四十九話 現実
幸多たちが行方をくらました蒼佑を探して、もう一度 魔族領へと足を踏み入れ、魔王のいた城に向かった。
城を目視した彼らは、城壁に空いた大穴を見て異常を感じた。それほど激しい戦いがあったのかと思い、また蒼佑が無事であることを祈る他なかった。
そこに向かう途中、城を囲むように存在する森の中を通る道を進んでいるとどこからか気配を感じた。
もしかしたらと思いそちらに向かうと、そこには多数の魔族がおり、中には四天王や魔王の側近もおり、幸多たちはすぐに戦闘態勢になった。
しかし、魔族たちは戦う素振りを見せない。
「お前たちは、勇者の仲間だったな」
そう言ったのは魔王の側近、彼の傍には何者かが寝転がっていた。
幸多らはもしかすると、蒼佑が魔王を手にかけたことで彼らの戦意が削がれたのではと思った。
「そうだ。こちらに来ているはずの勇者を探しに来た」
「そう、か……」
側近の言葉に幸多が答えると、彼は他の魔族たちに目配せをした。そこに転がっている何者かが見えるように、魔族たちが道を開ける。
幸多たちは "ソレ" を見て言葉を失った。
「そう……すけ……」
「ぇ……」
幸多はなんとか彼の名を呼び、夢愛は言葉が出ず、紅美はただ一筋の涙を流した。
「ックソ……」
「ぅっ……」
「へ……ぇ……?」
ロックは歯を食いしばり、バレットは悲しそうに俯き、サラは口元に手を当て涙を流し、アシュリーは膝から崩れ落ちた。
バレクトは何も言わず、チュリカは空を仰ぎ、グレッタは虚ろな目をしている。
皆が一様に、唐突な現実に苛まれた。
「魔王様も勇者も死んだ、よってこの戦いは終わりだ。我々もお前たちと事を交える必要はない……彼を、連れて行ってやってくれ」
辛そうな皆の心情に理解をしつつ、側近の魔族は蒼佑に掛けられた魔王の衣を手に取ってそう言った。
そのまま魔族たちは城に戻り、幸多たちが残される。
「蒼佑は、俺たちが連れていきます」
幸多は、とにかく蒼佑を楽にしてあげようと考えた。辛い心から目を逸らし、まずは彼を馬車に載せようと前に出る。
「申し訳ありませんがそれは認められません。あなた達は帝国に身を置いているでしょう?つまり、ソウスケ殿も帝国に連れていくおつもりでしょう?」
「当たり前じゃないですか、蒼佑は俺の大事な友人なんです。ほっとくなんて、できませんよ」
メリーナの問いに幸多はそう答えるが、彼女の問いかけの本意はそこではなかった。
「そうではありません。帝国はソウスケ殿の命を狙いました。ソレを考えると、帝国がソウスケ殿にどういった扱いをするのかという懸念があります。死者の冒涜さえ有り得る以上、それを許すことはできません」
死して尚愚弄されること……メリーナはその事を心配していた。今のイルギシュ帝国に、信頼はない。
「しかしメリーナ殿、ソウスケ殿を召喚したのは帝国です。つまり他に連れていく場所が……」
「五年前の戦いでは我がフラシア王国が召喚しましたが?」
幸多のためにと食い下がったグリエラに対しメリーナはハッキリと言い切った。五年前に蒼佑がこちらに来たことは知っているが、どこの国が召喚したのかを知るのはロック達のほかにグリエラだけであった。
「でも、今回は帝国ですし俺たちだっています。せめて友だちとして──」
「それはならねぇな」
続けて食い下がる幸多に被せたのはロックだった。友人としてであるならば、それは彼にも同じことが言えた。
「ソウスケはフラシアに連れていく。ワリィがこれは王族の権限でやらせてもらうぜ……フラシア王国第三王子、ロズベルト・フラシア・ジュリアスが、その名をもってソウスケの身柄を引き受ける!」
王子としての宣言に、誰もが口を閉ざす。それ以上は国との対立となることを、 "こちら側" の人間たちは知っていた。
「それでも、俺は……」
「やめなさい。これ以上は王国との対立になるわ」
その意味を知らずに食い下がる幸多を止めたのはアシュリーだった。彼女は蒼佑の傍に座り、彼をそっと撫でる。
こうして、蒼佑の亡骸はフラシア王国が弔うことになった。彼をロックたちの馬車へと載せる。
その傍には夢愛とアシュリーが寄り添った。死して尚孤独にならぬようにと願いを込めて。




