五十二話 ソフィも冒険者に
翌日二人はユニオン支部に向かい、ソフィは冒険者として登録することにした。魔族が登録できるのかというと不安になっているようだが、別に人間以外の獣人でも登録できるため、似たようなものだろうという考えだ。
実際、魔族が登録してはならないというルールはない。
「登録……ですか。魔族なのに?」
「えぇ。彼女は魔族ですけど敵対の意思はありません」
受付の女性が怪訝そうにソフィを見ているが蒼佑はハッキリと告げる。もし彼のランクが低ければ一考の余地さえないものの、一線を張れる者に与えられるランクがある程度の余地を残していた。
とはいえ、何も知らない周囲からすると いつ彼女が敵対したり暴動を起こすか不安なのだ。
マハラが如何に特殊であるということがよく分かる出来事であろう。
「たはは……ウチの魔族が迷惑をかけたようで…… 」
なんとも気まずそうにしているソフィであるが、これも種族間の壁に加えて、魔族がかねてより大々的に敵対していることが原因だ。
しかもそれは魔王として彼女も同じく行ったことであり、それがより罪悪感に拍車をかけていた。
しかも浮かれていた矢先にこれなので出鼻をくじかれたわけである。その胸中は悲しみに満ちている。
好きな人に迷惑を掛けてしまったことにも。
「ソウスケさんがいくらマスターAランクとはいえ、魔族というのは困ります。そもそも街に入れたことさえおかしいというのに」
受付の女性はハッキリと言い切るが、それでも蒼佑は引くつもりなどない。
しかし、ソフィは彼の袖を引く。その表情はとても悲しそうであった。
「もう、いいよ。仕方ないって……だって今までずっと敵対してたんだからさ」
「よくない。ソフィは別に争う為に来たんじゃないんだ。ちゃんと理解してもらおう」
そんな悲しみに満ちたソフィを笑顔にしたくて、蒼佑はそう言った。その姿に彼女は胸を打たれる。
「もし彼女が問題を起こせば、俺が全て責任を取る。でもそうならないようにちゃんと傍にいます、それじゃあダメですか?」
「そう言われましても……魔族が冒険者というのはちょっと」
蒼佑は頭を下げて頼むが、それでも受け付けて貰えない。そもそもユニオンとは依頼人から冒険者や探索者に仕事を回すことが基本となる。
つまり依頼を達成してしまえば問題はないので、魔族だからと登録できないのはただ職員個人の判断によるものだ。
魔族とは戦争していたから、だから敵で危険であるという認識が、そうさせていたのだ。
「あれ?ソウスケさんじゃないか」
蒼佑たちの後ろからそう声をかけてきたのは、いつか紅美を眷属にした魔族と戦い、負けてしまったとある冒険者たちだった。
「あ……あぁアンタらは確か」
「クアドラさん!聞いてください、ソウスケさんがそこの魔族を冒険者として登録したいと言って聞かないんです、なんとかならないでしょうか?」
職員がその冒険者たちのリーダーにそう言ったが、彼は蒼佑のことをある程度信用しているためまずは話を聞こうと思った。
「その子は、ソウスケさんが連れてきたのかい?」
「そうだな。色々あったが、少なくとも無意味な戦いは絶対にしない」
「──まぁ確かに、そんな風にゃ見えねぇな」
リーダーの男はチラッとソフィを一瞥するとそう言った。今の彼女は落ち込んだ表情をしており、登録出来ないと言っている職員に対して怒らないところが信用できると思った。
「まぁソウスケさんがここまで言ってんならいいんじゃないかねぇ?もしこの子が暴れるってんならそれこそソウスケさんが止めてくれるさ、俺が保証する」
「うーん……まぁクアドラさんがそう言うならいいですけど……分かりました。すごく不安ですが登録しましょう」
はぁ…とため息を吐きながらも、渋々ソフィを登録するための手続きを始めた職員。その表情はとても嫌そうであるが、それでも淡々と手続きを進めるあたり自分の仕事は真面目に取り組んでいるのだろう。
無事にソフィは冒険者となり、職員から渡されたカードを見てキラキラと目を輝かせている。
「ありがとうソウスケ!」
「いや、俺よりもクアドラさんだよ。ありがとうクラドラさん」
もし彼がここで口利きをしてくれなければ、もしかすればソフィが冒険者になることは出来なかっただろう。
そう思った蒼佑はリーダーの男に頭を下げる。
「いやいや、俺はアンタに命を助けられたんだ。こんなんじゃお返しにもなってねぇよ」
男はそう言って笑う。しかし少し照れくさそうに頬をかいており、やはり嬉しいことが窺える。
「そういや、ロックさん達はどこ行ったんだ?」
「あぁ、アイツらはフラシア王国に戻ったんじゃないか?」
知った風にそう言った蒼佑だが、当然 今彼らが何をしているかなど知らないので予想である。
もちろんそんなことを知らない男は へー といいながら納得していた。
「とりあえず、俺たちは暫くの間ここで依頼をこなすことにするよ」
「お!じゃあもし困ったら俺を頼ってくれよ!」
「ははっ、その時はよろしく」
二人は笑いながら、ガシッと握手をするのだった。




