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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
すれ違う者たち

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四十三話 徹底的な敗北

 魔王ソフディスの放った青白い光が地面を駆け巡り蒼佑らに襲いかかる。

 蒼佑は咄嗟に魔力による防御で身を守り魔王をしっかり見据えていたものの、幸多は反応が一瞬遅れその衝撃に耐えきれなかったことで目を瞑ってしまった。それは決定的な隙になる。


「見せたな」


 その一瞬を見逃さなかった魔王は、彼の後ろに回りこみ強烈な蹴りを脇腹に叩き込んだ。

 その速さは、蒼佑でさえ反応するのにいっぱいいっぱいだったほど。


 それによって吹き飛ばされた幸多は城壁に叩きつけられ、彼を庇うため蒼佑が前に出る。既に彼は自分の力を抑えてはいない。


 後のことを考え抑えていた力を出し、全力で魔王と向かい合う。


 その口角は歪に上がっていた。



 しかし、先程の魔法を食らったのは二人だけではなく四天王と戦っていたメンバーも同じであった。

 突如襲いかかったソレで動けなくなったのはかなり大きな隙だった。


 人間と違い魔族は魔力によって筋肉を動かすため、雷魔法でダメージ自体は負うものの、人間のような隙は発生しにくい。


 魔法で強化されたとしても、人間であるロックらではその雷の力に強く影響を受け、その隙を魔族に突かれバレットは 後ろに回り込まれ脇腹をその爪で抉られた。

 ロックも前後から強烈な蹴り入れられメリーナとグリエラも腹を貫かれるなど、揃って致命傷を負わされた。もはや勝敗はついたといえる。

 その時間は一秒にも満たなかった。

 

「っ!」


 魔王との応酬を繰り広げている最中、その様子に気が付いた蒼佑が幸多を抱えてそちらに向かう。魔王はそれを微笑みながら見送った。


 サラはなんとか持ちこたえられるようにと回復魔法を使っているが、夢愛の攻撃魔法では彼らの動きを止めるには足りないため間に合わないように見える。


 しかし魔族たちは攻撃の手を何故か緩めている。蒼佑はその異変に気が付いていた。

 しかし今はそれを気にしていられないと魔族たちをあしらいながら全員を集めていた。


「お前ら、早く逃げろ!」


「ははは!意気揚々と来たくせに逃げるつもりか!所詮は人間じゃくしゃよな!」


 蒼佑が殿を務め、サラの素早い回復魔法によって辛うじて動けるようになったロックとバレットがメリーナたちを抱えて逃げる。

 魔族の笑い声に歯を食い縛りながら、彼らは急いで逃げ去る。それはあまりに屈辱だった。

 文字通りの電撃作戦によって大敗を喫した蒼佑らは、悔しさを胸に強く押し付けられていた。


 あまりに情けないという気持ちと、同時に相手の強さが身に染みた敗北であった。




 馬車の近くに身を隠した蒼佑たちは、受けた傷を癒すために馬車に戻った。

 やはり手加減されているようで追手は一匹たりとも現れず、徹底的な敗北を味わった蒼佑らである。

 とはいえ、そもそも雷魔法を使ってくる魔王など、歴代でもソフディスを除いて三人いた程度。初代はもちろん、またそれに近い第二、第三の魔王である。

 ソフディスの強さはまさに先祖返りというのは間違いないと言えた。


 それでも絶対に負けるという訳ではなく、先程蒼佑が行ったように魔力によって防ぐ方法もあるが、それが出来たのは彼以外にアシュリーとサラのみである。夢愛は魔王から最も離れていたためギリギリ当たらなかった。

 尤も、それが偶然か意図されたものかは分からないが。


「蒼佑……俺たちは、負けたのか」


「……あぁ」


 身体を癒した幸多が、蒼佑に暗い顔で尋ねた。

 彼の胸中には、敗北を信じたくないという感情がある。


「あれが今回の魔王の強さか、もしアレが成熟したら全て終わるんじゃないか?」


「それならば今のうちにケリをつけたいが……いけるか?」


 ロックの予想は間違っておらず、もしこれからさらに強い勇者が現れなければ……少なくとも蒼佑に並ぶ実力がある勇者でなければ敗北は必至だ。


「負けたらその時だ、どうせ死ぬなら抗うしかない」


 そう言った蒼佑の言葉に誰も否定はしない。

 幸多たち三人はそのつもりはないが、先代パーティであるロックらは今回ほどでなくとも敗北は経験済みだ。

 周囲の助け、そして自分らの弛まぬ努力もあって先代魔王を倒すことができた。

 それなら今回も同じことであった。


「とりあえず一度マハラに行こう。またアイツらの世話になるのは申し訳ないが、仕方ない」


 何にせよ、この場所でいつまでも留まっている訳にはいかないと、この場所から離れることを決意した。

 先ほどの戦いによって蒼佑は大変に魔力を使ってしまった。それは自分の身体の限界に近く、彼の身体に大きなダメージを与えていた。



 今の蒼佑の身体には余裕がない。

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