五十三話 空飛ぶ影
ユニオンの仕事は依頼を仲介するものであるが、もちろんそれだけが全てでなく、他にも治安維持や、近辺の強力な動物や魔物を討伐する為の依頼を独自に出す場合もある。
またその死体を捌いて得られる肉や材料などを市場に卸す役割も兼ねており、薬草なども含めて流通にも大きく関わっている組織だ。
そして今、蒼佑たちは近辺に存在する巨大な生き物を調査してほしいという依頼を受けている。
この街はフラシア王国領土の北東に位置するので、さらに北方に位置する山から魔物がやってくる場合もあるらしく、今回もその可能性が高いと判断された。
街の北方に空を飛ぶ巨大な影が観測され、その生き物が危険であるか否かが知りたいらしい。
その場所に辿り着いた訳だが、今はその影とやらを見つけることは出来なかった。
なので、しばらく周辺探索をしようと考えた蒼佑たち " 一行 " だった。
「とりあえず、野営するつもりじゃないとダメかもな」
「だな、どれだけかかるか分かったもんじゃねぇ」
蒼佑の時間がかかるという予想にクアドラも頷いた。今 蒼佑たちはクアドラたちのパーティと協力して行動していた、彼らはベテランの冒険者であるため野営はお手の物だ。
それは蒼佑も同じだが、ここで唯一 野営未経験なのはソフィである、しかし彼女は初めての経験に目を輝かせていた。
「楽しみにしてるとこ悪いけど、野営の準備はもっと後だからな?」
「そっかぁ……」
今から準備をすると思っていたソフィはしょぼんと肩を落とした。
今はまだ日も高く明るい時間だ。辺りを調査するとはいえ、件の空飛ぶ生き物が近くを通らねばならない。
そう思い生き物の痕跡や何かしらの手がかりを探す一行だが、そんな彼らがとある音に気付く。
遠くから聞こえてくるソレは妙に重厚な雰囲気があり、段々と音が大きくなってくる。
しかし風を切っている音と言うより、まるで轟音のようにも聞こえるそのソレに蒼佑は聞き覚えがあった。
彼はジワリと汗をかき、その正体に嫌な予感がした。もしかして……と。
そうしてその音の主は風を切る音を携えて凄まじい速度で上空を過ぎていった。
あっという間に通り過ぎたソレは、気が付けばとうに離れており、相変わらず轟音を響かせながら空の彼方へと飛んで行った。
その僅かな時間に蒼佑が捉えたその姿は、彼の予感の通り知っているものであった。
人を載せ、空を飛ぶ " 機械 " である、いわゆる飛行機……その中でも戦闘機と呼ばれる物であった。
彼はテレビや写真などで軽く見たことはあるもののそこまで造詣は深くない。
ただ、知っているだけともいえるソレが、まさかこちら側に存在するなどと考えたことも無く、今の出来事は彼の心に衝撃を叩き込んだ。
「ソウスケ?」
「おい、大丈夫かよソウスケさん……」
目を見開き呆然としている蒼佑を心配したソフィとクアドラが声をかける。
しかし彼は右手を上げて俯いた。
「ごめん、少し驚いただけだ。気に、しないでくれっ」
どこかおぼつかない話し方をする蒼佑に それは強がりだろうと思う皆であったが、本人が何も言わないのであれば、これ以上根掘り葉掘り聞くことも出来ず、そっとしておくことしかできなかった。
時間が経ち先ほどのショックからもある程度立ち直った蒼佑だが、彼の結論はいつか聞いた "こちら側に存在する魔法を使わない文化圏" にて製造された物だということ。
とはいえ彼の知識ではそれも予想に過ぎず、無理矢理 納得しているということが本質であった。
しかし、その答えを知る術など蒼佑には無かったのだ。だからこそ、そうするしかなかったのだ。
時間は飛んで今は真夜中だ。蒼佑は昼間の出来事が忘れられず眠ることが出来なかった。
そんな彼に声をかけたのはソフィだ。二人で 寝ている皆を起こさぬように少し離れたところで話した。
空を飛んでいたあの物体について、彼の予想も添えて……正確には、願望だが。
「そっか、そりゃビックリするよね。でも確かに、ソウスケの予想した通り魔法の無い文化圏ならそういうのも造られるのかな?たしかに飛ぶにも魔法がないといけないもんね」
「うん。魔法がないことを補うためにっていうのならおかしくないし、有り得るなって」
「──でももし、アレがソウスケたちのいる世界の物だったら?」
そんなソフィの問いかけに、蒼佑は押し黙って俯く。無いとは言いきれなかったからだ。
とはいえ、そうであったとしてもどうしようもないことは彼も分かっていた。
はぁ… と彼は溜め息を吐いた。
「まぁ気にしても仕方ないか。とりあえず、今回の依頼を終わらせるしかないな」
「そうだね……でも、まずはちゃんと休んでね」
「分かった……ソフィ」
吐き出したことで少しだけ楽になったのだろう。蒼佑はソフィの名前を呼んで少しだけもったいぶった。彼女はポカンと首を傾げている。
「──ありがとう」
「っ……どういたしまして♪」
完全にスッキリしたわけではないものの、それでもほんの少し楽になったことが、蒼佑にとって助けになった。
彼は微笑み感謝をすると、ソフィは嬉しそうに笑った。




