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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
すれ違う者たち

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四十四話 決戦前夜

 急に現れた魔族たちの追撃をなんとか処理しながらマハラへと急ぐ。

 蒼佑は魔王との戦いで負った自傷で焦りを感じていた。早く治さなければ確実に足でまといになってしまう。

 とはいえこのまま時間が経ち過ぎれば回復魔法では治せなくなってしまうため、時間をかけられないまま、何度も何度も少しづつ回復魔法を自身にかけながら魔族たちを追い返していた。



 なんとか魔族領から逃げおおせた蒼佑らは急いでマハラに向かい、体勢を整えることにした。

 すぐにマハラの存在する森の入口に到達し、見張りをしていたグラットに事情を話し 中に入れてもらった。




「そう……今の魔王はそこまで強いの」


「あぁ、想像をはるかに上回っていた。情けない話だ」


 今はチュリカと魔王との戦いについて話をしており、彼女は蒼佑の膝の上でソレを聞いていた。

 彼女も雷魔法についての話は知っていたものの、まだ目の当たりにしたことはないのだ。


「ともあれ、ソウスケ達が無事で何より。そんな余裕はないかもだけど、ゆっくり休んで」


「ありがとう」


 労いの言葉をくれるチュリカの頭を撫でながら蒼佑は礼を言った。撫でられた彼女は嬉しそうに目を細める。


「ところで、ソウスケは大丈夫なわけ?アナタ、相当力を使ったでしょ?顔色もあまり良くないし──」


「ちょっと疲れただけさ、魔王との戦いなんてそんなもんだろ?」


「それは、そうかもだけど……」


 あの戦いの後から様子があまり良くない蒼佑を心配したアシュリーに、彼は諭すように返した。

 そんな様子を見たチュリカが彼の頬に手を添えてその目を見つめる。


「話はもう大丈夫。だからゆっくり休んで」


「えっ……まぁ、そうだな」


 休むように言ったチュリカに蒼佑が少し困ったように返事をした。そんな彼を見た彼女は フッと笑い頬に手を添えたまま唇をそっと重ねた。

 顔を離した彼女の頬は朱に染まっており彼は目が点になっていた。

 当然アシュリーは言葉を失って口をあんぐりと開けたままでいる。


「まだそのっ、ソウスケとしてなかったから……ほらっ早く休んできなさいっ」


 まるで言い訳をするかのようにばつの悪そうに言ったチュリカが顔を真っ赤にして彼の背中を押した。


 たじたじとしながら部屋を出た蒼佑がグレッタと出会った。


「あっソウスケ!」


 彼の顔を見た彼女が嬉しそうに抱き着いた。

 もちろん彼もそれを受け止め、その頭を撫でてやる。


「大丈夫なの?みんな傷だらけでサラとユメはピンピンしてたけど、アシュリーがここにいるって」


「あぁ、アシュリーはこの部屋にいるよ……まぁ、あっさりやられちゃったけどね」


「そっか。それでも皆が……ソウスケが生きててよかった」


 例え負けたとしても、傷だらけだったとしても、生きてまた会えたこと、それがグレッタにとって嬉しいことだったのだろう。

 彼女は落ち込んだ表情をしている蒼佑を抱き締め、そっと背中を撫でる。

 その大きな胸に彼の頭をしっかり押さえ、逃がさないように、それでも癒せるようにと慈愛の心で包み込む。


 その優しさに、彼はその背中に手を回して応えた。




 その夜中、今は大半の人々が寝静まっており、起きているのはチュリカや見張り番くらいのものだ。今の時間はグレッタが担当している。


 そんな夜更けにひっそりと建物の外に出たのは蒼佑だった。

 グレッタに抱き締められたあと、彼女と別れて部屋で夜中まで睡眠をとった彼は今、なんの目的で外に出てきたのか。



 魔王と、たった一人で決着をつけに行くためである。



 あまりに強すぎる敵を相手に、今の仲間たちでは立ち向かえないと思ったのもあるが、なにより先の戦いで負った身体の中の怪我だけは十分に癒すことができず、人知れず痛みに耐え続けていた。


 そう長くないだろうことは予想がついていた。



 申し訳ないとは思いつつも、誰にも別れを告げずに彼は魔王のいる場所へ向かった。




「……ふふっ、来るか」


「ソフディス様?」


 魔王城にいるソフディスが何かに気が付き、何かに微笑んだと思うとそばにいた魔族……蒼佑たちが相手をしていた魔族が彼女の様子を不思議に思った。


「いや、なんでもないさ」


「はぁ……」


 彼はソフディスが小さかった頃からずっと面倒を見ていただけあり、二人は気心の知れた仲であった。だからこそ今は彼女の側近として傍にいる。


 今の城には、四天王はいない。時間が経てば彼女の側近である魔族も任務に出なければならないらしく、恐らく蒼佑が城に着く頃には魔王と一体一の構図ができているであろうことは想像できた。


 今、蒼佑と魔王ソフディスの間には無意識に通じ合う何かがあったのだ。

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