五十四話 ドラゴン
昨日ユニオンから依頼を受けた蒼佑は、クアドラたちパーティと協力することになった。
その依頼はとある空飛ぶ影の正体と危険性を探るためであり、もし危険であったらばそれを討伐をする必要もあった。
しかし彼らが見た物は、蒼佑の知る戦闘機と呼ばれる、向こう側に存在する筈のものであった。
その実態が分からぬ以上今は置いておくしかなく、もう少しだけ探索をすることにした。
その翌日である今日、夜中に不寝番を交代した蒼佑とソフィは朝に目を覚ました。
「おっ、おはようソウスケさん。よく眠れたかい?」
「あぁ、おかげさまでな」
クアドラ達と挨拶を交わし、ソフィもそれに続く。朝食を食べ終えた皆はある程度野営の片付けをして探索を始めた。
とはいえ、対象が空を飛んでいる以上地上での探索はあまり意味をなさず、それでも危険性を確かめるためには移動するしかないという結論になった。
先の場所よりも北方に向かっていると、昨日とは違う音だが何かが飛んでいる音が聞こえた。
そちらに目を向けると、その正体はドラゴン系統の魔物であった。サイズはその中でも大型であり、ソレは蒼佑たちに気付くと軌道を変えてそちらに向かう。
彼らを目の前にしたドラゴンは興奮したように咆哮を上げた。ソレは赤い鱗を持っており、またギラギラと鋭い目をしている。
短い前足と後ろ足、そして大きな翼を持っているソレは極めて獰猛な個体であることが分かった。
そもそもドラゴン系統は自らの縄張りから出ることが少なく、もし遠方まで出ている個体であればそれは群れに馴染めなかった個体である。
そういう個体は決まって過去に群れの中で攻撃されることも多く、その経験から他者は例え同族であっても敵という認識を強く持っており、目につく生き物を全て攻撃する習性がある。
だからだろう、彼らの前にいるドラゴンは咆哮の後に口から炎を吐いた。
とっさにクアドラのパーティメンバーである魔法使いが土魔法を発動した。巨大な土壁が皆を守る。
「こりゃ困ったな、ドラゴンだけでもやべぇってのにコイツ割とでけぇぞ」
「たらふく食ったんだろ、相当強い個体だな」
クアドラと蒼佑の言う通り、このドラゴンは獲物に体にも恵まれた個体だ。あまりに大きく、ドラゴンの中でも異常なほどに獰猛であるが故に群れから追放されたこの個体は並の魔族でさえも苦戦を強いられるほど。
こういった個体はいずれ人間にも魔族にも等しく牙を剥くので、当然容赦なく始末しなければならない。
特に近くには街があるのだ、人間の足では一日でも飛翔魔法や飛行生物などのスピードならば、決して遠いとはいえない距離であった。
極めて危険であり討伐の必要性ありと判断した一行は即座に戦闘態勢に入る……が、蒼佑とソフィから感じられる魔力にクアドラたちが一瞬怯んだ。
当人たちは自覚していないが、二人の持つ魔力はかなりの圧があり、勇者でも魔王でも敵わないほどの魔力を放てばドラゴンも感化されるのは当然であった。
既に激昂したような状態だったドラゴンは二人の魔力を受け、即座に最も近くにいたソフィを狙った。
その大きな口で彼女を喰らおうと迫るもヒラリと避けられ、ドラゴンの左頬に彼女は手を添えた。
「──ごめんね」
ポツリとソフィがそう告げると、ドラゴンが吹き飛んだ。その頭部は大きくひしゃげており頭蓋どころか脳が大きく損傷したことが分かる。
つまり、即絶命したということだ。
あまりに一瞬の出来事であり、クアドラたちは当然衝撃を受けた。一方 蒼佑は腕を組み頷いている。
彼は今、自分の力がそれくらいかと観察していたのだ。
彼らの名誉のために言っておくが、クアドラたちは決して弱くない。それどころか、蒼佑がなるよりもだいぶ先にマスターのAランク持ちとなった彼らは相当の強さだ。
それこそメリーナやグリエラと同等クラス……つまり騎士団長クラスと言ってもいい。
腕っ節も経験も、それは長い時間をかけて積み上げられた確固たる実績であり結果だった。
弱いはずがなく、巡り会いによってはロックたちほどではなくとも、勇者パーティの一員になれる実力者たちだ。
そんな彼らがあんぐりと口を開けて絶句しているあたり、ソフィは本当に恐ろしいのだろう。
当の本人は蒼佑を見てピースしながらニコニコとしている。
出番のなかったクアドラたちは、無事だったとはいえ少し不憫だっただろう。




