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四話 出発前

あれから一月近く経って、明海(あけみ)さんも真木(まき)さんも魔法を覚えて、それなりに戦えるようになってきていた。


蒼佑(そうすけ)…どこ行っちゃったんだろ…」


ふと明海さんがそう呟く。

この世界に呼び出されて数日後、蒼佑は城から姿を消してしまった。

この世界の何処かにあてがあるとは思えないのだが、かといって理由もなく居なくなるとは思えない。

しかし他の人に聞いてもこれといって答えもなく、悶々としながら日々を過ごした。

それに明海さんは彼との関係を修復したいと思っていた矢先だ、彼女の心情は察するに余りある。

そして真木さんの彼への辛辣な物言いも非常に目に余る。

最初は転移したことで気が動転し、イライラしているのかと思っていたが、しばらく経っても、そして今でも彼が居なくなったあの日のように…気の所為かもしれないが何処か嬉しそうに見える。


「旅が始まったらすぐにでも捜さないと。」


大切な友達だ、せめて安全が確認できないと安心できない。


「別にいいでしょ、どんな理由であれあいつが自分で出ていった以上、あたし達じゃどうしようもないって。

どこにいるかも分からないんだし。」


真木さんは相変わらずだ、まるで彼が居なくてもいいような言い方をする。


「嫌だよ、私は蒼佑に会いたい…。」


涙ぐみながら明海さんが呟く。

彼女は向こうでも蒼佑から距離を置かれていた。

あの日、その理由を確かめる為に教室に呼び出したのだ。

しかしその機会が失われた挙句、居なくなってしまった。

明海さんはまた彼と話をするために、そのチャンスを掴むことを目標に、修練に励んでいた。

この世界には男女共に戦う力を身に付けることが出来る。

男性は膂力、女性は魔法力に優れている為、女性だから戦えないということが無いのが幸いした。

人数が多ければ、それだけ安全に旅ができる。帝国の支援に、その騎士団長、そして先代勇者パーティのメンバーを加えればそれなりに戦えるだろう。

そうして旅を続けていればきっと蒼佑に会える、そう信じるしかない。

ふと、真木さんが明海さんに尋ねる。


「夢愛はあいつから避けられてたよね。例え見つけたとしても、あいつが話に応じると思う?」


そう言われた明海さんがぎゅっと手を握る。


「わからない…。けどすれ違ったままじゃ嫌だよ、せめて話がしたい…。」


もっともな話だ。

俺だって納得出来ていない、彼を指す根も葉もない悪評がきっと明海さんから遠ざけたのだろう。

そもそもの話、俺は二人の関係を応援していた。それがいつの間にか俺と明海さんが付き合っているという話が広がって、彼が離れたのか?


はたと転移初日に真木さんが蒼佑に向かって放った言葉を思い出した。


『そんなんだから夢愛に捨てられたんでしょ?』


明らかに事実と違う話だ。明海さんが蒼佑に別れを告げたのではなく、蒼佑が明海さんに別れを告げたのだ。

まるで蒼佑が明海さんに好かれていないと断言するような物言いに少し不愉快になった。


「でもあいつが話を聞くとは思えないよ?後ろめたいこととかあるだろうし…。それにあたしは、和泉くんの方がずっと優しいと思うし、あいつより頼りになるから二人が付き合っちゃえばいいと思うけどね。

それにあいつはあんたのストーカーって聞いてたけど?」


真木の物言いに明海さんが憤慨する。


「ッ!!全然違うよッ!誰が言ったか分からないけど、そんな嘘ある訳ないでしょ!変なこと言わないで!」


「そッそうなの?てっきりあたしは…」


明海さんの剣幕に真木が押され、そう言った。不信感だけが募る。


「おい真木、お前この間蒼佑に、明海さんに捨てられたとかなんとか言っていたよな?」


唐突な問いかけに真木は明らか動揺した。


「え、そッそうだけど、だって皆そう言ってたし…」


「つまり当事者でもない奴の根も葉もない噂を鵜呑みにして、あんなことを言ったのか」


「えッとね…その…。」


しどろもどろになって何かを言おうとしているが、何も言えずにいる。

学校では蒼佑の悪い噂が絶えず、嫌な気持ちになることが多かった。誰が始めたか知らないが、学校での女子全体に広がっていたその噂が、それも本人の気持ちすら考えもしない、取り敢えず彼女を慮るような発言が気に入らなかった。それなら二人の仲を引き裂くような真似をするなと。


「真木はもう余計なことを言うな。これから背中を預けて戦うのに邪魔になる。」


パーティメンバーはそう多くない、今下手に人数を減らすのは悪手だ。

こいつには黙っていてもらった方がいい。


「ごッごめん…。」


そう言ってしおらしくしているが、あまり信用ならない。

しかし明後日には此処を発たねばならない。不安だがこのメンバーでやっていくしかないがさて…どうしたものか。

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