十九話 気の重い勇者達
あれから馬車を走らせ続けた蒼佑らは、来た時と同じくらいの時間をかけて港町に戻ってきた。
すぐに乗船手続きをしてその翌日、やってきた船に馬車ごと乗り込んだ。
そしてまた二泊三日の時間をかけてフラシア王国に戻り ''とある場所'' に向かう。
五年前に出会った人々と再会するために。
一方その頃、幸多らは蒼佑らの向かったであろうフラシア王国へと繋ぐ船が出ている港町に向かっていた。
今度はアシュリーも加えたメンバーである。
しかし蒼佑らと比べて進む速度はあまり早くない。
グリエラとアシュリーはともかく、幸多ら三人はまだ旅を初めたばかりだ。
つまり蒼佑らのようにぶっ通しでの移動は彼らに大きな負担を抱えさせるため、無理をする訳にもいかず休憩を挟みながら移動していた。
魔物の襲撃も度々あったので余計に時間がかかる。彼らの胸中には焦りばかりが募った。
「蒼佑が勇者……か」
焦りを抑えるように幸多は馬車の中で噛み締めるように呟いた。
いつか肩を抱き合って笑いあったりバカなことを言い合って腹を抱えて笑いあった親友。
そんな男がまさか、自分の知らないところで勇者になっていた。しかし同時に納得もした。
この世界に来て数日の内に、自分らがしばらく生活していた帝国の城から立ち去っていたことに。
しかし、新たな疑問が出てくる。
それは『どうして勇者であるはずの彼を差し置いて幸多が勇者と呼ばれたのか』そして『どうして城からいなくなったのか』というもの。
御者をしている二人に幸多は問いかける。
「どうして蒼佑は、あの時 勇者って言われなかったんですか?」
「えっと、それは……」
グリエラは幸多の質問を理解することに遅れたが、アシュリーはすぐにその内容に気が付いた。
「当たり前でしょ。五年前、あの子に魔法を教えたのはアタシなんだから」
「「っ…」」
その答えに驚いた幸多とグリエラが息を飲んだ。
グリエラは 帝国が彼にした事を踏まえ、どれだけ凄い人間に鍛えられたのかということ。
幸多は 嫉妬の混じった驚き。自分の好きな人に鍛えられたことに嫉妬したこと、また五年も前に蒼佑がこの世界にいた事だ。
いつからいたのか、そんなことを考えたことがなかった。
しかし、彼の中にまた疑問ができる。
「魔法を覚えたなら、もっと勇者だって分かるようになると思うんですけど……」
それは三人が抱いた疑問であり、この世界でも多数の人々が抱いてもおかしくないものだ。
しかし、グリエラは薄々勘づいていた。
「魔法だけなら…ね。あの子には魔力操作も教えたから、それね。特に無意識下での魔力の放出に関する修行をしたから……ソウスケってば、あの子すごく筋が良かったから、教える時は助かったなぁ…」
蒼佑に魔法を教えていた時のことを思い出しながらしみじみと語るアシュリー。
その表情からは愛情と哀愁が感じられる。
そして、幸多はもう一つの疑問をぶつけた。
「蒼佑が城からいなくなったのは……?」
グリエラにとっては苦しい疑問。
内容が内容だけに彼には言いづらいものであったが、むしろ渡りに船でもあった。
何せ言い出すタイミングがなかったからだ。
「っ…非常にっ、申し上げにくいのですが…… 」
表情を歪めながら、彼女は城であったことを語る。それを聞いた幸多と夢愛が驚愕した。
「そんなっ!それって……」
幸多は悲痛な声で叫んだ、もしかしたら蒼佑と刃を交えなければいけないのかと、そう思ったからだ。そして夢愛は言葉を失っていた。
このままでは蒼佑とヨリを戻すことができなくなってしまうと、焦燥と驚きが混じった感情に胸中を支配されていた。
二人が驚いている中、紅美は彼を夢愛から遠ざける口実ができたと内心喜んでいた。
アシュリーが味方になり、幸多が勇者としての力を扱えるようになった今なら蒼佑を倒せると思ったためである。
実際 幸多の力は蒼佑を凌駕するかもしれないほどだ。勇者だけが持つ、その '' 力 '' だけならば。
ただあまりにも経験不足であり、戦ったとしても勝つことは不可能だ。
ただ力だけの相手なら蒼佑だっていくらでも相手にしてきたからである。
あまりにも実力差がありすぎるため本気の戦いになればそもそも勝負にさえならないが、紅美はそんなことなど知る由もない。
また、アシュリーは蒼佑に勘違いされたショックでそんな事はあまり気にならなかった。
そもそも皇帝が暗愚などということはとっくに周知なので、納得さえしていた。
「つまり、アンタはソウスケの敵って訳か。ならアタシからしても敵ってことだけど…分かる?」
先ほどの悲しそうな雰囲気はなりを潜め、今は凄まじい殺気をグリエラに放ち 横目で彼女を睨んだ。
自分の愛している人を殺そうとしたなどと、彼女からすれば万死に値した。
「いっいえ!私も皇帝の判断には違和感を感じていました!できるならソウスケ殿とは和解したいのですが……」
いくら元騎士団長とはいえ、相手は元勇者パーティのメンバーだ。その実力も目の当たりにした彼女はアシュリーの強さを知っている。
そんな彼女から殺気を向けられれば恐縮するのも宜なる事だろう。
「そっ…もしあの子を背中から刺すような事があれば すりおろしてやるから、変な気は起こさない事ね」
「はっ、はい…」
もちろん たかが精鋭の騎士如きに蒼佑が遅れをとるなど、万が一にもありえないことはアシュリーには百も承知だが、一応の警告だ
当然グリエラとて蒼佑を狙う気は無い。
ここで彼の命を狙うとすれば、紅美以外に存在しない。
「そこのクレミっての、特にアンタ」
「えっ……」
「……警告はしたから」
激しい戦いを生き抜いたアシュリーにとって、紅美の纏う雰囲気は違和感そのものだった。
グリエラの話を聞いて、彼女が密かに口角を上げていたことも見ていたし、蒼佑が勇者と聞いて紅美が悔しそうな表情をしたことも知っている。不信感を抱かないわけがない。
だからこその警告であった、それが紅美に伝わったかは分からないが……。




