十六話 休日
フラシア王国をほぼ横断した蒼佑たちは辺境町オルスに来ていた。五年ぶりにこちら側にきた蒼佑がサラと再開した街である。
ソコを拠点として冒険者活動をすること数日、ソフィのランクはベーシックBランクとなっていた。異例のスピードだが、それも彼女の実力のあってこそである。
順調にランクを上げ、金もしっかり稼いだことで二人はたまには休日があってといいだろうと言うことで一日ゆっくりしようということに決めた。
オルスにやってきてからというもの、ドラゴン程では無いにしても強力な魔物や動物たちを討伐してきたため少しだけ疲労が溜まっていた。
向こう側の動物と比べこちら側の動物は、魔力を使うことのできる魔物という生き物と渡り合うために凄まじいパワーをもっている。
シカのような角に風を纏わせる馬や、ヤマアラシのような背中に炎を纏わせた狼、それに猫のような爪に氷を纏わせた狸など、様々な魔物もいるが、対する動物はソレらの攻撃などものともせずに薙ぎ払う。
魔力を持たないからこそ鋭い爪や牙、または膂力などの圧倒的な物理で魔物たちをねじ伏せる。
とはいえ天敵は存在するようだが。
つまり魔物だろうが動物だろうが、討伐ともなればそれぞれ大変ということだ。
魔力がないから、炎や氷がないから楽だなどと思い軽く考えているとあらぬ大怪我や死に繋がるというのは冒険者たちの中の共通認識だ。
今や幸多たちでさえそのことはよく理解している。
ただ魔族たちは魔物たちを服従させることに非常に長けており、魔族の率いる部隊や過去に蒼佑たちが戦った軍に魔物が多かったこともそれが理由である。
そんな動物魔物退治に明け暮れた日々に疲れた蒼佑とソフィは、街を歩いてちょっとした観光をしている。蒼佑は戦いばかりでソフィは責務で城に篭ってばかり、そんな過去の二人が観光というのは初めてのことだった。
目に入った店に入ったり露店に立ち寄って食事をしたり買い物を楽しんだり、シンプルに散歩をしたりと楽しんでいた。
「ソフィもこういうのって美味しいと思うんだな」
彼の言った " こういうの " とは極めてシンプルな肉の串焼きだ。程よい塩加減にちょっとしたスパイスをかけただけのもの。
値段もそう高くなく、地元でも親しまれているものだ。
「そりゃーね。というかどっちかって言うとこっちの方が好きだな。ほら、私って一応魔王だったでしょ?だからやけにお上品な料理とか出てくるの。こんなこと言っちゃダメなのは分かってるんだけど、そういうのばっかじゃ飽きるって言うか……」
王である以上、上等な素材と上等な料理人によって作られた料理を食べていた彼女だからこそ言えることだが、それが意図せずとも嫌味になっしまうことを彼女は分かっていた。
だからこそ蒼佑に、そして言葉を選びつつその事を話す。
「まぁ良い食材で作った料理はすっごく美味しいよ?作ってくれた人達の腕もすごいのは分かるし感謝してるんだけどさ……やっぱりそれだけっていうとどうしても物足りなくなっちゃうし、それになによりさ、こういう場所で作られる料理ってみんな工夫して美味しい料理を作るでしょ?質より量、そして一般的に流通してる食材をどれだけ活かせるかっていう努力とかもあるだろうし、だからなのかな?より一層美味しく感じるんだよね」
決して魔王の時の料理に対して感謝が無いわけでは無い。しかしソフィなりに見て触れて、実際に狩りをして食材を手に入れたり、蒼佑と共に料理をしたりしたことで舌が肥えたのだろう。
加えて料理の大変さも知ったことで、自分がどういったものが好きなのかを知ったのだ。
「だからさ、もっと色々食べようよ!」
「そうだな、じゃああっちの店にでも……っ!」
蒼佑が気になった店を指さした時、二人が何かに気が付いた。その気配は今までに感じたことの無いほどに強大で、圧倒的だった。
しかし何処から、また何者が放っているかも分からないソレに二人は何できなかった。
一瞬走った緊張の空気だったが、ソレもすぐに弛緩し気にしないことにした。
「ねぇソフィ?」
「うん?……もしかして、さっきの?」
蒼佑とソフィの考えていることが一致していたようで、彼女の言葉に蒼佑は コクリと頷く。
「もう少し様子見が必要かもしれないけど、もし何かあれば……」
「うん、私たちが何とかしないとね!」
すっかり冒険者としての質が身についたのか、やる気満々といったソフィが両手を拳にして胸の前で掲げる。
そう決めた二人は、今は休みだからと再び観光に戻った。




