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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
すれ違う者たち

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二十九話 グレッタの想い

 グレッタに連れられた蒼佑そうすけが彼女の隣を歩く。彼女の表情からは何を感じる訳でもないが、薄らと口角が上がっているように見える。


「ごめんね、困らせちゃって」


「いや、こっちこそだ…俺のわがままに付き合わせてごめん」


 グレッタが告げた一言に、蒼佑は罪悪感を抱き表情を更に暗くした。彼女はそれを見て、彼の背中をポンポンと優しく叩く。


「やめてよ。咄嗟には認められないってだけだから。それに、ソウスケが言うならできるだけ応えたいし」


「ありがとう。色々と迷惑かける」


 彼女は彼女なりにできるだけ蒼佑の願いに応えたいと、そういう気持ちがあった。

 好きな人だから応えたいと、そういう気持ち。


「仮にもクレミはソウスケと同じ故郷なんでしょ?それなら仕方ないよ。理解はしてる……頭ではね」


「あぁ」


 同郷の人間をそうも易々と殺したくはないという気持ちが、蒼佑にはあった。

 しかし紅美は、グラットが死ぬかもしれない状況を作ったのだ。しかも眷属化は彼女の意思が必ず存在しており、不可抗力ではない。

 どんな理由かは分からないものの、その意思せいであの様な事態になったことに対して、グレッタの中にはやはり怒りがあるのだろう。そのことは蒼佑も理解していた。


「──ワタシね、ソウスケのことがずっと好きなんだ。助けてくれたあの時から」


 それは、魔族や人間たちに追われ、ボロボロになっていた兄妹ふたりを見つけた蒼佑たちが、それを助けた時の記憶。

 それを思い出したグレッタは頬を朱に染めて彼の手を取った。


「だから、ワタシはソウスケのお願いに応えたいんだ。できることなら、なんだってしたい」


 照れつつも彼の目を見つめるグレッタに、蒼佑は彼女の想いに応えたいと思った。彼にとって青天の霹靂ではあったものの、それでも嬉しい気持ちはあったのだ。

 それでも蒼佑には、今までの出来事もあって困惑の情が大きすぎた。


「ありがとうグレッタ、でも──」


「分かってるよ、今まで大変だったんだし すぐに返事が欲しいとは言わないよ。ただ知っておいて欲しかったんだ……ワタシがソウスケを大好きだってこと」


 彼女はそう言って蒼佑の頬にキスをした。突然のことに彼は驚いたが、無意識のうちに密着してきた彼女の腰に手を回していた。


「──えへへ、恥ずかしいね……でも、ちょっと話せてスッキリしたよ」


「それなら良かった。でも、まだ問題は終わってない」


「うん、クレミについてだね。ほーんと、面倒な事になったなぁ……」


 その不満は紅美だけでなく、あの魔族に向けてのものでもあるのだろう。

 グレッタは蒼佑から離れ、彼と手を繋ぐ。


「もうちょっと頭を冷やしたいんだ……付き合って?」


「もちろん」


 根を詰めたままでも良くないからと、二人はそのまま少しだけ散歩をした。その手を離すことはなかい。


 しばらく周辺を歩いた二人は、折を見て皆のいる建物に戻った。その時に二人が見たのは、目を覚まし上体を起こしている紅美であった。


「っ…!はやぶさ……」


 蒼佑に気付いた紅美は彼を睨みつけるギリギリと歯を食いしばっている。

 自分の置かれた状況を知らぬままに。


「……いつの間に目が覚めたんだ?」


「ほんとに今さっきだよ」


 そんな彼女を無視した蒼佑の問いかけ。それに答えたのは夢愛ゆめだ。彼女は紅美のしたことをしっかり見ていたので、紅美に対してかなり怒っている。


「とりあえず、状況を説明しようか」


 グラットはそう言って紅美に魔族との戦いのこと、そして眷属化のことを話した。

 それを聞いた紅美は顔を真っ青にして狼狽えた。


「ちょっと待って!私そんなつもりじゃ……」


「だから言っただろ、眷属化ってのは本人の意思がなきゃできないって」


 なんとか弁明しようとする紅美であるが、そもそも自分の意思で眷属になった以上周りはそう簡単に理解してくれないだろう。彼女の言葉を、蒼佑が冷たく遮る。

 ともすれば、これは慈悲などではなくただの事情聴取だ。ここから先は彼女の態度次第である。


「そもそもどうして、眷属になんかなったの?クレミは一体何がしたいの?」


「それは……っ!」


 グレッタの問いに対し紅美は口を噤んだ。しかし彼女は顔色を変えて蒼佑を睨む。それを見て皆が察した、彼女が彼の敵であると。

 徐々に空気が張り詰めていく、しかし紅美はそれに気付かない。


「──やっぱり、俺を殺すためだってのか?」


「当たり前でしょう!」


 蒼佑は薄々勘づいていたソレを口に出すと、紅美はそう怒鳴った。彼女は着々と、自分の状況を悪化させる方へと向かっていった。



 このままでは、彼女の味方はいなくなる。それは自明の理であった。

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