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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
すれ違う者たち

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四十六話 勇者と魔王

 その昼、突如として魔王がいる城に何者かが突撃した。

 ソレは壁を突き破り侵入したらしく、その場所は土煙によって周りが見えなかった。


 そこにいた魔族たちは突然形を変え物言わぬ骸になっており、それをおこなった犯人はどこへと姿を消した。




「ふふふふ……あははは!まさか、本当に一人でくるとはな!」


「あぁ、ケリをつけに来た」


 ここは玉座の間、魔王が鎮座している場所である。

 その場所に訪れたのは先の戦いに於いて、辛酸を嘗めさせられた蒼佑である。


「おぉ、いい……いい表情だ。もはや美しさすら感じるほどに、その笑顔は素晴らしい!」


「そりゃどうも、笑っているつもりはないんだがな」


 今この瞬間に全力を出し尽くす勢いの彼の表情は恐ろしい程に穏やな笑顔だった、それを見たソフディスが笑いつつも恐怖を感じた。



 二人の睨み合いに空気がビリビリと震える。二人から出てくる闘志が、周辺あたりの空気に影響を与えているのだ。

 だがその睨み合いは、牽制でも様子見でもなく、ただお互い見つめあっているだけのものであった。

 不思議と、互いに相手から形容できない魅力を感じていた。



 その睨み合いの果てに、どちらともなく地面を蹴り距離を詰めた。その衝撃は凄まじく、城全体に振動が伝わったほど。

 地面が抉れ、蜘蛛の巣状の亀裂が入るほどの跳躍をした二人はその勢いのまま互いに一閃を放つ。いつの間にか魔王は魔力を物質化し漆黒の剣を作っていた。


 空気中に漂う一種の気体である魔力を物質化させることかできるのも相当の技量が必要であり、ソフディス以外にそれが出来たのは初代魔王のみである。


 その一閃の勢いに耐えきれず、互いの剣は崩れ去った。蒼佑の剣は魔力で強化されていたため引き分けとなったが、もしそうでなければ命さえ刈り取られていただろう。


「そうか、ならば武器などいらぬな」


「奇遇だな……!」


 武器が手元から失われたことで素手を選んだ彼女呼応し、蒼佑も素手を選ぶ。

 二人が使うのは掌か、爪か、拳か……


 再び全力で距離を詰めた蒼佑がソフディスの首を掴み、そのまま地面に叩きつけようとしたところで、彼女はその手を強くはたき彼を振り払う。

 その勢いのまま彼女の爪が彼の左眼を抉り、その瞬間に彼の指が彼女の右目を穿った。


「心の臓……!」


「貰った!」


 同時に互いの視界の半分が失われたものの、ソフディスは更に蒼佑の心臓を狙う。

 しかし彼はそれを狙っていたようで、心臓を狙い貫手にしたその右手首を掴んで、思い切り地面に叩きつけた。その衝撃で右手は使い物にならなくなった。

 右手を諦めた彼女は一度距離をとるものの、それでも戦意が衰えた様子はない。


 しかし、体力は確実に削れ、さらに蒼佑の魔力に触れたことでほんの少し動きが鈍った。彼はソレを見逃さない。

 全身にある魔力を暴走させ、それを爆発させ相手を巻き込むという攻撃やりかたにすることに決めた。


 その技はできるだけ対象に近づかなければない上、また暴れ回った魔力が自身の身体を傷付けてしまうためほとんど共倒れという形になる。

 それはつまり自爆ということだ。 


 突如として彼の魔力が暴れ始めたことに気付いたソフディスであるが、勇者の魔力を受け続けた今の彼女には、抵抗する術も耐えられるほどの体力も足りていない。

 詰みを悟った彼女は自身に飛び込んでくる彼を見て、それを受け入れようと決めた。

 避けられるほど遅くはなかったから。


「そうか……ここで、終わりなんだね……」


 蒼佑に掴まれたソフディスは抵抗することなく彼を抱き締める。

 彼はそれに気付くことはなく、暴走した魔力が光り二人を包むのだった。




 二人の戦いが始まる前、幸多たちのいるマハラでは蒼佑がいないことで騒ぎになっていた。

 

「ダメだ、見つからん。散歩にしたっておかしいだろう」


 周辺を探しに出ていたロックやバレット、アリーシャやバレクトたち だが彼を見つけられないことにグラットがそう告げた。

 蒼佑がどこに向かったのか、段々予想が現実味を帯びてくる。


「急いで魔王の城へ行くべき」


 チュリカの一言に誰も反論することはなく、ただ頷くのみであった。

 幸多たちは、ただ蒼佑の無事を祈ることしか今できることはなかった。

 すぐに準備してマハラを発つ。


「ソウスケの野郎、見つけたらただじゃおかねぇぞ」


 ロックはいなくなった蒼佑に向けて、そうポツリと呟いた。その胸中には不安の情が渦巻いている。


 さすがに主要メンバー全員が空けることをできないものの、それでもチュリカやグレッタ、バレクトが幸多らに同行した。

 皆がその胸の内に嫌な予感を抱き続けていたが、なんとなく大丈夫だと、そう信じ続けていた。

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