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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
すれ違う者たち

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三十五話 魔王の呟き

「準備はいいか?」


「うっうん」


 そんな蒼佑の声にたどたどしく返事をしたのは紅美くれみである。

 結局のところ、彼女は幸多こうたらのパーティから蒼佑のパーティに移籍することになった。

 彼女を眷属とした例の魔族を倒すまでの一時的な処置であるが、それでも一人欠けてしまった事は由々しき事態であった。


 一応、幸多や夢愛はマハラで修行をしたためある程度の実力は身についたので、本格的に魔族との戦いが始まるまでは今のままでも戦うことは可能だ。あとは実戦経験を如何にして積むかに掛かっている。


 夢愛とアシュリーは蒼佑に想いを伝えたものの、目まぐるしく変わる認識に彼は困惑するままで、この戦いがある程度キリのつくまでなんとも言えないとのことだ。

 二人ともそれを仕方ないことだと、なんとか受け入れようとしている。



 そしてこれから、蒼佑らのパーティは旅に戻る事にした。まずは例の魔族を倒すことからではあるものの、もしかしたら魔族の領へ向かわねばならないかもしれないとも予想していた。

 その時は幸多たちにも協力を求めねばならない。


 おそらく、今回の魔王との戦いは五年前と比べ物にならないというのが蒼佑らの見解だ。


 その理由は、グラット曰く例の魔族以上の実力者が幹部になっていること。

 例の魔族が四天王の一人にさえなれなかったことを考えると、相当な強者であることは自明の理。

 熾烈な戦いが待っていることなど考えるまでもない。


 そこに紅美という不穏分子ともいえる存在を抱えたまま飛び込むことは出来ないということだ。


「では、いきますね」


「頼みます」


 メリーナの合図に蒼佑が返した。

 今 御者をしているのはメリーナだ。しばらくの間存在が空気となっていたが、彼女もちゃんと話は共有されている。

 そもそもマハラにいたのは誰も彼もが英雄のような存在、一介の騎士では萎縮するのも当然と言えよう。それは元近衛騎士でも変わらない。

 息を殺していたのは彼女だけでなく、グリエラもそうである。


 幸多らはもう二日ほど滞在する予定らしいので、蒼佑らは一足先の出発だ。

 馬が足を進め始め、馬車の車輪が回る。


 次第にガラガラと煩い音を立て始め次第にスピードを上げていく馬車の後ろを、幸多たちはただ見送っていた。




 場所が変わりここは魔王のいる城。

 その一室で円卓を囲む四人の四天王とそれを取りまとめる魔族、そして魔王がそこにはいた。


「お呼びでしょうか、魔王様」


 そう言ってここに姿を表したのは、先日マハラを襲撃した魔族だ。彼はなぜここに呼び出されたのか分かっていない様子だ。


 そんな彼に苛立ちを感じたのは魔王であった。


「どうしてマハラを襲撃した?ワタシはそんな命令など出していない」


「それは……危険だと判断したからでございます」


 魔王の前で片膝をつき頭を垂れたその魔族は、問いにそう答えた。

 しかし、その答えは魔王の意にそぐわなかったようだ。


「あの場所には手出しなければ争うこともない。中立を貫く者たちだからこそ事を交えるなと言ったはずだ。それは危険であればこそ、ワタシたちの目的は帝国を陥落とすことだ」


「はい、存じております。なのでその障害を取り除こうと思い──」


「まだお前の答えは問うておらん」


 今は魔王が自身の考えを述べている時であったが、それを魔族が邪魔したことでより苛立ちを強くさせる。

 魔族の額に冷や汗が垂れる。


「我らの目的は帝国の陥落、その為には戦力が大きく必要だ。その為の準備期間だというのに、お前が有力な戦力を少数とはいえ無駄にしてくれたお陰で予定が狂った」


 魔族はその言葉を否定しようとしたが、先ほどのこともあり口を噤む。

 それに、連れていった戦力は全て討たれてしまった以上、間違ったことではないのだ。


「お前の独断、更に命令無視で損害を出した。お前の実力は理解していたので多少の身勝手は大目に見たが、今回はさすがに看過できん。責任をとってもらうぞ」


 魔王が淡々と告げた内容に危険を感じ、彼は直ぐに城から逃げ出した。

 それを見越していた四天王たちが部下を向かわせ、自分らも彼を追いかける。しかし存外彼の逃げ足は早かったようだ。


「まったく、あの程度も捕まえられんか」


「仕方ありませぬ、所詮は若造ですからな」


 一人をすぐに捕えられず追いかけて行った様を見た魔王はそうため息をついた。

 そんな魔王を古くから知る魔族の老爺ろうやが傍にいる。彼は魔族四天王を束ねる者であった。


「──少し一人にさせてくれんか」


「かしこまりました」


 魔王はそう言って彼には立ち去ってもらい、今は一人で玉座の間にいる。

 これからにことを考え遠い目をしている魔王は、小さくため息をついた。


「疲れるなぁ……もし私がこんなじゃなかったら、もっと良くなったのかもしれないけど」


 " 彼女 " は窓の外、その城下町を見ながら先程よりもさきほどよりも高い声で呟く。友達と遊んでいるであろう同年代の者たちを考えながら、自分の生まれを嘆いた。


「でも、今更か……そんなの」


 魔王である以上、立場は捨てれない。そして背負わねばならないものの大きさも知っていて、だから軽々と捨てられないことも分かっていた。

 今回の戦争はあまりにも急ぎ過ぎており、上手くいかないことも承知していた。

 彼女の目的は他にある。


「勇者……ね」


 その目的は、新たに現れた勇者の事であった。

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