四十八話 " ソフィ "
"彼女" は生まれながらにして魔王として生きてきた。 "彼女" から感じられる魔力は赤子でありながら他の魔族たちを遥かに凌駕しており、周りの魔族たちは先祖返りだと喜んだ。
自らの意思に関わらず流されるまま魔王となってしまった"彼女" は、その肩書きに重みに耐え続けてきた。
その立場から様々な判断を迫られ、それによって魔族も人間も等しく命を散らす。その非常な結果に心を痛め続けてきたが、その身体に流れる血が逃げることを許さなかった。
もしできるとするならば、それは死ぬことに他ならない。
だからこそ "彼女" は、魔王として世界に名乗る時期を前倒したのだ。
自らを殺してくれる強者と出会うために。
そうして人間への戦争を宣言し、イルギシュ帝国への侵攻を決断した。話に聞いた勇者という存在と戦うために。
ただ、表向きは封印されているであろう初代魔王を探し出すために戦いとしている。
そうして部下から勇者が現れたという旨の報告があり、"彼女" は胸を躍らせた。自分の願いが叶うかもしれないと。
そうして見つけたのが蒼佑だ。幸多にも勇者としての力は感じたが、彼には全く心が惹かれなかったらしい。
しかし "彼女" は蒼佑を見た時、強さとしても人としても、そして異性としても魅力を感じた。
所謂一目惚れというものだ。
一度も恋をした事がなく、対等に関われた存在と出会ったことのない "彼女" にとって、その魅力はあまりに暴力的であった。
そうして過ぎったのは『彼になら、この重責から解放してくれる』という確信。そして戦いとは違う情の交わし合いをしたいという気持ち。
"彼女" は蒼佑に幸せを見出したのだ。
そうして行われた一対一の戦いに、初めての強者とのソレに滾る身体と魔力を感じた。
互角とも言える相手に全力を出し、そして引き分けた。それならば、仕方ないと "彼女" は思う。
戦いを終えて、ボロボロになったお互いを見て二人の行く末を理解し、その僅かな時間で初めて好意を持った相手に気持ちを伝えたくなった。
そして、ずっと小さな頃に今は亡き家族から呼ばれたその時の名前、"ソフィ" という名前を蒼佑に呼んで欲しくなった。
彼の名前を知り、自身の名前を知ってもらい、互いにその名を呼ぶ。
最期に感じた最高に幸せに彼女は嬉しい気持ちに包まれた。
"その時" を迎え、静かに瞼を閉じる彼に愛の言葉を伝え、初めての口付けを交わす。
これで思い残すことは無いと、ソフィは意識を手放した。
しかし、彼女も彼もまだ終わることはないことを、これから知ることになる。
愛の契りなどというものではないが、魔族と人が結ばれるということの奇跡は、決して死では終わらないことを二人は身をもって味わうことになる。
胸の内から新たに感じとれる、力がその体を癒したことで、彼女は立ち上がることができた。
突然のことに彼女は理解が出来なかったが、それでも自分のするべきことをすぐに理解した。
「そっか……まだ、生きていいんだ」
独りごちたソフィは一度、蒼佑の傷を癒し城へと向かった。過去との決別を行い、そして新たな人生を迎えるために。
それが終われば彼を起こしに来ようと、一度立ち去った。
自らが纏っていた衣を蒼佑に被せたままに、すぐにことを終わらせると誓った彼女は、急ぎ城に向かう。
自分の部屋に向かい、彼女は行ったのは身辺整理だ。夢にまで見た冒険をするために、必要な荷物を整え、また戻ってきた部下たちが自分の生存を分かるように。
そして "魔王" は死んだと伝えるために。
魔王ソフディスではなく、一人の少女ソフィとして名実共に生まれ変わるために……




