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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
すれ違う者たち

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五十話 新たなる門出

 ガラガラと蒼佑なきがらを載せたロックたちのいる馬車が、音を立てながらフラシア王国に向けて走る。

 馬車の中には重苦しい沈黙の空気が漂っており、悲痛な面持ちのメンバーがいた。


 蒼佑を想っている夢愛もアシュリーもサラも涙を流し、ロックやバレットも辛そうな表情をしている。

 夢愛とアシュリーはこれから蒼佑ともう一度関係を深めようとしていた矢先だ、その心情は察するに余りある。


 現情は非常で、彼はもう冷たくなっておりもう動くこともない。

 呼吸もなくピクリとも動かないその様子は、すでに息を引き取っていることをハッキリと示していた。



 どうしようもない現実に辛い気持ちを隠せない皆の元に、ある気配が近付いた。

 それに真っ先に気付いたのはバレットで、間髪入れずにバレクトも気が付いた。


「馬車を止めろ!」


 その存在に気が付いたバレットが大声でそう怒鳴ると、同行していた二台の馬車も止まる。

 馬車が完全に止まる前にバレットは外に出て、停止した後に他のメンバーもそれに追随する。


 全員が並び、近付いて来る覚えのあるその気配に皆が冷や汗をかき、すぐにその存在を認識した。


「うそ、だろ……」


「ふざけるな、なんのためにソウスケが……」


 ロックとバレットがそう呟き、怒りを露わにしている。

 その正体はソフディスであり、彼女はかなり急いだ様子で彼らの前に降り立った。


「やっと見つけたぞ、ソウスケを出せ!」


「ざけんな!アイツはもう死んだんだよ、テメェのせいでな!」


 当然だが、ロックたちはソフディスの考えなど知る由もなく彼女のソレに応える義理などない。

 それどころか、彼女を敵と認識しており強い敵意を向けている。


「えぇい、時間がないというに……仕方ない!」


 ソフディスが指を鳴らすと辺り一帯に電撃が走り、それによって皆の動きが鈍る。

 その瞬間、彼女は蒼佑が載せてある馬車に入った。


「やっめろ……クソ……」


「そうすけ……」


 動かなくなった蒼佑が死して尚痛めつけられるのかと、皆が強い怒りを感じている。

 しかし、彼を見つけたソフディスの声はとても嬉しそうだった。


「見つけた……!今治してあげるからね」


 彼女が蒼佑に手をかざすと、そこから強力な魔力が彼に向かう。

 その魔力は極めて異質で、しかし回復魔法のソレであった。


 当然だが、回復魔法を使ったとしても死者が生き返ることはない。本来ならばその魔法は無駄なはずだった。


 しかし、そもそもロックたちが蒼佑を見つけたとき、彼の欠損していたはずの体はある程度回復していた。

 それによって、実を言うと彼は仮死状態であった。


 あとは、完全に治しきるだけだ。



 そう時間はかからない内にソレは終わり、今まで動くことのなかった蒼佑が小さく声を上げ始めた。


「ソウスケ、ソウスケぇ。おーい……」


「うぅ……ソ、フィ……」


 ペチペチとソフディスが彼の頬を叩くと、小さく呻いた彼が彼女の名を呼んだ。

 それを聞いたソフディスは嬉しそうな笑顔になった。


 それを見ていた皆は彼女の放った電撃で動けなくされており、ただ信じられない光景を目の当たりにして絶句していた。

 ことわりを超えた出来事が信じられなかったのだ。


 すぐに彼は目を開けて、ゆっくりと上体を起こす。


「──あぁ、あれ?スゥ……ハァ……生きてるのか?あれ、ソフィ?」


「──うん、生きてるよ……ソウスケ」


 夢でも見ているのかと目を瞬かせている蒼佑が、胸に手を当てて深呼吸すると、素朴な疑問を口にした。

 ソフディスは嬉しそうに彼を抱き締め、その名を呼ぶ。


 すると、辺りに放たれていた電撃がなくなって皆 動けるようになったが力が入れられずに膝をつく。


「どういう、事だよ……たしかに動かなかったはずじゃ……」


「そんなのはどうでもいい、ただ……生きてるのか?ソウスケ」


 それは当然の疑問だった。ただ目の当たりにした現実を飲み込むのに精一杯で、何が何だか分からないままだ。

 それは蒼佑も同じで、理解しているのはソフディスだけだ。


「ねぇソウスケ、これから二人で旅しようよ……私さ、ずっと冒険がしてみたかったんだ」


「あぁ……」


 抱き締められたままの蒼佑が、ソフディスの言葉を噛み締める。訳の分からない彼はただ、考えることをやめてその言葉通りにすることに決めた。


「そう、だな……行くか。俺たち」


「うん!」


 彼は理解することを後にすることにし、差し伸べられた彼女の手を取って大地に立つ。

 空を見上げて、そこから照らされている光に目を細める。その心はとても清々しかった。


「ふふっ。ソウスケとキスしたからかな?すごい力が溢れてくるよ」


「えっ?キス……あー……ほんとだ」


 そっと自身の唇を触れて言ったソフィの言葉に、蒼佑は意識を失う前のことを思い出して、内から感じられる力を感じ取った。

 勇者としての力でもなく、只の魔力でもない……底知れぬ力が湧き上がってきたことを感じとった。


「そっか……じゃあ、いくか」


「うん!」


 まずは理解したい。だからソフィについて行こうと彼女と共に飛翔魔法を使い空を舞った。

 その発動速度は極めて早く、魔法のイメージをしてその瞬間には地から足が離れていた。


「ソウスケ!」


「蒼佑!」


 そんな彼を夢愛とアシュリーが名前を呼ぶ。しかし彼はそれに応えるつもりはなかった。


「みんなごめん、勝手だけどちょっと旅してくるわ」


「はぁ……?」


「はっはっはっ!思い切りが良いなソウスケ!」


 あまりの展開に幸多は変な声をあげ、バレクトが吹っ切れて爆笑した。

 彼からすると若者が清々しく飛び立つ姿は嬉しいことだったようだ。完全には理解できたわけではないが、彼にとっては俺も面白いことだと思えたようだ。


 蒼佑はソフディスに促されるままに彼女に着いて行ってしまった。

 皆はただそれを見送ることしかできず、立ち尽くすだけだった。



 事態を理解していたのはソフィだけで、蒼佑を含む全員が、訳の分からないままにことが進んでいた。

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