二十三話 彼を求めて
時間は少し遡り、ペストルの港に寄港した大型船、そこから降りてきたのは幸多たちであった。
今、彼らが目指しているのは蒼佑である。
しかし彼らがどこへ向かっているのか、明確に分からない幸多たちはアシュリーの予想した場所へ向かう。
幸多たちがこちらに呼ばれた日にちから逆算し、蒼佑の行動も交えて予想したのはマハラとフラシア王都である。
その中で選んだのはマハラである。
しかし五年も離れ離れとなっていた以上、蒼佑の行動は読めない。彼の癖やらなにやらも、今では読めない。
当然 魔族からの襲撃もありだいぶ疲弊してきていた。
東に進んでしばらく、とある森の前に着く。
「止まれ!」
「っ!」
鬱蒼とした木々が両脇に裂けるようにしているそれはまるで門のようだった。
その上からそう怒鳴ったのは魔族の男…グラットである。魔族を見た幸多は目を鋭くして剣を抜こうとした。
しかし、グラットはすぐに剣呑とした気を抑え、目の前にいる女性に話しかける。
「…もしかして、アシュリーか?」
「えぇ、いきなり悪いわねグラット」
「え?」
幸多からすれば敵である魔族が、何故かアシュリーと親しげに話しているところを見てハッキリと困惑した。
「この間ソウスケに会ったんだけど、色々とあって別れちゃったの。ここには来ていない?あの子に会いたいの」
「……すまない」
そう返されたアシュリーは落胆の色を露骨に出した。彼女は グラットが蒼佑の事をできるだけ隠しておくように頼まれていることを知らない。
「…そう。ならせめて、チュリカに会わせてくれる?新しく勇者となった人がいるのよ」
「まぁそれくらいなら構わんが」
幸多らはマハラがどういう場所か、アシュリーから聞いている。とはいえ魔族がいるのは緊張するが。
アシュリーはグラットの反応から、少なくとも蒼佑がここに来たことは予想できた。
彼は落胆の色は見せたものの、驚いた様子が無かったためである。
蒼佑は本当ならば こちらには存在し得ない者なのだ。それは最早 死と同義であった。
端的に言えば、死んだと思っていた者が実は生きていたようなものである。
そうなれば驚きそうなものであるが、一切そのような様子を見せなかった彼に違和感を抱き、せめてマハラの中に入ろうと思ったのだ。
「中に入るのは許したが、もし問題を起こしたらその時点で叩き出す。アシュリーはともかく他の連中は信用していないからな」
「…ここは中立地帯なんじゃないのか?」
アシュリー以外のメンバーに敵意にも似た警戒心を向けていることに対し不満を抱いた幸多がグラットにそう言った。
しかしグラットは フンッ と鼻を鳴らした。
「中立?違うな、ここでは種族を気にしないだけだ。敵対する者、秩序を乱す者には容赦しない。独立国家とでも考えてもらうぞ」
そう、ここでは他種族を理由に迫害することを嫌う者たちが集う場所。
種族という垣根を越えて暮らすことを選んだことで、それを嫌う者たちがここマハラを襲撃することもあった。
当然であるがそうなれば自衛をする必要もある。少数 でも多人数で構成された部隊を相手に戦わねばならない都合上、皆の戦闘能力は一介の騎士をゆうに超える実力者揃いである。
受け入れることも拒むことも、同じくらい出来なければここはとっくに滅んでいた。
兄から妹へと案内を任された幸多らは、チュリカの元へと向かう。
「いやー久しぶりだねアシュリー。元気してた?」
「えぇ、元気にしてたんだけど…色々あってね」
グラットと違い明るくそう言ったグレッタにアシュリーは返す。
別にアシュリーはここのメンバーからは受け入れる人だ。だが幸多らの存在がそれを しづらくしている。
「そっかー…まぁアタシは細かいことって苦手だから、あとはチュリカに聞いてみてよ」
「えぇ、また後で話しましょう」
「うん!」
二人から感じられるのは仲の良い友人の空気感。見ている者たちもホッコリするような、そんな感じ。
そしてすぐにチュリカのいる場所に着き、アシュリーは声をかける。
「久しぶりね、チュリカ」
「んー、アシュリー久しぶり。…また強くなった」
「とーぜん」
やはり同じ魔法使い同士気が合うのか、ここでも柔らかい空気感のある会話が行われる。
加えてチュリカの性格はおっとりしているため、それがよりその印象を強くする。
「今日ここに来たのは、彼らのことで話があって」
「んー…と、勇者?」
「そっ…さすがね」
幸多から感じられる魔力から、彼が勇者であることを先に言い当てたのはさすがであると思ったアシュリー。
大体の人間は先に知っていなければ、そこまで当てられないものだ。
「それで、その人たちがなに?」
「えぇ。まぁ勇者の方はいいんだけど、問題はその仲間の方でね。特に女の子たち二人」
そういってアシュリーは夢愛と紅美を指さした。
彼女らを見たチュリカは首を傾げる。
「この子達を、鍛えてあげて欲しいの」
それは戦いに慣れない二人の生存率を上げるためのお願いであった。
建前だが。




