二十四話 マハラ襲撃
幸多たちがマハラに訪れてしばらく、夢愛と紅美は順調に魔法が上達していった。
アシュリーは当初の目的通り蒼佑を探すために周囲を回っている。グリエラも一緒だ。
「こんなことしても、意味無いのかも知れないのにね。なんかバカみたい」
もしかしたら見つからないかもと、そんな不安に呑まれそうになったアシュリーはそう独りごちた。
どれだけ探したとて、一人の人間ができることなどたかが知れている。
人探しができるような魔法があればいいのだが、生憎そんな魔法など存在しないことはアシュリーならばわかっている事だ。
「はぁ…あぁもう、せっかくソウスケに会えたっていうのにどうしてあんな……」
タイミングの悪さでこんな事になってしまったと、アシュリーの口からため息が漏れる。
もうそろそろ諦めようかと思ったその時……
「えっ?」
前方から凄まじい速度で何者かがアシュリーの元に跳んで来た……いや、通り過ぎて行ったと言うべきだ。
その影は四人、グリエラはその正体を捉えることは出来なかったが、アシュリーの表情を見てその正体を察する。
「待って!ソウスケ!」
アシュリーがそう叫びその後を追い、グリエラもその後について行った。
しかしそのスピードはとても速く、アシュリーの支援魔法でも追いつくのは困難だった。
同刻、マハラでは大変な事態が起きていた。
「クソっ!どうして魔族が…」
下級魔族を切り払いながらそう言った幸多だが、その表情に余裕は無い。
とはいえここに来てからはバレクトに鍛えられたこともあり、短い時間ではあったものの確かにそれは幸多の経験値になっていた。
「考えても仕方あるまい、とにかくこの事態を収めねば」
「はい!」
バレクトは至って冷静であり、下級魔族や魔物を次々となぎ倒していた。
彼だけでなく獣人族の女性や、また別の仲間たちがこの敵群の中を生き延びている。
彼らは皆優秀な戦士たちでありこのような状況は経験済みだ。
一方チュリカは夢愛と紅美を連れ仲間たちの元に向かっていた。
当然こちらにも敵の手は伸びておりそれらの対処もしながらである。
「おぉっと、ここで止まってもらおう」
彼女らに向けて響き渡るその声に夢愛も紅美も足を止めてしまう。チュリカはそれに合わせて止まらざるを得なかった。
「二人とも!急いでみんなのとこに!」
「でも、チュリカさん!」
空から降りてきたその魔族から感じられる力に、チュリカはじっとりと汗を滲ませていた。
今までに感じたことの無いその雰囲気は、下手な上級魔族でさえ敵わないと言えるだろう。
「ふむ、三匹か……勇者よりお前の方が強そうだな」
「残念、ワタシはそこまで強くない」
「嘘つけ」
それはチュリカなりの嘘であったが、それもすぐに看破される。後ろにいる二人を危険な目に遭わせなく無かったためのことであるが、そう上手くはいかなかった。
「とりあえず、死んでもらおう!」
その魔族は問答無用とばかりに攻撃をはじめた。
また一方、襲撃されているマハラに凄まじい速度で向かっている蒼佑たち。
そこに着くまではそうかからなく、すぐにその場所に到着した。
「バカな…なぜ……」
そう言い残して朽ちた魔族を踏み潰して、怒りの表情をありありと出すのは蒼佑。
この場所は平和であるべきだと、そう思っていたのにこの襲撃は、彼の逆鱗に触れたといえよう。
「……とっとと終わらせるぞ」
「「おう!」」
「えぇ!」
彼の一言に皆がそう返事をした。
しかし魔族の数が多くどこから殲滅すればいいのかと、とにかく近い敵から倒していくしか無かった。
蒼佑の魔族察知もここではあまり意味をなさない。
「っ、ソウスケ!急いであちらに!」
何かを感じ取ったサラが、その方向に指をさしながら蒼佑にそう叫んだ。
彼はすぐに応え、その場所に向かっていった。
そちらに向かった彼が見たものは、一人の魔族によってボロボロになったチュリカと、そんな彼女を背に庇っている夢愛であった。
その魔族は紅美と何やら話している。
「ん?随分とまぁ厄介な……」
「隼……」
二人は蒼佑を見るや否や一様に眉を顰める。魔族は彼から感じられる魔力に、紅美は彼の存在に不快感を表した。
「お前がチュリカを……」
「流石にお前の相手は苦しいな。また日を改めよう、ソイツだけでだいぶ疲れたのでな」
その魔族はそう言い残し紅美を見やる。
蒼佑は彼女から感じられる雰囲気に嫌なものを感じ取った。
「では、私は先に戻る。ではクレミ、あとは好きにしろ 」
「えぇ」
「逃がすか!」
飛翔魔法を使い飛び立とうとする魔族に向けて蒼佑が強烈な炎魔法を放つ。しかしその魔族にはあまり効いた様子がなく、剣を抜いて切りかかろうと跳躍したところで紅美に邪魔される。
彼は土魔法で土手っ腹をどつかれたことで近くの木に叩きつけられた。
「グッ、真木!どういうつも…」
彼女にどういうことかと問いただそうとしたところで更に追撃の魔法がいくつも飛んでくる。
それを回避した蒼佑は紅美と向き合って睨みつけるが、彼女から感じられるその空気は明らかに常人のソレではない。
「あは、あはは…っ!これでアンタを……殺してやる!」
ヒステリックにそう叫んだ紅美は、もやは負の感情に支配されるままであった。




