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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
すれ違う者たち

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二十七話 元四天王

 グラットに致命傷を負わされた魔族は息も絶え絶えといった様子で転がっていた。

 その腹には大きな穴が右寄りに空いている。


 グラットは最後のトドメを刺そうとしたところ、森の中から何者かがこちらに急接近したことに気付いた。すぐにそちらを向いて警戒しようとしたところで、その何者かがグラットの胸を貫いた。


「兄さん!」


 グレッタの悲痛な叫びが辺りに響く。

 彼女はその人物に攻撃をしたが軽々と避けられた。本来ならばそんな動きはできないはずの人物がソレをしていることに、グレッタは驚愕した。


「なんで、どういうつもりなの!クレミ!」


「……」


 激昂したグレッタの問いに紅美くれみは答えない。

 ただ虚ろな瞳しながらを彼女に一瞥もくれず敵の魔族を回復させた。


「ふふ…残念だったなグラット。もう少しで俺を殺せたのになぁ!」


 紅美に傷を癒された魔族は不気味な高笑いを浮かべながらグラットに近付き、トドメを刺そうと貫手を構えた。

 紅美はグレッタの足止めをしていて魔族を止めることが出来ない。


「邪魔!」


 グレッタの一撃が紅美を遠くへ吹き飛ばした。

 彼女はすぐに魔族の元に向かう。


「ハハハ!終わりだグラット!」


「やめてぇ!」


 放たれたその一撃をグラットは出せる力でもって避ける。全力で放ったソレを避けられた魔族は体勢を崩したものの、すぐさま膝を思い切りグラットにぶつけた。

 全力ではないものの強烈な攻撃を食らった彼は大きく吹っ飛ばされ地面に身体を打ち付ける。


「ムカつくヤツだ、それなら先にグレッタを殺してやる」


「なっ、しまった!」


 魔族がそういうと、示し合わせたように紅美がグレッタを羽交い締めにした。

 二度の大きなダメージにより声の出せないグラットは掠れた声で魔族を止めようとするが、手を差し出すだけで身体を動かすことが出来なかった。


「っ!…やめ、ろ……!」


「さぁ絶望しろ!」


「くっ、兄さんごめん…」


 魔族に殺されるかもとグレッタは目をギュッと瞑った。しかしその攻撃が彼女に当たることはなかった。


「どりぁぁぁ!」


「ぐっ!……があ''ぁっ、なんだ!」


 突如として魔族を襲ったのは先程までここにはいなかった者の攻撃であった。紅美でもグラットでもないソレは、マハラから増援としてやってきた獣人族の女性……アリーシャであった。


「アンタぁ!覚悟は出来てるんだろうねぇ!」


「ックソ、ままならんものだ!」


 激昂した彼女から逃げるように魔族は距離を取り飛翔魔法でその場から飛び去った。

 いくら紅美の回復魔法で傷を癒したとはいえ完治していないため、これ以上の戦闘は危険だと判断したためである。

 紅美は意識を失って力無く倒れ込んだ。グレッタは彼女を蹴り飛ばしすぐにグラットの元へ行く。


「兄さん、すぐ治すから!」


 彼女はそう言って回復魔法をグラットにかける。傷はすぐに癒えていき、大きな外傷も目立たなくなった。


「すまないグレッタ、遅れをとった」


「仕方ないよ、まさかクレミがあんなことするなんて思わないじゃん。いきなりこっちに来てさ」


 傷が癒えてある程度立ち直ったグラットが謝罪するも、グレッタはそう励ました。彼の背に手を当てて薄らと涙を貯めている。

 一方アリーシャは紅美が動かないよう拘束しており、ソレを抱えながら心配そうに兄妹ふたりの元にきた。


「とりあえずは大丈夫そうだね。アンタたちがここまで追い詰められるなんてアイツ、相当な手練てだてなんじゃないのかい?」


「あぁ。ヤツは五年前、魔族の中でもトップクラスの実力者だった。ヤツの言い分を聞くに今はもっと強いヤツがいるようではあるが……」


 ただ上が現れただけで彼の実力が落ちた訳では無い。それはこれからの戦いがより険しくなることを表していた。

 しかしそれよりも、今は紅美の事である。それにグラットはマハラの方も心配していた。


「そういえば町の方は?アリーシャが抜けて大丈夫なのか?」


「心配ないよ。なんせソウスケ達がいるんだ、誰も欠けることなく終わったよ。ただ……」


 彼女から告げられたのは、チュリカが大怪我を負ったという事であった。それを聞いた兄妹ふたりは急いでマハラに戻って行った。



 なんとか戦いを終え、蒼佑そうすけはチュリカを安静にさせサラが彼女に回復魔法をかけたところだった。


「ソウスケ、チュリカは無事か?」


「なんとかな」


 町に戻ってきたグラットたちがチュリカのいる建物に入り蒼佑と話す。

 チュリカが無事と聞いて胸を撫で下ろした兄妹ふたりであったが、蒼佑はグラットの容態に気が付いた。


「ってかグラットも十分ボロボロだろ、お前も安静にしろ。サラ、頼む」


「分かりました」


 蒼佑がサラに頼むと、彼女はすぐにグラットに回復魔法をかけた。彼女のソレはグレッタの回復魔法より効果が高かった。それを見てグラットはさすがだ と声を漏らす。


「とりあえず、今はコイツの事じゃないのかい?」


 傷を癒しグラットを横にした頃、建物に入ってきたのはアリーシャであった。

 彼女が言ったコイツとは、それは紅美の事だった。

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