二話 転移、その後
気が重い、腹も立つ、極めて不愉快と言わざるを得ない。
幸多は勇者であり、これから修行をしてある程度戦えるようになれば魔王と戦うために旅に出る事になる。
この世界には魔法というものが存在しており、それを用いて戦うことが主流である。
もちろん剣を使って戦うこともある。
剣と魔法をそれぞれ使えるようにひと月程度修行し、後は実践で地道に経験を積むことになる。
なんとも杜撰で行き当たりばったりな計画だが、それでも今まで魔族との戦争に勝ってきたのはひとえに勇者の高いポテンシャルがあってこそだ。
しかし今回は四人召喚され、幸多一人だけが勇者だ、四人とも勇者という訳ではない。
四人、しかも戦った経験のない者、勇者のような素質もない者まで育てるとなるとかなり時間もかかるはずだが、あくまで一ヶ月ほど鍛えたら旅に出るとか、修行というよりただ魔法教室みたいなものだ。
そんなものでは四人のうち誰かが死ぬ、到底許容できるものでは無い。
「断固拒否させてもらいます。そんな簡単に戦えるようになるとは思えない。」
「しかし蒼佑殿…どうか力を貸して頂けませんか?」
「いや、どう考えても無謀でしょう、たった一ヶ月で戦いを覚えろだって?そんなこといきなり言われたって二つ返事で受けれる話ではありません。」
ゴードンから話を引き継いだ人が食い下がってくるが、受け入れる道理もない。
断固拒否である。
「でも、この戦争に勝てばもしかしたら帰れるかもしれないんだよ?先代勇者はそうしたって言ってるし…」
「あのなぁ幸多、ちょっとやそっとで身に付けただけの付け焼き刃の戦闘技術じゃ、向こうに帰る前に死ぬぞ?少なくとも俺はこんな理不尽を受け入れたくは無い。どう考えても俺たちはただ巻き込まれただけだ、関係ない話なんだよ。」
「でもこうしてる間にも沢山の血が流れてる、沢山の人が死んでるんだよ!それを良しとしていいのかい!?」
「良しとしたい訳じゃないが、勝てる見込みもないぞ。」
「でもこの戦争を終わらせないと、もしかしたらこの国ごと俺達も死ぬかもしれない、それなら戦うべきだと思うんだ!でも俺一人じゃ戦えないから、皆で行きたいんだよ!」
「それは分かるさ、だが一ヶ月やそこらでは、そこらに出た瞬間アウトってこともあるだろうよ、もう少しきちんと計画を練らなきゃ、禄に訓練も積んでない俺たちでは、何も出来ないだろうよ。」
「それこそすこしずつ経験を積んでいくしか…」
「……そんなに怖いなら一人でここで怯えていればいいじゃん。和泉くんと夢愛とあたしでやって来るから隼はここで丸まってれば?臆病者。」
俺と幸多の問答に真木が横槍を入れてくる。
「ちょ…真木さん…言い過ぎだって、蒼佑は俺たちを心配して…」
「でも実際そうでしょ?結局、戦う事が怖いからアレコレ理由をつけて逃げようとしてる。そうにしか見えない。」
「えっと…」
真木の剣幕に押される幸多。
「それともなに?和泉くんが勇者に選ばれて、自分が選ばれなかったからって嫉妬してんの?ダッサ、そんなんだから夢愛に捨てられたんでしょ?」
「栞ちゃん!?ちょっと、私そんな…」
真木の言葉に夢愛が驚く。
まぁ関係ない話を持ち出されて夢愛も溜まったものでは無いだろう。
「ッチ…はぁ…。相変わらず目の敵にしてくんな、真木。」
「だってアンタなんかが…」
「うるっせぇな、わかったよ俺ァびびってる、超こええよ、だから嫌だと言ってるそれの何が悪い?力のない人間がそれを自覚して、何が悪いってんだよ。」
「開き直り?ほんとあんたってどうしようもないね」
「あぁそうだな、だったら三人で好きにやっててくれ、俺ァ混ざる気はねぇからほっといてくれ」
そう告げて三人から距離を取り、様子を眺めることにした。
正直言って、これ以上付き合っていられるほど余裕が無い。
何せあまりにも嫌な記憶が頭を過ぎる。
ヒソヒソと周りの貴族連中から何かを言われているようだ、不躾で敵意を孕んだ視線を向けられる。
結局三人とも魔王討伐のために冒険へと出るらしい。
俺は城に残ることになった。
取り敢えず暫くは四人とも部屋を割り当て、衣食も担保してくれるらしい。
俺は勇者の友人の為に仕方なしにだろうが、こちらとしても正直こんな所に長く留まるつもりもない。
どうせなら俺も他のところに行くつもりだ。
もっとマシなところに….。